5月19日 加筆修正を行いました。
こんな生活も長くは続かなかった、なんて事を言ったのにもちゃんと理由はある。
ある日、私を手に入れる目的で箒ちゃんを誘拐しようとした連中が現れたんだ。
この時は偶然通りかかったちーちゃんとお父さんが誘拐しようとした連中を蹴散らしたから何ともなかったんだけど、この事を知った国際IS委員会が日本政府に、私達に対する重要人物保護プログラムの適用を持ちかけた。これには日本政府も割りと前向きに検討してるらしい。
……本音は私に対して恩を売っておきたいのと、あわよくば私の持つ知識を得たいんだろうけどね。
でも私は日本政府をいまいち信用してないんだよね。
実行こそしてないけどそういう動きがあったみたいだし。
それとこれは後で知った事なんだけど、白騎士事件の時に防衛省が実際に出した命令はは白騎士の確保であり、停戦勧告なんてする気はなかったらしいしね。
そうじゃなきゃ、あの時自衛隊の指揮を執っていた人を辞めさせる理由はないだろうし。
全くその時の指揮官さんには感謝をしてもしきれないよ。
「……確か小嶋海将って言ったっけ。いつかちーちゃんも誘って会いに行ってみても良いかもね」
……と、話が逸れたね。しかし政府の思い通りにさせない良い方法は無いかなぁ。
そしてその数日後、私達の所に政府の役人がやって来て来月から私達(正確にはお父さんとお母さんと箒ちゃん)に重要人物保護プログラムが適用されると言ってきた。
うちに来た政府の役人はお父さんとお母さんと箒ちゃんは政府の用意した場所に引っ越してほしいと言い、私の方は政府直轄の研究室を用意しているからそこに移ってほしい、だそうだ。
その話を聞いていたお父さんが険しい顔をしていたのがとても印象的だった。
お父さんは何を考えてるんだろうね?
まあ、そのうち分かるとは思うけどね。
私達は考える時間がほしいということで保留にしてもらった。
……私はどうするべきなんだろう。
政府の役人が家にやって来てから数日間、私は同じ事ばかり考えていた。
……ダメだ、良い方法が見つかんないよ。
私は考えが纏まらず頭を抱えているとお母さんがやって来て、
「束、お父さんがあなたに話があるそうよ」
私にお父さんが呼んでいる事を告げた。
「お父さんが?」
「ええ、私は箒を呼んでから行くわね。だから先に行っててくれるかしら」
お母さんはお父さんはリビングに居るから、と私の問いかけにそう答えると箒ちゃんの部屋に向かった。
……何の話だろう、私の話に箒ちゃんまで呼ぶなんて……
……まあ、考えても仕方ないね。
「…………行こっか」
私は一人でそう呟くとお父さんの所に足を進めた。
私がリビングに入るとお父さんは目を閉じたまま腕を組んで椅子に座っていた。リビングに入った私を一瞥すると再び目を閉じた。
……どうやら皆が揃うまで話を始めるつもりはないらしい。
それから五分位でお母さんが箒ちゃんを連れてやって来た。
私達が揃ったのを確認したお父さんは閉じていた目を開き、組んでいた腕をほどいた。
「……束、私達は重要人物保護プログラムを受ける事にしようと思う」
お父さんは少し間を開けて私にそう言った。
私はその言葉に目を見開いた。
お母さんと箒ちゃんの方を見るとお母さんは少し困ったような顔で微笑み、箒ちゃんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
……どうやら二人共この話はもっと早く聞いていたみたいだね。
「……本気、なんだね」
私は既に決めた事である事を察した。
「ああ、その通りだ」
「しかしこれが正しい選択なのかは私にはわからん。だから束、」
お父さんは一息つくと、
「お前は自分の好きなようにやりなさい」
お父さんは私の目を見据えながらそう言った。
「私達より何倍、何十倍も頭の良いお前の事だ、何か考えがあるんじゃないか?」
「………分かった」
「お父さん、私は姿を消そうと思う」
お父さんの言葉を聞いて、私は皆を余計な危険に晒す為に取れなかった手段を使う事にする。すなわち私が世間から関係を絶つ事で私を狙う連中から身を隠そう、と言うわけだ。
「ふむ、場所に当てはあるのか?」
「うん、白騎士を造り上げる時に使った場所があるし、いくつか隠れ家を用意するつもりだよ」
お父さんの質問に私はそう答えた。
「姉さん、私達全員がそこに行くわけにはいかないのですか?」
箒ちゃんはすがり付く様に聞いてきた。その目には今にも零れそうな涙を溜めながら。
「箒ちゃん、私もそうしたいよ。でもそれは出来ないんだよ」
私は箒ちゃんには申し訳ないと思いながらもそう答えた。
「な、何故ですか!? 何故一緒ではいけないのですか!?」
箒ちゃんは遂に堪えられなくなったのかその目から涙を流しながら聞き返した。
「私達全員が居なくなれば今度は私達に近くの人、いっくんやちーちゃんを始めとした人が危険に晒されるからだよ」
「それに私だけならともかく私達全員だとどうしても目立っちゃうしね」
私は箒ちゃんを抱き締めながらそう言った。
「……うぅ、うぅああぁぁぁぁぁああああ!!」
……私はただ夢を叶えたいだけなのにどうしてこうなっちゃったんだろうね。
私は泣き続ける箒ちゃんを撫でながらそう思った。
「箒は泣き疲れて眠ってしまったか」
「箒もそれだけ貴女と離れたくないのよ」
「うん、箒ちゃんには寂しい想いをさせちゃうだろうね」
私達は私の胸の中で眠っている箒ちゃんを眺めながらそんな話をしていた。
「さて、と、私は箒を部屋に寝かせて来るわね」
「うん、よろしくねお母さん」
私は眠ったままの箒ちゃんをお母さんにそっと預けた。
「はいはい、それと何か食べたい物があったら今のうちに言ってね」
……こういう何気ない会話って有り難いものだね。
「私は何でも良いよ。お父さんは?」
「ふむ、そうだな。私は和食が良いな」
「ええ~お父さんまた~?」
「むう、和食が食べたいのだから仕方ないだろう」
私はからかう様に言うと、そっぽを向きながらまるで言い訳をするように言うお父さんに私とお母さんは同時に吹き出した。
「ふふ、では今日は和食にしますね」
「良かったねお父さん」
「まったく、あんまりからかってくれるな」
そして私がリビングを後にするお母さんを見送っているとお父さんが声をかけてきた。
「束、私に出来ることがあれば言ってくれ。出来る限り協力する」
「そっか。ありがとうお父さん」
お父さんに政府への返事をギリギリまで待ってもらう様に頼み、私はやるべき事を整理していた。
「まずはいっくんとちーちゃんにこの事を説明するのとちーちゃんの機体の完成を急がなきゃね」
「予備の隠れ家を用意しておくのと、ラボの整備もしないとね」
「……流石にいっくんの専用機を完成させるには時間が足りない、か。ならいっくんには薙刀の指導を出来る限りやることにしよう」
「さあ、とりあえず時間も無いことだし、やらなきゃいけない事を一つずつ片付けないとね」
さあ、やることは沢山あるんだ、寝てる暇なんか無いぞ、私。
そして政府に重要人物保護プログラムを受ける事を告げた三日後に私は姿を消した。
読んでいただきありがとうございます。