「ログハウスですか?」
「はい、こういうのもいいですよねっ」
大きなログハウスがありました。大和は嬉しそうです。……それにしても、部屋はあるのでしょうか?
「というか、気にしないのですか?」
「へ?」
というわけで、気になっていた事を聞いてみました。相手は祥鳳です。
ちなみに、大和と正成は食材の買い出しに行ってしまいました。必死についていこうとしたのですが、正成の見ていない水面下の争いで大和に負けました。……不覚。
まあ、それはさておき、
「気にしないとは、何をですか?」
「祥鳳と矢矧もここに泊まっているのですよね?」
「はい、そうです」
「大和と正成もですよね?」
「もちろんです」
「…………お風呂とか、共通ですよね?」
「ふぁっ?」
「気にしなかったのですか?」
「え? ……そ、それは、少しくらいは、…………け、けど、…………」
あーそーですか。そーですか。
まあ、くねくねしている祥鳳は放置しても問題ありません。そして、祥鳳はそれでもいいでしょう。
もちろん、私は避けたいですよ?
ともかく、やたら広いだけあってそれなりに部屋はあります。……ええと、二人一部屋くらいでしょうか?
確か、榛名達は六人。……まあ、足りますね。一応は、ですが。
榛名達も矢矧に連れられてきて、最後に、
「何ぶすくれているのですか、大和?」
「ぶすくれてませんっ」
玄関で、買い物袋を周囲に置いた大和がぽつねんと突っ立っていました。
「あの、大和さん。これはどういう状況ですか?」
名取も困っています。大和は溜息。
「正成が買ってきたの全部ここに放り投げてどこかに行っちゃったんです」
「え? それは、ええと、乱暴、です」
「女性ばかりですからね。ここは、それなりに付き合いのある大和とかならいいでしょうけど、榛名とか気にしそうです」
困ったように非難する名取にはフォローしておきましょう。ともかく、食材は片づけましょうか。
「食事は誰が作りますか? 結構人数いますけど」
「ええと、今日は私と祥鳳で作りましょうか。
榛名達にも相談して、交代なら有り難いですけど」
「誰が料理できるかわかりませんしね」
「……もみじさんは出来ますか?」
「できません」
//.五月雨
「へー、こういう部屋もいいですねっ」
ログハウス、不思議な木の家。
「そうだなあ」
私と涼風は確保された部屋へ。ベッドが二つ。壁はそのまま丸太。……こんな部屋、初めてです。
けど、
「どうしたんですか? 涼風」
あまり、元気なさそうです。
「いや、……なんてーか、信じられねぇっていうか」
「そうですねえ」
あの、泊地にいて、気がつけば山の中にいます。
ほんと、何があるかわからないです。けど、
「平和で、いいと思います」
「そうだな」
こんな事を考えるなんて、艦娘としては失格でしょうけど、……けど、私はこういう平和な時間も好きです。
…………もう、死ぬような目に遭わないのなら、それが一番いいです。
「もう、五月雨がいなくなっちまう事も、ないんだよな」
ベッドに座って、俯いて拳を握る涼風。……そうですよね。
涼風とは友達です。私も、涼風がいなくなってしまうなんて、そんな事になったら、辛いです。
けど、私は涼風を抱き寄せて、
「大丈夫です。私はもういなくなったりしません。
主君はそんな無理な事をさせませんよ」
大切、って言ってくれたのです。だから、大丈夫です。
「主君かあ。……尊治、だよな。あのちっちゃい娘。
なんか、あたし、よく解らねぇ」
「不思議な人ですよね」
というか、いろいろと信じられないです。もみじさん達いわく、とんでもなく強いらしいです。
「ま、なんでもいいさ。
あたしらを保護してもらった事にゃ変わりないんだし、世話になった礼くらいはしないとな」
「そうですね」
「それに、なんかこういうの、祭りの始まりみたいでわくわくするなっ」
「好きですねー」
「てやんでっ、祭りは華だぜっ」
びしっ、とポーズの涼風。……けど、よかった。
「ん? どうした?」
「う、……ううん、涼風が笑ってくれてよかったって」
「あ、……あー、…………まあ、そ「えいっ」」
俯いた涼風、彼女の頬っぺたに手を伸ばしました。だって、
「もう、暗い表情は終わりですっ」
「ひ、ひはいっ、ひゃめれーっ!」
むにむにしていると、涼風はじたばた暴れました。うん、やっぱり、笑顔が一番ですっ!
//.五月雨
「…………何いきなり乳繰り合ってるんですか?」
「ふひゃっ?」「いでぇえっ?」
ベッドで抱き合っている五月雨と涼風。まあ、私は他者の趣味には実害がない範囲で寛容なのでいいですけどね。
「確かに、女性同士でえろい事をするというのも需要があります。いぶきはそういうの大好きです。
が、時と場所と音の響き具合を考えましょう」
「ち、ちち、違いますっ! 私、そんな事しませんっ!」
「なわけあるかばっかやろうっ!」
「ちっ」
「なんで舌打ちですかっ?」
「それならそれで面白いかな、と。
まあいいです。来てください。今後の事を話します」
「はい」「おう」
二人を連れてリビングへ。さて、皆さんそろっていますね。
「とりあえず、今週末のお花見までここでお花見の準備をします。
その間はここで寝泊まりします。他にも似たようなログハウスから小屋や、屋根と壁と床などがあります。好きなところに移動してください」
「……あの、屋根と壁と床、というのは?」
鳳翔が手をあげました。私は頷いて「正成が酒呑んでる場所です」
「あのだめ大人、何やってるんですか」
ぐったりと肩を落とす大和。けど、私は知っています。
「そのだめ大人につまみの差し入れをしていた若妻良妻幼妻Hotelが何か言いましたね」
「ふかっ? な、なな、な、何を言い出すんですかっ! この馬鹿空母っ! 空母馬鹿っ!」
「……なんですかそれ?」
「空母馬鹿」「馬鹿空母」
祥鳳と鳳翔が肩を落としました。大和が矢矧に睨まれながら錯乱してフォローしていますが、まあ、いいでしょう。
「とまあ、みんなで仲良く暮らしていきましょう」
「榛名、先行き不安です」
「た、楽しそう、……です、ね」
名取、無理をしなくていいですよ。
「実際の会場準備、仕事の方は正成の指示に従う事になりますが、あの様子では恐らくここには近寄らないでしょう。
……矢矧、夜戦カッコカリを仕掛けてはいけませんよ」
「…………な、何を言い出すの? そんな事しないわ」
「矢矧、坊ノ岬で最期まで一緒にいてくれた貴女の事、私は信じています」
目がまったく笑っていない大和の笑顔。村雨が慄いています。
ちなみに、
「主君から聞いた情報ですが、正成は女性として騙られている逸話があります。
夜戦カッコカリに突貫したら、相手が女性だった可能性もあります」
「「「……………………」」」
三名本気で硬直。
「そういえば、主様も女性になってしまったとか言っていましたね。
榛名、男性だったころの主様も見てみたいです」
こほん。
「まあそういうわけで、正成はカウントしません。
皆でしばらくこの家で暮らします。とりあえず、大和に全体のリーダーをしてもらいましょう」
「って、なぜ私ですかっ?」
「居住能力高そうじゃないですか」
「そうね。なんて言っても、………………そうね、居住能力高そうだしね」
「矢矧、後で二人でお話をしましょう」
「じゃあ、大和がリーダー?」
「旗艦ですか?」
「いいのではないですか? もとより連合艦隊旗艦ですから」
祥鳳の言葉に大和は肩を落として「何の関係もないと思います」
はあ、とため息。
「ええと、じゃあまず部屋は、案内された部屋でいいですね?」
構いません。皆も同意しました。
「では、洗濯掃除と、あとは食事の当番だけは決めておきましょう。
ええと、食事が作れる人は?」
手をあげたのは大和、鳳翔、祥鳳、榛名です。
「じゃあ、あと、村雨、お手伝いをお願いします。
後の皆で掃除とかをお願いします」
「私は、働きたくありません」
「一応、ここは尊治さんの所有する物件なので、綺麗にお願いしますね」
無視されました。残念です。……と、そうだ。
「大和、くれはと後輩も遠からずこちらに来るようです。
これから順次集まって行くでしょう」
「そっちまで私が何とかするんですか?」
「ホテルでしょ?」
「ホテルじゃありませんっ!」
「幼女でしょ?」
「幼女って言わなくでくださいっ!」
「大和って地雷多いわね」
「しんみりしないでくださいっ!」
全方位に抗議をする大和、程なく崩れ落ちました。
//.榛名
「さて、ご飯ですね。
榛名、頑張りますっ」
もちろん、食事を作った経験はありません。けど、作り方とかは解ります。
元々、大人数の宿泊を想定していたのか、キッチンは広くて、
「なんか、不思議です」
鳳翔は、とんとん、と軽快に包丁を使いながら微笑。
「そうですね。こんな機会、ありませんでした」
「艦娘の本分とは離れますけどね」
榛名と鳳翔の声が聞こえたのか、困ったような声で祥鳳。けど、楽しそうです。
「そうですね」
「深海棲艦と、…………そういえば、大和」
「あ、はい、なんですか?」
おみそ汁の味見をしていた大和。彼女も深海棲艦なら。
「あの、深海棲艦が集まる都がある、って聞いたのですが?」
「あ、言仁さんの都ですね。
はい、ありますよ」
「私も、噂には聞いています。是非一度行ってみたいです」
「祥鳳さんは行った事はないのですか?」
「残念ながら」
鳳翔の問いに困ったように祥鳳。大和は苦笑して、
「あんまり、……都の主は艦娘が都に来る事は歓迎しませんけど」
「そうなのですか?」
「轟沈し、……死した艦娘が集まるところですから。生者である艦娘がいるのは場違い、と言っています。
尊治さんとか、正成とかはその辺気にしていないみたいですけど」
確かに、そうかもしれませんね。榛名達はまだ、生きているのですから。
「けど、行けば迎え入れてくれます。
私も、都で暮らす家とかもらえましたから」
「家っ?」「え? 家がもらえるのですか?」
は、榛名驚愕です。……泊地では、押し込められるように皆で一室でした。
「はい、都にいる深海棲艦は皆家を持っています。
仲のいい娘と一緒に暮らしている娘もいますけど」
「あら、それは羨ましいわね。……ねえ、大和さん。
その都の事、もう少し聞かせていただけますか?」
「ええと、おゆはんの時でいいですか?」
妙に食いつく鳳翔、大和は、少し困った表情で軽く手をあげて制しました。
「そうですね。そういうところで静かに暮らすのもいいかな、と思ったのです」
夕食が終わり、お風呂で、ぽつり、鳳翔が応じました。
「私達は轟沈した事になっているでしょう。
戦いは終わりました。だから、あとは静かに暮らしたいです」
困ったような言葉。けど、
「そう、ですよね」
その気持ち、榛名も解ります。
無謀な運用と無茶な出撃。その繰り返し、……身も心も、疲弊していきます。
それなら、いっそのこと、と思うのは当然です。
けど、
「榛名は、ここに残ると思います」
「尊治さんですね」
鳳翔は微笑。……そうですね。あの夜、主様と一緒にいたところを見られました。
「はい、主様はたくさん、いろいろな思い出をくれると、……たくさん、綺麗なものを見せてくれるとおっしゃっていました。
ただの眉唾、かもしれません。ただ言っただけかもしれません。けど、」
胸に手を当てる。とくん、とくん、と鼓動。
「期待したく、なるのです。
この人についていけば、きっと、素敵なものをたくさん見せてくれる。って」
「そうですか」
柔らかく微笑みながら鳳翔。なんとなく、語ってしまった事、榛名、少し恥ずかしいです。
「ふふ、では、私も榛名さんを信じて期待してみましょう。
まずは、お花見ですね。実は楽しみです。案内された時に見た桜、とても素敵でした」
「そうですね。きっと、楽しい事になるでしょう」
入浴が終わり、ほう、と一息。火照った体を冷ますために、外へ。……そこには、先客がいました。
「こんな夜中に外をふらふら歩いていると、酔っぱらった正成に会いますよ」
「……具体的ですね」
「一番あり得そうでしたから」
「そうですか」
「あの、……もみじさん」
「なんですか?」
「なぜ、主様に仕えているのですか?」
問いに、もみじさんは一息。
「主君と戦い、敗北しました。
そして、代わりにこの場所を与えられました。海で彷徨うしかなかった私達に、確固たる居場所を、……それがよかったかは解りません。
海で彷徨うのも楽しくはありましたから、……ただ、思うのですよ」
不意に、もみじさんは空を見上げて、
「ここにいると、きっと、楽しい事になるだろうな、と。
榛名、貴女もそうでしょう?」
問われて、榛名も頷きました。そう、
「はい、そうです。
榛名も思いました。主様のおそばにいれば、きっと楽しい事になるって」
「そう、……」
もみじさんは空を見上げたまま、微笑。
「楽しい事になりますよ。これから、この先は、ですね」
//.榛名
もっとも、榛名。
私は傍らにいる榛名に聞こえないように、ばれないように、慎重に呟きました。
「貴女たち艦娘がどうなるか、そして、どうするかは解りません。
その結論をお花見で出せる事を期待しますよ」