深海の都の話   作:林屋まつり

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十話

 

「と、まあ、……触れら、れたく、ない、事、に、触れると、こうなり、ます」

 呼吸が苦しいです。大和は小さくなったため、ストレートはみぞおちに綺麗に突き刺さりました。

「体を張って実例を見せてくれなくても、榛名達は大丈夫です」

 やや前かがみで妙に怒ってる大和の後ろについていきます。

「いいでは、ありません、か、小さくても」

「よくないです。まったく、正成といい貴女達といい、小さい小さいって、本当に失礼です」

「それで、ええと、大和、さん」

「あ、はい、なんですか?」

「大和さんは、深海棲艦、ですよね?」

「はい、そうです。

 榛名さんたちの知っている深海棲艦とは、少し違うかもしれませんが」

「そうですね。えと、それで今は、主様のところにいるのですか?」

「主様?」

「主君の事でしょう」

 なぜそう呼ぶようになったのか、……まあ、解らなくもありませんが。

「尊治さんの事ですか?

 ……まあ、そう言えなくもない、ですけど、私は正成のところにいる事が多いです。正成が尊治さんの部下なのでお手伝いをしています」

「朝食の時にいましたね。若葉と同じような立場です。

 彼女も義興の指揮する艦隊の艦娘です」

「正成、さん、ですか?」

「はい、……ええと、あ、」

 大和の動きが止まりました。その先には、

 のこぎりで木を切っていた正成。それと、

「正成、そろそろ休憩したら?

 大和がお手伝いさんを連れてくるみたいだし、あまり気を張ってやる必要もないでしょ?」

「……そーすっかな」

 すとん、と正成は地面に腰を落として、声をかけた彼女、矢矧もその隣に座りました。……なんか、近いですね。正成もその事が気になったのか首を傾げ、気にしない事にしたのか視線を戻しました。

「準備は、終わりそう?」

「ま、何とか終わるだろ。わりぃな。引っ張りだしちまって」

「いいのよ。正成の手伝いができるのは嬉しいわ」

「そか? ま、いい気分転換にはなるか」

「ふふ、そうね。

 あ、正成。お茶よ。お団子も用意したわ」

「お、ありがとな」

 矢矧の差し出したお茶を一口。傍らにいる矢矧は柔らかく微笑んでそんな彼を見つめています。

「ん? どうした?」

「美味しい?」

「ああ、美味いな」

「やったっ、正成にそう言ってくれると嬉しいわ。

 頑張って淹れた甲斐があったわね」

「なんだ、自分でいれたのか?

 茶くらいその辺で買ってくればいいだろ」

「もう、そういうわけにはいかないのよ」

「そんなものか? …………ま、手間かけさせたな」

 …………うわあ。

「………………もみじ、なにか、ありますか?」

「はい」

 謎の威圧感を発する大和に私は艦載機を一つ手渡しました。深海棲艦の艤装はこういう時に便利です。……って、怖いですよ大和? 榛名達がどん引きしています。

「こ、の、馬鹿正成ーーーーーーーっ!」

「なんだーっ?」

 小柄な体から投げられたとは思えない高速の投擲は、まったりしている正成の顔面に突き刺さりました。

 艦載機は投げるものではありません。

「何しやがる馬鹿小娘っ!」

「何しやがるじゃありませんっ!

 正成こそっ! なにでれでれしてるんですかっ!」

「茶あ飲んでただけだろうがっ! なにがでれでれだっ!」

「うるさいですっ! 馬鹿正成っ!

 さっさと仕事してください仕事っ!」

「休憩くらいさせろっ!」

 始まってしまいましたか。こうなると長いので艦載機を一つ手元に、投げました。正成に直撃しました。

「……あの、もみじ。艦載機って投げるものじゃないと思います」

「物は使いようです」

「…………空母って」

 なぜか肩を落として暗い雰囲気の鳳翔。名取が宥めていますが、まあ、いいでしょう。

「い、いてえ。……俺が一体何をした? ……って、もみじと、…………なんか、大所帯だな」

「お、男の人っ?」

 村雨が驚いて、……名取は一歩後退。涼風は不信の視線。

「…………なんで俺、警戒されてるんだ?」

「きっと、男性が珍しいのよ。

 艦娘は女性ばかりだし」

「そんなものか? で、小娘。そいつらか? 手伝ってくれるってのは」

「はい、そうです。えと、紹介は?」

「いや、必要になったら聞くからいい。

 で、俺は正成。……えーと、主君は知ってるよな?」

「もちろん、主君の許可を得て派遣しましたから」

「そか? じゃあ、主君の部下だ。やる事とか、把握しているな?」

 問いに、榛名達は視線を交わし、榛名は頷いて「お花見の準備と聞いています」

「おう、それであってる。

 って、花見には参加するのか?」

「はい、もちろんです」

 榛名は、私が口を開く前に応じました。正成は眉根を寄せて、

「参ったな。晴れ着の用意してねぇぞ。

 ……仕方ね。矢矧、明日でいいから、そいつら仕立て屋のところに連れてって晴れ着見繕ってくれ。それと、今日は会場の案内してやれ、準備はその後でいいだろ。

 もみじは手伝えよ」

「わかったわ」

「あの、晴れ着ですか?」

「宴席だからな。その格好ってわけにはいかんだろ。

 急な事だから既製品しかないだろうが、それでいいよな?」

「はい、……けど、よろしいのでしょうか?」

「何がだよ?」

「いえ、晴れ着をいただいて、ですが」

「花見に参加すんだろ? いや、持ってるならそれでいいけど。

 その服装が変とはいわねぇけど、ハレの舞台だ。それ相応の格好じゃないとな」

「…………いえ、持ってないです。

 ありがとう、ございます」

「ん、それじゃ、矢矧。案内頼んだぞ。

 そのまま宿に戻っていい。ってか、宿まで案内してやれ、部屋割りとかは、……まあ、そっちで適当にしてやれ」

「ええ、わかったわ。正成」

 

「相変わらずですね。大和」

「どういう意味ですか?」

 大体そのままです。

「ったく、お前ら俺に何か恨みでもあるのか?

 艦載機投げるな、ぶつけるな。それ投擲するやつじゃないだろ?」

「何を言っているのですか? 艦載機は飛ばす物でしょう」

 大和も隣でこくこくと頷いています。

「方法が変だろどう考えても、……で、客は一通り招待したのか?」

「招待状はばらまきました。

 今頃加賀が守屋のところに向かっているでしょう」

「守屋と豊浦を誘うとか、主君、正気なのか?」

「ええと、仲悪いのですか? お二人」

 大和の問い。実は、私もよく解らないのです。

 守屋とは何度か会った事がありますが、豊浦、とは会った事がありません。……たまには聞いた話では、相当な曲者のようですが。

「最悪だな。……はあ、頭いて、………………まあいいや、食いものは護良が用意してるだろうから、…………あとは会場設営か。

 ってか、女ばっかり寄越すなよ。何やらせればいいんだよ?」

「大工仕事とかいかがですか?」

 会場設営には必要でしょう。

「馬鹿な事言うんじゃねー」

「正成、言っておきますけど」

 不意に、大和は立ち上がりました。ぴっ、と指を立ててお説教顔で、

「榛名達に変な事をしちゃダメですよ。

 絶対です。いいですね?」

「するかあっ!」

「わかりませんよ。男はすぐにケダモノになります。

 油断をしたらいつ襲われるか解りません」

「て、め、え、もっ、余計な事を吹き込むんじゃねぇよっ!」

「だ、だめですっ!

 正成っ! そんな、や、や、や、やらし、い、……こと、考えては、だ、だめ、……です」

「……お前の緩急って、たまに不思議だよな」

 しゅーっと、何を想像したのか顔を真っ赤にして黙りこむ大和。正成は物珍しそうな表情でそんな彼女を見ています。

「あ、……そうだ、小娘。

 食い物あるか?」

「っと、そうですね。

 結構来たみたいですし、…………えーと、……ちょっと、不安です。食べる人は食べますから」

「………………なんですか?」

 なぜ私を見るのですか?

「いや、……ま、来て早々食うものなしってのもなんだしな。

 小娘、寝床戻って食い物確認して来てくれ、なかったら、…………いいや、俺も行くか」

「もうっ、確認くらい一人でできます」

 むぅ、とむくれる大和。正成は溜息をついて彼女を乱暴に撫でて、

「足りなくなったら買ってこなくちゃならねぇだろ?

 お前みたいな小娘に持たせられるか、落とされても困るんだよ」

「そんなどじな事しません」

 …………なんか、嬉しそうですよ、大和。

「やっぱ今日は終わっか。

 もみじ、どうする? お前も来るか?」

「はい」

 即答したら大和に睨まれました。心外です。

「えーと、……ま、正成」

「ん?」

「もみじ、来たばかりだし、休んでもらった方がいいんじゃないですか?」

「……そか、それもそうだな」

「いえ、だい「じゃあ行きましょうっ!」」

 引っ張らないでください。

 

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