まあ、とりあえず第15話です。
5/23 加筆修正を行いました。
あれから一ヶ月が経ち、俺は第二回モンド・グロッソが開催されるドイツに来ていた。
「……時差ボケがキツい」
……まあ初っぱなからダウンしそうなんだけどな。
まさかここまで酷いとは思ってなかったんだが正直舐めてたな。
「……とりあえずホテルに行くか」
俺は眠気に屈しそうな体を引きずって予約していたホテルに向かった。
俺がドイツに来てから二日後、遂に第二回モンド・グロッソが開催された。
会場は様々な国の人で溢れていた。
皆、自国の代表選手の活躍を直に見に来た、ということなのだろう。
今やモンド・グロッソは世界中で最も注目されていると言っても過言ではないのだから当然といえば当然だった。
(しかしこれはスリなんかにも気をつけないといけないかもな)
俺はそんな事を考えながら競技が行われるスタジアムに足を運んだ。
そして射撃部門や機動部門等の競技を消化していき、残すところ総合部門だけとなった。
第二回モンド・グロッソも残り僅かといった所だろうか。
ちなみに昨日あった格闘部門ではやはり千冬お姉ちゃんがぶっちぎりで優勝していた。
イタリアのテンペスタやフランスのラファール・リヴァイヴといった所謂第二世代のISに対して束お姉ちゃん製とはいえ第一世代の暮桜を使い、圧倒的な差をつけた上で優勝した千冬お姉ちゃんは流石と言うべきだと思う。
そんななか俺は今、トイレに行くために一人でスタジアムの中を歩いていた。
もうすぐ競技が始まる為に辺りに人影はほとんど無かった。
そんななか、俺に黒服の男が近づいて来た。
「織斑一夏か?」
黒服の男が俺に名前を聞いてきた。
……なんか嫌な予感がする。とりあえずここは一旦様子を見るべきか?
「ええ、そうですが」
俺は自分の中の警戒レベルを上げながらそう答えた。
「そうか、ならば一緒に来てもらうぞ」
男は俺が目的の人物だと確認するとそんな言葉と共に殴り掛かって来た。
俺は驚きながらも黙ってやられるつもりはないので男の拳を腕で弾いて受け流していった。
ああ、クソ、一体何なんだよ!!
男が接触してきてから既に十分以上が経った。
既に競技は始まっているため辺りに人影は見当たらなかった。
……ちっ、第三者の手を借りてこの場を乗りきるのは無理か、というか警備員はなにやってんだよ。
そして相変わらず男は俺に対して拳を振るい続けていた。
此方も受け流した瞬間を狙って拳や蹴りを放つが力量はともかく経験の差が大きい為に決定打を入れられないでいた。
「くそっ、いい加減当たれ!!」
「そう言われて当たる奴がいるか!!」
痺れを切らした男が拳を振るいながらそう言うがこちらとて殴られるのは御免なのだ。
そう言いながらも俺はこの男の目的を考えていた。
(しかしこいつの目的はなんだ?千冬お姉ちゃんの優勝阻止か?それなら単独で来る意味なんて、いやまて
次の瞬間、背後に潜んでいたもう一人の男が手に持った何かで殴り掛かって来た。
俺は咄嗟に振り返るがそこで左目の辺りに衝撃を受けてそのまま気を失った。
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「ふん、ガキ一人に何をてこずっているんだ」
「悪い悪い、だが後はこいつをアジトに運ぶだけだな」
「ああ、さっさと行くぞ」
二人の男はそんなやり取りをすると気を失っている俺を担ぎ上げ、会場を後にした。
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「ん?いっくんのバイタルデータに異常?」
私はラボからちーちゃんの活躍を見ようとスタジアムのカメラをハッキングしていると別のモニターが警告を発した。
「一体何が…………ッ!? 急いでドイツに行かなきゃ‼」
私はいっくんに何があったのかを把握すると研究室を飛び出した。
「くーちゃん、
私は二人の返事も聞かないまま自分専用に造り上げた機体を纏って飛んでいった。
「お願い……無事でいてね、いっくん」
「……い………ほ……せい……に……………だよ……」
……ここは、何処だ? 俺は確かスタジアムで襲われて、それで……あぐっ!?
俺は一先ず状況を整理しようとするが左目に走った激痛に思わずうめき声を上げた。
「ん? よう、目が覚めたか?」
俺が目を覚ました事に気づいた男が声をかけてきた。
……ちっ、気づかれたか。取り敢えずは時間稼ぎをしておこう。
「……何が目的だ」
「ああ? んなもん織斑千冬の優勝阻止だよ」
俺が問いかけると男はニタニタと実に嫌らしい笑みを浮かべながらそう言った。
千冬お姉ちゃんの優勝阻止か……思った通りだな。しかし困ったな、手足は縛られた状態でおまけにさっき殴られた時に左目をやられたようだし、これからどうしたものか。
「お、おい‼ 織斑千冬が決勝戦に出てるぞ!!」
「なんだと!? おい、本当に日本政府に言ったんだろうな!?」
「あ、当たり前だ!!」
この部屋に備え付けられたモニターには圧倒的な強さで相手を切り捨てた千冬お姉ちゃんが写っていた。
……ちょっと本格的に不味いな。こいつらが俺に対して遠慮する必要が無くなった。
「あらあら、この子は日本政府に見捨てられたみたいね」
新たにやって来た女がそう言った。
さらに新手か……ISがあればまだ可能性があるんだけどな。
「お前らはいったい誰に雇われた?」
俺は時間稼ぎの意味も込めて女に対してそう問いかけた。
「あら、なかなか頭は良いみたいね? 普段なら教えない所だけど、良いわ教えてあげる」
「私達にあなたを拐うように依頼してきたのは亡国機業ね」
「亡国機業?」
俺は何処かで聞いた単語を聞いてそのまま聞き返した。
「なんでも第二次世界大戦中から存在している歴史あるテロ組織らしいわ。そんなテロリストに狙われるなんて、坊やも運が無いわね?」
…………白騎士事件の黒幕が関わっている? しかし奴らが俺を狙う理由は?
俺は奴らの事を考え、思考の海に沈んでいたが突然体に走った激痛によって意識を引き戻された。
俺は体に走る激痛で思考を乱されながらも女の方に視線を送る。
すると女が懐から取り出した何かの薬品の詰まった注射器を俺に突き刺していた。
「ぐッ!? がぁぁぁぁああああぁぁぁぁあ‼!?」
そして俺は痛みに堪えきれずに叫び声を上げた。
俺は地面に倒れ込み、のたうちまわる。
「どう?なかなかの痛みでしょう? それは遅延性の毒で、毒が全身に回るまで痛みが続くのよ」
こ、この野郎、何て物使いやがる!?
くそッ!! 俺はこんな所で死ぬ訳にはいかないんだよ‼
それからニ十分ほど経った。俺は途切れそうな意識を何とか保っていた。
「さて、そろそろ潮時かしらね、じゃあね坊や。恨むんなら自分の姉でも恨むことね。行くわよ、あなた達」
毒に苦しむ俺の様子に満足したのか、そう言ってこいつらはこの場所から出ていこうとした。
…………思えばコイツらはさっさと此処から立ち去るべきだった。
それがコイツらの間違い。
「おい、こんな事をしたお前らを私が逃がす訳無いだろうが」
「全くだね。それにしてもこんなに人が憎いと思ったのは初めてだよ」
気を失う前に俺のよく知る人達の声が聞こえた気がした。
はは、ざまぁみろ。クソ野郎ども。
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「お、織斑千冬に篠ノ之束!? な、何故この場所が!?」
誘拐犯達はいるはずの無い私達を見てあからさまに狼狽えだした。
まあ私も束が来たのは予想外だったがな。
「ちーちゃん、あの女は私が潰すよ」
「その役目は私だ、と言いたい所だが良いだろう、譲ってやる」
私達はある意味呑気とも言える会話をしながらも一切誘拐犯から目を離さない。
「う、うわあぁぁぁあああああああ!!!?」
そして私達の放つプレッシャーに耐えきれなくなった一人の男が奇声を上げながら私に対して手に持った鉄パイプで殴り掛かって来た。
「ふん‼」
舐めるな。そんなぬるい攻撃が私に当たる訳無いだろうが。
私は降り下ろされる鉄パイプを体を僅かにずらす事でかわし、そのまま男を壁に向かって蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた男は壁にぶち当たりそのまま気を失ったようだ。
さあ、次はお前だ。
私はそんな視線をもう一人の男に送る。
「ヒッ!?」
その視線を受けた男は情けない声を上げながら後ずさる。もはやその瞳には恐怖しか写っていなかった。
そして私は一瞬で距離を詰め、男の顎をアッパーで打ち抜いた。
男は吹き飛んで天井に激突しそのまま地面に落下してきた。
「さて、束の方は……特に問題は無いな」
まあ、あの程度の奴にアイツを倒せる訳は無いだろうしな。
束の方を見るとあの女の腹に拳を突き刺しているところだった。
……しかしあの女をやたらボコボコにしているが何を言われたんだ?
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「全く、随分好き勝手やってくれたね?」
ひょっとしたらここまで怒るのってはじめてかも。ああ、頭に血が昇ってどうにかなりそうだよ。
正直今すぐコイツを叩き潰したいんだけど……でも先に聞いておくことがある。この女を潰すのはそれからでも遅くない。
「おい、いっくんは何であんなに苦しんでる?」
「ふ、ふん、さあ? 打った毒が効いてきたんじゃない?」
この女は私の放つプレッシャー怯みながらもそんな事を抜かした。
………………へぇ?ナンテイッタコイツ?イックンニドクヲウッタッテ?
私の視界は真っ赤に染まった所で私の記憶は途切れた。
再び意識が戻った時、私はちーちゃんに羽交い締めにされていて、あの女は原形を留めておらず、既に虫の息といった様子だった。
……ええと、私がやったんだよね? 全く記憶が無いんだけど……っていっくんがヤバイんだった!?
「ちーちゃん、もう大丈夫だから離して!! いっくんがヤバイ!!」
「ッ!! 分かった!!」
そう言うとちーちゃんは私を離した。
いっくんの傍に行って状態を確認するがかなりまずい状態だった。
「ちーちゃん!!ちょっといっくんを押さえつけて!!」
私は治療用ナノマシンの準備をしながらそう言った。
「分かった!!」
いっくんが動かないようにちーちゃんが押さえているところに私はナノマシンをいっくんに打った。
「ハァ…………ハァ…………」
相変わらず苦しそうだけど少し呼吸は楽になったみたいだね。
さて、後は鎮痛剤を打って、と。
「うん、これで何とかなる筈だよ」
私がそう言うとちーちゃんは安心したのか地面に座り込んだ。
しばらくして落ち着いた所でいっくんの捜索に協力してくれたドイツ軍の部隊の隊長がやって来た。
「どうやら無事に、ではないですが生きて助けられたようですね」
隊長さんはいっくんの様子を見た後、私とちーちゃんに対してそう言った。
……ふーん?私を見てここまで普通に対応してくるなんてね。少し興味が湧いたよ。
「ねえ、君の名前を聞かせてよ」
「私はドイツ軍IS部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長を務めています、クラリッサ・ハルフォーフ中尉です」
私が隊長さんに名前を聞くと敬礼をしながら答えた。
「では我々は誘拐犯を連行しますのでこれで失礼します。此処の調査の為に何名か残して行くので何か御座いましたら彼女達にお申し付け下さい」
「そうかい。何から何まで悪いね」
「いえ、任務ですので」
彼女はそう言うと縛り上げた犯人達を連れてこの場を後にした。
「さて、ちーちゃんはこれからどうするの?」
ドイツ軍が撤収した後私はちーちゃんに問いかけた。
「私か? 私は来週からドイツ軍で教官をするぞ」
そっか。でもそれっていろいろと問題があるんじゃないかな?
「それって日本政府が煩いんじゃないの?」
「それならもう国家代表選手を引退してきたから問題は無いし、ドイツ軍に一夏の捜索を手伝ってもらう条件だったからな」
ちーちゃんは、それに、と前置きをして、
「私は一夏を見捨てようとした奴等に従うつもりは無い」
なるほどね、まあ日本政府もここまで不義理を働いたんだ、当然だね。
「それならいっくんはちーちゃんと一緒にドイツに行くの?」
私はそう聞くがちーちゃんの答えは私の斜め上を行くものだった。
「いや、ドイツには連れては行かん、だから束」
「お前の所で一夏を預かってくれないか?」
読んでいただきありがとうございます。