宴は賑々しく行きましょう。
一話
涙が零れる夢を見た。
目の前には一人の少女。駆逐艦の、艦娘。
その後ろには何人もの人、男。提督、と呼ばれていた人たち。
そして、動く事も出来ない私に向けられる連装砲。
それを構える少女は、涙を溜め、蒼白な表情。かたかたと、連装砲が震える。
撃て、と声。
その涙を拭いてあげないと、……ぼろぼろになった体と意識で漠然と思う。
とても、優しい娘。何事にも一生懸命な、真面目な娘。
私の事を、先輩、と呼んで慕ってくれた。可愛い後輩。
だから、その涙を拭いてあげないと、
今にも泣きそうな表情。そんな表情、見たくない。
撃て、と声。
彼女には笑っていて欲しい。笑顔でいて欲しい。穏かに、生きていて欲しい。
だから、その涙を拭いて、頭を撫でてあげて、
撃て、と声。
また、少しだけ照れて、けど、凄く嬉しそうな、可愛らしい笑顔を見たい。
だから、
撃て、と声。
彼女の涙を拭くために、
撃て、と声。
手を、
撃て、と声。
伸ばして、
涙が零れる音がする。
……………私は、彼女の涙を拭いてあげる事が出来なかった。
――――――こんな、幻視。
・のように赤い鳥居の向こう。陰湿な、・・のような濃緑の・。
境・にある・・の青黒い・に照らさ・た、苔生し、傾き、・・・社。
そこで、・が嗤う。
――――――そんな、幻視。
そんな、過去の夢。
「…………う、……ん」
懐かしい夢を見た。目を覚ます。体を起こす。
「ああ、そうか。……都にいるのね」
ぽつり、呟く。《波下の都》、ここはその長からもらった私の家。
布団から体を起こす。真っ先に目に入ったのは一枚の封筒。
空母棲姫、くれはからもらった招待状。お花見、……言仁君、どうするのかしらね?
数日前、海の上をうろうろしてたらなんとなく現れたくれはに押しつけられた。……まあ、おそらくは尊治君の差し金何でしょうけど。
「どうしたものかしらねえ」
尊治君個人は知っているけど、彼女と一緒にいる人たちはよく解らないし。
その辺言仁君詳しそうだから聞いてみましょうか。
というわけで家を出る。言仁君を探してふらふらしていたところで、
「もうっ、テイトク意地悪デスっ!
ば、罰として、今夜はテイトク一人占め、デスっ!」
「うん、いいよ。
元々金剛の家に行くつもりだったし、ちょっとお願いしたい事があるからね。…………ね、だから、金剛、今夜は僕と、ずっと一緒にいようね」
全力ダッシュで金剛の家に向かった。
「そぉいっ!」
「はわっ!」「きゃあっ!」
全力ダッシュで全力停止。たまたまそこにいた雷ちゃんと電ちゃんが驚いたけど、まあいいわ。
「あ、いぶきなのですっ」「こんにちわ、いぶき」
「ええ、こんにちわ」
「そんなに急いでどうしたの?
やる事があるなら雷が手伝ってあげるわよ」
「電も協力するのですっ」
「あらそう? ありがと」
いい子いい子、と撫でる。ほにゃと、緩んだ表情、可愛いわ。
けど、やる事があるわけじゃなくて、
「言仁君、金剛の家にお泊りに来るらしいから、私も便乗しようと思ってきたの」
「電もっ! 協力っ! するのですっ!」
と、言うわけで、
「な、なんでこんなに人がいるのデスっ?」
「それはもちろん、遊びに来たんだよ。
暁、それダウト」
「なんで響そんなに当てられるのっ! もしかして、え、え、えすぱー?」
「暁は顔に出すぎなのよ。
もっとこう、…………えーと、無表情になりなさい」
「無表情な暁、ちょっと気持ち悪いのです」
「そうだな、悪い夢に出そうだ」
「だめよそんなの、暁ちゃんは、こう、ちょっと背伸びしたお子様感出さないと、可愛くないわ」
「お、お子様じゃないわよっ! 暁は立派なレディーよっ!」
「金剛の家って賑やかだね」
なんて言ったらいいのか、とそんな表情で言仁君。金剛は崩れ落ちたまま復活しない。
「なんで、なんでなのデス、今夜はテイトクと二人きりで、LoveでSweetな一夜を過ごす予定だったのに」
「夜戦カッコカリね?」
どや顔で言うと金剛に睨まれた。ウィンク一つ。金剛が項垂れた。
「夜戦カッコカリ、ってなんなのです?」
おっとりと首を傾げる電ちゃん。響は真顔で「暁は知っているかい?」
「へえっ? し、知ってるわよっ! 暁は一人前のレディーよっ! そのくらい知っているわよっ!
え、えーと、……夜戦、だから、…………夜、戦う、…………金剛が言仁と喧嘩するのよっ!」
「そ、そうなのですっ?
金剛さんっ! だめなのですっ! 喧嘩はだめなのですっ!」
ぷるぷる震える電ちゃん可愛い。
「え? 金剛、僕と喧嘩したかったの?」
「Noーーーーーーーーーーーーーっ!」
「魂の叫びだな。
それで、夜戦カッコカリとは何なのだ?」
淡々と応じるみずに軽く慄く。けど、慄いてはいられないわっ!
「いい、皆聞きなさい。
夜戦カッコカリというのは男女の「ファイヤーっ!」げふっ?」
ファイヤー、と叫びながら正拳突きを繰り出す金剛。……その、間違えている、わ。
「…………でー、そろいもそろって何の用なんデス。
ワタシはテイトクとLoveでSweetな夜を二人きりで過ごすので邪魔しないでクダサイ」
「だが私は許さない」
金剛の言葉に響が即答。電ちゃんもこくこくと頷いて金剛はぐらぐら揺れる。
「司令官さんと一晩一緒なんて、そんなえっちなのだめなのですっ!
い、一緒にお風呂とか、一緒のお布団で寝るとか、そういうのはだめなのですっ!」
「こ。金剛っ! そんな事しようとしてたのっ!
そ、そういう事は一人前のレディーになってからじゃないとだめなのよっ!」
「ワタシは一人前のLadyデスっ!」
と、くすくすと微笑。
「楽しい?」
小さく笑う言仁君にそんなやりとりを苦笑気味に見ていた雷ちゃんが問う。言仁君は笑って、
「ううん、金剛が一人前のレディーか、って思って」
「むぅ、テイトクはそう思ってないデス?」
「うん、ごめんね。金剛。
けど、僕にとってはやっぱり、泣き虫で可愛い女の子っていう印象なんだ」
「え? 泣き虫?」
「そうそう、特に金剛が来たばっかりの時、よく布団の中で「それ以上言ったらNoデスっ!」むぎゅっ」
「た、食べちゃったのっ?
あんなに可愛い金剛が、いつの間にか、男の子を知っちゃうなんて」
よよよ。
「食ったのか?」
みずの発言が真面目で面白い。
「あうぅ、……い、雷、電、響も、あ、暁の後ろに来なさい。お姉ちゃん、護ってあげるからね」
泣き崩れる、……まあ、そんな演技の私。視界の片隅でがくがくしながら妹たちを後ろに匿いつつみずの後ろに隠れる暁ちゃん。
ちなみに、電ちゃんは本気でびくびくしていて、響はとりあえずという感じで暁ちゃんの後ろへ、雷ちゃんは生温かい眼差しを暁ちゃんに注いでいる。
言仁君を抱きしめていた金剛は彼を離して崩れ落ちた。
「だ、ダレか、ダレか助けてくだサイ。
味方、欲しいデス」
「ちぃーす、不穏当なうわさを聞いて駆けつけた鈴谷だよー」
味方を望んだ金剛。そして、目がまったく笑っていない鈴谷が突貫してきた。
「帰って欲しいデスっ!」
「何なんデス?
ワタシ、何か悪い事をしたデス? はぅうう、今夜はテイトクと二人きりのLoveでSweetな夜を過ごしたかった、デス」
「だが鈴谷は許さない。
提督と二人きりとか、羨ましすぎるわよっ!」
「テイトクと二人きりでデー、……こほん、お出かけした鈴谷の方が羨ましいデスっ!」
「それはそれっ!」
「最悪の主張デスっ!」
「まあまあ落ち着いて、それじゃあ、それで、言仁君」
「ん? なぁに?」
雷ちゃんとみずと何か話していた言仁君。傍らにはおろおろしている電ちゃん。「なにか相談してた?」
「おゆはんどうしようかって、僕が作ってもいいんだけど、みずも押しかけたんだし代わりに作るとか」
「そういう事は雷に任せなさいっ!」
「はうぅう。……司令官さんの手料理食べたいのです。
けど、司令官さんにお料理作ってあげたいのです」
「司令官の手料理、美味しいよ。私は大好きだよ」
「まあ、作りたい者がいるならそちらに任せればいいか。
楽しみにしている」
「そうだねえ。じゃあ、雷。一緒に作ろうか」
「妥協案ね。ま、それならそれでもいいわ。
じゃあ、二人で作りましょう。それ以上は、狭いわね。キッチンそんなに広くないし」
みずの膝の上でのんびりしてた暁ちゃんはそんな二人を見て、
「一緒にお料理って、なんか新婚さんみたいよ。雷」
「世の中には決して譲れない事があるよ」「電、必要なら下剋上も辞さないのです」
「な、なにっ? 暁っ! 変な事言わないでよっ!
響と電が荒ぶってるわよっ!」
「え? あ、ごめん」
キッチンに向かう雷ちゃんをじりじりと牽制する響と電ちゃん。
「大変ねえ」
「暁、お前も姉ならなんとか仲裁してやれ」
みずの言葉に暁は肩をすくめて「無理よ」
「見捨てないでよお姉ちゃんっ!」
じりじりと間合いを詰める響と電ちゃんに牽制されて、半泣きで雷ちゃんが叫んだ。
さて、私とみずは金剛の家を出る。おゆはんは美味しかったわ。さすが言仁君。
ちなみに、今は誰が言仁君と寝るかでもめていた。おもに金剛と鈴谷が、暁型四姉妹は一緒に寝る事を約束していたけど、響が真面目な表情で男女の同衾はよくないと言っていたので、一人で寝る言仁君に夜這いすると思う。
まあ、それはいいとして、
「正直にいえば意外だ」
「私が宴会に参加する事が?」
それは、招待状を届けたくれはにも言われた。参加すると思う、といったら驚かれ、大丈夫か、と問われた。だって、
「人も参加するって、解っているわよ」
「…………暴れるなよ。主催者はあの、魔縁、尊治だ。
下手に暴れて主催者の顔に泥を塗ってみろ。いくらお前でも勝ち目はないぞ」
「わかっているわよ」
主催者、尊治君。……彼女は強力な魔縁。何せ空母の姫たちを一人で打破した、外れた存在。
さらに困った事に、彼女だけじゃないのよねえ。空母の姫と鬼、水鬼を秘書にして、正成や護良といった魔縁もいる。この都と真っ向から戦えるかもしれない。
怖いわー
けど、
「ま、我慢するわ。頑張って。
けど、それとは別に興味あるのよね。何を考えているか。……みず、予測できる?」
「《呪詛の御社》」
みずは即答する。私も、同感。
あの忌々しい《呪詛の御社》。おそらく、それ関連でしょうね。
だから、
「打ち壊したいわねえ」
「同感だ。だから私も参加する。尊治があれを捨て置くとは思えないからな」
まあ、そんな話をしながら私とみずは喫茶店へ。
「いらっしゃいませ。
あら、いぶき、みず」
「こんばんわ、熊野。
まだ営業中?」
「あと一時間程度なら付き合いますわ」
時計を見ながら応じる熊野。と、
「やっほー」
なにかのジュースを飲んでいたひさめ。
「待ち合わせ?」
「ええ、まあね。……あ、熊野。紅茶をお願い、ストレートで」
「ミルクティーを」
「ココアお代わり」
「ええ、承りましたわ。
少々お待ちになって」
「ん、頼む」
さて、
「それでひさめ、招待状来た?」
「来たよー、あきはがくれたわ。
その様子だといぶきとみずも来たんだ?」
「来た。参加するつもりだ」
「私もよ」
「いぶきも?」
やっぱり驚かれたわ。
「意外?」
「だって、人も来るんでしょ?
いぶき、暴れないでよ? 私少し楽しみなんだからね、お花見」
「暴れないわよ。そこまで見境なくないわ。
それに、目的もあるしね」
「《呪詛の御社》ね。……私も同感。あんなもの、さっさと壊しちゃいたいわ」
珍しく、面白くなさそうに応じるひさめ。けどまあ、当然よね。
あれは、特にいろは型と呼ばれる深海棲艦を発生させる。
そして、艦娘はそれと戦う。そう、私達、元、艦娘である深海棲艦はそれとの戦いで轟沈し、深海棲艦となる。
もちろん、いろいろな理由がある。提督の無茶に付き合わされたとか、深海棲艦になるには多くの理由がある。
けど、直接の原因は深海棲艦であり、すべての元凶はそれを発生させる《呪詛の御社》にある。
ゆえに、そんな存在、認めるわけにはいかない。
だから、
「楽しい宴会になりそうね。
みず、ひさめ」