深海の都の話   作:林屋まつり

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五話

 

「おはよ、鈴谷」

「あ? え?」

 目を開ける。そこにはにこにことした笑顔の、提督? ……あ、あれ?

 そういえば、鈴谷。……って、

 混乱する鈴谷に、無邪気な提督は無邪気に追い打ち。

「鈴谷って結構童顔なのかな?

 鈴谷の事、綺麗な娘って思ってたけど、寝顔、すっごく可愛かったよ」

 …………朝一で爆撃食らいました。

 

「さて、今日だけど琵琶湖にある竜宮に行くから」

「あ、はい」

 相変わらず突拍子もない事言うし、……とは思うけど、行くんだろうなあ。

 ともかく、朝食を終えて提督と混浴朝風呂をやたらと勧めてくる沙希さんを回避。酒呑童子さんと鬼童丸たちに手を振って別れを告げる。

 ちなみに、すぐに会えるらしいし。……で、近くの川に到着。服を脱いで水着を着た。………………………………なぜ?

「へー、鈴谷って結構、スタイルいいんだね」

「……あ、うん、ど、どうもです」

 提督に水着姿披露。……場所は山。…………あっれー? なんかこう、もうちょっとリゾート的ななにかだったらよかったのに?

「っていうか、提督。なんで水着?」

「これから琵琶湖に向かうから」

「うん」

 らしい、正確には琵琶湖にある竜宮とか。……あるんだ。

「それで、その川下って天橋立のところに出て、若狭湾を抜けて小浜湾から川さかのぼって琵琶湖に行くの」

「うん? え? 水路?」

「まあ、川をたどっていくから基本水路っていうのかな」

「…………まあ、そうかもね。うん、それは確かに水路だし」

 ああ、そうか、水路を使うから水着か。確かに、水路を使うと濡れちゃうかもしれないし、凄い提督、合理的。

 ……なんとなく、なにか間違えているような気はするけど、

「さて、それじゃあ行こうか」

 提督は川に立つ。鈴谷も手を取って川に立つ。鈴谷だって深海棲艦。水の上を歩く事くらいできる。

 さわさわと流れを感じる。提督と手をつないで、その流れに身を任せる。当たり前だけど、ここは山。水は下に向かって流れ落ちる。その道筋を川と言う。………………………………いや、じゃなくて、

 なにかこう、もっと他に突っ込むところがあるような?

「さて、鈴谷。行くよ。

 手、つないでてね。速度あげるから」

「あ、うん」

 ぎゅっと提督の手を握る。途端。

「ひゃああっ?」

 条件反射のバランス制御。この位は対応できる。対応できる、けど、

「なにっ?」

「ん、速度あげたの」

 さらりと言ったけど、これ提督っ?

 速度あげた。文字通り、川の流れが加速してる。

 提督は鈴谷の手を握ってその流れに身を任せてる。滑り落ちる。

「あはははっ」「ひゃーっ!」

 滑り落ちる、なんて簡単に言ったけど、ここは山、そこを流れる川には大小様々な岩やら何やら。

 当然段差あり格差あり、……格差は違うか、落差か。まあ、ともかく平坦な道のりじゃなくて、当然深海棲艦や艦娘が行き来する海よりいろいろな物があるわけで、

「わひゃーっ?」

 当然そんな道のりになれない鈴谷はかなりびっくり。鈴谷たちを押し流す川の流れは急流、激流、……いや、かなり速い。

「鈴谷ー、手を離さないでねー」

「りょ、了解っ!」

 離す余裕ないし、提督と繋いだ手離したくない。

 というわけで、って。

「いわーっ!」「いっくよーっ」

 ぐい、と手を引かれる。バランス崩して、すとん、と。

「あ、……う」

 気がつけば提督の腕の中。え? お姫様だっこ?

 華奢で小さな提督の腕、けど、しっかりと鈴谷を抱えて、……って、

 たんっ、と音。

「ひああっ?」

 眼前に迫っていた岩を跳躍。大跳躍。葉の間を擦り抜けるようにして跳躍。そして、ざんっ、と音をとともに着水。

 すとん、と鈴谷は下ろされて、そのまま提督に手を引かれて川を滑走。

「あははっ、いいねっ、こういうの久しぶりだけど楽しいよっ!」

 満面の笑顔の提督。いつもは大人びて格好いい表情が、一転して子供っぽい、無邪気で満面の笑顔。

 …………どっちもよしっ!

「うんっ、鈴谷も楽しいっ!

 あはっ、速い速いっ!」

 慣れちゃえば、もう楽しむしかないっ!

 突き出す岩をひらりと回避、とん、と跳躍。提督と手を取り合って、踊るように山を滑り落ちる。

 きょとん、とした表情、だと思うリスに手を振って、慌てて泳いでどっかに行く魚に手を合わせ、山を滑り落ちる。

「そろそろ、山を抜けるね」

「うん」

 山から出て人の町を流れる川を滑り落ちる。山間のところには田畑が広がり、少し進めば工場や住宅街、人の生活する場所。

 そして、さらに下れば、……深海棲艦の存在を警戒して誰もいなくなった港。

「鈴谷、見て。

 天橋立があるよ」

「あ、……うん」

 人のいない町を見てぼんやりしていた鈴谷に届く声。天橋立、二つの陸地を結ぶ一本道。そして、

「この先には籠神社があるんだ。…………元伊勢、……ここにいた・・の神を伊勢に封じた。その跡地。

 おそらく、・・・・もここから来たんだろうね」

「提督?」

「名所なんだ。……うーん、みんなで観光も悪くないけど、さすがに人がたくさんいるからなあ。

 なんっていうか、こう、観光客を皆追い払うとか、出来ないかなあ」

「いや、それはさすがに迷惑っしょ」

 鈴谷たちの観光で他の観光客を追い払うとか、さすがにそこまでするかっ、って感じ。

「だよねー」

 鈴谷の消極意見に提督は楽しそうに同意。……「言ってみただけ?」

「言いたくなる事ってない?」

「あるっ!」

 こう、現実無理でも、なんか言いたくなる、ってね。

「よし、それじゃあこれからは海だっ!

 艦娘に遭遇しないようにこっそり行こうっ」

「隠密行動だっ! 夜逃げ気分でこそこそいくぞー」

 やーっ、と手をあげる提督。鈴谷もそのノリで応じた。

 

 そして、鈴谷は沈んだ。……轟沈じゃないよ?

「ってかさ、これも提督?」

「そうだよ」

 泡の中。川を遡り、琵琶湖に到着。提督に手を引かれてそのまま琵琶湖に沈んだ。

 沈んだ、というか、水面に鈴谷たちを覆えるような泡が出来て、その中に入る。同時に泡ごと琵琶湖の中へ。

「…………提督って、凄いんだねえ」

 さすが魔縁。

「水の事なら僕に任せてっ」

 ぐっ、と拳を握る提督。……まあ、これも水か。

 ちなみに、川の流れも操っていたらしいし。……たまに、提督。深海棲艦とか艦娘には負けないっていいきったけど、確かに、まともに戦っても勝てるとは到底思えない。

 ともかく、ぽこぽこぷかぷか琵琶湖の底へ。

「琵琶湖の底に、竜宮があるの?」

「うん、僕たちの都みたいな感じかな。

 だからいくら素潜りしても到着できないけどね」

「そうなんだ。けど、鈴谷たちはいけるんだ」

「うん」

 とぷんっ、と音。

「っと」

 着地? すとん、と地面に降りる。ぱんっ、と泡が破れる。

「ここが竜宮だよ」

「ここ?」

 辺りを見渡す。上に輝く湖面。そこから淡く透けてそそぐ日光のおかげか暗くはない。

 辺りには珊瑚みたいな木らしいものがたくさんある。ぷわぷわと魚がそこら辺を漂ってる。

 足元に視線を向ければ、小さな海老みたいなのが砂地を蹴立ててどこかへ、……あ、貝だ。

 不思議だし、違和感なく歩けど、けど、水中にいるみたい。

 呼吸もできる。試しに深呼吸をしてみる。気持ちいい、……鎮守府の中庭みたい。

 けど、それだけ? だって、

「どうしたの?」

「あ、いや、イメージと違うから。

 なんていうか、……えーと、中華風? 白い壁に赤い屋根のでっかい建物想像してたんだけど」

 確か、高雄のいる図書館にそんな絵があった気がするし。

 対して、提督はあっけらかんと「ああ、あの蕃国の変な建物なら壊したよ。僕、ああいうの好みじゃないんだ」

「さらっと言ったっ?」

 いや、そんな簡単に壊せるものなの? と、

 ひらひらと魚が寄ってきた。

「大蛇様、お久しく」

「こんにちわ、大蛇様」

「魚が口きいたしっ!」

「ん、うん、竜宮だからね」

 それが理由っ? って、

「大蛇様?」

「僕、ここだとそんな風に言われてるの。

 なんでだかねえ」

「大蛇様、この女性は?」

「綺麗ー」

 ふわふわと、魚たちが集まってきた。…………なんか、すっごくでっかい魚とかいるんですけどっ?

 のそのそ、と足元に現れる山椒魚。あと、鈴谷、両生類には詳しくないけど、多分湖底に蛙はいないと思う。

「綺麗な女性」

「大蛇様のお友達?」

 首を傾げて問いかける蛙に提督は笑顔で「うん、僕の大切な人だよ」

 …………それは、えーと、解釈によってはとても嬉しい意味になる。けど、

 言葉通りなんだろうなあ。提督だし。

 ふわふわと、金魚みたいな魚が鈴谷の眼前に、

「大蛇様の大切な人?」

「大蛇様、大切?」

 ふわふわと、鈴谷の前にいる魚が問いかける。大切、か。

「もちろん、鈴谷の大切で、大好きな人」

 胸張って応じた。…………周りの雰囲気が変わる。何となくだけど、

 ただ、向けられるのは素朴な好意。……きっと、嬉しいんだ。

 大切な人を、同じく大切と言った人がいたから。

 ずる、と音。不意に、影。

 上? 見上げると。

「うきゃぁああっ!」

「ん?」

 見上げる、と。そこにはとんでもなくでっかい蛇がいたっ!

 なんか、鈴谷も一飲み出来そうな、ものすっごいでっかい蛇。

「へ、へへ、蛇っ、蛇っ!」

「半分正解、竜だよ。竜王」

「竜っ?」

 は、初めて見たっ!

「久しいな。大蛇。そこの娘は?」

「あ、僕の家族、鈴谷だよ」

「は、はじめましてっ」

「ほう? そうか、…………大蛇の家族か。

 それで、家族同伴でなにか用事か?」

「ううん、遊びに来ただけ」

「竜王様、大蛇様、遊びに来た」「竜王様、大蛇様、大切な人と一緒に遊びに来た」「竜王様、おもてなししたい」

 竜王、さん? の、周りに魚とかが集まる。……なんていうか、そういう風に提案してくれるの、嬉しい。

 竜王さんは頷いて、

「ささやかな祝宴、と言いたいが、準備の時間がある。

 しばし、ここの散策を楽しむといい」

 

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