深海の都の話   作:林屋まつり

69 / 128
このお話では空母のお姫様達が登場します。
例によって名前をねつ造しました。しばらくは解りにくいかと思いますがお付き合いください。
・空母棲姫 = くれは
・空母棲鬼 = もみじ
・空母水鬼 = あきは


空母棲鬼の話 ― あるいは悪の秘密結社の平穏な日々
一話


 夢を見た。

 

 それは、桁外れの存在。

 

「ははははっ! いいなっ! 楽しいなっ!

 けど、…………あ、まいっ!」

 相方とともに解き放つ艦載機、そのすべてが剣の一振りで粉砕される。

「う、そ」

「我が《御剣》をなめるな深海棲艦っ!

 万物万象っ! 私の邪魔をするすべてを討滅するっ!」

 剣を向けて吠える。そして、飛びだす。

 周囲、足元に展開するのは光の文字。彼女はそれを纏ったまま、船から海面に飛び降りる。着水。

「なんで人が海を走れるのですかっ!」

「人ではない、魔縁だっ!

 沈む前に足を踏み出せば水の上くらい走れるっ!」

「そんなわけあるのですかっ!」

 普通はないと思うわ。

 ともかく砲撃。水の上を突っ走る少女に向かって全力の砲撃。けど、「遅いっ!」

 回避回避、跳躍、右に左に彼女は跳ねまわる。回避しきれない砲撃は、剣で切り飛ばす。

 桁が、違う。

「ははっ! 我が剣よっ!

 薙ぎ、払えっ!」

 一振り、海面が怒涛の破壊を告げ。私と相方は文字通り吹き飛ばされた。

「つっ!」「なんなのですかっ!」

 離れた。視線を交わして右と左へ。全力で離脱する。

 戦って勝てるとは思えない。……のに、

 

「逃げるか、それもよし。

 だが、私はそれを許さないっ! 私が許さないのだっ! だから、私から逃れられる道理はないっ!

 では始めようかっ! 我が親政っ! 我が帝政っ! 建武の名のもとに、」

 

 ひらり、桜が舞う。

 

「我が千本桜よ、狂咲せよっ!」

 

 はらり、桜が舞う。

 

「つっ?」

 足が、重い。移動に対する負荷が、異常にかかる?

 どういう、事? けど、解る事は一つ。

「逃げられ、ない?」

「然りっ! 私が逃げる事を許さないのだっ!

 ならば、逃げることなどできないっ! 私がそれを許さないっ!」

 片手に剣を持つ彼女は、傲慢に、兇悪に、強靭に、鮮烈に、…………強烈な印象を持って告げる。

「私達を滅ぼすのですか?」

 戦っても勝てず、逃げる事さえ出来ないのなら、それしかないでしょう。

 告げた問いに、彼女は笑う。

「否っ、私はそんな事を許さないっ!

 そなたらは面白いからなっ、だから、」

 彼女は私達に笑う。

 

「私はそなたらが欲しい」

 

 そんな、いつかの夢を見た。

 

「おはようございます」

「ええ、おはようござます。もみじ」

 目を開ける。傍らにはかつての相方、くれは、と名を与えられた彼女。

 そして、私はもみじ、と名を私の主君に与えられました。

「今日もいい天気のようですね」

 くれはは一息。

「この分なら、お花見も滞りなく開かれるでしょう。

 楽しみです」

「そうね」

 そう、近々お花見があります。主君の発案ですが、非常に盛大で、楽しい宴になるでしょう。

 最近は私達もその準備が多いです。招待状を書くのもそろそろ飽きてきました。

「では、行きましょうか」

「そうですね」

 

 大阪府、住之江区西加賀屋にある一軒家。

「考えてみれば不思議ね。私達がこんなところを歩くというのも」

 くれはは苦笑。「当然でしょう」

 なにせ、私達は深海棲艦。その姫種と鬼種。人の大敵である私達が人の町で暮らす、深海にいるべき私達が地上を歩く。

 その不自然さ、苦笑するしかありません。

「もう慣れましたけどね。……とはいえ、注目が集まるのは、あまり好ましくありません」

「仕方ないですねえ」

 くれはの言葉に苦笑を返す。仕方ありません。何せ、私達の容貌は日本人とはかけ離れていますから。

 ともかく、駅の近くにある高層ビルへ。二十階程度ビル。今の、私達の働く場所。

 当然、ここにも人がいます。けど、

「おはようございます。くれは様、もみじ様」

「おはようございます」

 挨拶を交わし、エレベーターホールへ。そこでもいくつか挨拶を交わし、最上階へ。

 向かう先は、このビルの主。そして、私達の主君の場所。……「あら、先輩方、おはようございます」

「おはようございます。後輩」「おはようございます。あきは」

 つんけんとした口調になりくれはは苦笑。

 空母水鬼、少し前、主君に彼女の存在を伝えたらその二日後に、ずたぼろになった彼女が引き摺られてきた時は絶句しましたが。

 それも懐かしい思い出、今となっては彼女も可愛くない後輩です。……周りの人に苦笑されました。心外です。

 ともかく、後輩とくれはと一緒に最上階へ。……そういえば、

「後輩、お花見準備は?」

「整っていますよ先輩。

 必要と想定される資材は大体そろいました。……のですけど、どうして深海棲艦になってまで資材の回収に奔走するのか。それも艦娘のために」

 ため息一つ。確か、後輩の仕事は艦娘のための資材確保。深海棲艦になってまでそんな事をやっているのですから。「適材適所です」

「…………なぜですか?」

 いうまでもありません。くれはは苦笑して「私達も仕事が終われば手伝いますよ」

「ありがとうございます。先輩」

 なぜ私を見るのですか後輩?

 ともかく、最上階へ到着。一息。

「「「おはようございます」」」

 そこにいる主君に声をかけた。

 

「さて、それじゃあ今日はなにして遊ぶかなっ!」

 挨拶を交わして、主君の第一声はそれ。まあ、予想どおりです。

 一番奥の大きな机から身を乗り出して瞳を輝かせる少女。我らが主君、尊治。

「主君、遊ぶも何も、今はお花見の準備で非常に忙しいのです。

 少し自重してください」

「ぐぬぬ」

 唸られても困ります。

「あ、でしたら主君。

 資材回収に向かいますが、よろしければご一緒にいかがですか?」

 嬉々として手をあげる後輩を睨みつける。胸を張られました。腹立たしいです。

 が、主君は難しい表情。

「いや、尊成のところに行かねばならない。

 面倒だが仕方ないなっ! くれは、一緒に行くぞ」

「はい、護衛はお任せください」

「うむ、だが尊成と相対する時は後ろにいろ。あやつは私と同じ魔縁だ。

 くれはっ、必要になったら逃げるぞ。その時は私を抱えて走れ、お姫様だっこだなっ!」

「ええ、お任せください。

 主君の身の安全は全力で確保します」

「だが、無理はするな。お前が傷ついたら私は悲しい。

 私は悲しいのが嫌だからな」

「承知。……それで、もみじは《波下の都》でしたね?」

「はい、言仁に参加の確認に行きます」

「土産を頼むぞっ」

「…………解りました」

 あそこは、別に観光地と言うわけではないので、そんなものがあったかどうかは不明です。

 まあ、なにか買ってくればいいでしょう。

 それに、もしかしたらひさめもいるかもしれません。彼女を誘うのも面白いでしょう。

「……私は、資材の回収ですか」

 肩を落とすあきは。

「む、不満か?

 仕方なかろう。若葉や初霜やら加賀やら艦娘も来るのだ。……うむ、すまぬが頼むぞ」

「後輩、必要性については納得したでしょう。

 まだ愚痴るというのですか?」

「…………解ってますよ」

 まったく、主君に我が侭を言うとは、不届きな後輩です。

「で、花見は問題なく行きそうか?」

「そうですね」メモ帳を取り出して一瞥「護良と正成を中心に場所の確保も進んでいます。あとは招待客を募るだけですが、それも尊成と言仁だけです」

「姫や鬼達も参加するみたいだな。よい事だ。盛大な花見になるだろう」

「そうですね。では、存分に盛り上がるためにも、行って参ります」

 

 艦娘たちにみつかると面倒なので、一応隠れて、海へ。

「やはり海の方が居心地はいいですね。

 まあ、陸が嫌というわけではありませんが」

 艤装を展開して真っ直ぐに《波下の都》へと繋がる壇ノ浦へ。途中、…………なんといいましたか。なに級だか、まあ、深海棲艦に襲撃されましたが、その程度、鎧袖一触です。

 なんとも、面白くない話です。最近は加賀と演習を重ねているせいか、この程度の相手では面白味も感じません。

 さて、それはともかく壇ノ浦から異界、《波下の都》へ。

「……っと」

 接続場所に到着。見慣れた白い部屋へ。少しすれば都の長である言仁が来るのでしょうが、特に待つ必要もありません。

 扉を開けて、都へ。…………む。

「妙な賑わいが?」

 普段は静かな都。けど、今は不思議な賑わいと、高揚感。

 妙ですね。お花見の話はしていないのですが。

 となると、別の理由でしょう。ある意味時の止まったような都なので、少し珍しいです。

「あっ、もみじさんっ」

「おや?」

 とことこと道を歩いているのは、睦月です。もっとも、艦娘ではなく深海棲艦ですが。

 彼女の背には翼。顔見知りです。ちょうどいい。

「睦月、都が騒がしいですが、なにかあったのですか?」

「うんっ、えーと、大江山、っていうところと繋がるみたいなの。

 初めての外との交流だから、なんかいろいろ楽しみねっ」

 きらきらと瞳を輝かせて睦月。確かに、ですが。

「睦月、貴女はよく外に出ているのではないですか?」

「う、……そうだけどお。

 けどけどっ、こういうのは始めてだから楽しみなのっ」

 まあ、都の雰囲気はそんな感じですね。

「うふふー、楽しい事があればいいなー」

「きっとあるでしょう。……む、そうなると言仁は忙しいですか?

 お花見に誘いに来たのですが」

 睦月は、花見の事は知っているはずです。顕仁を誘いに来た時にいましたから。

「うーんどうだろ?

 ただ、門が開くのは明日くらいだし、多分大丈夫だと思うよ」

「そうですか。それならよかったです」

 お花見の予定は今週末ですからね。問題はないでしょう。

「言仁くんも誘うの?」

「それが主君の希望です。

 彼の都合次第ですが」

「そうなんだー

 言仁くんも来るといいねー」

「そうですね。

 そういうわけで私は鎮守府に向かいますが、睦月はどうしますか?」

「んー、……どうしようかなー

 久しぶりに遊びに行こうかな」

「では、一緒に行きましょうか」

「うんっ」

 というわけで一緒に歩き出しました。どうせだからお土産も見繕いましょうか。

「それ以外は変わりませんか?」

「ここは変わらないよー

 あ、そうだ。これ」

 差し出されたのは一枚の新聞。

「青葉の新聞ですね。……ほう、大江山の」

「うんっ、睦月達も遊びに行きたいなっ

 おじさま、一緒に行ってくれるかなー?」

「行ってくれるのではないですか? なんだかんだで優しい性格ですから」

「だよねーっ! 楽しみっ!」

 もっとも、当人に言ったら怒るでしょう。

 ともかく新聞に視線を落としました。「………………なんか、…………絢爛、ですね?」

 見出しにある写真。おそらく、門なのでしょう。その前に古鷹や雪風といった深海棲艦、そしておそらくは大江山の者たちなのでしょう。青年達が写っています。

 問題なのはその門、……なんというか、絢爛ですね。

「うん、すっごいよっ!

 えーと、……七宝、だったかな? そういうのでどーんと飾り付けてあるのっ」

「これ、言仁の趣味ですか?」

「ううん、響いわく気がついたらこんなのが出来てて言仁くん頭抱えてたって。

 おじさまも呆れてた。鬼が羽目を外すと無駄な方向に突っ走るなって」

「確かに、そうですね。

 いろいろ無駄遣いでしょう」

 …………私は鬼種ですが、こんな事はしませんよ。

 ともかく、鎮守府に到着。

「こんにちわ、もみじ、睦月」

 この鎮守府で暮らす大鳳です。

「もみじは久しぶりね。どうしたの?」

「言仁はいますか? 私達の主君から、お花見の招待です」

「おじさまも参加するってっ、言仁くんも一緒にお花見に行こうよっ」

「それは、まあ、提督に確認してみるけど、」

 大鳳の視線は警戒。まあ、当然ですね。

 私の所属、そして、私の主君の事を考えれば、

「南朝、あの悪の秘密結社主催の花見、ね」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。