深海の都の話   作:林屋まつり

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五話

 

//.天龍

 

 目の前の椅子には座らない。俺が座るところとは思っていないから。

 ここは、あいつが、提督が座るところだ。

「くそっ、……提督、どこ行っちまったんだよ」

 ため息一つ。俺が座っているのは提督の執務室にある、簡単な会議のための長机にある椅子。提督の椅子にも、秘書艦の椅子にも座るつもりは、ない。

 提督、そして、秘書艦、島風。……二人は、いない。

 

「天龍ちゃん」

「おう、龍田か。……どうせやる事もねえんだ。さっさと寝ちまえよ」

 島風が轟沈して、提督がいなくなって、……この泊地は事実上休業状態。

 第二艦隊の旗艦やってた俺が何とかまとめてはいるけど、大本営からの命令とか聞く余裕はねぇ。

 それは龍田も解ってる。んだけど、

「天龍ちゃん。上からの電文よ~」

「なもの無視だ無視。聞いてる余裕はねぇって言っただろ?」

 ひらひらと手を振る。けど、

 上? という言葉が少し引っ掛かった。大本営、じゃなくてか?

「ええとお、それなんだけど、新田中将。……って、知ってるわよねえ?」

「ああ、提督がファンしてた中将だろ?」

 現代戦の英雄。横須賀鎮守府や首都、東京都がある東京湾への最終防衛線。

 大島全土という広大な基地を治める、最強の一角と名高い提督。新田義興中将、だったか。

「そいつがどうかしたのか?」

「その人から、緊急の問い合わせなのよ~

 秋月代将、第一艦隊秘書艦島風とともに大島まで出頭を依頼する。…………ですってぇ~」

「なんだよ、それ」

 最初に感じたのは、不快感。そう、だって、

「また、かよ?」

 島風のやつが轟沈した依頼も、そうやって呼びだされた。

「結局、そいつも俺たちを利用しようって腹か? ああ?」

「私に凄んでも仕方ないわよ~

 それに、今回は提督も同伴、前とは違うと思うわあ」

「……ああ、そうかもな。

 で、その中将サマがどういう用事だよ?」

「知らないわよ~、こっちに来たのはそれだけ。

 けど、どうする?」

「どう、って?」

「提督が行方不明って、伝える?」

「…………ああ、それか」

 そう、提督は行方不明だ。

 島風を轟沈させたヤロウのところに乗り込んで、そして、戻ってこない。連絡もない、音沙汰なしだ。

「噂だけなら、新田中将は信頼できそう、なのよね~」

「噂だけだろ、面拝んでねぇのに判断できっかよ。

 …………けど、そうだな」

 どうするか。

「伝えて、どうなるよ?」

「こっちにとって最善なのはあ。新田中将があ、提督を探してくれる。で、あのヤロウを罰してくれるってことねえ。……島風を轟沈させたやつなら、その首落としたいけど~」

「たりめぇよ。八つ裂きにしてやるぜ」

「逆はあ、揉みつぶされる事よね~

 私達もばらばらにされてぇ~、島風轟沈の依頼もなかった事にされて~、提督も、どこかに行っちゃって~」

「…………ざけんなよ」

「当たり前よお。そんな事されるくらいなら、現代戦の英雄様相手に、死に花散らしましょうね~」

「刺し違えてもな。……っていいてぇところだが」

 ちびどももいる。今は、なんとか抑えている。けど、もし次になにかあれば、……そうなれば、あいつらは、…………

「じゃあ、こういうのはどうかしら~?」

「あ、なにかあんのか?」

「私がいってくるわ」

「おいこら龍田。てめぇ、なに言ってっかわかってんのか?

 最悪の場合考えろよ? なにされっかわからねぇんだぞっ!」

 提督がいなくなって、ダチの島風がいなくなって、龍田まで、いなくなったら、……俺は、………………

 

 抱きしめられた。

 

「龍田?」

「天龍ちゃんはみんなを支えてあげなくちゃだめよお~

 ね、島風ちゃんと、提督の帰る場所を護ってあげなくちゃ」

「……けど、よお」

「だめ、……これが、提督を取り戻せるチャンスかもしれないんだから、だから~

 私、行ってくるわ」

「………………くそ、卑怯だぞその言い方。……帰ってこなかったら、承知しねぇからな」

 

//.天龍

 

 実は、眠くない。

 

「はー、あ」

 ロッキングチェアに座る。足が大変な事になってるから結構難儀したし、寝転がるなんて出来ないけど、

 まあ、これならある程度はのんびりできる。けど、

 なにも、やる事ないなあ。

 娯楽のためのものはなにもない。もう、時間としては夜だから、誰かのところに遊びに行くのも、悪い、と思う。

 昼寝したから眠くもない。むしろ冴えてる。

 だから、

 

「…………で、なにしているの貴女は?」

「おうっ?」

 唐突にかけられた声に振りかえる。「大鳳?」

 なんか、凄い事になってる艤装を背負った大鳳。彼女は呆れ顔。

「なにって、……走ってる?」

「見りゃあわかるわよ。

 こんな夜中に都の道駆け回らないでって事。なにかと思ったわよほんと」

「ああ、それ」

 振り返る。私が走ってきた道がある。

 一人で走ってもつまらない。けど、やる事もなかった。気晴らし程度には、なる。

「だって他にやる事ないんだもーん」

「はいはい、まあ、来たばっかりだしね。

 うーん」

 首を傾げ始めた大鳳。なに考えてんだろ? と、見てると大鳳は溜息「道路爆走されるよりマシな場所考えてるのよ」

「おう? わかった」

「顔に出やすいのはある意味長所よね」

「素直、だって」

「…………ああそう。

 ともかく、道路は走らない、転んでもぶつけても自業自得だからいいけど、誰か轢いたら笑いごとじゃ済まないわよ」

「はーい」

 

「おうっ?」

 鎮守府、案内されたのは中庭。

 冗談みたいにでっかい大樹。そして、それを中心とした広場。

「ここなら走っても文句は言われないわよ」

「それもそうね」

 さて、……「じゃあ、大鳳」

「なに?」

「かけっこ、しよ?」

 ま、てーとく相手じゃないのが残念だけど、一人で走るよりは、ましよね。

 そして、…………

「おっそーい、……っていえばいい?」

「いや、それ卑怯すぎでしょ」

 壁に背を預けて崩れ落ちる私と、とんっ、となにかのボードから飛び降りる大鳳。

 艦載機、らしい。……いや、あり得ないでしょそれ。

 艦載機、と言いつつなにか、黒い靄みたいなのがわき上がって、それが一か所に集まって固まって出来たのがそれ。普通、艦載機はそういうんじゃない。

「卑怯じゃないわよ。これが私の、深海棲艦としての形で得た艤装よ。

 私達が艤装を使うなんて、当たり前でしょ?」

「気味悪」「貴女に言われたくないわよ」

 …………否定できない。けど、

「うー」

「なに? まだやる?」

「もち「あーっ、大鳳っ!」え?」

 鎮守府の方から声。聞き覚えのない声。けど、その姿は、「駆逐棲姫っ?」

 直接会った事はないけど、資料で見た事がある。ここにいる深海棲艦とは違う、正しく、艦娘の敵である深海棲艦。その、姫種。

 反射的に身構える。視線を横に向ける。大鳳は、…………溜息。

「どうしたのよ? ひさめ」

 ひさめ? 駆逐棲姫の事?

「どうしたじゃないっ!

 遊びに来たら言仁くんも響もいなかったっ!」

「二人とも出かけてるわ」

「えーっ、遊びに来た意味なーいっ! …………うわっ! 足が変なのがいるっ!」

「あんたにいわれたくないわよっ!」

「……って、えーと! …………しまぱん?」

「違うわよっ!」

「しー、…………しーしー、…………しましまっ!」

「し、ま、か、ぜっ!」

「おおう。そうだった」

 腹を抱えて笑っている大鳳を横目で睨む。

「っていうか、なにやってるの?」

「追いかけっこよ」

「あれ? しましまって世界最速じゃなかったの?

 大鳳余裕そうだけど」

「あんな反則艤装とか追い付けるわけないでしょっ!」

「ああ、あれね。確かにあの、反則艦載機はねえ」

「反則反則うるさいわよ。

 別に得たくて得たものじゃないんだから、愚痴らないでよ」

 そして、大鳳は不意に腕時計に視線を落として、

「だったら、ひさめ。貴女が代わりに島風の相手をしてやってよ。

 どうせ暇なんでしょ?」

「ん、いいよ」

 気楽に頷く駆逐棲姫。……もとい、ひさめ。

 深海棲艦、それも姫種と追いかけっことか、想像した事もなかった。

 ひさめは、にや、と笑って、

「ま、世界最速だか足四本だか何だか知らないけど、そーんなのでこの私に追いつけるわけないしね」

 かちん。

「なに言ってるのよ。

 この私に追いつけるわけないじゃん」

「へーん、負けて這いつくばってから同じ事言えるとは思わないでよ」

 胸を張るひさめ。本気で腹立つ。

「じゃあ、やってやろうじゃない」「よしきた」

 腰を落とす、ひらひらと手を振る大鳳。

 絶対に、こいつ泣かす。と、覚悟を決めた瞬間。

 

「みーつけたあ」

 

//.大鳳

 

「経過は順調、と」

 艤装、微細な艦載機は平面の形に集まり文字を描く。

 内容は、

『例の提督も来ないらしい。

 第二艦隊の龍田が来るらしいよ。どういう事情なのかわからないけどね』

「そう、……まさか、忙しいからってわけじゃないわよね?」

『代将にとって中将は雲の上の人。

 提督によっては艦娘の命よりも、一度会う機会の方が大切だろうね』

「まあ、そうよね」

 頬杖ついて応じる。業腹な事だけど、間違えてはいないでしょう。

「それで、響。

 貴女は会うの?」

『まさか、私が司令官に頼まれたのは調査だけだよ。

 その提督がどこでどんな事をしているか、それがわかれば十分だよ。さっさと戻るさ』

「…………提督に変な事しないでよ?」

『添い寝を頼んだ大鳳が言うと説得力があるね』

 まだ根に持ってる。

『本来なら今日中に帰るつもりだったけど、仕方ない。

 こっちで一泊するよ。……ただ、ここも面白いね。私達の都みたいだよ』

「艦娘の都?」

『そうだね。農耕に手を出しているところはなかなか勉強になりそうだよ。時雨を引っ張り出して見学したいな』

「あの駄目棲艦時雨が行くわけないでしょ」

『………………ただ、これ、新田中将の提案かもしれないけど、南朝の思惑が入ってると思う』

「南朝?」

 悪の秘密結社、らしい。私もよく知らない。

 ただ、

「クーデターでもするの?」

『と思うよ。そのために艦娘を集めている。というところじゃないかな?

 そして、その最前線基地が大島。最終防衛ラインじゃなくて、最前線ね。……まあ、私達は傍観するけど』

「首突っ込みたくないわよそんなの。

 島風の件は了解したわ。それで、援軍は必要? 一応、ひさめが鎮守府でいぶきと追いかけっこしてるけど」

 正確には逃げ回っている。島風と一緒に。

『あんな露骨に深海棲艦が来たら大変な事になるよ。

 それと、今のところは大丈夫。時雨を引っ張り出せれば来て欲しいけどね』

「無理、まあ、頼むわよ。

 無事に戻ってきなさいね」

『当然、私は私の家族を悲しませたりしないよ。……大鳳は私が戻らなかったら悲しいかい?』

「当たり前じゃない。

 しばらく泣いてから、どこかにいるであろう響が嫉妬で発狂するくらい提督に甘えるわ」

『了解した。死んでも戻って不埒な事をする大鳳とパーティーを楽しもうか』

「そうね。だから戻ってきなさい」

『了解』

 

//.大鳳

 

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