深海の都の話   作:林屋まつり

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九話

 

//.あきは

 

 目指す先は昨夜襲撃した泊地。目的は資材の奪取。……深海棲艦になってまでこんな資材確保のお使いをするなんて、残念です。

 まあ、とはいえ必要な事です。いろいろと楽しい思いをしているので、ちゃんと働かなければなりません。

 というわけで泊地を目指しますが。……はあ、面倒です。ため息一つ。本当に面倒です。その原因。

 泊地への進路に立ちふさがる、艦娘一人。

 

「深海棲艦、空母の水鬼ですか」

「艦娘」

「はい、正規空母、赤城です」

「そう、それで、こんなところで何をしているのですか?」

 面倒ですね。……目的地は目の前なのに、……赤城、…………確か、加賀が探していましたっけ?

「私達艦娘の成すべき事は、深海棲艦の撃沈です」

「撃滅、滅ぼす、ではないのですか?」

 問いに、応じる言葉はありません。……か。

「所属は?」

「深海棲艦でも気にするのですね」

「ごみを捨てられても海が汚れるでしょう? それは私たちに都合がよくありません。

 親切にも送り届けてあげますよ」

「…………いいでしょう。……第一航空戦隊、赤城。交戦、開始しますっ!」

 艤装から艦載機を吐きだす、同時に、赤城は弓に矢を番える。

「「発艦っ!」」

 艦載機をばら撒く、けど、放たれた矢から解き放たれた赤城の艦載機がそのすべてを撃破。……少し、驚きました。

「意外ですね」

 砲撃、けど、赤城は横に跳んで回避。もちろん、「轢殺しますよ」

「簡単に行くと、思わない事ですっ!」

 艤装を繰っての突撃。対して赤城は後ろに跳びながら、発艦。

「早いですね」

 艦載機を砲撃で撃ち落としながら旋回。同時に艦載機を解き放つ。けど、赤城は円を描くようにさらに疾走。

「ふっ」

 旋回しながら弓に矢を番えて発艦。艤装に火を入れて突撃。私がいた場所を艦載機の落とした爆弾が叩きつけられて、旋回。「砲撃しますっ!」

 砲撃、赤城は腰を落として回避、そんな無理な姿勢から発艦。

「砲撃直後、確かに、いい的です。ですねっ!」

 まっすぐに、前へ。低空飛行する艦載機を轢き、弾き飛ばす。

「乱暴ですね」「敵機ならば当然でしょう」

 そのまま赤城に突撃。……回避されましたか。けど、「逃がしません」

 突撃、同時に砲撃。横に逃げた赤城を狙いました。

「遅いですっ」

 ざんっ、とさらに水面を蹴って横へ、砲撃回避。

「早いですね。少し驚きました」

「この程度なら、どうとでもなります」

 そして、矢を二本、手に取り。発艦。

「曲芸射ちですか」

「必要な技能です」

 左右に分かれて飛ぶ艦載機。面倒ですね。

 艦載機を吐きだす。怒涛の勢いで赤城に迫る艦載機の群れ、……左右の艦載機は、まあ、仕方ありません。

「変わらず、ですね。ワンパターンですっ」

 赤城は後ろに跳躍しながら再度、二本の矢を手に取りました。発艦。

 怒涛の勢いで迫る艦載機の群れを迎撃する艦載機。……もちろん、

「曲芸射ちと高速の左右移動による翻弄。

 見飽きています」

 だから、前に砲撃。私の放った艦載機も、全部まとめて吹き飛ばされて赤城に迫る。

「なっ?」

「慢心、艦載機飛ばした程度で前方警戒怠った現実を噛みしめて、沈みなさいっ!」

 というか、痛いです。艤装に火を入れて艦載機の爆撃範囲から離脱。視界の先、砲撃の直撃を受けた赤城は苦痛に眉根を寄せ、けど、

「この程度で、落とせるとでもっ!」

 ああ、指輪持ちですね。

 艦載機からの爆撃は思った以上の威力でした。そして、轟沈を狙った砲撃の直撃を受けても、赤城はまだ無事なようです。

 つまり、規格外。

「演習ばかり、……嘆く必要はありませんね」

「深海棲艦の演習ですか、ぞっとしますね」

「言っていなさい艦娘。

 冥土の土産には面白い情報でしょう」

「冗談を、さっさと元の居場所。深海に帰りなさい。

 ここに、陽の光が当たる場所に、怨霊の居場所はありませんっ!」

「不要っ! 居場所など自ら得ればいいっ!

 《がらくた》の意図さえ理解できない道具には、設置場所を用意してもらうのが精一杯でしょうけどねっ!」

「艦娘を侮辱しますかっ、怨霊っ!」

「偉そうなことを言わないでくださいっ、亡霊っ!」

 罵り合いはそのまま加速して艦載機の航空戦へ。もっとも、

「穿てっ!」「撃ち抜きますっ!」

 私の艤装に装備された主砲と、赤城の副砲が同時に火を噴き、お互いの砲弾を落とす。

 空母に搭載される程度の副砲で相殺されるのは、正直面白くないです。

 まあ、指輪持ちならあり得るでしょう。

 水飛沫を巻き上げながら直進と停止を繰り返して副砲を回避。同時に砲撃。けど、赤城は右に、左に小刻みな移動を繰り返して砲撃回避。

 砲撃を繰り返しながらさらに艦載機を吐きだす。けど、赤城は上に視線を向けるだけ、彼女の放った艦載機は私の放つ艦載機を撃破しています。……航空戦では劣りますか。業腹です。

「まあ、……仕方、ありませんねっ!」

 副砲を上に、赤城は眉根を寄せますが、まあ、いいでしょう。

「掃除します」

 二門の副砲からばらまかれる銃弾はお互いの艦載機を文字通り掃除。赤城は眉根を寄せて、

「自らの艦載機まで破壊しますか?」

「…………ああ、艦娘の艦載機は、……《がらくた》の、………………ええと、妖精さん、でしたっけ? そんなのが操縦していたんですね。

 生憎と、私達の艦載機は艤装の一部。文字通りの道具です。壊れたら補給すればいいだけの事です」

 愛着はありません。

「くっ」

 掃除ついでにさらに吐き出した艦載機が空を舞う。赤城は慌てて弓に矢を番えました。けど、

「遅いです」

 反射的に上に向かって艦載機を放とうとした赤城を、主砲で砲撃。……ようやく中破ですか。思った以上に固いです。

 けど、その砲撃により艦載機の発艦は失敗。制空権はほぼ掌握しました。大破、轟沈までもう少し。

 さて、副砲の機銃を構えて、

 

 砲撃。

 

「なっ?」

 艤装を砲弾が叩きました。戦艦、ですか?

 否。

「赤城さんっ!」

 中破し眉根を寄せる赤城の前に立ちはだかったのは、駆逐艦の少女。

「吹雪さん?」

「撤退をお願いします。私が支援します」

 言いながら、さらに砲撃。…………凄いですね。ただの連装砲で、傍らにいる赤城以上の出力です。

 周囲に着弾する時の感触は駆逐艦の連装砲どころか、戦艦の主砲に迫る。直撃すれば私でも轟沈の可能性は十分です。

 故に回避。赤城は溜息。

「すいません」

「あの泊地は破棄します」

「ええ、そうしかないわね」

 赤城は一度私を睨みつけて、悔しそうに撤退。さて、

「逃がしません。と言っても意味はなさそうですね」

 吹雪は何も言わず後退しながら砲撃。私は発艦済みの艦載機に吹雪の牽制を指示しながら回避に徹します。

「………………………………ああ、思い出しました。都市伝説の類と思っていたのですけどね」

 心当たりが一つ。撤退し、遠く離れながら、なおも強靭な敵意を放つ彼女。

 別格と言われる指輪持ちの艦娘達。その最上位、佐世保、舞鶴、呉、横須賀、各鎮守府の旗艦。

 その中でも、吹雪といえば、

「横須賀鎮守府、旗艦」

 現存する唯一の最初期から存在する艦娘、そして、現在最強の艦娘。でしたっけ。 

 

//.あきは

 

 かたん、ことん、と。近鉄特急で吉野駅へ。

「さて、では、吉野に到着したらお花見準備です。

 皆さん。お花見には多くの賓客が参加します。くれぐれも気をつけるように、主君の顔に泥を塗るような真似は許しません」

「賓客、ですか?」

「かつて帝位にあった方の、ですよね。

 少し、緊張しますね」

 鳳翔がおっとりと告げて、名取はこくこくと頷きました。

「私の知る限り、皆、艦娘や深海棲艦には好意的に接していますから問題はないでしょうが、もちろん限度があります。

 皆が皆と言うわけではありませんが、中には私たちでさえ鎧袖一触、蹴散らせる存在がいるという事を認識しておきなさい」

「はい」

 緊張、ですね。溜息。

「媚びろとは言いません。

 が、礼儀には気をつけなさい」

 特に、顕仁とかその辺うるさそうですし。

「好意的なの? そういえば、尊治さんも結構優しかったみたいだったけど」

 村雨の問いに五月雨もこくこくと頷きました。

「さあ、理由は、私にもわかりません。

 が、好意的でしょう。何せ深海棲艦、……轟沈した艦娘を片っ端から保護して、そのために都まで作ったのもいますし」

「都っ?」

 珍しいのでしょうね。……村雨、…………確か、

「村雨、その都には確か時雨もいます」

「ほんとっ?」

 きらきらですね。……まあ、水を差すのはやめておきましょう。

 そう、その都にいるという事は、艦娘として死亡した、という事なのですが。

「食堂で話しましたね。

 榛名、貴女の姉である金剛もいます。お花見の後主君が遊びに行くような事を言っていました。興味があるなら付いていけるようお願いをするのもいいでしょう」

「私行きたいっ」

「村雨、声、大きいです」

 俯いて、小さくなる名取。「ごめんね」と、村雨も小さくなりました。

「あ、あの、私も、興味あります」

「行ってみたいなっ」

 名取と涼風もですか、……声には出していませんが、五月雨もですね。

「まあ、それは主君が決める事です。

 あるいは、その都の長もお花見に参加します。彼に直接 お願いするのもいいかもしれません」

「都の長ですか。……あの、ど、どんな人ですか?

 こ、怖くないですか?」

「…………彼の逆鱗に触れたら、名取。間違いなく瞬く間に殺されるでしょう」

「ひいっ?」

 怖がらせてしまいましたね。狙いましたし、事実ですけど。

「まあ、会った時に紹介します。

 百聞は一見にしかず、都に興味があるならその時は同席しなさい」

「は、はいっ、……私っ、失礼な事をしないように頑張りますっ!」

「名取、あまり緊張していては逆効果です」

 榛名は苦笑。まあ、それもそうですね。

 ただ、どちらにせよ私の印象だけを語るより、会った方がいいでしょう。…………まあ、彼なら小さいとか驚かれても怒る事はしないでしょう。

「とまあ、そのようなお客様がたくさん訪れます。

 中には艦娘や深海棲艦もいるでしょう。今更貴女達に言うまでもありませんが、深海棲艦がいても不要な交戦は行わないように、自衛なら構いませんが、宴席で戦闘を起こしたらそれこそ主催者である主君の顔に泥を塗ります。私の手で抹殺される事も覚悟しなさい」

「はい」

 謹直に頷く榛名。他の皆も頷きました。

 ふと、思い浮かべたのは知り合いで、

「ただ、女好きが高じて抱きついてくる変態もいます。

 そうなったら容赦なく殴りなさい。皆が許します」

「あ、あの、……男の人、ですか?」

 五月雨は困ったように問いました。他の皆も嫌そうです。

 …………あまり意識した事はないのですが、女性は女性にセクハラされるのと男性にセクハラされるの、どっちの方が嫌なのでしょうか? …………考えない事にしましょう。

「女性です。多分一度見たはずです。

 戦艦棲姫ですから」

「……………………し、深海棲艦って、……その、こ、個性的? ですね」

「一緒にしないでください。私は至って普通です」

 誠に遺憾です。……なぜみんなで視線をそらすのですか?

 それと、もう一つ。時計に視線を落とすとそろそろ到着ですね。早めに伝えておきましょう。

「深海棲艦とは轟沈した艦娘、というのは話しましたね?」

 問いに皆が頷きました。

「その際に艦娘は作りかえられますが、その度合いもいろいろです。

 貴女達の言う鬼種や姫種といった深海棲艦というのは、体も内面、……心も艦娘だったころを完全になくすほどに作りかえられています。

 現実、私には艦娘だったころの記憶はありません。仮にそのころの僚艦と会ったとしても解らないでしょう」

 まあ、会いたいとも思いません。…………私は気にしないというのに、気まずそうな表情をしないでください。話が進みにくくなります。

「ただ、完全に作り変わったのではない、深海棲艦もいます。

 艤装が作り変わったもの、体の一部が作り変わったもの、などです。そうした深海棲艦は艦娘のころの記憶もありますし、見た目も、艦娘と近いです。

 それでも体の一部が変質しています。貴女達にしてみれば非常に違和感があると思いますが、あまり過度に触れないようにしなさい。

 その気持ち、想像はできるはずです」

「あの、……えっと、ちっちゃくなっちゃった大和さんみたいに、ですよね」

 五月雨の問い、そういえば、会っていましたね。頷き、

「私の知る中では、電がいます。

 下半身、腰から下が蛇のようになっています。彼女自身は割り切っているようですが、それでも、……自分がそんな体を得て、それについて追及されたらどう思うか、察する事は出来るでしょう」

「そんなひどい事しないよ」

「当たり前だっ、言われるまでもねぇよっ」

 村雨と涼風の言葉に皆が頷きました。なら、いいでしょう。

 と、言うわけで、吉野駅に到着。恐る恐る切符を改札に通す艦娘たちに微笑ましいものを感じて、そこにいる彼女に、

「合流します。ちび大和」

「初っ端から失礼ですね貴女はっ!」

 言いたくなるのですよ。大和。

 




 と言うわけで、ようやく吹雪の登場です。
 あきはの言うとおり、かなりの強者設定での登場になりました。アニメのように仲間と一緒に頑張って成長していくという話は一切期待しないでください。
 …………まあ、そもそもそんな話はどこにもありませんが。
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