広場で、金剛主催のお茶会。参加者は雷と電、金剛と、大鳳、そして響と、言仁。
話のお題は、まあ、当然だけどここでの生活についてよね。雷はわからない事だらけだし。
「仕事、って言ってたわよね。
どんな事をやるの? 進撃とかはしたくないわよ」
「それは必要ないよ。まあ、」言仁は困ったように微笑んで「実際は、仕事も必要ないのだけどね」
「そうなの?」
「ここにこもっている分には弾薬も、鋼材もいらないしね」ちんっ、と大鳳はティーカップを弾いて「私たちは、もう燃料を使って動いているわけじゃないわ。だから、何一つ消耗することなく存在しているのよ」
「そうなんだ」
「とはいっても、だからって何もしないのは退屈でしょ?
深海をうろうろしたいって言うなら構わないけど、まあ、暇なら周りの役に立てってことね」
「それと、もう一つ。
私たちの動力は、想い、なんだ。だから周りと交流を持つことで、それは変わっていく。強くなる事も、ある。……仕事を通じて誰かの役に立つことで、自分を強く想う事が出来れば、それだけ強い存在になるよ。武力とは別の意味でね」
「そっか」
響の言葉に納得。響は微笑んで「わかってくれたみたいだね」
「うん、なん「だから私は毎日司令官の傍で司令官の事を想い続けているよ」響い」
私の言葉を遮って、なんかきらきらした雰囲気で捲し立てた。びき、と音。
「……響、代わりなさい」
静かな声で大鳳。……あ、電がちょっと怖がってる。
けど、
「ごめんね。大鳳。
それは、ちょっと都合が悪いんだ。響はこの都の鍵の一つでもあるから、手元から離せないんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。……ふふ、それに私は司令官が直接手を加えた唯一の艦だからね。
特別な存在、敬愛する人にそう思ってもらえるのはとても嬉しい。……最高の言葉だね」
ぎりぎりと金剛と大鳳が歯ぎしりしてる。電も、ぷぅ、と頬を膨らませている。
電はまだ可愛げあるけど、金剛、大鳳、かなり怖いわよ。いや、ほんと怖いから、歯ぎしりやめて。
ちなみに、当事者の響は自由なので気にしていない。
「っていうか、言仁。改装なんてできるの?」
結構意外。
「君たちが知っている改装とは違うよ。豊浦からの受け売りだし、出来るのも、……今のところは響だけかな」
ふふん、と胸を張る響と睨みつける視線三組。
「違うの?」
「うん、そもそも僕は君たちの知るような人間でもないしね。まあ、それはいいか。
話を戻すけど、働けばお金は出るし、それで物を買う事も出来る。金剛が淹れてくれる紅茶の茶葉とかね。どこで働くかは、…………そうだね。まあ、ゆっくりと決めていいと思うよ。時間は、あるのだから」
「そうよね」
頷く、どうせならゆっくり決めたい。せっかくの、新しい生活なんだしね。
「都の案内は電にしてもらえばいいかな。
もちろん、わからない事があったらこっちを頼ってくれてもいいよ」
言仁の言葉に響と大鳳も頷く。そして、
「もっちろんっ、この頼りになるご近所サンも忘れてはNo、デースっ!」
むん、と胸を張る金剛。あはは、と小さく笑う。
「そうだね。……うん、まずは、いろいろと見てみるわ。
お仕事探すのは、えっと、お店の人に聞けばいい?」
きっと、そのお店をやってるのも艦娘、……じゃなくて、深海棲艦なんだと思うけど。
「それでもいいけど、私のところにもいくつか人を紹介して欲しいって依頼はあるわ。
紹介してあげるから、気が向いたら来なさい」
大鳳の言葉に頷く。
「そうだ。けど、明日、の、午後は付き合ってもらっていいかな。
ちょっとした仕事があるんだ。……そうだね。この都の仕事に慣れるっていう意味なら、いいかもしれない」
「仕事? どんな?」
ちょっと興味ある。
「うん、顕仁のおじさんが戻ってくる。
いろいろとお土産を持ってくるらしいからその荷解きだね」
「あっ、おじさん来るのです?」
ぱあっ、と電の表情が明るくなる。対して、
「そう、だったわね」
「むぅ」
なんか、大鳳と金剛は困ったような表情。……「深海棲艦、じゃないわよね」
顕仁、なんて聞いた事はない。
「違うよ。僕と同じ魔縁。
なんて言うのかな、駆逐艦の娘とか、ちっちゃい娘には人気なんだけど、一部警戒されてるよね」
「なんていうか、威圧感が半端ないデス」
「前にちょっと怒らせちゃったことあったけど、死ぬかと思ったわ。
あれなら、大和の主砲を眼前に突き付けられた方がマシよ」
「そうなの?」
大和の主砲、……って、46センチ砲、よね? それを眼前に突き付けられた方がましって、……ちょっと、想像できないわ。
「彼は彼で外れた存在だからね。
面倒見はいいからちっちゃい娘には優しいけど」
ぷぅ、と膨れる電。
「電、子供じゃないのです」
「はは、ごめんね。
大鳳や金剛がこれだけど、雷は、あまり警戒しないで大丈夫だよ」
…………ふと、気になったこと。
「あの、……言仁」
「ん?」
「魔縁、って何なの?
御婆様って、えっと、親の、母親よね? それに、その、顕仁も魔縁だって」
「ん、そうだね。ある意味、深海棲艦と同類だよ。死んだ人。
轟沈した艦娘が深海棲艦。死んだ人が魔縁。……まあ、誰でも魔縁になるってわけじゃないけどね。
その辺は君たちには解りにくいし、どうにもならない話だけど、……そうだね」
くすっ、と言仁は笑った。
「魔縁というのは、絶望と恐怖、破滅と災厄の担い手だよ。
深海棲艦が高い戦力を持って戦闘を左右するなら、僕たち魔縁はその存在で文明、文化、歴史にさえ、暗く影響を与える。
言わなかったかな? 深海棲艦なんて目じゃないって、たかが戦闘しかできない存在が、同列にしていい存在じゃないんだよ」
寒気がする、吐き気がする、目の前にいる少年が、……なにか、とんでもない存在だって、……金剛も、響も、口を噤む。言葉が、出てこない。
海原より広く、深海より深い、……そんな、…………けど、……………………
「け、けど、……提督は、私、たちと、お話、を、してくれた、わ」
蒼白な顔で、噛みしめた唇から血をこぼして、大鳳が声を出す。
微笑。
「ごめんね」
言仁はそう言って、血のにじんだ大鳳の唇に指先を当てる。
「あ」
血を拭いとる、言仁はいつも通り。さっきの、吐き気がするような威圧感はない。
「深海棲艦を恐怖で語るなら、僕たちはそういう存在だって言う事。
そして、少なくとも僕にとって、君たち深海棲艦は恐怖で語るような存在じゃないからね、なら、僕もこの通りとして見て欲しいな。それでいい? 雷。
深海棲艦だろうが、艦娘だろうが関係なく、君は僕の都に来た女の子。僕はこう考えてる、だから、雷も魔縁とか気にせず、都の長である一人の男として接してくれればありがたいな」
「え、ええ、……そうよね」
魔縁っていうのは、怖い、かもしれない。けど、言仁は、そんな事はない。
深呼吸、うん、大丈夫。…………あ。
言仁は大鳳の血がついた指に視線を落として、少し迷い、舐めとった。
「な、なな、なななななななっ!」
その行動に、顔色を蒼白から一気に真赤にする大鳳。
「て、てて、提督っ、な、なな、何をっ!」
「え、何って? いや、血がついてたし」
「だ、だだ、だからって、き、汚いですよっ」
「そう? 大鳳に汚いところなんてないよ。
僕は大鳳の事、綺麗だって思ってるよ」
「は、…………ぁう、……き、きれい、って、そ、それに、……か、間接、キス。…………て、提督から、してくれ、た」
顔を真っ赤に、とろんとした目で自分の唇に触れる大鳳。
「? 大鳳、何言ってるの?」
「間接キス、だって」
確か、そう言ってたわよね。
「雷、それ何?」
な、何って、……え、そ、それって、
「…………お、男の子が女の子に聞いたらだめなのっ!」
「そうなの?」
そんなこと説明させないでよっ!
「そうなのっ、もうっ、言仁はほんとわかってないわねっ」
「えと、ごめん?」
首を傾げながら謝る言仁。そして、
「テイトクっ」
「ん?」
「大鳳だけずるいデスっ!」
「え? なにが?」
「ワ、ワタシ、にも、き、……キス、して、ほ、欲しい、…………デ、ス」
顔を真っ赤にして金剛。言仁は首を傾げる。
「なに、きすって?」
「知らないのっ?」
その事実にびっくり。
「な、……な、なに、って、」
いや、こっちに視線送らないで、女の子がする説明じゃないわよねそれ。雷はいやよ。
「司令官、こういう事だよ」
「え?」
ぐい、と少し乱暴に響が言仁と向き直り、きょとんとする言仁に唇を迫り、打撃して吹き飛ばされた。
「ふー、ふー、ふー」
「い、電っ、おち、落ち着いてっ!」
蛇のような下半身をしならせての打撃。ころころ転がる響。彼女は立ち上がる。
目は包帯に隠されている。口はひきつった笑み。
「ふ、ふふ、乱暴な妹には御仕置きが必要だね」
「ふしだらなお姉さんには妹から制裁をするのです」
「い、電あ、響い」
雷は響の妹で電の姉だけど、二人の間に立ちたくない。怖いもん。
テーブルにはぽーっとしている大鳳と、顔を赤くしてくねくねする金剛。向こうでは姉と妹が阿鼻叫喚。…………とりあえず雷は頭を抱えた。
ふと、言仁が視線を向ける。
「……ああ、そうだ。魔縁の事を話したから、一つ思い出した。
雷、これは僕の、君たちとは関わらなかった、人でも、艦娘でも、深海棲艦でもない外側にある存在の意見だけどね」
「うん?」
とりあえず、響と電の応酬が、ちょっと女の子としてはアレな感じになってきた、うん、雷はお姉ちゃんだからちゃんと二人を止めないと。
だから適当に応じた言仁の言葉。彼はなんて事ないように告げる。
「人の大敵は深海棲艦、理不尽な暴力で海を奪い流通と交流を閉ざした存在。
そして、深海棲艦の大敵は艦娘、自分たちを打破する戦力を持ち、人による、総体としてほぼ無制限の助けを得て回復し、整備を整え、隊列を組んで襲いかかってくる海戦のプロフェッショナル。
じゃあ、艦娘の大敵は?」
……その問いには答えない。だって、雷は頬っぺた抓りあってる姉と妹を止めないといけないから。
だから、言仁の言葉は聞き流した。
「英雄と、怪物と、民衆。
歴史は繰り返すよ、皮肉な、ね」
民衆は怪物に蹂躙され、怪物は英雄に討伐され、そして、英雄は民衆に処刑される。