模擬弾を使用した訓練を続けます。途中でイクが飽きたのか寝ましたが、まあ、いいでしょう。先生も気にしていませんし。
と、耳元の無線から声。
『少佐っ、深海棲艦の存在を確認しました。
場所は常陸利根川。260号付近ですっ』
その言葉に、訓練をしていた皆が顔をあげました。溜息。
「銚子にある基地から、艦娘は?」
『迎撃の気配はありませんっ』
「…………まったく、海軍はどうしてこうも詰めが甘いのか、なにか、抜けているのか」
呆れました。気配なしとはどういう事ですか?
『数が多いですっ!
駆逐艦級、五、軽巡洋艦級、八、重巡洋艦級が三っ!』
「…………それで、艦娘出撃の気配なし、と。……頭痛がします。
大将、海軍への出撃要請は?」
「横須賀鎮守府に問合せ中。……だが、繋がらない。
よくあることだが、困ったものだ」
「イクの出番なのねっ!」
がばっ、と復活したイク。……心強いです。
「深海棲艦進撃経路は?」
『常陸利根川をまっすぐに遡っていますっ!』
それなら、待ち伏せして射程圏内で掃射がいいでしょう。
「待ち伏せの場所は、「東関東自動車道がいいだろう」」
大将殿は地図を見せて「二人でそこまで誘き寄せ、東関東自動車道で射程圏内に入ったら掃射だ」
「いくつか経路が逸れそうな場所がありますね」
特に、外浪逆浦から鰐川に向かわれたら面倒です。
が、大将殿は首を横に振って、
「そのすべてに対応できる人員がいない。
戦力の分散をさせては撃ち漏らしにつながる。私から、再度海軍に連絡をして鹿島や銚子の基地に動くように働きかける」
「…………お願いします」
さて、そのためにも囮である私達は重要ですね。気合入れて行きましょう。
「大尉、部隊の指揮権を預けます。
私とイクは常陸利根川を下り深海棲艦を確認します。早急に準備を終え、指定の場所で待機してください」
「了解しました。ご武運を、少佐殿」
「はあ、……ままならないものですね」
「こういうの、たまにあるの?」
イクの問いに頷きました。
「まあ、海とつながっていますからね。
基本的には海軍の、基地やら泊地やらの艦娘が対応しますが、……それもいろいろですから」
出撃中で艦娘がいないとか、鎮守府との連絡が滞って遅れたとか、…………流石に、艦娘が疲れていたから迎撃しなかったと聞いた時には、思わずマイクを握り締めてその場にいた元帥をがたがたさせてしまいましたが。
もちろん、たまにですよ? そのたびに私達陸軍はえっちらおっちら巨大な砲を運び出して陸路から砲撃して一生懸命足止めして、それで、……まあ、艦娘が到着するまで頑張って耐えています。
それなのに陸軍の扱いは酷くて、……以前その憤りで元帥に心配をかけてしまいましたが、………………それはいいでしょう。
「海軍も杜撰なのー」
「艦娘慰安旅行に行ってたって聞いた時には、殴り込みしようと思いました」
「…………なんでそんな提督がいるの? ばかなの? 自分の立場への自覚ないの?」
「提督の選考基準なんて知りません。
面接かなんかで決めてるんじゃないですか?」
なにかあるのでしょうか? そういうの、……正直、誰でもよかったとか言われても信じてしまいそうな質の悪い提督もいますし。
「今回もそのたぐいではない事を祈ります」
『少佐殿、出発準備終了。四十分程度で指定の位置に到着。五分で迎撃準備を完了させます』
「了解しました」
到着から五分で準備、展開完了。……少し遅い気もしますが、慣れない武装ではこんなものでしょうか。
『少佐殿、こちら監視班。
現在の速度維持で、東関東自動車道まで、一時間程度になります。なお、監視中に速度の変更はありませんでした』
「思ったより遅いですね。了解しました」
「交戦するの?」
「しません、数が多すぎます」
「なーんだ」
「このまま進みます。
発見し次第、砲撃、牽制をしながら誘導、引きつけます」
「りょうかーい、なのっ」
数が多いですからね。気をつけなければなりません。
さて、私はマイクを口元に寄せて、
「霧島です。
私とイクとの接敵場所は、外浪逆浦の入り口が予想されます」
『了解しました。
それと、五月中将に援軍の要請を行いました。湖岸に補助として展開をしていただけるそうなので、緊急時は避難をお願いします』
「よく出来ました。
鰐川への侵入経路も塞ぐようにお願いします」
『了解しました』
無茶を承知の指示にもそう言ってくれるのだから、有り難いですね。
さて、巧くいくとよいのですが。
「おー、……流石にそろってるの」
「あまり楽しい光景ではありませんが」
流石に、十以上の深海棲艦は見ていて色々うんざりします。まあ、砲兵隊はすでに配置につきました。さっさと予定通りに進めて終わらせましょう。
さて、真っ向から戦うのは愚策ですね。適当に引き付けて行きましょう。
「霧島です。外浪逆浦、深海棲艦を目視確認。
これより、交戦開始します」
『ご武運を、少佐』
「来たのーっ!」
「そうですね。では、イク、潜水お願いします」
「了解なのっ! さあっ、どんどん狙っていくのっ!」
潜水するイク。……さて、そうなると私一人ですか。……まあ、いいでしょう。
「では、参りましょうか」
敵艦隊を見据えて、……さて、
「もう少し、…………………………距離よし、全砲門、斉射っ!」
声、とともに砲撃。
気付きましたか、私は視線を向けながら後退。そして、砲撃の音。
「ふっ」
右へ、回避。水飛沫が上がる。けど、そちらには視線を向けず砲撃。
当たらなければ、意味はありませんね。
砲撃を繰り返しながら右へ、左へ、やはり、海、……ではないですが、水上を駆け回った方が気分はいいですね。上々です。
砲撃の音。魚のように見えなくもない深海棲艦が顔を出して砲撃。その射線、弾丸の速度を見て右へ。回避。顔を弾丸が通り抜ける際の風が叩くのを感じて、
砲撃。こちらの砲撃は深海棲艦に直撃。相変わらず、回避という概念が薄いですね。楽で有り難いですが。
後退しながら回避と砲撃を繰り返します。場所は、砲撃が着弾するぎりぎり、付かず離れずを維持して、と。
回避、その回避先に向けられる砲。軽巡洋艦級の深海棲艦が砲を向けて、爆発。
「感謝します」
イクですね。援護、有り難いです。
高速戦艦。その利点を活かし、回避運動は高速で、後退は速度を抑えて、敵を引っ張ります。そう、
「信頼していますよ? 戦友諸君」
『応じます。少佐殿』
笑みを浮かべての言葉に謹直な返事。十全、完璧です。
「さあ、……はぐれ艦娘。存分に戦果をあげましょうっ!」
後ろを向いたまま、後ろに跳躍。砲撃が集中しそのすべてを回避。同時に、「さあ、どう出るかしら?」
右手に信号拳銃。単装砲ではありませんよ?
銃撃、同時に目を保護。
光、照明弾が直撃。重巡洋艦、人の形をした深海棲艦の顔に直撃。強烈な光が叩きこまれ動きが止まりました。
深海棲艦、人の形をとる存在ほど人に近い。索敵をある程度視覚に依存していればそうなるでしょう。データ通りです。
なら、逃がす必要はありませんね。
「撃てーっ!」
一斉砲撃、目をくらませて闇雲に砲撃をする重巡洋艦、……の傍らにいる軽巡洋艦を撃ち抜きました。
外していませんよ? 暴走で周囲を巻き込んでくれるなら御の字、闇雲に砲撃を繰り返すのでは頭脳派を名乗れません。
って、
「あーあ」
イクが落としちゃいましたか。まあ、いいでしょう。
信号拳銃の銃弾を再装填。と、
「つっ?」
鬱陶しいですねっ! 駆逐艦が三つ。囲うように展開。何も考えず砲撃を繰り返してくるだけなら楽なのですがっ!
視線を後ろへ。そろそろ、ですね。
まだ、撃ってはだめですよ。と、大丈夫でしょうけどね。皆、ちゃんとやってくれます。
その信頼があるからこそ、私は艤装の砲を向ける。「一つっ!」
砲撃を、体を傾けて回避。同時に砲撃をして一つ撃破。「二つっ!」
姿勢が崩れました。だから、海面に手をついて、足を滑らせる。円を描くように足が水面を削り、四つん這いに近い姿勢のまま、砲撃。その反動で無理矢理姿勢を立て直す。先の砲撃が至近で叩きこまれた駆逐艦を、今度こそ撃破。
「三つめっ!」
さらに奥に視線を向ける。近くにいた駆逐艦、最後の一つが魚雷により粉砕。後ろに跳躍して軽巡洋艦の砲撃をやり過ごす。けど、「鬱陶しいですっ!」
二つ、左、そして、正面から、軽巡洋艦。そして、「重巡洋艦も」
正面から突撃してくる軽巡洋艦、その少し後ろに重巡洋艦。面倒です。
さらに後ろにいる深海棲艦は、イクが撃ち落としてくれたようですね。
「もう少し、ですっ!」
左、そこが一番早い。だから移動方向を後ろから左へ。そこにいる軽巡洋艦に相対するように前へ。
「邪魔っ!」
艤装すべてを繰って砲撃。同時に信号拳銃の照明弾で重巡洋艦の頭を狙います。
光。これで重巡洋艦を一時無効化。そのうちに、
正面から相対した軽巡洋艦。まだ、生き延びています。だから、
「次、落としますっ!」
加速。砲撃を回避しながら、前へ前へっ! 距離、よし、方向、よし、「撃てっ!」
砲撃、至近から放たれた砲撃が軽巡洋艦を粉砕。同時に膝を折って前進の慣性をねじ伏せ、体を振りまわすようにして右へ。
完全に向き直ればそこにいるのはぎこちなくこちらを向く重巡洋艦。
砲撃、けど、それは重巡洋艦も同様。交差し、
「いたっ?」
直撃。けど、まだ、「まだですっ!」
さらに砲撃。力押しとはあまり頭脳派にふさわしくありませんね。とはいえ、轟沈。……「え?」
ざぱっ、と音。次と狙いを定めた重巡洋艦の前には駆逐艦級の深海棲艦。これだと、
駆逐艦級の深海棲艦が砲撃。辛うじて回避、けど、
「つっ?」
重巡洋艦が砲撃。
「きゃあっ?」
戦況分析に失敗しましたか。不覚です。
なら、と、再度体勢を立て直すために艤装に火を、入れて「邪魔、ですっ!」
立て直す、その直前に駆逐艦級の深海棲艦から砲撃。思わぬ足止めを受けて、
「うっ?」
まずい。重巡洋艦が砲撃を放つ、直前。
爆砕。
「大丈夫、ですか?」
「え?」
ただの一撃で重巡洋艦を轟沈させた艦娘。「綾波?」
「はい、綾波です。
大変そうなので、助力に来ました。……少し、遅かったかもしれませんが、あの、ごめんなさい」
「い、いえ、それはいいの、ですけど」
一撃、で?
「霧島さん。来ましたっ」
「っと」
眼前にいた駆逐艦級の深海棲艦が砲撃。けど「遅いですっ!」
砲撃。先行で叩きつぶし、さらに綾波の砲撃で轟沈。
「あと、軽巡洋艦が三つ。……あそこにおびき寄せればいいですね?」
「重巡洋艦は、……イクが沈めてくれましたか」
綾波と一緒に後退しながら、残った軽巡洋艦級の深海棲艦を引き寄せます。それにしても、
砲撃の音。綾波はその砲撃を己の砲撃で迎撃、撃墜しています。
「それ、凄いですね」
「そうでしょうか? えと、……綾波の友達は出来ますから。経験次第、だと思います」
どんな友好関係なのですか? 今度、お礼がてら彼女の所属する泊地か基地か、行ってみましょうか。ともかく、
上に信号拳銃を向ける。
「全狙撃手、準備OK? ワン、ツー、」
一息、笑う。信号拳銃の引き金を引く。その意味、つまり、
「撃てーっ!」
甲高い、重厚な音。音速超過の銃弾が軽巡洋艦の装甲を撃ち抜く。
その戦果は「充分かと」
「凄い、……艦娘の艤装でもないのに、あの距離から、銃撃で装甲を撃ち抜けるんだ」
軽巡洋艦、三隻。一隻につき銃弾十。本物の軽巡洋艦なら小口径の銃弾で撃ち抜かれても大した意味はないでしょう。
けど、相手は深海棲艦。その大きさは人である私達より少し大きい程度、人の扱うサイズの銃弾でも、十発叩きこまれればどうなるか。
「蜂の巣です」
ぼろぼろになって海へと沈んでいく深海棲艦、……とはいえ、貫通弾は思ったより少なかったです。
内部で散弾が炸裂して、というのでそれはそれでよいのですが。もし単純に火力不足なら、やはり巡洋艦級を超える相手はまだ厳しいですね。
とはいえ、人の兵器で深海棲艦轟沈。……想定通りの結果ですが、やはり戦果は嬉しいものです。
さて、
「霧島、深海棲艦の轟沈を確認。
侵攻してきた全深海棲艦は撃滅。私達の、勝利ですっ!」
……いや、あの、叫ばないでください。耳に響きます。とても、
「ありがとうございました。霧島さん。……あ、いえ、霧島少佐。
今回の件、綾波たちの失敗です。霧島少佐の使った弾薬、燃料はこちらで払います」
「ありがとうございます。
ええと、……それで、私の事なのですけど」
陸軍に艦娘がいるというのは、公にされると色々大変です。おもに元帥が。
「あ、大丈夫ですよ。情報は封鎖します。
では、えと、東京鎮台でいいですね? 明日には届くようにします。入渠については?」
「えと、大丈夫です」
…………実は、まあ、使われていない泊地を一つ不法占領していますから。資材はなにもありませんけど。
「それならよかったです。
では、さようなら」
そう言い残して、……って、
「はやっ?」
物凄い速度で離れて行きました。つい、所属を聞くタイミングを逃してしまうほど。
所在なく手を伸ばして、……溜息。
「…………なん、なのですか。あの艦娘」
「はあ、……あ、いたた」
「大丈夫なのー?」
ずきずきします。艤装装備中に受けた傷なので入渠しなければ治りません。痛いです。
「かなりだめです。……さっきの綾波が資材を融通してくれるそうなので、それ待ちですね」
明日はお休みにしましょう。仕方ありません。
ともかく、陸軍の皆と合流。
「お疲れ様ですっ! 少佐殿っ!」
一糸乱れぬ敬礼。……くっ、だ、だめですっ、私は少佐。ちゃんと礼を返さなければ、
「無理はしなくていい。
その有様で礼を返さなくても、無礼と思うものはいないだろう」
「…………申し訳ないです」
情けない話ですが、今は好意に甘えましょう。痛いです。
「少佐殿、ご無理をされないように、辛いようでしたらヘリを手配しますが?」
「いえ、大丈夫です。
満潮を荒ぶらせる必要はありません。……ただ、申し訳ありませんが、本日の訓練は各自で行うように、私は、休んでいます」
「いや、全員帰還だ。
巡洋艦級とはいえ、通常兵器で深海棲艦を撃破出来た。結果は上々だ。それに狙撃の腕前も見せてもらった。今日はこれで十分だ。
帰還後、《戈》の狙撃について留意点や運用、使用について各自レポートを作成するように、少佐は傷が癒えるまでは休養とする」
「「「「「了解しましたっ」」」」」