中庭、何度見ても感嘆する壮大な大樹、その傍らにある椅子に腰を下ろす。さて、ぴっ、と口火を切ったのは言仁。
「もう、みんな喧嘩したらだめだよ」
「騒がせた事をお詫びします。言仁様。
金剛に背中を蹴り飛ばされたので、後はその場の勢いで騒ぎ続けてしまいました」
「金剛?」
「Ohっ! あ、あれは、ちゃんと原因があって、デスネっ!」
困ったような視線を言仁から向けられておろおろし始める金剛。
「ああ、喫茶店で請求書を押し付けたからな、それだろう」
「そうデースっ」
「だからって暴力はだめだよ。金剛。
すいもみずも、僕の大切な友達なんだから、ね」
怒る、というよりは困ったような言仁の言葉に、金剛は肩を落として「ごめんなさい、デス」
「言仁様、これはちょっとした遊び故、あまり気にしないでください」
「……そう? そういうものなんだ」
こくこくと頷く金剛。
「言仁、世の中には拳で語るという言葉があるらしい。
相手の思いを確かめるため、あえて拳を振るうという関係もあるのだろう」
「…………あれ、そこまで壮大な理由だったんだ」
胡散臭そうな視線を向ける雷はとりあえず無視。
「そうなんだ、いろいろな人がいるんだね」
感心された。そして、言仁は視線を向ける。
「響たちも?」
「ソウダヨ」「ソウナンジャナイカナ」「ソウデスヨ」
「大鳳までぼけるとは、深刻だな」
顔を赤くして睨まれた。
「…………大鳳?」
「……そ、…………だって、提督と、一緒の布団で寝たなんて、羨ましい、です。し」
「そう? そんなにいいものかな?」
「誰かと一緒にいると落ち着くものよ」雷は右手で異形と化した左手に触れて「雷だって、ここに来た時はしばらく電と一緒に寝てたし」
「お姉ちゃんは甘えん坊さんなのです」
優しく微笑む電と、拗ねたように、というか、照れたように睨みつける雷。
「そう? ……まあ、そうかもね。
金剛も最初の五日目はほとんど離れなかったし、最後の日の夜は布団の中で「テイトクっ! それ以上言ったらNoデースっ!」むぎゅ」
何か言いかけた言仁を抱きしめて黙らせる金剛。
「も、もうっ、テイトクっ、その事は二人だけの秘密デースっ!」
なにがあったのだろうか?
「そうだ。言仁。
えーと、みずとすいからお土産届いているわよ。そり、鎮守府のお庭に置きっぱなしだから、片づける場所を教えてね」
「そのくらいは僕がやるよ?」
言仁の問いに雷は、ぷぅ、と頬を膨らませて、
「だめなの、お仕事はちゃんと最後までやるのよっ
第一、言仁はやることたくさんあるんでしょ? だから、こういう事は雷たちに任せなさいっ」
「そう、うん、ありがと。
お願いね、雷」
「もちろんっ、どーんと頼っていいんだからねっ」
むんっ、と胸を張る雷。
「お土産って、みず、何か持ってきたの?」
ひさめが首を傾げる。ああ、と頷いて、
「上にいた時に、機会を見ては資材やらを集めて、たまにすいにこの都に持って行かせていた。
鋼材や、あとは木材、……その他いろいろだな」
もとは流木が多いのだが、まあ、問題はないだろう。乾かせば。
「鋼材とかは採掘すればあるけど木材は有り難いよ」
「む、じゃあ、私も持ってくればよかった」
むぅ、と唇を尖らせるひさめ。
「じゃあ今度期待しているよ」
にっこりと笑う言仁にひさめは胸を張って「任せてっ、……あ、なら、」
ふと、悪戯を思いついたような表情で、
「お土産たくさん持ってきたら、一緒に遊んでくれる?」
「そうだね。じゃあ、みんなで遊ぼうか」
「…………む、言仁のばか」
「え?」
急に不機嫌になるひさめ。言仁は首を傾げ、
「……まあ、今は少しよかったわ。提督の鈍いところが」
「同感デース」
「そうだね」
「なのです」
「言仁は相変わらず、そういうところがだめなのよ」
「え? なにが?」
「それで、言仁様。
頼みたい事があります」
「…………ぶった切ったわね」
じと、とひさめがすいを睨むがすいは気にしない。
「ん、なぁに?」
「はい、みず様がだめなので力を貸してください」
「……すい、殴っていいか?」
「言葉が足りないデース。
テイトク、みずの復讐に力を貸して欲しい、という事デース」
「基地を滅ぼす、だっけ?」
「そこの基地ってそんなにだめなところなの?」
言仁の言葉にひさめが続く。溜息。
「だめ、というのがどういう意味かは分からないが。
成績で言うのならば指折りの優秀さだろう」
一息。言仁は難しい表情でしばし黙り、口を開く。
「個人の復讐に手を貸す、っていうのは、……………僕としてはあまりやりたくないんだ。
お飾りみたいなものかもしれないけど、一応、立場みたいなものもあるから、ごめんね。みず」
確かに、彼はこの都の長。個人への過度な肩入れは好ましくないのだろう。
ましてや、この都にいるわけでもない私が相手ならなおさらだ。
「その基地ってどういうところなの?」
ひさめが続けて問う。どういうところか、集まる興味の視線に、少し。言葉を選んで、
「先に告げたとおり、優秀なところだ。
私が、艦娘だったころに所属していた頃から、な。あの時は准将だったが、その時からすでに中将は確実だといわれていた」
「それは、随分と優秀デス」
「そうなの?」
言仁が首を傾げる。金剛が頷いて、「えと、」と指折り数えながら、
「いわゆるテイトクは、最初は代将デス。深海棲艦の脅威って言う名目で、一般からも募集シマシタ。なので、代将はたくさんいマス。
その中で、成績が優秀なテイトクは准将に格上げデス。で、ほとんどのテイトクはそれ止りデス。
そして、後は下から少将、中将、大将、デスガ、そこに到達できるのは一握り、代将、准将が深海棲艦の脅威を名目に集めたテイトクなら、少将以上は叩き上げ、本物の軍人、デス。…………まあ、最近は金やコネで少将や中将になる人も増えているらしいデスガ」
「そうなんだ。金剛は物知りだね」
感心する言仁に、金剛は照れたように頬を掻いて、
「こ、この位は、…………そ、そうデースっ、だから、テイトクも解らない事があったらいつでも頼ってくれてOKっ、歓迎しマースっ」
「そのくらいの事は元艦娘なら知ってるわよ」
頬を掻いて、すぐに胸を張る金剛を横目に大鳳が溜息。
「けど、そうなんだ。
義興が中将になったって騒いでたけど、凄いんだね」
「……え? 言仁、それってもしかして、新田中将?」
雷が手を上げる。言仁は頷いて「うん、新田義興、雷は知ってるの?」
「艦娘にも優しくて、作戦の成功率も高い、高い実力の提督だって聞いた事あるわ。
ただ、人付き合いは大嫌い、……………魔縁?」
「そうだよ。
尊治子飼の一人だね。南朝も随分といろいろなところに手を出してるね。今度時間見つけて遊びに行こうかな」
「まあ、そういう、優秀な、提督だ」
苦笑。
「優秀だぞ、何せ、戦艦の修繕に必要な資材と駆逐艦建造の資材を比較し、建造の方が安いと判断すれば躊躇なく駆逐艦を主力艦の移動楯、身代わりによる轟沈を命令できる人間だ」
私の言葉に、沈黙。すいは「確か、」と呟いて、
「上で彼らの艦隊と交戦した時は、五艦の主力艦隊と、三十の駆逐艦隊。……まあ、移動楯艦隊ですね。
主力艦隊はほぼ無傷でしたか」
「忌々しい事にな。
せめて一発殴りたかったが」
「そう、艦娘を道具として見る典型だね」
響の言葉に頷く。そう、提督には二種類いる。
艦娘を人として見るか、道具として見るか、そして、高い戦果を残しているのは後者だ。
当たり前だ。道具は最適かつ最高効率に運用した方が高い戦果が得られる。感情論は、不要なのだろう。
そして、この場でそのような提督の存在に対する疑問はない。当たり前だ。彼女たちは、深海棲艦なのだから。
かつての、艦娘なのだから。……似たような提督のところにいた者もいるかもしれない。
「まあ、そういうところだ。
とはいえ優秀だからそれに見合う施設なども与えられている。艦娘の層も分厚い。簡単には落とせぬのでな。……まあ、腹立たしいがすいがだめだというのは、間違いではない」
実力不足は認めよう。
「…………みずは、昔そこにいたんだよね」
言仁の問いに、ため息一つ。頷く。
「そうだ、主力艦としてそこにいた」
「移動楯として使われた駆逐艦の事を、覚えてる?」
「忘れられるのならば私は深海棲艦になどなっていない」
深海の暗黒よりも暗い。
深海の水圧よりも重い。
………………胸にあるのは、後悔。
「気が変わったよ。
みず、少し時間をちょうだい。付き合ってもらうところがあるから」
「こんにちわ、……と、みずですか」
「わっ、深海棲艦ですかっ?」
「…………そういう雪風も深海棲艦ではないですか?」
古鷹の呆れたような視線に対し、雪風は頬を掻いて「そうでした」
「最近堕ちてきたのか、なら、その反応も仕方ないだろう」
何せ、今まで敵として戦っていたのだから。
「それで、…………また、いつものですか?」
「世話になるな」
私の言葉に古鷹は首を横に振る。
「鎮守府経由で材木を融通してもらっているのですから、構いません」
「材木ですか?」
雪風の問いに頷く。「あとは、鉈があれば」
「解りました。今度は返してくださいね」
「善処しよう」
苦笑。以前借りた鉈は海に落としてしまった。
雪風に見繕ってもらった鉈と材木を受け取る。
「鉈については、機会を見て個人的になにか礼をしよう」
「期待して待っていますよ。みず」