「と、まあ、……触れら、れたく、ない、事、に、触れると、こうなり、ます」
呼吸が苦しいです。大和は小さくなったため、ストレートはみぞおちに綺麗に突き刺さりました。
「体を張って実例を見せてくれなくても、榛名達は大丈夫です」
やや前かがみで妙に怒ってる大和の後ろについていきます。
「いいでは、ありません、か、小さくても」
「よくないです。まったく、正成といい貴女達といい、小さい小さいって、本当に失礼です」
「それで、ええと、大和、さん」
「あ、はい、なんですか?」
「大和さんは、深海棲艦、ですよね?」
「はい、そうです。
榛名さんたちの知っている深海棲艦とは、少し違うかもしれませんが」
「そうですね。えと、それで今は、主様のところにいるのですか?」
「主様?」
「主君の事でしょう」
なぜそう呼ぶようになったのか、……まあ、解らなくもありませんが。
「尊治さんの事ですか?
……まあ、そう言えなくもない、ですけど、私は正成のところにいる事が多いです。正成が尊治さんの部下なのでお手伝いをしています」
「朝食の時にいましたね。若葉と同じような立場です。
彼女も義興の指揮する艦隊の艦娘です」
「正成、さん、ですか?」
「はい、……ええと、あ、」
大和の動きが止まりました。その先には、
のこぎりで木を切っていた正成。それと、
「正成、そろそろ休憩したら?
大和がお手伝いさんを連れてくるみたいだし、あまり気を張ってやる必要もないでしょ?」
「……そーすっかな」
すとん、と正成は地面に腰を落として、声をかけた彼女、矢矧もその隣に座りました。……なんか、近いですね。正成もその事が気になったのか首を傾げ、気にしない事にしたのか視線を戻しました。
「準備は、終わりそう?」
「ま、何とか終わるだろ。わりぃな。引っ張りだしちまって」
「いいのよ。正成の手伝いができるのは嬉しいわ」
「そか? ま、いい気分転換にはなるか」
「ふふ、そうね。
あ、正成。お茶よ。お団子も用意したわ」
「お、ありがとな」
矢矧の差し出したお茶を一口。傍らにいる矢矧は柔らかく微笑んでそんな彼を見つめています。
「ん? どうした?」
「美味しい?」
「ああ、美味いな」
「やったっ、正成にそう言ってくれると嬉しいわ。
頑張って淹れた甲斐があったわね」
「なんだ、自分でいれたのか?
茶くらいその辺で買ってくればいいだろ」
「もう、そういうわけにはいかないのよ」
「そんなものか? …………ま、手間かけさせたな」
…………うわあ。
「………………もみじ、なにか、ありますか?」
「はい」
謎の威圧感を発する大和に私は艦載機を一つ手渡しました。深海棲艦の艤装はこういう時に便利です。……って、怖いですよ大和? 榛名達がどん引きしています。
「こ、の、馬鹿正成ーーーーーーーっ!」
「なんだーっ?」
小柄な体から投げられたとは思えない高速の投擲は、まったりしている正成の顔面に突き刺さりました。
艦載機は投げるものではありません。
「何しやがる馬鹿小娘っ!」
「何しやがるじゃありませんっ!
正成こそっ! なにでれでれしてるんですかっ!」
「茶あ飲んでただけだろうがっ! なにがでれでれだっ!」
「うるさいですっ! 馬鹿正成っ!
さっさと仕事してください仕事っ!」
「休憩くらいさせろっ!」
始まってしまいましたか。こうなると長いので艦載機を一つ手元に、投げました。正成に直撃しました。
「……あの、もみじ。艦載機って投げるものじゃないと思います」
「物は使いようです」
「…………空母って」
なぜか肩を落として暗い雰囲気の鳳翔。名取が宥めていますが、まあ、いいでしょう。
「い、いてえ。……俺が一体何をした? ……って、もみじと、…………なんか、大所帯だな」
「お、男の人っ?」
村雨が驚いて、……名取は一歩後退。涼風は不信の視線。
「…………なんで俺、警戒されてるんだ?」
「きっと、男性が珍しいのよ。
艦娘は女性ばかりだし」
「そんなものか? で、小娘。そいつらか? 手伝ってくれるってのは」
「はい、そうです。えと、紹介は?」
「いや、必要になったら聞くからいい。
で、俺は正成。……えーと、主君は知ってるよな?」
「もちろん、主君の許可を得て派遣しましたから」
「そか? じゃあ、主君の部下だ。やる事とか、把握しているな?」
問いに、榛名達は視線を交わし、榛名は頷いて「お花見の準備と聞いています」
「おう、それであってる。
って、花見には参加するのか?」
「はい、もちろんです」
榛名は、私が口を開く前に応じました。正成は眉根を寄せて、
「参ったな。晴れ着の用意してねぇぞ。
……仕方ね。矢矧、明日でいいから、そいつら仕立て屋のところに連れてって晴れ着見繕ってくれ。それと、今日は会場の案内してやれ、準備はその後でいいだろ。
もみじは手伝えよ」
「わかったわ」
「あの、晴れ着ですか?」
「宴席だからな。その格好ってわけにはいかんだろ。
急な事だから既製品しかないだろうが、それでいいよな?」
「はい、……けど、よろしいのでしょうか?」
「何がだよ?」
「いえ、晴れ着をいただいて、ですが」
「花見に参加すんだろ? いや、持ってるならそれでいいけど。
その服装が変とはいわねぇけど、ハレの舞台だ。それ相応の格好じゃないとな」
「…………いえ、持ってないです。
ありがとう、ございます」
「ん、それじゃ、矢矧。案内頼んだぞ。
そのまま宿に戻っていい。ってか、宿まで案内してやれ、部屋割りとかは、……まあ、そっちで適当にしてやれ」
「ええ、わかったわ。正成」
「相変わらずですね。大和」
「どういう意味ですか?」
大体そのままです。
「ったく、お前ら俺に何か恨みでもあるのか?
艦載機投げるな、ぶつけるな。それ投擲するやつじゃないだろ?」
「何を言っているのですか? 艦載機は飛ばす物でしょう」
大和も隣でこくこくと頷いています。
「方法が変だろどう考えても、……で、客は一通り招待したのか?」
「招待状はばらまきました。
今頃加賀が守屋のところに向かっているでしょう」
「守屋と豊浦を誘うとか、主君、正気なのか?」
「ええと、仲悪いのですか? お二人」
大和の問い。実は、私もよく解らないのです。
守屋とは何度か会った事がありますが、豊浦、とは会った事がありません。……たまには聞いた話では、相当な曲者のようですが。
「最悪だな。……はあ、頭いて、………………まあいいや、食いものは護良が用意してるだろうから、…………あとは会場設営か。
ってか、女ばっかり寄越すなよ。何やらせればいいんだよ?」
「大工仕事とかいかがですか?」
会場設営には必要でしょう。
「馬鹿な事言うんじゃねー」
「正成、言っておきますけど」
不意に、大和は立ち上がりました。ぴっ、と指を立ててお説教顔で、
「榛名達に変な事をしちゃダメですよ。
絶対です。いいですね?」
「するかあっ!」
「わかりませんよ。男はすぐにケダモノになります。
油断をしたらいつ襲われるか解りません」
「て、め、え、もっ、余計な事を吹き込むんじゃねぇよっ!」
「だ、だめですっ!
正成っ! そんな、や、や、や、やらし、い、……こと、考えては、だ、だめ、……です」
「……お前の緩急って、たまに不思議だよな」
しゅーっと、何を想像したのか顔を真っ赤にして黙りこむ大和。正成は物珍しそうな表情でそんな彼女を見ています。
「あ、……そうだ、小娘。
食い物あるか?」
「っと、そうですね。
結構来たみたいですし、…………えーと、……ちょっと、不安です。食べる人は食べますから」
「………………なんですか?」
なぜ私を見るのですか?
「いや、……ま、来て早々食うものなしってのもなんだしな。
小娘、寝床戻って食い物確認して来てくれ、なかったら、…………いいや、俺も行くか」
「もうっ、確認くらい一人でできます」
むぅ、とむくれる大和。正成は溜息をついて彼女を乱暴に撫でて、
「足りなくなったら買ってこなくちゃならねぇだろ?
お前みたいな小娘に持たせられるか、落とされても困るんだよ」
「そんなどじな事しません」
…………なんか、嬉しそうですよ、大和。
「やっぱ今日は終わっか。
もみじ、どうする? お前も来るか?」
「はい」
即答したら大和に睨まれました。心外です。
「えーと、……ま、正成」
「ん?」
「もみじ、来たばかりだし、休んでもらった方がいいんじゃないですか?」
「……そか、それもそうだな」
「いえ、だい「じゃあ行きましょうっ!」」
引っ張らないでください。