深海の都の話   作:林屋まつり

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四話

 

 広場で、金剛主催のお茶会。参加者は雷と電、金剛と、大鳳、そして響と、言仁。

 話のお題は、まあ、当然だけどここでの生活についてよね。雷はわからない事だらけだし。

「仕事、って言ってたわよね。

 どんな事をやるの? 進撃とかはしたくないわよ」

「それは必要ないよ。まあ、」言仁は困ったように微笑んで「実際は、仕事も必要ないのだけどね」

「そうなの?」

「ここにこもっている分には弾薬も、鋼材もいらないしね」ちんっ、と大鳳はティーカップを弾いて「私たちは、もう燃料を使って動いているわけじゃないわ。だから、何一つ消耗することなく存在しているのよ」

「そうなんだ」

「とはいっても、だからって何もしないのは退屈でしょ?

 深海をうろうろしたいって言うなら構わないけど、まあ、暇なら周りの役に立てってことね」

「それと、もう一つ。

 私たちの動力は、想い、なんだ。だから周りと交流を持つことで、それは変わっていく。強くなる事も、ある。……仕事を通じて誰かの役に立つことで、自分を強く想う事が出来れば、それだけ強い存在になるよ。武力とは別の意味でね」

「そっか」

 響の言葉に納得。響は微笑んで「わかってくれたみたいだね」

「うん、なん「だから私は毎日司令官の傍で司令官の事を想い続けているよ」響い」

 私の言葉を遮って、なんかきらきらした雰囲気で捲し立てた。びき、と音。

「……響、代わりなさい」

 静かな声で大鳳。……あ、電がちょっと怖がってる。

 けど、

「ごめんね。大鳳。

 それは、ちょっと都合が悪いんだ。響はこの都の鍵の一つでもあるから、手元から離せないんだ」

「そうなの?」

「そうだよ。……ふふ、それに私は司令官が直接手を加えた唯一の艦だからね。

 特別な存在、敬愛する人にそう思ってもらえるのはとても嬉しい。……最高の言葉だね」

 ぎりぎりと金剛と大鳳が歯ぎしりしてる。電も、ぷぅ、と頬を膨らませている。

 電はまだ可愛げあるけど、金剛、大鳳、かなり怖いわよ。いや、ほんと怖いから、歯ぎしりやめて。

 ちなみに、当事者の響は自由なので気にしていない。

「っていうか、言仁。改装なんてできるの?」

 結構意外。

「君たちが知っている改装とは違うよ。豊浦からの受け売りだし、出来るのも、……今のところは響だけかな」

 ふふん、と胸を張る響と睨みつける視線三組。

「違うの?」

「うん、そもそも僕は君たちの知るような人間でもないしね。まあ、それはいいか。

 話を戻すけど、働けばお金は出るし、それで物を買う事も出来る。金剛が淹れてくれる紅茶の茶葉とかね。どこで働くかは、…………そうだね。まあ、ゆっくりと決めていいと思うよ。時間は、あるのだから」

「そうよね」

 頷く、どうせならゆっくり決めたい。せっかくの、新しい生活なんだしね。

「都の案内は電にしてもらえばいいかな。

 もちろん、わからない事があったらこっちを頼ってくれてもいいよ」

 言仁の言葉に響と大鳳も頷く。そして、

「もっちろんっ、この頼りになるご近所サンも忘れてはNo、デースっ!」

 むん、と胸を張る金剛。あはは、と小さく笑う。

「そうだね。……うん、まずは、いろいろと見てみるわ。

 お仕事探すのは、えっと、お店の人に聞けばいい?」

 きっと、そのお店をやってるのも艦娘、……じゃなくて、深海棲艦なんだと思うけど。

「それでもいいけど、私のところにもいくつか人を紹介して欲しいって依頼はあるわ。

 紹介してあげるから、気が向いたら来なさい」

 大鳳の言葉に頷く。

「そうだ。けど、明日、の、午後は付き合ってもらっていいかな。

 ちょっとした仕事があるんだ。……そうだね。この都の仕事に慣れるっていう意味なら、いいかもしれない」

「仕事? どんな?」

 ちょっと興味ある。

「うん、顕仁のおじさんが戻ってくる。

 いろいろとお土産を持ってくるらしいからその荷解きだね」

「あっ、おじさん来るのです?」

 ぱあっ、と電の表情が明るくなる。対して、

「そう、だったわね」

「むぅ」

 なんか、大鳳と金剛は困ったような表情。……「深海棲艦、じゃないわよね」

 顕仁、なんて聞いた事はない。

「違うよ。僕と同じ魔縁。

 なんて言うのかな、駆逐艦の娘とか、ちっちゃい娘には人気なんだけど、一部警戒されてるよね」

「なんていうか、威圧感が半端ないデス」

「前にちょっと怒らせちゃったことあったけど、死ぬかと思ったわ。

 あれなら、大和の主砲を眼前に突き付けられた方がマシよ」

「そうなの?」

 大和の主砲、……って、46センチ砲、よね? それを眼前に突き付けられた方がましって、……ちょっと、想像できないわ。

「彼は彼で外れた存在だからね。

 面倒見はいいからちっちゃい娘には優しいけど」

 ぷぅ、と膨れる電。

「電、子供じゃないのです」

「はは、ごめんね。

 大鳳や金剛がこれだけど、雷は、あまり警戒しないで大丈夫だよ」

 …………ふと、気になったこと。

「あの、……言仁」

「ん?」

「魔縁、って何なの?

 御婆様って、えっと、親の、母親よね? それに、その、顕仁も魔縁だって」

「ん、そうだね。ある意味、深海棲艦と同類だよ。死んだ人。

 轟沈した艦娘が深海棲艦。死んだ人が魔縁。……まあ、誰でも魔縁になるってわけじゃないけどね。

 その辺は君たちには解りにくいし、どうにもならない話だけど、……そうだね」

 くすっ、と言仁は笑った。

「魔縁というのは、絶望と恐怖、破滅と災厄の担い手だよ。

 深海棲艦が高い戦力を持って戦闘を左右するなら、僕たち魔縁はその存在で文明、文化、歴史にさえ、暗く影響を与える。

 言わなかったかな? 深海棲艦なんて目じゃないって、たかが戦闘しかできない存在が、同列にしていい存在じゃないんだよ」

 寒気がする、吐き気がする、目の前にいる少年が、……なにか、とんでもない存在だって、……金剛も、響も、口を噤む。言葉が、出てこない。

 海原より広く、深海より深い、……そんな、…………けど、……………………

「け、けど、……提督は、私、たちと、お話、を、してくれた、わ」

 蒼白な顔で、噛みしめた唇から血をこぼして、大鳳が声を出す。

 微笑。

「ごめんね」

 言仁はそう言って、血のにじんだ大鳳の唇に指先を当てる。

「あ」

 血を拭いとる、言仁はいつも通り。さっきの、吐き気がするような威圧感はない。

「深海棲艦を恐怖で語るなら、僕たちはそういう存在だって言う事。

 そして、少なくとも僕にとって、君たち深海棲艦は恐怖で語るような存在じゃないからね、なら、僕もこの通りとして見て欲しいな。それでいい? 雷。

 深海棲艦だろうが、艦娘だろうが関係なく、君は僕の都に来た女の子。僕はこう考えてる、だから、雷も魔縁とか気にせず、都の長である一人の男として接してくれればありがたいな」

「え、ええ、……そうよね」

 魔縁っていうのは、怖い、かもしれない。けど、言仁は、そんな事はない。

 深呼吸、うん、大丈夫。…………あ。

 言仁は大鳳の血がついた指に視線を落として、少し迷い、舐めとった。

「な、なな、なななななななっ!」

 その行動に、顔色を蒼白から一気に真赤にする大鳳。

「て、てて、提督っ、な、なな、何をっ!」

「え、何って? いや、血がついてたし」

「だ、だだ、だからって、き、汚いですよっ」

「そう? 大鳳に汚いところなんてないよ。

 僕は大鳳の事、綺麗だって思ってるよ」

「は、…………ぁう、……き、きれい、って、そ、それに、……か、間接、キス。…………て、提督から、してくれ、た」

 顔を真っ赤に、とろんとした目で自分の唇に触れる大鳳。

「? 大鳳、何言ってるの?」

「間接キス、だって」

 確か、そう言ってたわよね。

「雷、それ何?」

 な、何って、……え、そ、それって、

「…………お、男の子が女の子に聞いたらだめなのっ!」

「そうなの?」

 そんなこと説明させないでよっ!

「そうなのっ、もうっ、言仁はほんとわかってないわねっ」

「えと、ごめん?」

 首を傾げながら謝る言仁。そして、

「テイトクっ」

「ん?」

「大鳳だけずるいデスっ!」

「え? なにが?」

「ワ、ワタシ、にも、き、……キス、して、ほ、欲しい、…………デ、ス」

 顔を真っ赤にして金剛。言仁は首を傾げる。

「なに、きすって?」

「知らないのっ?」

 その事実にびっくり。

「な、……な、なに、って、」

 いや、こっちに視線送らないで、女の子がする説明じゃないわよねそれ。雷はいやよ。

「司令官、こういう事だよ」

「え?」

 ぐい、と少し乱暴に響が言仁と向き直り、きょとんとする言仁に唇を迫り、打撃して吹き飛ばされた。

「ふー、ふー、ふー」

「い、電っ、おち、落ち着いてっ!」

 蛇のような下半身をしならせての打撃。ころころ転がる響。彼女は立ち上がる。

 目は包帯に隠されている。口はひきつった笑み。

「ふ、ふふ、乱暴な妹には御仕置きが必要だね」

「ふしだらなお姉さんには妹から制裁をするのです」

「い、電あ、響い」

 雷は響の妹で電の姉だけど、二人の間に立ちたくない。怖いもん。

 テーブルにはぽーっとしている大鳳と、顔を赤くしてくねくねする金剛。向こうでは姉と妹が阿鼻叫喚。…………とりあえず雷は頭を抱えた。

 ふと、言仁が視線を向ける。

「……ああ、そうだ。魔縁の事を話したから、一つ思い出した。

 雷、これは僕の、君たちとは関わらなかった、人でも、艦娘でも、深海棲艦でもない外側にある存在の意見だけどね」

「うん?」

 とりあえず、響と電の応酬が、ちょっと女の子としてはアレな感じになってきた、うん、雷はお姉ちゃんだからちゃんと二人を止めないと。

 だから適当に応じた言仁の言葉。彼はなんて事ないように告げる。

「人の大敵は深海棲艦、理不尽な暴力で海を奪い流通と交流を閉ざした存在。

 そして、深海棲艦の大敵は艦娘、自分たちを打破する戦力を持ち、人による、総体としてほぼ無制限の助けを得て回復し、整備を整え、隊列を組んで襲いかかってくる海戦のプロフェッショナル。

 じゃあ、艦娘の大敵は?」

 ……その問いには答えない。だって、雷は頬っぺた抓りあってる姉と妹を止めないといけないから。

 だから、言仁の言葉は聞き流した。

「英雄と、怪物と、民衆。

 歴史は繰り返すよ、皮肉な、ね」

 

 民衆は怪物に蹂躙され、怪物は英雄に討伐され、そして、英雄は民衆に処刑される。

 

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