深海の都の話   作:林屋まつり

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二話

 

「Ohっ! 日向デースっ!」

 翌日、朝、入渠に必要な物が届いた。曳航してきたのは金剛と比叡だった。

 出迎えた私と箒、そして、ぴりか。

「お姉さまっ、北方棲姫がいますっ」

「ソウデスネー、ま、問題Nothingっ、それより早くお使いを終えまショウっ」

「ないですか?」

 箒の後ろで警戒しているぴりか。けど金剛は彼女に笑顔を向けて、

「No problemっ! 彼女がワタシ達を害さないなら、それで全然OKデースっ」

「大蛇さんからの使いですね」

「おろち?」

「お姉さま、私達の司令の事です。

 ここだとそういう風に呼ばれると思う、って言っていました」

 比叡の言葉に金剛は俯く。

「Shit、テイトクの言葉を聞き逃すなんて、ショック……デス」

「お姉さま、その時翔鶴たちと、誰がこの任務をやるかで喧嘩してたじゃないですか」

「ソウデシタ、……ともかくっ、これにて任務終了デースっ!」

「はい、では戻りましょうっ、直行ですよね?」

「そうデス、翔鶴たちも先に帰っているはずデス。帰るのも久しぶりデスっ! 早くテイトクをギュってしたいデスっ!」

「家もあるのですよねっ! お姉さまと二人きりの家っ!

 萌えますっ! 滾りますっ! やりますっ!」

「…………翔鶴たちの家に避難場所、用意しておきまショウカ。

 ……けど、テイトクに我が侭、………………まずは御風呂に入って、体を綺麗にしてからデースっ!」

 ともかく残念な雰囲気をまき散らして金剛と比叡は帰って行った。なんと言うか、来られても困るというか。考えてみれば一緒に連れて行って欲しかったというか。……あまりな賑やかさに、呆然としたまま見送ってしまった。

 ……いや、訂正しよう。一緒に戻っている最中、ずっとあんな感じだと精神的に轟沈する。

「………………艦娘って、アグレッシブですね」

「びっくり」

「いや、……みんなああじゃない」

 珍しく言葉なく、きょとんとしていた二人に、とりあえず言ってみた。

 

「……凄い」

 入渠施設、なんて期待してなかったが。

 ともかく、案内されるままに来てみれば石畳に木枠の御風呂。

 休んだ事で体力は回復したけど、艦娘としての怪我は治らず痛む。だから、

「……ふう」

 手早く体を洗って入渠。馴染んだ感覚とともに傷が癒えるのを感じる。

 ほんと、「私達も入りますねー」「おふろー」「へ?」

 馴染みつつある元気な声。そっちを見れば裸の箒とぴりか。

「ふろーっ」

「こらっ、ぴりかちゃん。先に体を洗わなくちゃだめっ」

「うー」

 早速飛び込もうとしたぴりかは箒の言葉に足を止めてとぼとぼと戻る。けど、箒が体を洗い始めて心地よさそうに目を細める。

 代わりに箒の背中をぴりかが洗って、二人はお風呂に入る。ふにゃ、と柔らかくなった。

「お風呂は、至高です」

「ほむー」

 幸せそうに微笑む箒と、蕩けたぴりか。

 溜息。

「感謝する」

「はい?」「ほむー」

 蕩けたままのぴりかはいいが。

「入渠の用意だ。いろいろと手間だっただろう。私のために、迷惑をかけた」

「いえ、いいのです。

 ぴりかちゃんは警戒していますけど、それでも、怪我をしている人がいたら助けないと、助けあいは、基本ですっ!」

「ですっ! …………ほーき、なにが?」

「困った時はお互い様と言う事です。

 ぴりかちゃんも、私が困った時は助けてくれますよね」

「もちろんだっ、ほーきは友達っ、助けるのは当然だっ」

 むんっ、と胸を張るぴりか。……けど、そうか。

 抱きしめて、頭を撫でる箒を横目に、なんとなく、感慨深いものを感じた。

 そうか、深海棲艦でも、友達は大切なんだな。

 

 入渠を終えて回復。体に違和感は、ない。

 痛みも取れている。なんにせよ、回復できた事に安堵の一息。

 艤装は手元にないが、それは仕方ない。

「では、行きましょう」

 茅葺、と言うのか、そのような形の家を出る。

 眼前には、少しの木々を隔ててある白い砂浜。振り返れば森が広がる。まずは、砂浜へ。

 ぱたぱた、とぴりかは砂浜を走り始める。楽しそうに、手を広げてくるくる回る。

「お外っ! 今日もいい天気だっ!

 ほーきっ、お日様に感謝だっ!」

「そうですね」

 ぺこり、と太陽に向かって頭を下げるぴりか。

「お日様に感謝、か」

 ぽつり、小さく呟いた。……けど、そうだな。

 そんな事、考えた事もなかったな。

 見上げる。眩しい光と、熱。

 北海にあるという事が信じられないほどの温かさ。そうか。

「感謝、か」

 もう一度呟く、確かに、しなければならないだろう。今、こうして生きているのは太陽のおかげなのだから。

 ぴりかのように深く頭を下げるのは、……まあ、ともかく、軽く会釈でも、と思ったところで、どぱんっ、と音。

「ああっ、ぴりかちゃんっ!」

 箒の悲鳴。見るとぷかぷか浮いて沖へ流されていくぴりか。

 溜息をついて私は追いかけ始めた。

 

「すまんっ、やりたくなったっ」

 びしょびしょの服を適当な枝に干して、ぴりかは胸を張る。そして、そんな彼女を拭く箒。

「もー、だめですよ。

 服がびしょぬれじゃないですか。風邪ひいちゃいますよ」

「子供は風の子だからひかないっ」

「だーめーでーすっ!

 ぴりかちゃん、風邪ひいたらお布団から出してあげませんよ」

「…………卑怯だっ!」

「そもそも、深海棲艦は風邪をひくのか?」

 なんとなく聞いてみた。ぴりかは胸を張って、

「聞いたかほーきっ、私は風邪をひかないっ!」

「じゃあ、風邪をひいたらぜーったいにお布団から出たらだめですよ。

 それでもいいなら試せばいいんですっ!」

「やだっ! 私はお外で遊びたいっ!」

「じゃあ、これからは海に入る前には服を脱いで、遊び終わったら体を拭くための布を用意してください。

 いいですね」

「わかったっ、風邪をひかないためだなっ!

 私はお外で遊びたいからそうするっ」

「はい、そうしてください」

 ともかく拭き終わったらしい。服を着せる。

「では、行きましょう」

「そうだな」

 まずは浜辺をぐるりと歩く。隙を見せたら海に飛び込もうとするぴりかを箒と二人で抑えて、……一時間程度か。一周したらしい。

「あまり、広くはないのだな」

「そうですね。……もう、これしか残っていないのです」

 残っていない? なにがだろうか?

「森っ! ほーきっ、ひゅーがっ、海を見たから次は森だっ!」

「っと」

 気がつけば、ぴりかに手を引かれていた。転びそうになったが何とか立て直す。

「森で遊ぶっ! 転んだら痛いから走っちゃだめだっ」

 走りながら言われてもな、……だが。………………困ったものだ。

 彼女は、深海棲艦なのだ、私達の、敵なのだ。

 それなのに、こうして笑顔で手を引かれて、その事が嬉しいと思ってしまうなんて、……どうしたものだろうか。

 

「これは、壮観だな」

 走り出して、そのまま木の根に躓いて転んだぴりか。懲りずに隙を見せたら走り出そうとする彼女を抱えて呟く。

 壮観だ。見上げても、どれほどの高さなのか解らないほどの大樹。

 高いだけではない、高さ相応の太さがある。ここまで成長するには、おそらく気の遠くなるような年月がかかっただろう。

 そんな木々が森を作る。いったい、いつからここが存在したのか、もしかしたら、人類誕生以前かもしれない。馬鹿みたいな想像だが、そう思わせる空気が、ここにはある。

 足元は分厚い苔に覆われ、ところどころに巨大な根が顔を出している。湿度は高いが、涼しく、不愉快な感じはない。

 太陽の光も直接届かない。葉を通した柔らかい明るさ。そして、

「妖精?」

 足元に、小さな人。艦娘の使う艦載機に乗るような、……だが、

「違いますよお。《がらくた》の神使じゃありません。

 これ、なんですか?」

「いや、私も知らないのだが」

「小さいなにかだっ! こんにちわっ!」

 私に抱えられたまま手を振るぴりか。足元の小さな人はぺこり、と頭を下げてどこかへ。木の根の下に潜り込んで見えなくなった。

 その小人が一番不思議だが、この森には他にもさまざまな物がいた。

 狐、熊、梟、狼、様々な動物がこの森の中を駆け回っていた。吐息の音。

「疲れたか?」

「ちょっと」

 苦笑気味に応じる箒。確かに、随分歩いたな。

 もちろんここは整備されていない。木の根や、突き出した岩などもある。歩きまわれば疲れるだろう。

「日向さんは大丈夫ですか?」

「ああ、まあな」

「ほーきはひ弱っ子だな」

「うー、日向さんに抱えられたままのぴりかちゃんに言われたくないですよお」

「まあ、疲れたなら休めばいい」

 告げて、近くの頑丈そうな木の根に腰を下ろす。それを見て、

「はー」

「無理をしない方がいい」

 安堵の声に苦笑。なにか、意地になっていたのだろうか?

 ぴりかを離す。彼女はとりあえずかけだして、近くの木の根につまずいて転んだ。寝ころんだままけらけら笑う。

「寝転がってると眠くなるなっ!

 涼しくて寝心地がいいっ! ひゃわっ?」

 悲鳴が上がった。みると、小さな熊が寝転がるぴりかにじゃれついている。

 わははーっ、と笑いながらころころと転がるぴりかと熊。……「熊?」

 あまりにも微笑ましい光景であまり意識していなかったが。危険ではないだろうか。

 いや、深海棲艦だから大丈夫かもしれないが。

「あれは、日向さんの言う熊とは少し違います」

「そうなのか?」

「お前の弱点は見抜いたっ! ここだっ!」

 どう見ても熊なのだが、ともかく、弱点らしい、ぴりかに顎の下をわしわしと撫でられてごろごろ転がる熊を見る。

「ほぐっ?」

 熊の顎を撫でていたぴりかに狐が激突した。ぴりかは狐を掴んで「そいっ!」と放り投げた。

「……精霊、という表現が一番適当です。

 日本語でいえば、《もの》、自然霊、とでもいうのでしょうか」

「あの、小人もそうなのか?」

 少し、信じられない話だが。……だがまあ、それを言ったら自分たちも、同じく信じられないような存在かもしれない。

 箒は頷く。……「どうした?」

「え?」

「いや、寂しそうにしていたが」

 そう、頷いた彼女はとても、寂しそうな表情を浮かべていた。

「そうですね。……彼らには、もう、ここしか居場所がないのです。

 それが寂しい、と」

「そうか」

 膝の上に小熊を乗せる。ぴりかの肩に梟が止る。その足元には、先の小人が寄ってきている。放り投げられた狐も、今は傍らに寝そべっている。

 穏やかな光景だ。けど、

「ぴりかちゃん、言ってましたよね。

 なんで、奪うんだって」

「…………すまない、心当たりがない」

 記憶にない。この島に来たのは初めてだし、なにかを奪い取った事もない。

 ぴりかには今回初めて会ったのだし、あとは、……「ここに来る途中に深海棲艦を沈めたりしたが、それか?」

「いえ、それじゃないです。

 日向さんがなにかをしたというわけじゃないです。……その、八つ当たりに近いんです。ぴりかちゃんも、内心ではその事を解っているのですけど」

 八つ当たり、か。……とはいえ、それでも、気になる。

 あの、血を吐くような慟哭は、根深い憤怒は、ただの八つ当たりとは思えない。

「ほひょひょひょひょっ」

 寝転がり、熊とか狐に頬をなめられて変な声を出すぴりか。

 無邪気な少女にしか思えない。……けど、

「ずーっと、ずーっと昔。

 もう、ずっとの前の話です。外から来た人は、木々を切り倒し、大地を切り崩し、土地を切り刻んだ。古くから彼女たちと一緒に住んでいた人たちに、豊穣を与え、代わりに、恩恵を忘れさせた。……忘れられ、追放されたあの娘たちは、余所者に居場所を奪われた、と思っているのでしょうね」

「そう、なのか」

 想像もできないような話だ。

「解って欲しいなんて言いませんよ。実感も、わかないでしょう。

 けど、ぴりかちゃんは居場所を、ずっとずっと奪われ続けたんです。だから、ひどい事を言われても大目に見てあげてください」

「あ、ああ」

 実感がわくわけがない。そして、彼女の言う事が本当とも思えない。

 けど、想像が許されるなら。

 もし、彼女の言う事が本当なら。それは、どんなにつらい事だろうか。

 小さな熊を後ろから抱き締めるぴりか。その無邪気な姿と、戦闘時、必死になって戦う姿を思い、一つ。重い溜息をついた。

 





キャラ紹介:箒(?????)

いろいろな人のアイドル、北方棲姫と一緒に暮らす女の子。
ご飯を食べさせて懐かせたり、濡れた服を脱がして体を拭いたり一緒の風呂に入ったりしていますけど、呪わないであげてください。

【ステータス】

筋力:E
頑張って叩く。けど、慣れていないのでへろへろ。一部の人を和ませる事が出来る。

耐久:D
蹲って頭を抱える。しばらくするとおどおどした涙目で見上げてくるため、一部の人に対してAランクの防御性能を持つ。

敏捷:D
一生懸命走る事が出来る。しばらく走ると転ぶけどあんまり泣かない。

魔力:-
そんなものない。

【宝具】

「ぴりかちゃん達との友情が私の宝物ですっ!」:A?
意味が違う。

【権能】

????:EX

??(??):D+++

????:B+

?:A

??:EX
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