深海の都の話   作:林屋まつり

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五話

 

「……す、すごい」

「美味しそうっ!」

「こ、これは、是非作り方を教えていただかないと、……旦那様に、喜んでいただけるでしょうか」

「凄いわね。流石というか」

「これは、見事だな」

「羨ましいデス、……ワタシも、料理上手になりたい、デス」

「美味しそうですね」

 と、満場一致の感想にその作り主は嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ、ありがとう。

 皆にそう言ってもらえると嬉しいわ」

 夕ご飯を作ってくれた井上さんは嬉しそうに微笑む。……っていうか、見事な和食。ええ、凄い見事な。

「そういえば、言仁君と尊成さんは?」

 問いに、きくは少し不貞腐れたような声で、

「主催者に、挨拶に行くと言っていました」

 尊治君にねえ。

「男性は勝手にお酒を飲んで戻ってくるでしょうから。

 ふふ、きくちゃんも、不貞腐れてないでたまには女の子同士で仲良くやりましょう」

「…………はい」

「ん、緊張してる?」

 きくの隣に座る大鳳が首を傾げる。きくは少しぎこちなく微笑。

「まあ、……その、こういう席は初めてなので、…………旦那様以外とはあまり、話をする事もありませんでしたから」

「それなのに痴女呼ばわりとは、思い切ってるわね」

「あ、あれは反射的にですっ」

「大丈夫よ、緊張しなくて、……それに、同性なんだから。

 旦那さんに言いにくい事とか、相談しにくい事があったら相談に乗るわよ」

「そうですね」

 大鳳の言葉に、ほう、ときくは一息。…………さて、

「それじゃあ、……いただきます。ね」

 井上さんの言葉に、「「「「「いただきます」」」」」と、声が重なった。

 

 さて、ご飯を食べたらお風呂。きくは井上さんに早速料理の事を聞きだした。旦那様に食べて欲しいらしい。いい娘ね。

「ひさめは?」

「井上ときくの作った料理を食べたいそうだ。

 味見要員としてついて行った」

 お風呂に向かいながら長門。少し残念。

「そ」

「残念?」

 大鳳の問いに頷く。

「ひさめ、お風呂ではしゃぐのよねえ」

「私はゆっくり入浴をしたいのですが」

 困ったように応じる翔鶴。

「ひさめって、いぶき結構気に入ってたわよね?」

「それはもう、私、ちっちゃくて可愛い女の子大好きよ。

 駆逐艦の艦娘とかいいと思うの」

「…………それは間違えていると思う。

 第一、ちっちゃいのが好きとか、嗜好がおかし、……………………すまん」

「……翔鶴、旗艦をそんな目で睨むものじゃないわ」

 ちっちゃい男の子が大好きな女の子達の陰惨な視線を受けてビッグ7は平謝りした。……たぶん、私も平謝りする。

「お風呂は大浴場ね。……一応、男女に分かれているみたいだけど」

「ぶーっ、テイトクと一緒がよかったデース」

 ぶつくさ文句を言いながら服を脱ぐ金剛。

「……その、少しはしたないと思います」

「悩みどころね。

 提督とは一緒にいたいけど、どうせなら綺麗になったところを見て欲しいし」

 困ったようにいう翔鶴の傍ら、難しい表情をする大鳳。その言葉を聞いて金剛は難しい表情。

「そ、そうデス。確かにそれは難しいデス。

 テイトクと一緒にお風呂に入るべきか、否か」

 顔を突き合わせて悩む金剛と大鳳。

「どうでもいいが、さっさと入るぞ」

 威風堂々と風呂場に向かう長門に私達も続く。さて、さっさと体を洗っちゃいましょうか。

 椅子に腰をおろして、………………「な、なによ?」

「どうしたのですか?」

 覗き込むと、隣に座る大鳳が警戒。その向こうにいる翔鶴が首を傾げる。

「長門、……金剛と翔鶴が同列、………………私、あんまり大きくないわね。

 っていうか、翔鶴って意外と大きいのね」

「何の話デス?」「どうした?」

「長門、大鑑巨砲主義ってどう思う?」

「素晴らしいと思う。

 まさに、堂々と真っ向から戦う戦艦にはふさわしい」

「むー、高速戦艦だって負けてないデス」

「いえ、それはいいのよ。

 翔鶴って結構着痩せするの? 思ったよりスタイルいいのね」

「そ、そうですか?」

 ちら。

「ええ、私あんまり胸大きくないし、羨ましいわ」

「そんな事はないと思うが?」

 ちら。

「んー、胸はともかくですケド、ワタシはいぶきのスタイル羨ましいデス」

「そうですね。

 身長もそうですけど、すらりとした四肢は羨ましい、とても格好いいと思います」

「そう? それ言ったら長門もじゃない?」

 ちら。

「…………べ、別に私は、スタイルとか、気にしてなど、ない」

「いぶき、あまり長門には触れないであげて、あんまり女性らしくないって、少し気にしてるのよ」

「そんな事ないと思いマス」

「そ、そうだろうか。……その、筋肉質というか。…………あまり、女性らしくないのではないか?」

「そんな事全然ないデス。

 格好いい女性だって十分魅力的デス」

 ちら。

「そ、そうかっ」

 …………そんなに気にしてたのかしら? ふと、金剛は警戒色。

「け、けど、テイトクに色目使ったらNoっ!」

「長門?」

「使わんっ!」

 ちら。……「って、さっきから何こっちをちらちら見てるのよっ!」

 うがーっ! と、大鳳が吼えた。ぎょっとする翔鶴。

「悪かったわねっ! どうせ私は胸も小さいわよっ! 背も小さいわよっ! 色気なんてないわよっ! 可愛げもないわよっ!

 ばかーっ!」

 なぜか風呂桶で私を叩いて浴槽ダイブを決める大鳳。

「あ、いたた」

「大丈夫?」

「大丈夫。……大鳳も気にしてたのねえ」

 浴槽の隅っこで膝を抱えてる大鳳。

「まあ、確かに、…………その、小さい、デス」

 困ったような金剛の言葉に長門も気まずそうに頷く。私は拳を握る。

「大丈夫っ、私はちっちゃいのでも興奮でき、いたっ?」

 涙目の大鳳が風呂桶投擲、ぱかんっ、と音。

「な、なんか、拗ねちゃいましたね」

「翔鶴、同じ空母としてなにか言う事はあるか?」

「ちゃ、着艦は楽だと思いますっ!」

 ぱかんっ、と音。

「いたっ? なんで私っ?」

「狙いやすいんじゃないデスカ?」

「そこの大鑑巨乳主義でも狙いなさい」

「巨砲だっ!」

 叫ぶ長門は放置。

「大丈夫よ、大鳳。

 言仁君、そういうこと気にしないから」

 スタイル気にする理由なんてそれでしょうね。

「わかってるわよ。……けど、気になるのよ」

 いじいじする大鳳。とても可愛い。

 けどまあ、

「…………子供扱いしないで欲しいんだけど」

 頭を撫でたら睨まれたわ。けど、残念。

「言仁君ほどじゃないけどね。けど、貴女の方が年下よ。

 残念ね」

「…………別に、ただのない物ねだりだって解ってるわよ」

「こらこら、自虐に沈まないの。

 可愛げないなんて言ってるけど、私は可愛いと思うわよ。大鳳の事」

 いい子いい子、と撫でながらいうと大鳳は目を見開いて、心地よさそうに目を細めて、不貞腐れたようにそっぽを向いて、

「ちっちゃい女の子好きにはそうでしょうね」「見た目を気にしない言仁君もそうだと思うわ」

 即座の切り返しに大鳳は、苦笑。

「………………はあ、……ま、それもそうね」

 うむ。

「さて、それじゃあ、おっぱい大きくなりたい大鳳のために、私、揉むわっ!」

 ぱかんっ、と音が響いた。

 

「おお、美味しそう」

「うん、きくの作った料理普通に美味しかったよ。

 別に習う必要なかったんじゃないの?」

「いえ、高みを目指すのは、つ、妻にとっての、義務、ですっ!」

「「「おおーっ」」」

 大鳳と金剛と翔鶴は拍手。きくは照れくさそうにする。

 長門は真面目な表情で頷いて「そうだ。いつだって鍛練は大切だ。それが自分のためになる」

「……いえ、別に自分のためにどうこうじゃなくて」

 まあ、彼女は無視して「井上さんは?」

「会いたい人がいると言って出て行きました。

 先に寝てて欲しいそうです」

 会いたい人ね? まあ、ともかく、

 眼前に並ぶのは夕食というよりはおつまみ、まあ、つまり、

 私は酒の入ったグラスを構えて、ウィンク一つ。

「お花見前夜。

 羽目外さない程度にね?」

「わかってるわよ。気をつける」

 生真面目に大鳳が応じる。では、乾杯、と声。

 酒を一口。くぅ、と声。

「美味しいわね。きく、この御酒どこから出てきたの?」

「井上さんの御土産です。

 元々、大勢で一緒に飲むつもりだったみたいです」

「そ、……なら、ちょっと申し訳ないわね。井上さんがいないのも」

 せっかく一緒に飲めると思ったのに、……残念。

「その分訪ねた先で飲むとか言っていました。

 せっかくの好意を受け取らないのも難でしょう」

「それもそうね」

 一口、……美味しい、口当たりがいい。

 とても飲みやすい御酒。

「明日のお花見もこんな感じなのかしらねえ」

「そういうものですか? 私はお花見をやった事がないので解りませんが」

 首を傾げるきく。

「話聞く限りだとこんな感じね。

 御花を見ながら酒呑んで美味しい物食べて騒いで、と」

「それは、楽しそうですね」

 ほっこりと微笑むきく。……まあ、そうよね。

「楽しそうね」

 箸を伸ばす。天麩羅一つつまんで食べる。美味しい。「塩というところにこだわりがあるわね」

「……井上さん、本当に何者ですか?

 あんなに美人で気立てもよくて、料理も上手でとか、完璧すぎます」

「ほんと、羨ましいわよねえ」

 はあ、ときくと顔を見合わせて項垂れる。ああいう完璧超人を見ると、なんか本当にまだまだ、という感じがするわ。

 ………………まあ、女性に対してこう思うのは失礼だけど、年季が違うわよね。

 と、

「いぶきー」

「ひゃっ?」

 なにか、抱きつかれた? 視線を落とすと私に抱きついてるのは、

「大鳳? ちょ、どうしたの?」

 いや、大鳳可愛いし、悪い気はしないけど。

「わ、私、……て、提督と一緒に暮らしてるのに、夜、提督来てくれないのお」

 抱きついてめそめそし始める大鳳。……いや、っていうか、言仁君に何期待してるの? 貴女は。

 泣き上戸、と思った瞬間、のし、と。

「Heyっ、いぶきっ! ちゃんと飲んでますカーっ!

 こんなところで素面なんて、Noっ! ワタシは認めないデスっ!」

「どうしたの金剛?」

 背中に当たるいい感触、……は、いいとして、

「どうしたもないデースっ! もっと一緒に飲みまショウっ!

 いぶきと一緒にお酒呑むの楽しいデスっ!」

「え? あ、ありがと」

「…………酔っ払い相手に素で照れないでください」

 ぐいぐい押しつけられるいい感触。頬に触れるさらりと柔らかい髪と、お酒が少し混じった甘い匂い。……男性なら発狂するかもしれないわ。金剛、凄い。

「い、いぶきまで金剛の方がいいの?

 やっぱり、胸っ、胸がないとだめなの? ……私みたいにちっちゃいの、だめなの」

 大鳳がかなり面倒な娘になってる。涙目がすっごい可愛い。

「はいはい、仕方ないわねえ」

 座りなおして、大鳳を膝に乗せてあやしながら「金剛」

「やっぱりそうこなくちゃっ、デースっ!」

 御猪口を差し出せば嬉々として御酒を注ぐ金剛。

 軽く打ち合わせて一口。美味しい。

「いい飲みっぷりネっ、負けないデースっ!」

「…………こうして酒のドツボにはまって行くのですね」

「きくは真似しちゃだめよ。

 どうなるかわからないから」

「…………け、けど、お酒の力をお借りすれば、旦那様に、も、もう少し素直に「いぶきー」ぶはっ?」

 きく噴いた。視線を向ければ上気した頬ととろんとした瞳、帯はそこらへんに放り投げて半裸の翔鶴。帯のない浴衣は当然前が開かれ、可愛らしいおへそとか、下着とかも当然見えてる。まあ、つまり「うわあ、これはえろい」

「ぽかぽかして気持ちいいですぅ。

 いぶきも、どうですかあ? 脱ぐと涼しいですよお」

「そうね、きく。

 御酒の力を借りるのも、いいかもしれないわね」

 翔鶴が自主的に乳押し付けてくるのを横目に聞いてみる。きくはがくがくと首を横に振った。

 さて、右手に半脱ぎ翔鶴がしがみつき、膝の上にはめそめそと面倒くさい大鳳、後ろからひたすら酒を勧めて笑う金剛。……視界の隅で爆睡しているひさめがいる。

 こうなれば次の展開も読めるわ。

「こらっ! お前らぁあっ!

 なんだその様はっ! 気合いが足りんっ! 気合がぁあっ!」

 酒瓶振りまわすビッグ7。うるさいから鏡に向かって説教してて欲しい。

「……ねえ、どうすればいいの?」

「なんていうか、随分と懐かれていますね」

 どーしたものか、と。ぼんやりと思う私の傍ら、きくが呟く。懐かれてる、か。

「ま、妹みたいなものだしね」

 だから、構いたくなっちゃうのよね。あの娘みたいに。

「妹ねえ」

「ま、大体の艦娘や深海棲艦より私の方が年上よ。

 婆呼ばわりしたら殺す」

「呼びません」

「きくも私の事をお姉ちゃん、って呼んでいいわよ?」

 どや顔で告げると、きくはにやー、と嫌な笑顔。

「そうですね。

 言仁様は私にとっての義兄様、では、義姉様とでもお呼びしましょうか? そのような関係でしたら、必要な事ですね」

 がしっ

「…………大鳳、金剛、翔鶴?」

「いぶき、世の中には超えてはいけない一線があるのよ?」

「認めません認めません絶対に認めません許しません」

「絶対に、Noっ! そんなの許さないデスっ!」

「黙って酔っぱらってなさい」

 本当に酔っぱらいは面倒くさい。項垂れるときくはけらけらと笑った。

 

 さて、半分以上酔いつぶれたので流れ解散。猛る長門をボディへの一撃で黙らせて寝室に放り込む。

 で、最後は同室の翔鶴。……にしても、「えろいわね」

 とりあえず浴衣はそれなりに着せたけど、上気した頬とか、無防備なあれそれとかかなりえろい。

 まあ、いいか。適当に毛布をかぶせて私は隣の布団へ。

 

「おやすみなさい」

 

 いつかの、夢を見た。私が壊れる前の、まだ、私が艦娘だったころの夢、彼女の夢。

 

 そう、もしかしたら、私は彼女の事が好きだったのかもしれない。

 先輩っ、と慕ってくれた彼女。

 ドジばかりで、泣き虫で、よく失敗して泣いてた。頭撫でながら、そのまま一緒に寝た事も何度かあった。

 頑張り屋で、一生懸命で、いつも最後まで残って訓練してた。私はいつも一番近くでそんな彼女を見ていた。彼女の成長を見れるのは嬉しかった。成果が上がって、嬉しさのあまり私に抱きついてきた時、私も自分の事より嬉しかった。

 そう、彼女の成長が自分の事より嬉しかった。少しずつだったけど、確実に一歩一歩前に進む彼女。そんな彼女がとても愛おしくて、そんな彼女に慕われる事が、何よりも誇らしかった。

 

 そんな彼女、…………私を殺した、可愛い後輩。

 

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