深海の都の話   作:林屋まつり

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 昔々、一人の農夫がいました。

 一つある田んぼからとれたお米で、農夫はご飯を食べて生活をしていました。
 ある日、農夫はお腹いっぱいお米を食べたいと思い、木を切り倒し、土地を拓いて田んぼを作りました。
 二つある田んぼからとれたお米で、農夫はお腹いっぱいご飯を食べられました。
 ある日、農夫は結婚をしました。奥さんと一緒にお米を食べたいと思い、木を切り倒し、土地を拓いて田んぼを作りました。
 三つある田んぼからとれたお米で、農夫と奥さんはご飯を食べられました。
 ある日、農夫は子供ができました。子供のお米が必要だと思い、木を切り倒し、土地を拓いて田んぼを作りました。
 四つある田んぼからとれたお米で、農夫と奥さんと子供はご飯を食べられました。
 ある日、農夫は家族みんながお腹いっぱいお米を食べて欲しいと思い、木を切り倒し、土地を拓いて田んぼを作りました。
 五つある田んぼからとれたお米で、農夫と奥さんと子供はお腹いっぱいご飯を食べられました。

 切り倒した木ですか? もちろん捨てましたよ。


日向の話 ― あるいは精霊考
一話


「終わり、か」

 遥か遠く、泣きそうな表情でさっていく伊勢。

 そちらを見送って、海に腰を落とす。視線を向ける。

 体も艤装もぼろぼろ、疲れ果て、正直、立っているのも辛かった。伊勢は最後の最後まで曳航してくれた。諦めるな、って何度も言って、絶対に助ける、と。強い意志で断言して、……けど、

「ま、無理だな」

 僚艦を先に逃がして、殿の撤退中だった。……後ろの警戒に失敗した私が悪い。

 だから、終わり。視線を向ける。伊勢が去って行ったのとは逆方向。

 そちらに向かって砲撃するべきなのだろうが、……意味もない、か。

 疲れ果て、消えかけた意識ではなにかをやること自体が果たせず、ただ。轟沈を待つだけ。

 北方棲姫。討伐しようとして、けど、討ち果たせなかった深海棲艦。

 彼女はゆっくりとこちらに近づいてくる。まっすぐに、轟沈を待つだけの私を見る。

 

「どうして、貴女達はいつも、奪うの?」

 

 近く、近く、手を伸ばせば届くような距離。ぽつり、声が聞こえた。

 そして、答えられる事もなく、私は意識を手放した。

 

「っ?」

「あ、目覚めました?」

「へ?」

 ……ここは?

 跳ね起きようとして、「だめです」

 抑えられた、そのまま押し付けられるようにしてベットに、そして、その先、青いワンピースの、女の子。

 彼女は頬を膨らませて、

「だめです。もー、すっごい怪我してるのに無理したら体によくありません。

 一日中寝てたんですよ? しばらくはそうしてください。おかゆ、温めてきますから」

「え、ええと?」

 ……ここは、どこだ?

 私の所属していた基地ではない事は確かだ。なにせ、屋根が植物。茅葺、……というのかは、よく解らないが。

 壁も同じ、茅、というのか?

「おっかゆー、おっかゆー、ほくほくはふはふおかゆです~」

 なんとも力の抜ける歌声は近くから、たぶん、そこでおかゆを温めているのだと思う。とすると、キッチンも近くか?

 ここ、どこだ? と、

「ほーきっ、ほーきっ! お肉もらったっ! いぶきにぎゅってさせたらお礼にお肉くれたっ!

 焼くっ!」

「おかえりなさい、ぴりかちゃん。これ何の肉ですか?」

「知らないっ! 生で食べたらだめな肉っ」

「大抵のお肉は生じゃあ食べませんよお。

 じゃあ、焼きましょうか、今日のおゆはんは焼き肉ですっ」

「焼き肉っ! ほーき、なにしてる?」

「えーと、ぴりかちゃんが連れてきた娘が目、覚めたんでおかゆです。

 ふはふはします」

「ふはふはっ!」

 なんていうか、のんきな会話だけど。……連れてきた?

 心当たりは、信じられないけど、ある。

「まさか、」

 信じられない、けど、「出来ましたっ」「出来たっ」と、声。そして覗いたのは二人の、女の子。

 土鍋を持つ青いワンピースの少女と、「…………北方、棲姫」

 少女の後ろに隠れるようにいる、討伐すべき深海棲艦がいた。

 

「はい、熱々です」

「むー」

 傍らの机に土鍋と蓮華をおく少女、北方棲姫はこちらを軽く睨んでる。まあ、当然か。

「では、改めまして、私の名前は箒です。それで彼女はぴりかちゃん。怪我をしていた貴女をここに連れてきたんです」

 怪我させたのは彼女なのだが、……けど、

 艤装はないし、連れてきたっていう事を考えたら今更攻撃するとも思えない。なら、話に乗った方がいいか。

「そうか、……感謝する」

 お礼を言っても彼女は箒の後ろから出てこない。

 まあ、仕方ない。ともかく名乗られたのならばこちらの名も告げなければならない。

「私の名前は日向だ。……艦娘、なのだが」

「艦娘、苛める、嫌い」

 ぷい、とそっぽを向く北方棲姫、……ぴりか?

「艦娘、……えーと、…………大蛇さんから聞いてたような。…………あっ、思い出しましたっ!」

 ぱっ、と表情を明るくする箒。大蛇?

「あの《がらくた》が海の底にあるの片っ端から付喪にしてたら、元々集まってた信仰を媒介に現人神になったやつですね」

「は?」

 そうなのか?

「あれ? 違うのですか?」

「いや、すまない。解らない」

 艦娘がどうしてできたかなんて、考えた事もなかった。

「そうなんですか、……あの《がらくた》がやろうとしている事は面白そうだったから見てみたかったのですけど。……違うなら違うでいいです。

 まあ、艦娘さんですね。大蛇さんから聞いています」

「まあ、そうだ」

 その、大蛇っていうのも、……人? か。

「あ、そうだっ、日向さん。おかゆを作りました。

 熱々のうちに食べてください。お話はそれからでもいいです」

「……いただこう」

 病人というわけではないのだが。ともかく、土鍋を開けて「…………おかゆ?」

「あー、白米のおかゆしか知らないんですねー

 そんな日向さんは、雑穀粥の美味しさを堪能すればいいんですっ」

「ふはふはっ!」

「雑穀粥?」

 確かに、白米のおかゆは知ってるが、……土鍋の中には雑穀らしい、いろいろな色。

「それも、今回の雑穀粥には、なんとっ!」「なんとっ!」

 びしっ、と指を突き付ける箒と、彼女と同じように指を突き付けるぴりか。

「鮭の切り身をあぶってほぐしたのが入っているんですっ」

「贅沢だっ」

「……ええと、では、いただきます」

 際限なく元気になる二人。とりあえず手を合わせて一口。「……おいしい」

 口内に広がる香ばしさと、自分の知るお粥にはない、不思議な食感。

「よかったです」

「私もっ、私も食べるっ!」

「だめですよ。ぴりかちゃん、おゆはんにお肉を食べるのでしょう?」

「うー」

 箒の言葉にぴりかは崩れ落ちる。……いや、涎垂らしたままじーっと見つめられると、凄く食べにくいのだが。

「それと、日向さん。

 修復に必要な鋼材とかは大蛇さんに頼んだので、明日には届くと思います。怪我は、なんていうか、それまで我慢してください」

「……わかった」

 確かに、艦娘としての傷は入渠用の施設がないと治せない。最低でも、鋼材と、燃料が必要だ。

 それがあるとは思えないのだが、「あるのか?」

「はい、大蛇さんに相談したら届けてくれるって言ってました。

 回復は届いてからですね」

「まあ、仕方ないか」

 そもそも回復できるとさえ思っていなかった。贅沢を言うわけにはいかない。

「ほーきっ、あぶないっ!

 艦娘、私達苛めるっ! おかゆ食べるっ!」

 取り合えず、涎を垂らしながら土鍋を見据えるぴりかに蓮華でおかゆを掬う。ぴりかは口を開ける。少し迷って、少し口の中へ。

「ふはふは」

 ふはふはした。……いや、いいのだが。

「美味しいっ、ありがとっ!

 ほーきの作ったご飯は美味いっ!」

「ありがとうございますっ」

 ぱちんっ、とハイタッチする二人。とりあえずもう一口食べる。

 いろいろ聞きたい事はあるが、まずは食べる事、せっかく作ってもらったのなら残すのは申し訳ない。

 お腹もすいてるし、というわけで黙々と食べる。たまに涎を垂らしてじーっと見つめるぴりかに食べさせてふはふはさせながら雑穀粥を食べる。程なく、

「ごちそうさまでした。

 ありがとう、美味しかった」

「ほーきっ、もっと食べたいっ」

「じゃあ、おゆはんはお肉じゃないですね?」

「……両方」

「だめです。

 ぴりかちゃん、たくさん食べすぎるとお腹壊しちゃいますよ。それに、太っちゃいますよ。でっぷりです。おでぶさんです」

「おでぶさん、やだ」

「だからおゆはんは雑穀粥かお肉です」

「じゃあ、お肉」

「はい、じゃあ、おゆはんはお肉ですね」

「ええと、いいか?」

「はい、なんですか?」

「まず、ここはどこだ?」

「色丹島の近くです」

 北方海域の近くか。……そこは、北方棲姫が占領していた場所。そして、私たちが討伐に向かった場所、その近く。

 それで、

「なぜ、私を助けた?」

 助けた、でいいだろう。

 轟沈出来なかった理由はない。私達の艦隊をただ一人で薙ぎ払ったのが彼女だ。手負いの艦娘一人を轟沈出来ないわけがない。

「…………教えて」

 ぴりかは、問う。こちらの質問に答えていないが、まあ、いいだろう。

 助けてもらったのだ。聞かれた事には答えよう、そう思って頷く。

「どうして、いつも私達を苛める?

 どうして、いつも私達を追い払う、私達が何をしたっ! 皆で一緒に静かに暮らしてたっ! この地に感謝して、この地に畏敬してっ! 私達はずっと生きてきたっ!

 なのに、どうして、どうして私達から全部、全部奪い取ったっ! なぜだっ! なぜいつもいつもお前たちは私達から奪い取るんだっ!」

 それは、今までの呑気な姿からは想像できないぴりかの姿。悲壮、憎悪、憤怒、幼い少女の姿をした彼女には似合わなくい。暗い激情。

「いつ、も?」

 けど、それは、

「私達が、なにをした? どうして、……いつも、私達から大切な物を奪うんだ?

 なんで、放っておいてさえくれないんだ。ここで、生きてきたのに、……この地と、生きてきたのに、それさえ、お前たちは許さないのかっ?」

 血を吐くような絶叫。どうして、か。……それは、

「だって、貴女達深海棲艦は、たくさんの人を殺した、はずだ」

「そんなの知らない。

 私は皆がいるこの場所を護るのっ、近づくの、許さないっ! また、どうせ奪うんだ、もう、……私達にはここしかないんだ。だから、もう、絶対に奪われたりしないんだっ!」

「みんな?」

「みんなっ! 私の友達っ!」

 深海棲艦? ……ぽん、と拳を握るぴりかを箒が撫でて、

「明日、入渠用のあれそれが来て日向さんが回復したら、この島を案内しますね。

 続きはそれからにしましょう。その時、その、友達を紹介しますよ」

「そうか」

 深海棲艦、だろうか。警戒が必要。……か、いや。

 わざわざ紹介するというのだ。まさかその最中に襲撃しないだろう。私を沈めるならすでにそうしているはずだ。

「御散歩っ! 入渠っ、けど、艤装だめっ」

「そうですねえ」

「…………仕方ない」

 普通に考えれば、状況は捕虜。武装解除は当たり前だ。

 むしろ、こうして生きているだけでもある意味、破格の幸運か。

「それじゃあ、私は入渠の準備を始めています。

 日向さんはもうしばらくお休みください。ぴりかちゃんはどうしますか?」

「遊ぶっ! お手伝いっ!」

「はい、じゃあ、がんばりましょー」「がんばるっ」

 二人はそう言って外へ。……はあ。

「なんだというのだ。これは」

 

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