「…………花見ってね。
なに考えてるの? 君たちの主君は」
肩を落として溜息をつく言仁。
「楽しみだよねーっ!
あっ、響も一緒にお花見しようっ!」
「……そうだね。けど、難しいかな。
司令官がいないのなら、この鎮守府の留守番が必要だし」
「あ、……そっかー」
正論ですね。響の言葉に肩を落とす睦月。ともかく、
「一緒にお花を見て楽しもうなんて柄じゃないでしょ?
もみじ、尊治は何をたくらんでるの? 僕、やだよ、面倒くさいの。この都で家族と一緒に静かに暮らしてればそれでいいし」
「そうでしょうね」
なにをたくらんでいるか、まあ、あえて黙る必要もないでしょう。
「《呪詛の御社》の破壊です」
「…………大きく出たね。
《呪詛の御社》の場所わかったんだ」
「いえ、最終目的が、です。
お花見で同調者を募るそうです。ただ、遠くなく実行に移すでしょう」
「あの、提督。
《呪詛の御社》、とは?」
首を傾げる大鳳。響や睦月も知らないようです。
「呪詛、……まあ、人の攻撃意識や敵意、と言った感情です。
それを収集して海に流すための装置です」
「それで、海に流された呪詛をあの《がらくた》が海底の残骸に宿して片っ端から付喪にしちゃったんだよね。その付喪が、……えーと、姫種とか鬼種とか以外の深海棲艦なんだけど。
それが現状。…………ただ、海軍としては深海棲艦撃滅っていう権力を振るう大義名分が守られるうえに、呪詛を吸い取られてるからテロめいた事もない。《呪詛の御社》はすっごく有り難い存在で、もしばれたらとても困る存在だよね」
「ええっ? 深海棲艦って海軍が作ってたのっ?」
隣で叫ばないでください。非常にうるさいです。
「と、僕と時雨の予想。
僕としてはどうでもいい事だから、裏付けとかとってないけどね」
「あ、そうなんだあ」
ほう、と一息つく睦月。確かに、言仁の言う事は説得力ありますね。ただ、
「私達は海軍が所持している、とみています。
それらしい情報も夕張たちが見つけてきましたから、……まあ、目的は不明ですが」
まあ、おそらくは言仁の言うとおりでしょう。腹立たしい事です。
「それを破壊する、と言う事だね。
司令官、どうするの?」
「そうだね。……話は聞いてみようかな。少し興味あるし」
「そうですか。
では、今週末、場所は吉野です。ご家族お友達お誘いの上、お越しください。詳細はこちらに」
招待状を言仁に渡しました。これで任務完了です。
「……あんまり友達も家族も誘いたくないんだけどなあ。尊治のところに行くのに」
さて、無事任務も果たしたので戻る事にしましょう。海上をのんびりと航行します。
お土産は、とりあえず大江山からもらってきたらしいお饅頭です。ごっつい鬼の顔を模しているので主君は爆笑するでしょう。
と、
「深海棲艦? と、艦娘?」
騒がしいと思った方向に視線を向けると、深海棲艦に追いかけまわされる艦娘。……五月雨、だったでしょうか?
よく覚えていませんが、まあ、いいでしょう。
ともかく、…………「妙、ですね」
半泣き状態で追いかけまわされる艦娘。一人、ですか。
仲間が片っ端から轟沈して、生き残った一人が追撃を受けている。…………と言ったところでしょう。
とはいえ、
「こっちに来ても陸は遠いのに、馬鹿な事です。
海に逃げてどうするというのですか」
なぜか、半泣きの五月雨は沖へ沖へ向かっています。そっちに行っても深海棲艦は増えるかもしれませんが、補給をしてくれる人はいないというのに。
溜息を一つ。……まあ、事のついでです。
「鎧袖一触、」艤装の動力に火を入れる「蹴散らします」
そして、突撃。なに級だか知りませんが、とりあえず眼前にいた深海棲艦を轢きつぶし、弾き飛ばす。
吹き飛ばして、五月雨と深海棲艦の間に割り込んで、砲撃。
眼前に迫る深海棲艦を撃ち抜いて、ついでに、
「蹂躙しなさい」
艦載機を解き放つ。それなりの数の艦載機は空を駆け回り爆撃。…………程なく全滅しました。「他愛もない」
「ひ、……お、鬼っ?」
「そうです」
…………その言葉、捉え方によっては失礼ですね。
「た、……助けて、くれた、の?」
「結果としてはそうなりましたね」
そうなりますか。あまり意識していませんでしたが。
「ここにいたらまた深海棲艦に襲われます。
基地なり泊地なり鎮守府なり、さっさと戻る事です」
「そ、それは、…………その、」
「何を突っ立って、………………ああ、捨てられたのですか」
どこにも行こうとしない。行き場をなくした泣きそうな表情。
おそらくは、……と。
「ひっ」
怯えたような声。そして、私に視線を向けました。
耳元には無線機。確か、艦娘の見ている映像を泊地なりに送り、指示を飛ばすやつですね。
彼女は、震えながら連装砲を向けました。……あんな口径の小さい連装砲で、私の装甲を撃ち抜けるとでも思っているのでしょうか?
本気なら馬鹿にするなと思うところですが、さて、
「ご、ごめんなさいっ!」
砲撃、当たり前のようにそれは私の装甲に弾かれて、…………まあ、仕方ありませんね。
私は、艤装をそちらに向けました。
「というわけで、主君。
お土産です」
「…………確かに土産は頼んだが、水死体などいらぬぞ」
さて、水死体、……ではなくて気絶した艦娘はぱちりと「目覚めましたか」
一瞬、不思議そうな表情で辺りを見渡しました。まあ、当然でしょう。
ここは当ビルの仮眠室ですから。元々海にいたのにこんなところにいては驚くのも無理はありません。
ともかく、辺りを見渡して、ふと、私を見て、
「お、鬼ーっ!」
…………否定しません、が。
「叫ばないでください。うるさいです」
「く、……ふふ、お、おに、鬼。ぷっ、ふふっ」
「そこの後輩は黙りなさい」
壁にすがってお腹を抱える失礼な後輩を睨みつけました。いつか蹴飛ばすとして、まずは彼女の事です。
「さて、貴女の名前はなんでしたか?」
「さ、五月雨、です」
不思議そうに、……というか、半ば混乱しながら辺りを見回す彼女。
まあ、当然でしょう。さて、ともかく目覚めた事を連絡しなければ。
「先輩、主君に連絡しておきますね」
「お願いします。くれはにも」
連絡してくれるなら、それでいいでしょう。……まあ、主君と話をするのは楽しいので、それ狙いかもしれませんが。
少し上機嫌に部屋を出るその姿、何か企んでいるのかもしれません。
「あ、あの」
と、そうそう、私はこちらの相手をしなければ。
「なんですか?」
「貴女は、深海棲艦、ですよね?」
「そうです。貴女達には空母棲鬼と言われていたはずです」
なにを当たり前のことを、彼女は知っているはずです。だって、
「いきなり鬼呼ばわりしたのですから、把握しているのではないですか?」
…………もししてないとしたら、彼女は見ず知らずの他人を鬼呼ばわりするのでしょうか。……それも、少し意外です。
「そ、そうです、けど?」
溜息。
「疑問は見当がつきます。
貴女のイメージする深海棲艦は道行く存在すべてを害する害獣のような脅威、ですね」
「………………はい」
「それがそもそもの間違いです。
とりあえず現状、私達に貴女を害する意図はありません。もちろん、貴女が敵意を向けたらその限りはありませんが」
ふるふる、と彼女は首を力なく横に振りました。
もちろん、彼女の実力は見ています。私に勝利するなど不可能でしょう。
「それと、場所ですが、大阪府、西加賀屋にあるビルの仮眠室です」
「…………は?」
きょとん、としました。地上に深海棲艦がいるのは予想外でしょうね。
ただ、それはいいのです、問題は、
「私からも聞きたい事があります。
五月雨で「起きたかっ!」」
扉が、蹴り開けられました。
「ああっ、主君っ! そんな乱暴に突撃してはいけませんっ!」
やたらと楽しそうな表情の主君と、彼女の後ろを追いかけるくれは、苦笑するあきは。
ともかく、来ていただいたのですね。
「ご足労感謝します。主君」
「うむっ!」
やたらと力強く頷いて、主君は五月雨に視線を向けました。
「それで、私の名前は尊治だっ! 名前はっ?」
「あ、……あの、えと」
「私が問うているのだ。さっさと答えよ。私は気が短いからなっ、我慢は嫌いだ」
つと、主君は視線を細めました。微かな不機嫌を混ぜた表情。それ、結構凄いんですよね。
元々主君、視線は鋭い方でしたから。……だから、五月雨は慌てて口を開きました。
「ひっ、あ、あの、さ、五月雨ですっ!」
「そうかっ! 五月雨かっ」
そして、にかっ、と明るい笑顔。
「それで、こっちはくれはともみじとあきはだ。
私の秘書だっ! 深海棲艦が秘書とか最先端だなっ」
…………え? そうなのですか?
「先輩、深海棲艦が秘書って、最先端なのですか?」
こそこそと問いかける後輩。
「いえ、聞いた事がありません。
まあ、主君が言ってみたというだけではないですか? そういうの好きそうですし」
「ですねー」
「そ、そうなのですかっ?」
「む? 違うのか?
言仁とか尊成とか深海棲艦を秘書っぽくしていたぞ。確か」
ああ、そこでしたか。
「初めて聞きましたよ。それ」
苦笑するくれは、同感です。……が、まあ、それよりも、
「主君、先に確認したい事があります。
その後は、好きにしてください。彼女はお土産ですから、主君に所有権があります」
「へえっ?」
ぎょっとする五月雨。けど、文句は言わせません。それに、彼女に選択肢もないでしょう。
なぜなら、
「どうせ捨てられた艦娘なのでしょう。
粗大ごみのようなものなのですから、再利用してくれる人が所有権を有した方がいいでしょう」
「うわー、先輩言い方酷い」「もみじ」
咎めるような口調二つ。けど、無根拠ではありませんよ。
「貴女の司令官の声が聞こえました。
やっと沈んだか、と、思ったよりもったなとか言っていましたよ」
「ほう、……なにか事情がありそうだな。
話せ」
「…………はい」
それは、ただの八つ当たりでした。
提督は、榛名さんに惚れていて、自分の物にしようとして、けど、拒絶されました。
だから、弾丸もなにも持たないまま、私に出撃を命じました。
がんばって逃げ回れよ、見ててやるから。と、そう言われて、……そうです。八つ当たりと気晴らしに、捨てられました。
無線機で私の見ている光景は提督も見ていたはずです。深海棲艦に追いかけまわされる光景を、きっと、私とは対極の感情で、見ていたはずです。
とつとつと語る。
「特に、最近はよくある話ですね。
義興も言っていました。妙な代将が最近たくさんいる、少将の質が低下している。と」
「ふん、深海棲艦を増やすのが連中の目的だ。
《呪詛の御社》だけでは足りないか、あるいは供給源は多ければ多い方がいいという考えだろうな。まあ、想定通りだ」
「……そう、なのですか?」
にたり、彼女は笑いました。……深海棲艦である私でも寒気がするような、怖気のする、笑み。
けど、……
「もみじ、いい土産だな。感謝するぞ。
くれは、あきは、いぶきを呼んでおけ、否、付き合いそうな奴は皆だ。……いい機会だ。遊ぶぞ」
「「「了解しました。主君」」」
さあ、楽しい事になりそうです。
//.榛名
茫然と、その結果を聞きました。
「どう、……して、ですか」
「ふん、お前が知る必要はないだろう。
ま、楽しかったな。深海棲艦の砲撃を必死で逃げて回るのは臨場感あったなあ」
けらけらと、提督は笑いました。
「驚いたぞ。まさか一時間ももったからな。
これは思った以上にいい遊びだ。今度仲間誘うかな」
「また、続けるの、ですか?」
続ける、そう、燃料だけ与えて、ほとんど弾薬も持たせない、一人きりの出撃。
深海棲艦のただなかに放り込んで、どれだけ生き残れるか。逃げ回るその光景を見て楽しむ。
そんな、最低の遊びです。
「当たり前だろっ! こんな面白い事止められるかよっ!
それに賭けにもなるしな。誰の艦娘が一番長く生き残れるか、金かけるのも面白いな」
「そんな事、止めてくださいっ!」
「うるせぇぇっ! てめぇが俺の言う事を気かねぇのが悪いんだろうがっ!
出ていけっ! 貴様の顔なんて見たくもねぇえっ! 失せろっ!」
「ていと、がっ」
止める言葉は、お腹を蹴られる事で止まって、艤装を装備していない榛名は、ただの女性でしかないから。
「けほっ、げほっ!」
「床汚すんじゃねぇよ馬鹿がっ!」
崩れ落ちる榛名は、さらに蹴飛ばされて転がって、そのまま蹴り出されました。
廊下に転がって、扉を閉められて、
「う、……ひっ、う、…………くっ」
転がって、蹲って榛名は、
「ひぅ、……どう、どうして、」
瞼に描くのは五月雨。駆逐艦の女の子。
今回、遊びに使われた艦娘。榛名の事を慕ってくれた、死んでしまった、少女。
「は、榛名が、榛名の、せいで、……榛名の、せいで」
榛名が、あの時、提督のいう事を聞いていれば、彼女はこんな事にならなくて済んだのに、
「榛名」
声、……「涼風」
「大丈夫かい?」
「え、……ええ」
差し出される手をとりました。蹴られたお腹と、脇腹、肩が痛いです。けど、それよりも、
解っているのですね。
涼風の悲嘆に比べれば、軽いです。
「行こうか。ここにいても仕方ねぇだろ」
「はい」
「そうかい、やっぱ五月雨は」
椅子に座って、とつとつと語る榛名に、辛そうに涼風は応じました。
五月雨と、一番仲が良かったのは彼女です。彼女にも、辛い思いをさせてしまいました。
「ごめん、……なさい、涼風。
五月雨と仲良かったのに、……榛名のせいで、」
「ばかやろうっ、榛名のせいじゃねぇよ。
あたしたちの提督が悪いんだっ、だから、泣くんじゃねぇよ」
ぐしぐしと、乱暴に撫でられました。涼風も、辛いはずなのに、
けど、
「また、……同じ事をやるかもしれない、です」
「……本気かよ」
「はい、それも、仲間も呼んで、って言っていました。
すぐにではない、と思いますけど」
それでも、また、提督の遊びで、誰かが。
「くそっ! どうすりゃあいいんだっ!」
榛名も、解らないです。
提督の命令は絶対で、艦娘には、逆らう事が出来なくて、……だから。
「はる「馬鹿な事考えんじゃねぇ」」
声、潰される。
「ったくっ! 本物の馬鹿かてめぇはよっ!
どうせ自分を提督に好きにさせるとかそんな事考えてねぇだろうなっ!」
「他に、榛名にできる事なんてないですっ!
榛名のせいで五月雨は死んだんですっ! それに、また、そんな事になるなんて、……そんなの、榛名、耐えられないです」
榛名のせいで誰かが死ぬなら、提督に壊された方が、ましです。
ぱんっ、と音。
「そんな事あたいがゆるさねぇえっ!」
「涼風」
頬を叩かれる事より、涙目で怒鳴られる方が、ずっと、ずっと榛名の心に響きました。涼風は榛名の肩に手を載せて、
「あたい、辛いんだよ。
五月雨、友達なのに、いなくなっちまって、……それだけでも、死にたいくらい辛いんだよ。
それなのに、榛名まで壊されちまうんかよ。やめてくれよ、あたい、これ以上、辛い思いしたくないんだよ」
「涼風」
「榛名が辛いの、あたいも解るよ。
けど、……けどお」
ぼろぼろと、すがるように榛名に抱きついている涼風。
「ごめん、ごめんなさい。涼風」
辛いのは、彼女も一緒ですね。……だから、
「榛名も、なにか、考えます。
だから、」
けど、…………どうすれば、いいの?
//.榛名