深海の都の話   作:林屋まつり

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三話

 

 食事終了。まだ一時間も経っていませんでしたが、あまり長居するわけにもいきません。

「では、午後からは訓練風景を見に行きましょう。

 それで、一通りは見て回れたと思いますので、あとは自分の足で見て回ってください。提督が言った通り、明日から生活に不備がないようにしてください」

「はい」

 

 由良さんを見送って本日の秘書業務。曙さんは一日お休みで、提督はお客様と会っているはずです。おそらくはお花見に関してでしょうが。

 とはいえ、あまりやる事もありませんね。

「お花見、……ですか」

 目下最大の懸念は、今週末のお花見ですね。

 妙な事になりました。と、溜息。

 以前に、秋月代将が殴り込みをしてきた時です。言仁、と名乗る少年の告げた言葉。そして、悪の秘密結社。

 冗談ならよかったのですけどね。……とはいえ、それもなく、今日のお客様もそれ関連らしいです。思っている以上に手を伸ばしているみたいですね。

 もちろん、私達軍人がそんな怪しい組織と関わるべきではないのですが。

「妙高姉さん」

「那智?」

「客人が来ているようだな」

「ええ、亀山中将と、その秘書、利根さんと筑摩さんです。

 北畠少将もいらっしゃるそうなので、彼女の秘書もいらっしゃるでしょう」

「そうか、随分と、豪勢なメンバーだな」

 同感です、と頷きました。

「花見か、参加はするのか?」

「いえ、曙さんだけの予定です。

 もしかしたら、扶桑さんと山城さんも行くかもしれません」

「正直、最初に聞いた時は眉唾だったのだがな」

 那智は溜息。正直、同感です。けど、

「この写真は否定できませんね」

「そうだな」

 那智と覗きこむのは扶桑さんが撮影した一枚の写真。

 そこには深海棲艦の鬼と姫、水鬼と、水鬼に曳航される小舟。

 そして、そんな深海棲艦と同道する艦娘。……これは、戦艦の榛名です。

 ちなみに、この近くにあった泊地は壊滅。記録では、艦娘も全員轟沈した事になっています。

 ……なって、いるのですけどね。

「海軍への疑問か。

 確かに、あったな。……なぜか正体不明のまま研究らしい研究が何一つ進まない深海棲艦、乱造される無能な提督、運営方針に何一つ口を出さない大本営。……正直、真面目にやっているのかといいたくなる」

「本来なら、ちゃんと研究をして発生の原因を突き止めて、精鋭の提督を中心に緊密な連携を持って原因を早期に叩くのが鉄則。……なのですが。大本営はそのすべてを無視しています。

 ここまで来ると、」

 言葉を止め、那智に視線を向けます。那智はゆるゆると首を横に振りました。

 そう、正直非常にきな臭いのです。……とはいえ、私達の生活や工廠などの整備を含め、すべて大本営から貸与されています。

 下手な事をすればその整備などをすべて取り上げられます。当たり前ですが、艦娘としての活動も出来なくなります。

 …………もっとも、そうなった場合、提督は自分が処分を受けて艦娘たちは全員信頼する提督に預けると言っていましたが、…………つくづく、不思議な提督です。

「その辺りの確証が花見とやらで解るらしい。

 新田中将の言葉だ。ある程度は信頼できる」

「そうですね。……那智」

「ん?」

「もし、…………最悪の場合は、どうしますか?」

 問い、つまり、深海棲艦の発生に海軍が関わっているとしたら?

 決して、口に出せない問い。けど、その意味は那智も解っています。

 だから、彼女は一息。強いて、素っ気なく、

「私達は、国を脅かす存在を粉砕する為の兵器だ。

 我らが提督が狙いを定め、引き金を引いたのならば、その先にある存在を撃ち砕くのが私達だ」

「そうですね」

 提督は、……軍人は、国を護る事がその使命ならば。

 艦娘は、私達は、それを実現する為の兵器として国を脅かすすべてを粉砕する。

 例え、敵が深海棲艦だろうが、艦娘だろうが、……あるいは、人だろうが、関係ありません。

 そのためにも、

「花見の席で結論が出ればいいが、……どちらにせよ。私達のあり方と提督の考えに齟齬はない。

 提督の方針に従って行こう」

「もちろんです」

 

 お昼休みも終わり、由良さんの部屋で彼女と合流して外へ。

「訓練ですが、羽黒が専属の教官となっています。

 あとは艦種ごとに補助をする娘もいますが、基本的には彼女の指示に従ってください」

「はい、……あの、羽黒さんは、…………あまり、出撃の成績はよくないと聞いていますが?」

「そうですね」

 なんというか、……ひどい言い方ですが、臆病な娘ですから。

「なので、あまり出撃はせずに提督は彼女にいろいろな事をやらせてみました。

 秘書の専属や、書類の整理担当など、……それで、一番成績が良かったのが今の役割です」

「戦果だけで判断するのではないのですね」

「適材適所です。

 提督、スケジュール管理を専属でやってくれる艦娘がいると出撃などの管理がしやすいとおっしゃっていたので、もしかしたらそちらを任されるかもしれません」

 もちろん、艦娘の本分は出撃ですけどね。

「はい、希望は、聞いてくれますか?」

「もちろんです。

 希望に沿えば、モチベーションが高くなる。その方が高い成果を得られる。と提督は考えるでしょう。

 とはいえ、最優先は基地の維持と、基地全体の戦果です。希望がかなえられる事を過度に期待するのはいけません」

「……はい」

 仕方なさそうな苦笑。……とはいえ、安心しました。

 最初の怯え方を見ていた時は不安でしたが。本来の彼女は思っていたよりしっかり者のようです。

 希望通りでなければ嫌だ、と。果たすべき役目を固辞するのでしたら、……残念ながら餌となり轟沈するでしょう。

 その結末を私は否定するつもりはありません。私達は艦娘、なのですから。

 ともかく、訓練用の港へ。と、

「山城さん、扶桑さん」

「また会いましたね」「こんにちわ」

「どうしましたか?」

「山城の僚艦として子日と白露が明日出撃すると伺いました。

 だから、どんなものかなって見ておこうと思ってきました」

「曙から、出来るだけ被弾させないようにと指示されているの。それに、提督からそのために戦果の下方修正まで許容されているわ。

 幸運な事、……それなら、ちゃんと期待は果たさないといけないわ」

 山城さんは溜息。

「不幸な事に僚艦は足柄なのよ。

 彼女、実力はあるのだけど、助言とか、……結構根性論ぶちあげるし、そんな助言を真に受けても不幸な目に遭うだけよ」

「…………妹が御面倒をおかけします」

 足柄は、非常に優秀で個人としての戦果は私や那智よりも高いのですが、…………ちょっと、その辺残念です。

 確かに、初めての娘には少し辛いかもしれません。山城さんと扶桑さんがフォローしてくれるのでしたら心強いです。

「それより、……と、いたいた」

 あっちですね。

「由良さん、あちらです」

「はいっ」

 そして、私達はクリップボードに視線を落とす羽黒のところへ。

「羽黒」

「あ、妙高姉さん。由良さん、それと、山城さん、扶桑さんも」

「こんにちわ、羽黒」「こんにちわ、僚艦の見学に来たわ」

「山城さん、明日出撃ですね。

 あの、ごめんなさい。扶桑さん、山城さん、二人、訓練が終わったら、少しお話をしてあげてください。その、……もしかしたら、不安もあるかもしれませんから」

「了解しました」「もちろんよ」

 二人の肯定に羽黒は、ほう、と一息。そして、視線を向けました。私達もそれは同様。

 視線の先には向かい合う二人の艦娘。白露さんと、子日さん。

 羽黒は口元の無線機へ。

「では、はじめてください」

 言葉とともに、二人が動き出しました。

 白露さんは訓練用の単装砲を構えて砲撃。子日さんはすぐに横に移動して回避。移動しながら砲撃。

 けど、白露さんもすでに移動済み、二人は弧を描きながら近づき、離れながら砲撃を繰り返しています。ふむ、と。

「白露、動作に癖ありますね。

 無理矢理前に出ようとしている感じがします」

「子日は砲撃を急ぎ気味ね。

 速射もいいけど、今は正確に当てる事を優先しないと、じゃないと後々不幸な目に遭うわ。当たらぬ弾も数撃ちゃ当たるが通用するなんて、あまりないもの」

「子日ですね。……私も同感です。焦りすぎという感じがします。

 抑えるのが重要ですね。山城、全体の指示は足柄に任せて、貴女は子日について助言をしてあげてね」

「……そうね。…………はあ、これも先輩の宿命ね。不幸だわ。

 何も考えずに砲撃戦だったら楽なのに」

「それが許されるのは新人だけよ」

「解ってるわ。姉さま。

 それより白露は、……ん、少し、被弾を気にしすぎているわ。回避開始の挙動が早い、もう少し見極めてからの方が安全ね」

「運用に耐えられませんか? えと、ごめんなさい。お二人を提案していたの、私なんです。

 白露さんには回避の訓練と、子日さんには射撃の訓練を明日する予定だったのですけど、深海棲艦の発生状況の変化があったので、急ぎ、提督に提案したんです」

 困ったような羽黒の問い、ちなみに、私の評価では少し危なさそう。もう少し訓練を重ねたいです。

 とはいえ、

「私の見立ても、本来なら後、二日。

 けど、この近くうろうろしてた空母の鬼と姫、最近、出なくなりました。今のうちに実戦経験積ませるのは賛成です」

「姉さまに同意よ。

 ただ、戦果の下方修正に甘える事になりそうね。少し悔しいけど、その分彼女たちの成長に回せるのなら、仕方ないわ」

 ほう、と羽黒は一息。

 そして、

「え? ……あの、あのお二人でも、危ない、ですか?」

 ぽつり、由良さんです。

「由良さん、あの、由良さんは、どう思いますか?」

「え、……あの、私の所属していた泊地だと、第一艦隊でも、大丈夫、と思います」

「それはその基地それぞれですね。

 この基地はそれなりに規模も大きいし、艦娘の層も厚い、必然、レベルの差は出てきます」

 ともかく、訓練終了。少し呼吸を荒くした二人が戻ってきました。

「あー、つっかれたー」

「子日頑張ったっ、……って、あれ? 増えた?」

「明日二人と出撃する予定の山城よ」

「姉の扶桑です。

 よろしくお願いします」

「よろしくーっ」「よろしくっ!」

「あ、ごめんなさい。

 二人は、訓練はこれで終わりにして、休憩と艤装の手入れに入ってください。あの、ごめんなさい。山城さん、扶桑さん、二人に出撃の事、お話してあげてください」

「先輩さんっ、よろしくっ!」「よろしくねっ」

「元気ね。…………羨ましいわ。

 まあ、いいわ。不安な事があったら早めに言ってね。出来るだけフォローするけど、それでも現場で質問に答えられる余裕は、あまりないわ」

 そして、四人は工廠へ。「羽黒? 訓練は終わりですか?」

「あ、いえ、ごめんなさい。あと、他の重巡洋艦の艦娘達のダメージコントロールの訓練をしています。

 えと、由良さんは、軽巡洋艦、ですよね?

 駆逐艦の娘と合同で回避の訓練をしています。よかったら、見に来ますか?」

「はいっ、お願いします」

 

「なんていうか、……凄かった、です」

 羽黒に手を振って別れを告げ。零れた言葉。

「皆さん、必死、でしたね」

 どこか、熱に浮かされたように呟かれる言葉。

 必死だった、と。

 けど、

「当然です。私達は艦娘、護国を実現する為の兵器なのですから。

 提督が言いましたね? 戦果をあげられない軍人に価値はないと、……それは私達も同じです。戦果を出せない兵器はただの欠陥品です。

 けど、そんなレッテルは嫌ですよね?」

 問いに、由良さんは頷きました。

 欠陥品扱い、……その末路が倉庫の肥やしであれ、餌や楯としての轟沈であれ、そう言われる事を己に許す艦娘なんて、いるわけがありません。

「だから、必死になります。

 やるべき事をやるため、艦娘として確かに戦える事を証明する為に」

 わかりますね?

「提督は私達を兵器として運用します。

 そして、私達は艦船、兵器としてその期待に応えるために訓練を行い、遠征をし、出撃します。……それだけです。

 それ以上の事、人格ある一人の女性として、由良さんがその事に誇りを持てるか、艦娘として欠陥ではなく、確かに護国のために戦えるという実感を得られるか、……私は、それを得られることを期待しています」

「妙高さんも、ですか?」

 問いに、…………ええ、これくらいはいいですよね。

 もちろん、僚艦の皆さんの助けがあってです。皆、優秀な娘達です。

 けど、少しくらいは誇りましょう。

「この基地の主力の一人を務めています。

 その任を与えられている事、第一級の戦闘艦としての誇りです」

 

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