深海の都の話   作:林屋まつり

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七話

 

「し、……死ぬかと思った」

「いや、さすがに死なないでしょ。深海棲艦だし」

「まあ、それはそーだけど」

「なにをそんなに不安がっていたの? 私は一航戦。五航戦の子とは違うわ」

「なに一つ関係ないし」

 車の運転に第一航空戦隊で培ったなにかが役に立つとは思えない。

 一航戦の誇り、……だと思う。多分。まあ、それに触れたのか少しむくれる加賀。

 ともかく、

「さーて、なーに買おうかなー」

 閑話休題。案内された場所は、……えーと?

「商店街?」

「縁日と言った方がしっくりきますね」

 確かに、茣蓙を広げて商品並べたり、屋台が並んでたりと縁日って言った方がしっくりくる。

 ちなみに、店をやっているのは、法被着てるけど、一人残らず人じゃないし。

 なんだろ? えーと。

「お土産ー

 響と大鳳には何か買って帰らないと、……あ、鈴谷はどうする?」

「はっ、……あ、えーと」

 とりあえず、同じ職場で働いてる金剛と電と、あと、我が侭言っちゃった夕立と、

 お隣さんは雪風、と、逆側は羽黒。くらいかな?

 知り合いはもっとたくさんいるけど、お財布事情がそれ許してくれない。

「加賀は何か買うの?」

 問いに、加賀は頷いて「食べ物を」

「そういえば、そろそろお昼だね。……うーん、先にお昼ご飯食べようかな」

 どうしようかな、と。迷う提督。

「食べる場所ならあります」

 そして、そんな提督にずいずい迫る加賀。そんなにお昼食べたいんか。

「そうなんだけどねえ。

 僕、お昼ご飯食べると眠くなるんだよね」

「歩いていれば眠くなりません。

 こっちにお勧めがあります」

「…………そんなにお昼食べたいんだ」

 ってか、自由だな加賀。深海棲艦もびっくりだ。

 

 からんころん。

「へいらっしゃいっ」

 板前さんらしい、人っぽい、なにか。に案内されて、

「えーと、……ここ、なに?」

 席に座って、聞いてみた。

「なに、と言われても、船岡山よ」

「…………えーと、鈴谷。あんまり外出た事ないんだけど、…………えーと、なんていうか、店員さんが人に見えないんだけど」

「人じゃないから当たり前よ」

「…………人じゃないなら、なに?」

「付喪、意思を持ち動く道具ね。

 私たち艦娘の同類よ」

 …………確かに、かつての艦船である艦娘、と、かつての艦娘である鈴谷たちと、似たようなもの?

 なんでそんなのがいるの? と、口に出かかった言葉を飲みむ。……まあ、鈴谷も、なんで艦娘が存在するの、と言われても答えられる自信ない。

「ご注文はお決まりですか?」

「あ、と」

 そーだ。ご飯食べに来たんだ。

 御品書に視線を落とす傍ら、加賀は頷く。

「カロリーの高さ、上位五品」

「はい、カロリーの高さ、上位五品ですね」

「スルーっ?」

 なに一つよどみなく注文を繰り返す店員さんに思わず叫ぶ。……注目を浴びて俯く。

「うるさいです」

「ごめんなさい」

「えーと、僕は、…………てんぷらうどんのセット、ご飯小盛りでね。

 あと、デザートに黒糖あんみつ」

「はい、てんぷらうどんのセットご飯小盛り。黒糖あんみつですね。

 デザートは食後にしましょうか?」

「うん」

「じゃあ、鈴谷は、……あ、この和風カレーってやつ、あとサラダ」

「和風カレーとサラダですね。ご注文は以上でしょうか?」

「それで御願い」

 御品書を見据えて首を傾げる加賀に追加注文の危機感。だから即行打ち切る。加賀が睨むが知ったこっちゃないし。

「では御客様。

 ご注文の品を並べる面積がありませんので、左右の机をつなげますね」

 店員さんは笑顔で提案。左右の机に座っていた別の御客さんはのろのろと立ち上がり席を移動。

 いや、いろいろいいのこれ?

 がたがたと机の移動が済み、移動した御客さんは笑顔で親指を立てた。

「…………えーと、あの、提督」

「ん?」

「突っ込み禁止なの?」

 そちらに向かって冷静な表情で親指を立てる加賀を見て、聞いてみた。提督は頷いた。

 ……やっぱ禁止なんだ。

「あまり食べないのですね」

「いや、見た目相応でしょ?」

 提督、ちっちゃい子供だし。

「ん、僕、がんばればもっと食べられるよ?」

「いや、がんばらなくていいし」

 食事は楽しく、加賀に付き合って無理に食べる事はない。

 

 正直、加賀の食事量にげんなり。

 加賀に案内するつもりは全くないらしい。さっさとどっか行っちゃった。だから、提督と二人で手をつないで不思議な縁日を歩く。

 店を出て、改めて辺りをみる。暗い、まだお昼少し過ぎた時間だけど、なぜかほぼ真っ暗。

 暗く、暗い、細い道。左右にあるのは提灯の明かり、道の奥は見通せない。

 この先に、この暗闇の先になにがあるんだろ? 行けば、解るかな。

 まあ、それはともかく、何買おうかなー

 うーん?

「えーと、あっ、鈴谷っ、こっちっ!」

 ぱたぱたと鈴谷の手を引いて小走りの提督。

「なにか面白いものあったの?」

「お面っ!」

 お面? と、提督が目指す先。白い狐の面。と、店主らしい、変なの。

「そのお面をお一つくださいな」

「はいはいどうぞ、大切にしてくださいな」

 そんなやりとりをして狐のお面を購入。代金百円、……安すぎない?

 覗き込んでみると別に、紙ってわけじゃない。木彫りの、ちゃんとしたお面。

 それを頭に乗せて「さて、次はー、と」

「提督、何か買いたいものとかあるの?」

「宝船。……けど、うーん、絵にしないとだめかな、持ち帰れないしね」

 視線の先には、でっかい宝船。えーと、七福神だっけ? それが並んでて米俵っぽいのもある本格派。……確かに、持ち運び無理。

 というわけで提督妥協したらしい、掛け軸? っぽいのを購入。広げればやっぱり七福神の絵。

「提督、こういうの好きなんだ?」

「ん、まあね。縁起物っていうの? 僕こういうの集めるの好きなんだ」

「そうなんだ」

 ちょっと意外かも。

「鈴谷は何買うの?」

「んー、お土産と、アク」セサリ、……買うお金。あるかな?

 恐る恐るお財布確認。…………大破っ? お土産分しかないしっ!

「……えーと、僕、奢ろうか?」

 ずーん、と肩を落とす鈴谷にかけられる優しい声。けど、

「ううん、そんなのだめっ、提督のお金は提督が好きに使わなくちゃ」

 お金出してあげるのは甲斐性、なんて聞いた事あるけど、そんなの鈴谷絶対にいや。

 鈴谷が欲しいのは、そんなんじゃないし。そう、欲しいのは、

「そっか、うん、鈴谷もいい娘だね」

 柔らかい笑顔で言ってくれた提督。……そう、お金なんかより、鈴谷にとってこっちの方がずっといいから。

 だから、

「よーしっ、アクセサリは諦めて、お土産奮発しちゃうぞーっ!」

「やーっ!」

 拳を振り上げた鈴谷に続いてくれる提督。よしっ、最後はパーっと散財だーっ!

 

 とりあえず夕立には大福餅を買って、お隣さん二人、雪風と羽黒には金平糖を買って、

 あと、職場の同僚、電と金剛にはー

「金剛、と電、には、なににしようかなー」

 と、いろいろと見て回る傍ら。

「えーと、……あ、先代旧事本記だ。それくださいな」

「はいどうぞ」

「結構、いろいろ買うね」

「ん、せっかくだからね。こういうところだし」

「あ、」

「ん、なにかあった?」

「金剛のお土産なににしようかなーって思ったけど、あれとか喜びそう」

 掛け軸? 日本画で大波と富士山があるやつ。

「富嶽三十六景だね。あれは、神奈川沖浪裏かな」

「へー、そう言うんだ。…………なんか、凄いね、これ」

 大波の絵。……豪快、こんな波が来たら、鈴谷、乗り切れる自信ないし。

 というわけで、その絵を見かけたところへ。茣蓙を広げていろいろな巻物。それと、簾には提督が言ってた神奈川沖浪裏の他にもいくつかの絵。

 うーん、……いろいろあるけど、やっぱ深海棲艦だからか、海が描かれた絵には惹かれるねえ。「あれ?」

 変な絵がある。……いや、絵自体は全然変じゃない、すっごく綺麗な絵。

 神奈川沖浪裏とは全然違う。すっごく繊細で、綺麗な絵。もしこれ、同一人物が描いたとしたら、……多重人格? とか思ったかも。

「あい、ねえさん、それを御所望ですかい?」

「あ。……なんていうか、気になったし。

 他の絵とは違うなー、って」

 視線を見たのか、人っぽい店主さんがその絵を取ってくれた。

「夜桜美人図。これに目をつけるとは、ねえさんお目が高いっ!」

「あ、ありがと。……このお店って、同じ作家の?」

 問いに、店主は胸を張って「そうともっ! かの天才っ! 葛飾の絵だっ!」

「…………これも?」

 手の中の絵を示す。店主は心外そうに、……楽しそうに首を傾げて「違うってか?」

「あ、……なんてんだろ。

 鈴谷、絵の事とかよく知らないけど、なんか、……うーん?」

「なんでえ、はっきりしねぇな。

 うちの店に贋作が紛れたとあっちゃあ困るっ! 正しいものか、違ってるか、どっちだっ?」

「……………………違うっ!」

 店主の言葉に押されるように鈴谷は応じる。確かに、贋作が入ってたとか別の人の作品が紛れたとか、そうなったら店の評判に関わるかもしれない。

 けど、違和感、自分の感性を信じて応じる。店主は、怖い顔をしていたけど。

 不意に、にっ、と笑った。

「よく言ったぁっ!

 よし、ねえさんっ、その絵は譲ったっ」

「えっ? マジっ? じゃなくて、ほんとに違うの?」

 それ認めちゃそれはそれでだめじゃない? ってか、ギャラリーいるしっ! 拍手されてるしっ?

「違うさっ、それは葛飾北斎の娘、葛飾応為の作品だ。

 当然、天才と名高い北斎の業を見て盗んだから作風は似るかもしれねぇが。こと女性の絵にかけちゃあ北斎も負けを認めるってやつよっ」

「へー、…………え? もらって、いいの?」

「正しい目で見てくれる人が持っていた方が絵も本望だろうよっ!」そして、ギャラリーに視線を向けて「見る目もねぇやつに飾られたって喜ばねえよなっ!」

「「「「「おうさっ」」」」」

「じゃ。じゃあ、もらうね」

 受け取る。なんだろ、ラッキーっ! とか、今はそんな事思えない。

 ただ、不思議な高揚感がある。

「ありがと」

 絵を受け取る。心なしか、ずっしりと、重い。

 そんなわけないのに、

「よかったね。鈴谷」

 頷いた。……さて、

 いつまでも呆けて居られないっ! このお店にあるのはたぶん、どれもすっごい絵。

 買えないまでも、他のも見てみないとっ! と、

 春画、と書かれた巻物見つけた。春の絵って事だよね。たぶん、桜とか、綺麗な絵。

 この絵を描いた人。……えーと、葛飾応為、だっけ?

 その人の絵があればいいな、と思って手を伸ばす。

「あっ、ちょ、ねえさんっ!」

「なによー、今更見せないとかそんなのなし」

「いや、鈴谷。それは、」

 提督もちょっと困った表情。けど、遅いっ、手にとって、巻物広げて、………………………………………………

 

「ぴゃっぁあああああああああああーーーーーーーっ!」

 

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