深海の都の話   作:林屋まつり

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四話

 

 私には好きな人がいます。

 

 私のてーとく。すっごく優しい人です。

 艦娘の事を第一に考えてるから、資材集めとか全然はかどらなくて、それなのにおねだりを聞いてお小遣いとか出してて、……いつも、たくさんの書類と格闘してた。夜遅くまで、がんばってた。

 よく私と一緒に散歩してくれた。かけっこしようって、私の我が侭もいつも聞いてくれた。疲れているのに、無理しなくていいって言ったら気分転換になるって言って、一緒に走ってくれた。

 艦娘である私が、人であるてーとくを好きになるなんておかしいかもしれない。…………けど、この想いは、どうしようもなかった。

 そして、てーとくも、私の事を好きって言ってくれた。

 嬉しかった。それを聞いた時、ぼろぼろと涙が零れて、ぎゅって抱きしめてもらって、大好きな人の胸の中で思いっきり泣いた。

 うちの泊地は貧乏だけど、いつか、お金がたまったらケッコンカッコカリの指輪を買うって言ってくれた。

 そして、いつか、…………

 その事を話したら皆祝福してくれた。意外だったのは、第二艦隊の旗艦、天龍と補佐の龍田も祝福してくれた事。

 二人とも、てーとくのこと、好きだから。

 けど、二人とも祝福してくれた。結婚式には呼んでね、と龍田は笑顔で撫でてくれた。天龍は私の肩を叩いて、よくやったなっ、って言ってくれた。

 …………私は知ってる。私とてーとくの事で、二人はすっごく悩んでたって。

 それでも、そう言ってくれて、嬉しくて、泣きながらありがとう。って言った。天龍もつられるように泣いて、龍田も目元を抑えてた。

 私の居場所、大好きなてーとくのいる泊地、大切な、仲間のいる場所。

 そんなある日、別の基地から協力の依頼があった。

 報酬は、ケッコンカッコカリの指輪とか、必要書類。

 けど、てーとくはその依頼を断ろうとしていて、……私は、それがすごいショックだった。

 だって、もう少しでてーとくとケッコンカッコカリ出来るから、強い絆の形を得られるから。

 だから、てーとくと喧嘩して、秘書艦だったから勝手にその依頼を受けて、喧嘩別れみたいに飛び出して、……そして、

 

 ごめんなさい、てーとく。

 きっと、てーとくは、こうなる事、解っていたんだね。

 

「……………………はれ?」

「おはようございます。島風ちゃん」

「んー、…………あー?」

 目を覚ます。「羽黒?」

 そーいえば、遊びに来たんだったっけ?

「私は?」

「寝てましたよ。

 まったく、人の家に遊びに来て家主の膝の上で爆睡とか、いい御身分ですねー」

「うっさいげっ歯類」けど、……まあ、確かに「ごめんね、羽黒」

「いえ、大丈夫ですよ。それよりそろそろご飯にしますか?」

「おうっ」「そういえば、そんな時間ですね」

 ご飯?

「どこかに食べに行きますか?」

「あ、いいですねっ、もちろんこのうさぎちゃんの奢りでっ!」

「いや、奢りっていっても私お金持ってないわよ」

「出世払いでも借金でもなんでも、……なんでしたらこの雪風っ! お金貸しますよっ!

 一一でっ!」

「いちいち?」

「一日一「あの、ごめんなさい。それ、詐欺じゃないでしょうか?」」

 舌打ち。

「何企んでんのよ。このげっ歯類」

「ま、まあまあ、……じゃあ、はじめましてという事で私が島風ちゃんの分出します」

「ほんとっ! さすが羽黒っ! ありがとうっ!」

「ありがとうござますっ! 羽黒さんっ!」

 両手をあげる私と雪風。羽黒はにっこりと笑顔で「雪風ちゃんはお金持っていますよね?」

「…………はーい」

 というわけで私達は外へ。……さてと、どこに行くんだろ?

 美味しいもの食べたいなー

 

 また、てーとくの作ってくれたカレー、食べたいな。

 

「いらっしゃい」

 というわけで、連れられてきたのは小さな定食屋さん。

 で、エプロンを着た大井は私達を見て首を傾げた。

「あ、不運艦」

「いきなりそれですか」

 苦笑する雪風。けど、同感。転んだりぶつけたりとか、なにか飛んできたりとか。ここに来る途中だけで雪風、いろんな目に遭ってる。さすが不運艦。

 まあ、ともかく、

「大井っちー、お客さん?」

「ええ、じゃあ、お席はご自由に」

「はい」

「雪風は気をつけなさい。

 座ろうとして転ぶだけならいいけど、椅子壊したら怒るわよ?」

「気ーつけますー」

「壊した事あるんだ?」

「そうよ。どうやって座ったのか、すてーんっ、って転んで椅子が弾き出されてそれ見た球磨と多摩が爆笑して、跳んできた椅子に木曽がぶつかって、きそーっ、って叫んでたわ」

「…………なにそれ面白」

 その光景、是非見てみたい。

「大井っちー、注文はー?」

「あ、そうそう。ごめんなさい。北上さん。

 それで、何にするの?」

「では、雪風は唐揚げ定食を」

「…………すごい、雪風がまだ残ってるのを選んだ」

「…………その驚きを否定できません」

「どんだけ運が悪いのよあんた」

 幸運艦の過去が泣くわよ。羽黒は苦笑。

「サンドウィッチとサラダをお願いします」

「えーと、私は、…………ハンバーグ」

「はい、北上さーん。唐揚げ定食とハンバーグとサンドウィッチ、それとサラダー」

「……あれ? 注文したの全部売切れてない」

 奥から聞こえてきた声に雪風は中途半端な笑み。

「なに? 雪風が注文するのって大抵売り切れなの?」

「夕食時はやばいですね。

 好きな物を食べられた率の低さは半端ないです。まあ、代わりに一緒にご飯食べに来てくれた皆さんがいろいろと分けてくれるので、嬉しいですけど」

「雪風ちゃんとご飯を食べに来ると、皆で分けあいっこになるから、楽しいです」

「…………あははははは」

 嬉しそうに応じる羽黒と、かたかたと笑う雪風。

「なんでそんな事になってるのよ?」

「わからないですよお。

 他の皆さんは大抵わかってるみたいですけど、みーんな意地悪して教えてくれないんです。ねー、羽黒さん」

「ふふ、……ああ、ごめんなさい。

 けど、うん、きっと、雪風ちゃんも気付いてると思うから」

「気付くわけないでしょ、もー」

「それで、前に北上さんが小動物っぽくて可愛いよねー、っていってたわ。

 北上さんに可愛いって言われるなんて、何様なのよ貴女は?」

「…………小動物」

 陰のある笑みを浮かべる大井と、俯く雪風。

「確かに、げっ歯類だしね」「ハムスター」

「あ、ハムスターは可愛いね」

 奥から聞こえてきた北上の声に大井はさらに陰鬱に笑う。

「それ、雪風は喜んでいいんですか?」

「北上さんに可愛いって言われたのよ?

 小躍りして喜びなさいよ」

「泥鰌掬いの真似事をしながら店を荒らしていいのなら」

「私と北上さんの愛の巣を荒らすっていうのっ!」

「……愛の巣なのに、お客さんが必要なのは、変だと思います」

「確かに」

「いいのよ。北上さんと二人で小さな定食屋。

 艱難辛苦を二人で乗り越えて、少しずつ愛を育むの、……ああ、ああっ!」

「おーい、もどってこーい」

 自分を抱きしめてぷるぷるしてる大井。……ちょっと引く。

 と、

「苦労させてた? ごめんね、大井っち。

 私、あんまり料理上手じゃなくて」

 奥から、本当に申し訳なさそうな声。

「そ、そそそそそそ、そんな事はないわ北上さんっ!

 全然っ! 北上さんは悪くないわっ!」

「おちつけー」

 だめだこいつら。

 

 ふと、気になった。

 私は自分の、異形と化した足に視線を落とす。…………誰も、この形の事を気にしていない。

 そういうものなのかな?

 

//.雪風

 

 ご飯を食べ終えて、雪風は自宅に戻りました。さて、寝ましょうか。…………と、いうところで、

「きゃーっ!」「ごふっ?」

 お、お腹に、ず、頭突きが?

「かっ、わいーっ!

 凄いっ、凄いっ!」

「な、……なん、で、すか?」

 誰かが、抱きついてます。

「あらあら、ごめんなさいね。雪風ちゃん」

 あ、

「井上さん?」

「こんばんわ、雪風ちゃん」

 相変わらず、完璧な美しさの女性。井上さん。おっとりと微笑んで、まさに良家のお嬢様です。

 それと、雪風に、ぎゅーっと抱きついている女の子。

「ねえねえっ、母様っ! すっごく可愛いっ! お家に連れて帰りたいっ!」

「こらこら、だめよはたた。

 雪風ちゃんはここで暮らしているのよ?」

「えーっ」

 へ?

「は、母、……って、ええっ?」

 改めて、雪風に抱きついている女の子を見ました。

 琥珀みたいな綺麗な金色の髪。黄水晶みたいな金色の瞳。金色の少女。…………「母?」

「ええ、そうよ。

 そんなに驚く事かしら?」

「いや、驚くって、……とんでもない美人って以外に共通点ないんですけど」

「わっ、母様っ、私も美人だってっ!」

「あら、よかったわね」

「私も雪風くらい可愛いかな?」

「そうねえ。……ええ、負けてないと思うわ」

「えへへー」

 照れくさそうに微笑む女の子。……ええと? お二人から見れば雪風もこの美少女くらいに可愛く見えるのでしょうか? うーん?

「雪風ちゃん。この娘ははたた、仲良くしてあげてね」

「は、たた?」

「うんっ、はじめまして雪風っ」

「はい、はじめまして、ええと、はたたちゃん?」

「うんっ」

 

「わーっ、ここが雪風の家っ?」

「そうですよ」

 なんでかきらきら状態のはたたちゃん。

「こら、あんまりはしゃがないの。

 ごめんね、雪風ちゃん」

「いえ、いいです。

 けど、どうしたのですか?」

「うーんとね。雪風ちゃんにお願いしたい事があるのよ」

「なんですか?」

 井上さんにはいろいろお世話になっています。だから出来る事なら聞きたいです。

「この娘、一緒に暮していいかしら?」

「はたたちゃんと、ですか?」

「雪風と一緒に暮らすのっ?」

「そうね。……いいかしら? 雪風ちゃん」

「いいですけど、けど、どうしてですか?」

「おっとまりおっとまりー」

 くるくると回るはたたちゃん。……は、いいのですけど。

「ふふ、そうね。……なにかあった時のために、っていう事よ。

 怖い人が襲ってきたら、はたた、雪風ちゃん達を護ってあげてね」

「はーいっ、大丈夫っ! 私、がんばるっ!

 雪風には指一本触れさせないわっ!」

 びしっ、と。指を突き付けるはたたちゃん。

「ええと」

 見た目。可愛い、幼い女の子。その彼女が護ってあげる、っていうのは、……まあ、もしかしたら、

「もしかして、井上さんと同じ魔縁、ですか?」

「んー、…………そうなの?」

 おや、違うのですか?

「ふふ、違うわよ。雪風ちゃん。

 はたた、…………この娘は神よ」

「…………えーー?」

 満面の笑顔でピースな幼い姿の神様。……常識って、意外と脆いです。

「そうよっ、私すっごく強いのっ!

 雪風を苛める悪いやつはみーんなやっつけてあげるからねっ!」

 

//.雪風

 





キャラ紹介:はたたちゃん

井上さんの三番目のお子様、男性だったらしいのですが雪風と同居という都合上女性という形で登場願いました。
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