「さて、朝食ね。ふふ、腕が鳴るわ」
「料理を作り終わった後に言われると、どうして印象が正反対になるのでしょうね」
腕まくりをする加賀と、困ったように微笑む一蓮上人。……私も、同感です。
「もう俺の飯まで食うなよ。加賀」
早速自分の食事を確保して警戒する正成。彼は溜息。
「ってか、自分で作れよ。お前が作った分まで食おうなんて思ってねぇから」
「甘いわね。正成。
食べる事と作る事は全くの別物、私が料理を作れると思っているの?」
「…………いや、胸張るなよ」
箸を装備して胸を張る加賀。まあ、確かにそうですよね。
「大和は、料理とかできるのですか?」
ふと、護良さんの問い。私は頷きました。
「はい、大和ホテルが自信を持ってお勧め出来ます」
作った事はないですけどね。そんな機会もありませんでしたし、
けど、作り方、体の動かし方は記憶に刻まれています。ほかならぬ、戦艦大和の性能の一部として、…………ホテルじゃありませんよっ!
「だったら朝飯作ればいいじゃねぇか、……ああ、今日は無理だったか」
「うぐっ」
無理だった。ですよね。一蓮上人に呼び出されるまで、正成に撫でられてめそめそしてたわけですし、
恥ずかしいです。
「そういえば、今朝は大和様、正成様のところにいていましたね」
「ああ、この小娘が「夜戦カッコカリだったのね」なんだそりゃ?」
や、夜戦?
「や、せん? 戦ったのですか? 喧嘩でも?」
「いえ、夜這いでしょう。
ただ、当事者にしてみれば戦いよ。いかに相手を組み伏せ、そして、上に「真顔でなに語ってんだこの大飯食いがっ!」いたっ?」
淡々と夜這いについて語り始めた加賀を正成が打撃、ナイス判断ですっ!
「くっ、……補給の時間を狙うなんて卑怯な」
「なら補給に集中しろ、語るな」
「そうね」
「変なところで素直ですよね」
ちょっと感心します。かしゃん、と音。そちらに視線を向けると青い表情でがくがくしている護良さん。
「正成、…………その、さすがに、……いえ、」
彼は青ざめたまま微笑んで、
「私の父君も、………………多い方でした。
正成、……その、相手は幼女です。せめて、同意を」
「なに考えてやがるこの似非仏教徒がっ!
つーか、主君と比べんなっ! あれは桁が違うだろっ! あの駄目坊主になにそそのかされたのかしらねぇけど、……いや、ほんと、あれと比較は勘弁してください」
「落ち着きなさい護良。あ、御代りをお願いします」
「……加賀は凄いですねえ」
それと、何を想像してか崩れ落ちる正成。
「あの、正成、どうしたのですか?」
「いや、……いいか小娘。世の中には知らないほうが幸せな事があるんだ。
あの駄目坊主の、胡散臭すぎる宗派解釈とか、教義捏造とか」
「はあ?」
そんな深刻な表情で語らなくても、
「落ち着きなさい護良。
今朝は、確か正成の部屋に大和がいたのよ。つまり、夜戦カッコカリをしかけたのは大和。なに一つ問題はないわ」
「「加賀あっ!」」
思わず、正成と叫んでしまいました。
わ、私が正成によば、……夜戦カッコカリをするなんて、あ、あり得ないっ、絶対にあり得ませんっ!
土色の顔でがたがたする護良さん。
「…………南無妙法蓮華経」
「なんで念仏?」
「正成、……貴方の戦果は、父君にちゃんと報告をしておきます」
「俺、……殺されないかな、いや、ないな」
「きっと父君ならこういうでしょう。
幼女に組み伏せられるとか、何事か、と、……きっと、いい笑顔で」
「…………本気で死にたくなるから止めろ」
「逆に考えるのよ。
幼女に組み伏せられても、それはそれでありではないか、と」
「……加賀、それは、ちょっとどうなのでしょうか、男性として」
「っていうか、幼女幼女言わないでくださいっ
加賀は知っていますよねっ、私は本当は幼女じゃないってっ、もっと、ちゃんと大人の女性だってっ!」
知っているはずですっ、けど、加賀は格好よく笑いました。
「大和、情報というのは確かに重要よ。
けど、それに振り回されるのは愚かな事、目の前の現実を、確かに認める事が重要よ。
つまり、大和は幼女」
「…………ぐぅ」
確かに、否定できません。
「てか俺、それとんでもなく残念な人だな」
「もともと馬鹿だからいいでしょう」
「うっせえよ似非仏教徒。………………もういい。で、仕事の話だ。さっさと話せ」
「ああ、そうですね。さっさと話してしまいましょうか。
正成、とある非公開の海軍基地で艦娘が実験材料として監禁されています。何人殺しても構わないのでその艦娘を保護してください」
え?
「何の実験だ?」
「深海棲艦を撃滅する、艦娘に頼らない兵器の開発。おもに重火器。地上から深海棲艦を撃ち抜くための兵器でしょう」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ
なんでそれで艦娘が実験材料、って、どういう事ですかっ」
実験の内容は、解ります。人にとって深海棲艦は危険な存在で、それに対抗する手段を開発するのは解ります。
けど、なんでそこに艦娘が?
「それ、建て前ね」
食後のお茶を飲みながら加賀。「建て前?」
「考えても見なさい。大和。
深海棲艦を、地上から砲撃して撃ち抜けるのかしら? 確かに近海にいる装甲の薄い艦種なら可能でしょう。けど、深海棲艦は遠海にいる個体もある、特にその上位主種となる姫は、地上からの狙撃で撃ち抜くのはほぼ不可能よ。
だって、接近しての46センチ砲直撃さえ耐えられるのよ?」
「そう、でしょうけど」
「それでさえ、最大飛距離は42キロ、陸上にいる誰かさんの狙撃で誰なら撃ち抜けるの?
大型船に乗せようにも、海には深海棲艦がいる。艦娘の警護にも限界があるわ」
「そうですよね。……え? けど、それでも開発をしているのですか? ……建て前?」
まさか、
「ええ、そうよ。
深海棲艦さえ撃ち抜ける砲、なら、艦娘も、撃ち抜けるわね。そのための実験でしょ?」
加賀の問いに、護良さんは「ご明察です」と応じました。けど、
「な、なんで、……なんで艦娘を?」
目の前が、暗くなる感覚。
だって、艦娘は、国を、皆を護るために、戦っているのに、どうして?
それなのに、どうして艦娘を殺すような事を、するの?
「怖いから、でしょうね」
ぽつり、と一蓮上人。
「怖い、って? 艦娘が、ですか?
どうして、……だって、皆を守るために、必死になって戦っているのに」
それなのに、背中から撃つような事をするなんて、酷い、です。
護良さんは黙っている正成に一度視線を向け、困ったように私を見ました。
「もしも、ですよ。大和。
もし、艦娘が一斉に蜂起して、人を攻撃し始めたら? 私はこれでも昔、戦場に出た事があります。
そう、戦場に出ていた人として言わせてもらえば、艦娘というのは異常なほど優れた兵器なのです。戦場に送れば、あとは独自判断で敵を撃滅する。
見た目はただの少女である、と隠密性にかけてはこの上なく優れ、それでいて最大で46センチという、どうやっても個人が携行出来ない出力の武装をまとめて平然と振りまわす。
そして、当然その出力に耐えうる体を持つ、警察官が持つ拳銃など相手にもなりません。それこそ、戦車隊や爆撃機を用意しなければ相手にならない。そして、そんなものを引きずってきても、あっという間に迎撃するでしょう?」
「そ、それはそうですけどっ、けど、そんなの事、艦娘は絶対にしませんっ」
「絶対にしない、と。その根拠は?」
「それは、……その、」
言葉に詰まる。護良さんは「すいません」と応じて、
「絶対、と。その確かな、そして、客観的な根拠がなければ、疑心暗鬼が生じます。
そして、艦娘には意思があります。自分の意思でその武力を行使する。ゆえに、不安があるのです。
その意思を持って、自分たちに砲口を向けられないか、とね。だから、いざという時に破壊する手段を確保しておきたい。そして、その基地ではその実験が行われています。
どういう実験かは、解りますか?」
解りたく、ないです。けど、
艦娘を破壊する為の兵器開発実験。その実験対象が艦娘というのなら、…………そんなの、絶対に、
「そういうわけで、その艦娘を保護して来てください」
「保護して、それでどうするんだ? 言仁の都にでも放り込むのか?
そうなれば、今度は言仁に殺されるぞ、そいつら」
「父君が保護するそうです。
南朝の者たちは鎮守府や軍事関係者にも多く紛れ、影響を行使しています。事情を知る関係者を皆殺しにすれば問題はないでしょう」
「主君も随分と大きく出たな。
そんなに欲しいのか? まだ、北朝を消したいと思ってるのか?」
「ああ、そうかもしれませんね。
近いうちに、北朝を滅ぼすために動くかもしれませんが、……まあ、その時は、」「ああ、その時だ」
だから、
「おう、解った。
あるだけの情報を寄越せ。準備ができたら行く」
お開きだ、と。正成は立ち上がりました。