深海の都の話   作:林屋まつり

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鈴谷の話 ― あるいは異界訪問譚
一話


 そして鈴谷は土下座した。

 

 朝一土下座。眼前には慄く金剛と電。

「こ、これはっ!」

「知っているのですっ? 金剛さんっ」

 電の問いに、金剛は重々しく頷いた。

「この姿勢、ワレゼッタイニヒカズを体現するこの威圧感、……これは正しく、この国に古くより伝わるUltimateの謝罪、DOGEZA、デスっ!」

「DOGEZAっ? …………いや、なんでいきなり電たちは朝一でいきなりDOGEZAされるのです?」

「わ、ワカリマセン、ただ、これは恐らく、……」

「ごくり、……なのです」

「いや、そう言う小芝居はいいから」

 相変わらず、ノリが面白すぎる。

「朝一からいきなりDOGEZAされるこっちの気持ちにもなって欲しいのです」

「そうデースっ、意味不明すぎマス。小芝居の一つでもやらないとやってられまセーン」

 …………いや、まあ、小芝居はいいんだけど、

「それで、どうしたのです?

 何か悪い事をしたのです?」

「いや、えーと、……今日、早退してもいいかなー、って」

「ああ、そんな事デスカ。

 何時頃デス? これから即行帰るのは早退とはいいまセン」

「いや、さすがにそれで早退とは言わないし。……午前中で上がりたく思いますです」

「フーム、…………では、引き継ぎをお願いしたいデース」

「引き継ぎ?」

 問いに、差し出されたのは一枚の紙。どっかの住所?

「ここに夕立が居マス。

 いろいろ皆の役に立ちたいって言っているので、多分お願いすれば鈴谷の代わりに働いてくれマス。一応、聞いてみてくだサイ」

 

 と、言うわけで、

「こ、これはっ、DOGEZAっぽいっ?」

「…………なんで朝一DOGEZAされるの? 僕たち」

 瞳の色が左右で異なる夕立と、眼鏡ヘッドホン装備の時雨。…………引かれたけど、やらねばならないっ!

 

 もちろん、鈴谷だって好き好んでDOGEZA、……じゃなくて、土下座をする趣味はない。っていうか、やりたくない。

 けど、今日の午後は土下座をしてでも時間を作らないといけない。

 だって、明日は、て、提督と、デート、だし。

 勢いで御願いしちゃった。けど、プランとかなにもなし。……こういうのは男の子にリードして欲しいけど、そもそもデートと言うものさえ知らない提督にそれをお願いするのも無理。

 だから、鈴谷がプラン考えないと、そして、提督にも楽しんでもらわないといけない。…………楽しんで、欲しい。

 だから、鈴谷、午後がんばるっ! そのためにも午後は緊急の用事がある、とだけぼかして伝える。御願いします。土下座も辞さないです。

「なんだ、そう言う事情なら仕方ないっぽい。

 大丈夫っ、夕立っ、がんばるわっ!」

 むんっ、と胸を張る夕立、対してキャミハーフパンツっていう楽な格好の時雨はころん、と寝転がって、

「がんばって、僕は本でも読みながら寝てるから」

「…………時雨も、少しは働くといいっぽい」

 寝転がったままのろのろと近くにあった本に手を伸ばすだめ棲艦時雨。

「夕立、僕はちゃんと働いているよ。

 勉強して、提督の相談に乗ったりしてるよ」

「そうっぽい?」「そうなんだ?」

 どーみてもだめ棲艦時雨だけど、時雨は頷いて、

「先生にいろいろ教えてもらったからね。

 本に偏った知識だけど、それでも提督は尊重して相談をしてくれる。……ふふ、敬愛する方に頼られる。僕はこの生活に満足をしているよ」

 提督に相談される。…………「む、それは確かに羨ましい」

「一時は鎮守府で、提督と一つ屋根の下で暮せる、ってところまで来たんだ。

 けど、響に追い出された」

「そうっぽい? なにかあったっぽい?」

 問いに、時雨は重々しく頷いた。

「お昼寝してる提督があまりにも可愛くて、つい布団にもぐりこんでしまってね。

 そのまま一緒に寝てたら、響に鎮守府から蹴りだされた」

 

 夕立と一緒に響を讃えて鈴谷の働き先へ。

「いやー、ほんとありがとね。夕立」

 代わりに働いて、なんて我が侭を夕立は快く承諾してくれた。ほんと、感謝してもし足りない。

 絶対に今度ご飯奢ろう。

「ううん、いいわ。

 それに、いろいろなところで働いたりするのは楽しいっぽいっ」

「そんなもの? ……まあ、そうかもね」

 いや、いい娘だわ。

「ここ、っぽい?」

 というわけで、鈴谷の働き先、金剛がやってるスーパーマーケット。

「こっちこっち」

 まだ開店時間前だから閉まってる。夕立を従業員用の出入り口に手招き。

「了解っぽいっ」

 裏口に行くと、あ。

「雷っ、電っ」

 運送屋さんの雷と電、雷電運送屋さん。……皆で勝手に名付けた。当事者たちには教えていない。

「あ、鈴谷」「おはようなのですっ」

「おはよー」

 見ると、そりの上には大量の荷物。今日の仕入品。

「雷と電?」

「夕立なのですっ」

 するするとこちらに寄ってくる電。さて、

 もう仕事は始まってるけど、本格的に夕立に助けてもらうのは午後から。今は、いいか。

 深海棲艦の影響で異形と化した巨大な左腕で楽々と荷物を運ぶ雷。今のうち、伝票の確認しとこ。

 

「というわけで、まずは陳列っ」

「了解っぽいっ」

 山と積まれた仕入品を示す。びしっ、と敬礼する夕立。…………こんな可愛い後輩欲しい。かも、

 こほん。

「お客さんが来た時はお店の案内とか頼まれるから、今のうちにどこに何が置いてあるか覚えておいてね」

「了解っぽい」

 というわけで、夕立と商品陳列、途中で電も来てくれたから三人でえっちらおっちら陳列。……なぜ金剛は来ない?

 時計をみる。開店時間十分前。よし、

「陳列準備は終了なのですっ」

「け、結構重労働だったっぽい」

 はーっ、と息をつく夕立、同感、というか、なぜ金剛は手伝ってくれない?

「金剛さん、お手伝いに来てくれなかったのです」

「なにか別の仕事があるっぽい?」

 夕立の問いに鈴谷と電は一度顔を見合わせて首を横に振る。と、

「Heyっ! 夕立っ!」

 あ、今更来た。

「金剛さん、なにしていたのです?」

 にこにこと喜色満面にやってくる金剛に電は首を傾げて問いかける。金剛はよくぞ聞いてくれました、とでも言いたげなどや顔で頷いて、

「見てくだサーイっ、夕立のエプロンを用意していまシタっ!」

 なぜか犬のアップリケがついたエプロンを広げる経営者金剛。…………そんなことしてないで、手伝え。

 

 多種多様な方向でぼける経営者金剛。けど、なんとか電と頑張ってるから店自体はそれなりに盛況。…………いやまあ、いざという時に金剛は頼りになるからいいけど、

 そう言うわけでお客さんも多い。鈴谷はレジ打ちが多い。電はふよふよ浮かんでる艤装に乗って店内で商品補充したりしてる。経営者金剛は、……多分、事務室で茶でも飲んでると思う。

 というわけで、経営者金剛作の、『Training』とプレートが付いたエプロンを着た夕立にレジの叩き方を教えながらお仕事お仕事。

 がしゃんっ、と音。

「おー、最近はおつりも自動計算っぽい?」

「まあね」

 電光表示された金額をレジから抜き取ってお客さんに渡す「ありがとうございましたー」

「ありがとうっぽいっ!」

「……感謝されたの?」

 その口癖は微妙な雰囲気になるから少し自重して欲しい。

 ともかくお仕事お仕事。で、レジ打ちの傍ら、

「仕事が終わったら、」レジの鍵をまわしてモードチェンジ「これで、売り上げの集計が出るから、金額を事務室のパソコンに入力して、最後に掃除をして終わり」

「了解っぽい、……事務室って、金剛が茶飲んでるところ?」

 本気でさぼってるのか経営者金剛。しっかりして欲しい。

「あー、多分そう」

「このお店って金剛が経営者っぽい?」

「っぽい」

「自由っぽい」

「深海棲艦は自由なのが多い、いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませっぽいっ!」

「っぽい?」

 夕立も場所をわきまえて口癖自重して欲しい。

 まあそんなわけでお仕事の傍ら夕立にいろいろ教えて、「鈴谷」

「おう?」

 ふよふよと電がやってきた。

「お客さん落ち着いてきたので、夕立に事務室の案内をするといいのです。

 レジは電が見てるのです」

「ありがと電。

 じゃあ、行くわよ、夕立」

「っぽいっ」

 というわけで夕立と一緒に事務室へ。いつか案内しないとと思ってたけど、タイミング見つけてくれた電には感謝。

 で、事務室でのんきに茶を飲んでる経営者金剛を一発小突いてパソコンの操作方法を教える。

「ほー、……こういうの操作した事なかったっぽい」

「まあ、鈴谷もなかったけどね。

 金剛に教えてもらったし」

 視線を向けると金剛は満面の笑顔でピース。

 さて、アイコンクリック。帳票ファイルを開いて「ここに入力するの、やってみて」

「うー」

 変なうめき声を出してキーボードを一本足打法。……いや、入力は数字だけなんだけど。

 ともかく、入力して安堵の息をつく夕立。頭を撫でたら笑顔、可愛い。

「とまあ、こんな感じ、

 解らなかったら電に聞いて」

「そっちの経営者さんは?」

「七割ぼけるから」

「っぽい」

「ワタシの評価低いデスっ!」

 

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