深海の都の話   作:林屋まつり

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泊地棲姫の話 ― あるいは水子の呪い
一話


 

「おのれ……忌々しい艦娘共め……」

 砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。弾薬など必要としない。深海棲艦の特性として無数の砲撃を繰り返す。

 けど、

 砲撃する。射線はあっている。なにもなければ諦観という霞みがかった瞳の金剛を撃ち抜いて、煉獄のような現世から慈悲深い深海に叩き堕とす事も可能だろう。

 けど、そうはならない。

 飛び出したのは睦月、か。錬度が低いどころか建造直後のような不慣れな動き。それでも彼女は飛び出し、砲撃が直撃。轟沈。

 一瞬、金剛は痛ましそうに瞳を揺らすが、その瞳もすぐに諦観の霞みに覆われる。

 砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。砲撃。

 金剛に、陸奥に、瑞鶴に、長門に、翔鶴に、比叡に、……おそらく、書類に今回の進撃を行った第一艦隊と記される彼女たちに思う存分砲撃を叩きこむ。

 けど、

 睦月が、綾波が、初霜が、巻雲が、……おそらく、建造された事にさえなっていない駆逐艦の少女たちが身を挺して、命を賭して、否、命を捨てて彼女たちを護る。私の砲撃をその身に受けて第一艦隊を庇う。

 そして、防御を彼女たちに任せ、艦載機が爆撃する、主砲が火を噴く。砲撃が、私の体を穿つ。

 装備している護衛要塞や浮遊要塞は一つずつ砕かれてすでに存在しない。背に担う単装砲をつけた艤装も、度重なる爆撃に大破寸前。相方はすでに慈悲深い深海に堕ちていった。

 対して、主力艦は、最大被害でも小破。まだ十分に戦える。

 彼女たちは防御も回避もせずにひたすら艦載機を解放、こちらに爆撃をし、砲撃を繰り返す。

 防御はすべて、第一艦隊の五倍数の駆逐艦がその身を挺して行っている。すでに撃沈した数は二十五、残り五艦もすべて中破以上。

 けど、

「ぐっ!」

 長門の砲撃が叩きこまれる。近くで私の足止めをしていた吹雪が巻き込まれて吹き飛ばされる。そのまま、轟沈しただろう。

 長門の瞳が揺れる。けど、それもすぐに諦観の霞みが下ろされる。

 淡々と、ただ、淡々と砲撃する。艦載機を飛ばす。例え仲間が巻き添えになり轟沈しても、彼女らの瞳にかかった霞みは消えない。諦観という霞みは消えない。

 

 かつての、自分をみているような気になる。

 それが、……何よりも忌々しい。

 

 砲撃が突き刺さる。艤装の主砲を穿ち、圧し折り破壊する。

 その衝撃でよろめく、私はその程度で済んだ、けど、艤装は大破。攻撃は出来ない。

 前を睨む。諦観に閉ざされた霞みがかった瞳で攻撃する艦娘。彼女らを睨み。

 

「私は……」

 絶対に、あの基地を、貴様らがいるあの場所を殲滅するまでは、

「滅びぬぞっ!」

 

 咆哮とともに飛び出す。途中に道を阻むために飛び出した雷を殴り飛ばし、前に突き進む。

 砲撃が集中する。砲弾が全身を打撃する。けど、

 一発殴らなければ気が済まぬ。

 ぼろぼろで、勝利の見込みはない。このまま砲撃により轟沈は確実。だからこそ、一撃加えたい、が。

「邪魔だっ!」

 飛び出したのは五月雨。彼女は私の前に立ちはだかる、直後に陸奥の砲撃が五月雨を大破に至る破壊を与え、けど、確かに私の前に立ちはだかり、足が止る。

 そして、金剛の放った砲撃が直撃した。

 

「――――っ!」

「あ、目覚めた。おはよう。

 久しぶりだね。みず」

「…………言仁、か」

 軽く頭を振るう。そして、溜息。

 場所は見慣れた部屋。《波下の都》に来たらしい。つまり、

「……まったく、忌々しい」

 吐き捨てる。つまり、轟沈したという事。あの、金剛の砲撃に耐えられなかったか。

「いつも大変だね。

 前にすいがぼやいてたよ。無理しすぎだって、少しは休めば?」

「そういうわけにもいかぬ。

 私にはやるべき事がある」

「……艤装全部大破してるから。

 しばらくは大人しくしている事だね。好き好んで沈み続けたくはないでしょ?」

「…………むぅ」

 確かに、艤装がなければ戦う事もままならない。

 だから、

「わかった。しばらくは厄介になる」

「どうぞごゆっくり、……もう耳にタコかもしれないけど、一応言う事にしているんだ。

 僕たちは君を歓迎するよ」

 

 いつ来ても妙な光景だ。

 艦娘、らしい者たちがいる。

 深海棲艦、らしい。……自分たちよりも異形化の少ない者たち。

 半端者、と、口汚い者は言うが、実際、その半端者である彼女たちの実力は自分たちに決して劣らない。

「みず様」

 ふと、声。

「すい、か」

 同じ、泊地にいる彼女。

「無事お目覚めしたようでなによりです」

「私の艤装は?」

 問いに、すいは溜息。

「言仁様に依頼して修繕完了まで封印することとしました。

 みず様、しばらくお休みください」

「…………言仁にもそう言われている。

 土産を届けたらしばらく休む」

「配達してくれる深海棲艦がいるようです。

 手配しました」

「…………ここには、本当にいろいろな者がいるな」

 前に来た時はそんなものはいなかった。この都に堕ちた誰かが始めたのだろう。

 つくづく、不思議な都だ。

 

「こんにちわー」「こんにちわ、なのですっ」

 戸が叩かれる。すいが玄関へ。

「電と、……雷、か」

「こんにちわなのですっ」

「あ、泊地棲姫」

 と、上では言われているらしい。

「ここではみずと呼ばれている。

 配達をするというのはお前たちか」

「そうなのですっ、配送屋さんなのですっ」

「それで、荷物はどれかしら?」

 胸を張る電と辺りを見渡す雷。深海棲艦、と、その文字を改めて思う。

 私やすいのように全身が造り変わったわけではないが、それでも異形化がある。

 雷は左腕が、電は下半身が、完全に艦娘の形を損失している。おそらく、轟沈した時に失ったのだろう。

 もっとも、

 電がすいと話をしている傍ら、雷は鋼材やボーキサイトの詰まった袋を軽々と持ち上げる。戦艦だった深海棲艦でさえ難儀をするだろうが。

「どうしたの?」

 こちらの視線を察してか首を傾げる雷。

「その腕、便利そうだな。と、」

 一息。

「そんな不躾な事を考えていた」

 率直な感想で、正直羨ましくは思うが。それでも、ここにいる深海棲艦は艦娘の面影を強く残す。

 娘、女性であるならば、便利であってもあまり歓迎できないだろう。あの、巨腕は、……そう、その手の機微を損失しているであろう自分たちとは違う。

「いいわよ。もう慣れたし、

 それに、便利なのは否定しないしね」

「そうやって心をもちながら割り切れるのだから、羨ましい」

「そう?」

 雷は首を傾げる。荷物を積み込む。

 一通り終わり、さて、

「すい、食事にでも行こう」

「了解しました」

 雷と電に手を振っていたすいはこちらに視線を向けて頷いた。

 

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