深海の都の話   作:林屋まつり

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四話

 

 長門と一緒に着物を選んで、「さーて、あっちは終わったかしらー?」

「楽しそうだな」

「それはもう、可愛い女の子の可愛い格好を見るのは好きよ。私」

「……そうか」

 ため息一つ。……む、少しいじり過ぎたかしら?

 まあ、いいか。

 片手には選んだ着物。そして、

 試着室の前に立つ言仁君発見。

「言仁君」

「あ、やあ、いぶき、長門。

 決まったの?」

「ああ、待たせたか?」

「ううん、気にしなくてもいいよ。

 どうせやる事もないしね。もう少しゆっくり選んでもいいよ?」

「いや、いい」

「私も決まったわ。

 言仁君、あとで評価をお願いね?」

「いぶきは綺麗だから、どんな服でも似合うと思うよ」

「あら、御上手」

 笑って応じる。隣にいる長門がなにか慄いているけど、まあ、なんでもいいわ。

 と、しゃっ、と試着室のカーテンが開いて、

「テイトクっ! どう「可愛いわっ!」いぶきには聞いて「まだ甘いわねっ!」ひゃいっ?」

 いきなり響いた声に長門と一緒にぎょっとしてそっちを見る。

「こんにちわ」

「お、奥様?」

「あ、井上のお母さん?」「井上さん?」

「彼女も、参加者か?」

「ええ、井上よ。

 まあそれはいいのだけど、金剛ちゃん。ちょっとそっち行くわね」

「へ?」

「金剛ちゃんのその着物、すっごく似合ってるわ。とても綺麗よ。

 けど、これならもうちょっと髪をいじりましょう?」

「え、ええ?」

 そのまま有無を言わせず引きずり込まれた。…………はっ!

「狭い試着室の中、金剛と二人きり」

「…………それ以上は語るな」

 長門に睨まれたので黙る。

 と、

「あ、……あの、着替え、終わりまし、た」

 もじもじと、そんな様子で翔鶴。……へえ。

「意外ね。

 翔鶴の銀髪、着物には合わないと思ったのだけど、結構似合うのがあったのね」

「うん、綺麗だよ。翔鶴」

「あ、…………は、はい。

 あ、ありがとう、ござい、ます」

 しゅー、と顔を真っ赤にする翔鶴。

「金剛は髪をいじるとか言ってたけど、翔鶴はそのままがいいかな。

 綺麗な銀色の髪、そのままにしていた方がいいと思うよ」

「そうね。……けど、その赤い髪飾り、それは外した方がいいわね」

「そうだね。

 櫛を通してあげるから、おいで」

「は、はい」

 あ、

「言仁君、ちょっと待ちなさい」

 ……翔鶴に睨まれた。……怖くないけどね。

「まずは大鳳を見てあげなさい」

「そう?」

「櫛を通すのなら私がやろう」

 ずい、と名乗りを上げる長門をすっごい視線で睨みつける翔鶴。長門慄く。

「だめよ。女の子の髪に触っていいのは大切な人だけよ。ねえ? 翔鶴」

「え、…………は、はい」

 口をへの字に曲げる長門。まあ、無視しましょう。……………………で、「遅いわね」

「そうだね。

 ちょっと様子見てくる」

 といってとことこと歩きだす言仁君。

「大鳳ー」

 そして、何一つ躊躇なく試着室のカーテンを開けた。その向こうには肌色割合の大目な大鳳。

「大丈夫? 着付け手伝おうか?」

 …………手っ取り早くいえば半裸の大鳳に、言仁君は善意しかこもっていない声をかけた。

「な、なにか、物凄く自然に言っているが、あれ、問題ないのか? 大丈夫なのか?」

「お、おお、落ち着いて長門っ」

「貴女も落ち着きなさい」

「て、てて、ててて、て、て、提督っ! い、いい、いきなり開けないでくださいっ!」

「遅かったから着つけに手間取ってるのかなって思ってね。

 それで、大丈夫?」

「だだ、大丈夫、…………じゃ、ないです。

 ごめんなさい、手伝って、ください」

 あ、やっぱりちゃんとできてなかったのね。

 そして試着室のカーテンが閉まる。驚きながらどことなく羨ましそうな翔鶴は放置。

「いぶき」

「なぁに?」

「言仁は、……なんというか、躊躇はないのか?」

「ないわよ。言仁君、子供だから、…………まあ、難しい年頃なのよ」

 おもに周りの人たちが。

「そうだな」

 長門は何か、諦めたような表情で頷いた。

 

 着物選びは終了。井上さんに整えてもらった髪に金剛のテンションが鰻上りになってみたり大鳳が着付けを教えてもらったり、翔鶴が言仁君に丁寧に櫛を通され、心地よさそうな表情を見せたり。と、あまり平穏には終わらなかったけど、とりあえず終了。

 さて、

「井上さんも来たのね」

「ええ、もちろん。

 尊治君の言う事、興味があるもの。……といっても、大半はお花見目当てよ。吉野の桜、見事なのよね」

「そう? それは楽しみね」

 当たり前だけど、見た事ないし。

「ふふ、それに、楽しい出会いもありそうだしね。

 尊成君のところにいたきく、彼女も可愛い子ね」

「ええ、今度《波下の都》を案内してあげる事になったわ。

 楽しみよ」

「あら、それはいいわね。

 私も遊びに行こうかしら」

 くすくすと微笑む井上さん。

「いぶき、彼女だが?」

 長門は、初対面よね。

「あら? ふふ、私は井上よ。

 いぶきちゃんのお友達。ね?」

「そうよ」

「彼女の友達か、……私は長門だ。

 今は、《波下の都》にいる」

 二人は握手。

「じゃあ、私も着物を選んで来るわ。

 お花見の時はよろしくね、二人とも」

 柔らかく微笑んで手を振って奥へ。……相変わらず、とんでもない美人よね。羨ましい。

「彼女は、……魔縁、か?」

「ええ、一応言っておくと、怒らしちゃダメよ?

 彼女が本気で怒ったら大変な事になるわ。文字通り天災を操るから、都市を消し飛ばす事も出来るらしいわよ」

「…………魔縁というのも、次元が違うな」

 項垂れる長門。まあ、仕方ないのよ。歴史の重みが違うのだから。

「普段は温厚で面倒見のいい女性だからいいのだけどね。

 すっごく綺麗だし」

「そうだな。正直驚いた。

 あれほど美しい女性もいるのだな」

「…………羨ましい?」

 真面目に語る長門に、ふと聞いてみる。……じわじわと顔が赤くなった。ちょっと可愛い。

「い、いや、わ「羨ましい?」私は、艦娘で「羨ましい?」み、見た目の美醜では「羨ましい?」そ、そういう事は二の「羨ましい?」…………悪いかぁあっ!」

「かーわい」

「うるさい」

 けらけら笑うと顔を真っ赤にした長門に睨まれた。

 

「さて、それじゃあ誰がどの部屋で寝ようか。

 一応、二人部屋四部屋確保してあるけど、…………一人余るね」

「テイトクっ! 一緒の部屋で寝まショウっ!

 今度こそLoveでSweetな二人きりの夜デスっ!」

 燃え上がる金剛。凄い、気合いが違うわ。

 拳を握る金剛に言仁君は苦笑して「相変わらず、甘えたがりだねえ」

「そうデスっ! ワタシは甘えたがりの幼い女の子デスっ!

 だからテイトクと、お、同じ布団で寝たいデスっ!」

 言ったぁあっ!

 翔鶴と大鳳に睨まれるが、ワレゼッタイニヒカズのオーラを散布する金剛は気にしない。

「じゃあ、私は長門とい「拒否する」」

 言い終わらない段階で即答されると、流石に悲しいわ。

「私も言仁君と一緒がいーなー」

 と、いうわけでひさめ。睨みあう彼女らを長門とぼんやりと眺めてる。

 と、

「だ、旦那様っ! あそこに殿方と一緒に寝ると言っている痴女がいますっ!」

「ダレが痴女デスカっ!」

「じょ、女性がと、とと、殿方とい、一緒に寝るなんて、そ、そんな恥知らずな事をいうなんて、痴女でなくてなんだというのですかっ!」

 がくがく震えるきくと、交戦準備が整ったらしい金剛達。その傍ら、

「きく、それはどういう意味だ?」

「へえっ?」

「兄さま?」

「僕も知らないけど、どういう意味?」

「ど、どういう意味か、……と、とは、…………そ、その、……え、…………あの、」

 どう答えるか、非常に興味があるわ。非常に、

 ひさめがにょにょにょ、と近寄って「痴女ってどういう意味ー?」

「どういう意味デス?」「どういう意味かしら?」「どういう意味ですか?」

「…………翔鶴、お前もか」

 ぼんやりと呟く長門。励ますために肩を叩いた。長門はのろのろとこちらに視線を向けた。首を横に振ったら項垂れた。

「は、…………は、恥を知らないという事ですっ!

 な、なんですかそのような言い方はっ! じょ、女性たるもの、もっと慎ましくなければなりませんっ!」

「そんな事言ってたら大切な人を他の女性に取られてしまいマスっ!

 自分の気持ちを抑えてたらダメデスっ!」

「ライバル少なさそうなきくには縁のない事なんじゃないかな?」

「な、何を言いますかっ! わ、私だって旦那様に、和歌で気持ちをお伝えしましたっ」

「何時代の人よ貴女?」

「鎌倉時代だと思うよ」

 唖然と応じる大鳳に言仁君。……そうか、鎌倉時代かあ。…………鎌倉時代?

「尊成、確か和歌とか好きだったよね? 新古今和歌集だっけ? 作ったの。

 その影響じゃない?」

「そうだ。……いや、きくにせがまれてよく話をしたのだが。

 どうも、時代がずれたようだ」

「鎌倉時代の女性は貞淑だったの?」

 大鳳の問いに応じるのは尊成で「源頼朝の妻の、北条政子は尼将軍と呼ばれたな。幕府を主導していた。一部からは悪女とも言われたが、…………大人しい印象はないな」

 と、そんな話をする傍ら、女性のあり方についてきくと金剛達の熾烈な言い争いが始まった。

「長門、どうすればいいと思う?」

「寝たい」

「ダメよ。まだ誰がどの部屋で寝るか決まってないもの」

「これ、決まるのか?」

「ま、じゃんけんか何かで決めればいいでしょ? 面白いからもうしばらく言い争いを眺めてましょう」

 醜い女性たちの言い争いを横目に、言仁君は尊成と平氏について語り合ってる。で、

「…………早く、早く終わらせてくれ」

 なんで本気で泣きそうなのよ、長門。

 

「で、翔鶴が私と同室、ということね」

「はい、よろしくお願いします」

 ぺこり、頭を下げる翔鶴。結局じゃんけんでこうなりました。「残念?」

「……そうですね。出来れば、提督と同室がよかったです」

 けど、と微笑んで、

「貴女とも、お話してみたかったです」

「あら意外。

 私は怖い怖い深海棲艦よ?」

「あの都を知っているのに、その言葉に何の意味があるでしょうか?」

 ま、どう思うかはご自由に、

「私達と一緒に来た娘たちから話を聞きました。

 いぶきは、とても優しくて、面倒を見てくれたと」

「可愛い子好きなのよね。私」

「そうなのですか」

 くすくすと笑う。ええそう、ずっと昔から可愛い女の子は好きだったわ。

 特に、精一杯頑張っている娘はね。構いたくなっちゃうのよ。

「いぶき、貴女も昔は、艦娘だったのです、よね?」

 問いに、一応頷く。けど、

「先に言っておくけど、その時の事ほとんど覚えてないわよ」

 覚えているのは、涙を拭いてあげたくて、けど、出来なかった過去。

「そうですか」

「残念?」

「……そうですね。少し、貴女の事を知りたかったのです」

「同性から言われると不思議な気分になる言葉ね」

「それもそうですね」

 くすくすと笑う翔鶴。さて、

「それで、翔鶴。

 どうする? 旅館の周りでも見て回る?」

「そうですね。……まだ、夕食まで時間もありますし、少し歩きましょうか」

「言仁君じゃなくてごめんねー」

「当てつけですか?」

 わざとらしい私の言葉に、翔鶴は苦笑した。

「あの娘たちにお土産でも買うの?」

「お金、ありません」

 連れ立って部屋を出ながら聞けば翔鶴は項垂れる。ま、仕方ないわね。

 旅館を出る。……まあ、人はいないか、翔鶴と苦笑。お土産売っているところなさそうね、と。

 とはいえ散策くらいはできる。……といっても、なにもないわね。行き着いた貧困は不便な場所から人を遠ざける。無人の街もたくさんあるでしょうね。

「ねえ、翔鶴」

「なんですか?」

「仮定、深海棲艦がいなくなったら、貴女はどうやって生きていきたい?」

 長門が悩んでた事、彼女はどう思うか聞いてみた。問いに、翔鶴は困ったように微笑む。

「まだ、誰にも言うつもりはないので、胸に秘めていてくれますか?」

「秘密にしている事を教えてくれるの?」

 少し、意外。対して翔鶴は微笑んで「信頼できる、と思えましたから」

「…………卑怯な言い方、そんな風に言われたら、応えるしかないじゃない」

「そう言ってくれると思っていました」

 なんだろう、そう言われるとどことなく面白くない。

「《波下の都》に引きこもろうと思っています。

 可能なら、妹である瑞鶴とともに、……たとえ、深海棲艦がいなくなっていなかったとしても」

 そう言って困ったように微笑む。

「変ですよね。私は、正規空母翔鶴、戦うためにいるのに、そんな事を考えるなんて」

 ………………ああ、やっぱりね。

「平穏を願うのは、変な事じゃないわ。

 ましてや大切な人と一緒にいようとするのはね。忘れた? 貴女は艦船じゃない、艦娘よ?」

 そう、平穏を願うのは当たり前のこと、艦娘なら、なおのこと。

「そう言ってくれると嬉しいです」

 ほう、と翔鶴は安心したような一息。

「やりたい事見つけて好きな事やって生きなさい」

「ふふ、応援してくれますか?」

「ええ、私、一生懸命頑張ってる女の子は大好きよ。

 翔鶴みたいに可愛い娘ならなおのこと、……瑞鶴にお義姉さん、って呼んでもらおうかしら?」

「それは遠慮します」

 あら、振られちゃったわね。

「けど、そうですね。

 やりたい事、……まだ、具体的には決まっていませんが、ゆっくりと決めていけばいいですね」

「そういう事よ。

 長門は悩んでいたのだけどね」

「彼女は真面目ですから、艦娘のあり方を真剣に考えているのでしょう」

「そうかもしれないわね。……翔鶴からも相談に乗ってあげてね?」

「そうします」

 翔鶴は、少しだけ困ったように微笑んだ。

「いぶき、貴女は、何をしたいと思っていますか?」

「秘密」

 流石に、ね、私のやりたい事を言ったら引かれちゃうわね。

 変えるつもりはない。…………変えられる、わけがない。

 艦娘の胸に刻まれた祈りと願い。それを壊して得た私の想い。

 だって、人は彼女を泣かせたんだ。許せるわけが、ない。

「もう、意地悪です」

 膨れる翔鶴は可愛かったけど、ま、仕方ないわね。

 

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