be with you いつもそばに   作:グリアノス

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第2話です。



5/5 加筆修正、と言うよりほぼ書き直す事になりました。

内容の変化に伴い、サブタイトルを変更しました。


第2話 努力の先

僕が篠ノ之道場に入門してから1ヶ月が経った。

 

僕は今までこういった事をしたことが無いのもあって、入門してからひたすら体力作りと素振り、基本となる足運びを繰り返していた。

 

うーん、たまには違うこともしたいな。同じことばかりじゃつまらないよ。

 

僕は竹刀を振りながらそんなことを考えていると束お姉ちゃんが声をかけてきた。

 

「おやおや、随分と稽古に身が入って無いけどどうしたんだい?」

 

「あ、束お姉ちゃん」

 

僕は束お姉ちゃんに思っている事を言おうと思い、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……なるほどね、今やってる事以外にも何かやってみたい、か。まあいっくんの気持ちも分からないでも無いね。人は誰もが意味の見出だせない事を嫌うから」

 

基本的に人間は退屈を嫌うし、いっくんの気持ちはむしろ普通だろうね。実際それに耐えられずに基礎を疎かにする子は沢山居るからね。

 

「稽古を退屈に思ういっくんの気持ちはある意味普通だよ。でもねいっくん、何事も基礎が大事なんだよ。地味で退屈な基礎を怠ると人は成長出来ないのさ」

 

私がそう言うといっくんはあと一歩納得しかねている表情をした。

 

「ねえいっくん、ちょっとここで待っててくれる?」

 

「? うん」

 

いっくんの返事を聞いた私はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何? 一夏に本気の試合を見せてほしい?」

 

「うん、駄目かな?」

 

私は少し離れた場所で稽古をしていたちーちゃんの所に来ていた。

 

「まてまて、駄目では無いが一先ず理由を聞かせろ」

 

「いっくんに基礎の先に何があるのかを見せたいんだよ」

 

するとちーちゃんは私の言いたい事を理解したようだった。

 

「なるほど、一夏の奴、"あれ"に陥ったな?」

 

「理解が速くて助かるよ」

 

「そういう事なら良いだろう。しかし相手はどうするんだ? 私の相手をお前がするわけにはいかんだろう?」

 

うーん、やっぱり一番の問題はそこだよね。今回に限れば私が前に出たら意味が無いからね。諭す側は前に出るんじゃなく諭す相手の傍に居なきゃいけないからね。

 

「……やっぱりお父さんに頼むしかないか」

 

「……良いのか?」

 

私が箒ちゃん以外の家族を苦手としている事を知っているちーちゃんは私に聞き返した。

 

「良いも悪いもこれしか方法が無い以上しょうがないよ。それじゃあ、行ってくるからそのつもりでいてね」

 

そう言いながら私はお父さんの元へ向かった。

 

……はぁ、気が重い。

 

 

 

 

 

 

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「……アイツがここまで一夏に入れ込むとは思わなかったな」

 

柳韻さんの元へ足を運ぶ束を見送りながら私はそう呟いた。

 

私は一夏ならアイツを良い意味で変えてくれるかもと思っていたが、アイツにとって一夏の存在は私が思う以上に大きいみたいだな。どうでも良い奴に対してここまでする理由は無いからな。

 

「さて、アイツらの為にも無様な姿は見せられんな」

 

さあ、気を引き締めていこうか。

 

 

 

 

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「お父さん、頼みたい事があるんだけど」

 

…………今なんといった? 束が私に頼みたい事がある?

 

「す、すまない、もう一度言ってくれるか?」

 

「だから頼みたい事があるんだってば」

 

束は少し居心地が悪そうな表情を浮かべながらそう言った。

 

「そうかそうか!! 頼みとはなんだ? 私に出来る事ならなんでもしよう!!」

 

「う、うん」

 

束は私の勢いに少し引き気味だったが今の私はそんな事など全く気にならなかった。

 

「実はちょっとちーちゃんと試合をしてほしいんだよ」

 

束は雰囲気を真面目なものに変えて私にそう言った。

 

「千冬ちゃんと? 理由を聞かせてくれ」

 

私も浮かれる気持ちを静めて束に聞き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………っていうわけだよ」

 

私はちーちゃんに言ったことをお父さんにも説明していた。

 

「……なるほどな。それで私の所に来たか。分かった、協力しよう。他の皆にも良い刺激になるだろうからな」

 

お父さんはそう言うと私は安堵した。

 

……ふぅ、ここで断られたらどうしようかと思ったよ。

 

「準備をしたらそちらに行くからお前の方でも準備をしておいてくれ」

 

「分かったよ」

 

さて、ちーちゃんの所に戻らないと。

 

……あ、良い機会だから箒ちゃんにも見てもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、箒ちゃんは何処かな?」

 

私は箒ちゃんを探す為に道場の中を見渡した。

 

すると他の門下生の子達に混ざって稽古に励む箒ちゃんを見つけた。

 

「箒ちゃーん、ちょっと良いー?」

 

ひたすら竹刀を振るい続けていた箒ちゃんは私が呼んでいるのに気づき、素振りを一旦やめて私に向き直った。

 

「姉さん、どうかしましたか?」

 

「むー、お姉ちゃんでも良いのに……っとそれは今は良いや。これからちょっと面白いものが見れるんだけど一緒に見ない?」

 

「面白いもの?」

 

箒ちゃんは話が見えないといった様子で首を傾げていた。

 

「このあとお父さんとちーちゃんが剣道の試合をするんだよ」

 

「本当ですか!? 見ます!!」

 

私が試合の事を話すと箒ちゃんは凄まじい食いつきぶりを見せた。

 

「ふふ、それじゃあ行こうか」

 

私は箒ちゃんを伴ってちーちゃんの所に戻って行った。

 

「ちーちゃん、それじゃあよろしく頼むよ」

 

「やれやれ、箒も見るのか。なおのこと無様な姿は見せられんな。だがまあ任せておけ」

 

うん、ちーちゃんも気合充分、いつでもいけるみたいだね。

 

すると奥から準備を終えたお父さんがやって来た。

 

「千冬ちゃん、準備は良いか……等と聞くだけ野暮だな。早速始めようか」

 

「そうですね。では一本お願いします」

 

ありゃ、二人とも既に私達の事が見えてないや。

 

「さ、ここは二人の邪魔になるから移動しようか」

 

「はい、分かりました」

 

あ、周りの皆にも声をかけないとね。

 

「……スゥ……皆ー、今からお父さんとちーちゃんが試合をするから今やってるのを一時中断して場所を空けてくれるかなー!!」

私は道場全体に聞こえるように言い、いっくんの所に戻った。

 

 

 

 

 

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ちょっと待っててと言われた為にしばらく束お姉ちゃんを待っていると、どうやら千冬お姉ちゃんと柳韻さんが剣道の試合をするみたいだった。

 

すると向こうから束お姉ちゃんが箒を連れて戻ってきた。

 

「お待たせ、いっくん。箒ちゃんも一緒でも良いかな?」

 

「うん、大丈夫だよ。束お姉ちゃんはこれを見せたかったの?」

 

「そうだよ。もしかしたら……っと、もう始まるみたいだね」

 

束お姉ちゃんは言葉を途中で切って試合を見るように促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕達が視線を向けると千冬お姉ちゃんと柳韻さんが竹刀を構えて向き合っていた。

 

道場全体が静寂に包まれる中、審判が試合開始を告げた。

 

「おおおおおおおッ!!!!」

 

「あああああああッ!!!!」

 

試合開始と共に二人は気迫の伴った声を上げ、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

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くッ!! やはり手強いッ!!

 

私は柳韻師範と打ち合いながら心の内でそう呟いた。

 

実際、私は既に何度か有効打をもらいそうになっていた。

 

意識を研ぎ澄ませ。

 

気を抜くな。

 

気を緩めた瞬間に負ける。

 

私は集中力を極限まで高め、柳韻師範に向かって行った。

 

 

 

 

私が上段から竹刀を降り下ろすと柳韻師範は竹刀の鍔に近い所で受ける事で最小限の力でかわし、私に引き胴打ちを放ってきた。

 

私は後ろに下がる事で引き胴打ちをかわした。

 

そして再び私は踏み込んで柳韻師範に抜き胴を放った。

 

だが私が抜き胴を放った瞬間、柳韻師範が面越しに笑った様に見えた。

 

私は嫌な予感を感じて、咄嗟に腕を逸らした。

 

柳韻師範は私の放った抜き胴に合わせて小手打ちを繰り出してきた。

 

私は柳韻師範の小手打ちを受けたが審判の判定は無効を示した。

 

とはいえ柳韻師範もこれで終わるとは思っていなかったらしく、小手打ちが決まらなかったと感じた瞬間、体勢を立て直して上段から面打ちを放ってきた。

 

私も何とか体勢を立て直して柳韻師範と同じように上段から面打ちを放った。

 

バシイイイイインッ!!!!

 

そしてお互いの竹刀がほぼ同時に相手の頭を捉えた。

 

「一本!」

 

そして勝敗を告げる審判の声が上がった。

 

 

 

 

 

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…………い、今まで僕が見てきたのは何だったんだ。

 

僕は目の前で繰り広げられた圧倒的な試合に僕は衝撃を受けていた。

 

「いっくん、これがひたすら基礎を固めて、更に努力し続けた人達の闘いだよ」

 

「まあ、あの二人は剣の才能もあるんだろうけどね。どうだい、お父さんやちーちゃんはとっても強いだろう?」

 

「本当にそう思うよ。箒はどう思う?」

 

「そうだな。あの強さは憧れるな」

 

箒も僕と同じように感じたらしいね。

 

「おい束、あんまり誉めてくれるな。どうにもむず痒くてかなわん」

 

「柳韻師範の言う通りだな。それに勝ったのは柳韻師範で私は敗者だぞ」

 

僕達がそんな話をしていると、向こうから試合を終えたお父さんとちーちゃんがやって来た。

 

「二人共あれだけの試合をしたんだから称賛位素直に受け取りなよ。過ぎた謙遜は嫌味だよ?」

 

束お姉ちゃんの言葉に二人は揃って肩を竦めた。

 

「何にせよ、いっくんにとってさっきの試合は意味のあるものだったかい?」

 

「うん」

 

実際、試合を見てから僕の中である感情が沸き上がっていた。

 

(ああ、僕も千冬お姉ちゃん達みたいに強くなりたい!!)

 

僕は手を握り締めながらそう思った。

 

 

 

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どうやら、いっくんは自分なりの答えを見つけたみたいだね。

 

大方、あの二人みたいに強くなりたいって所かな? いっくんも男の子だね。

 

ふふ、私は応援しているよ。

 

だから頑張れ、いっくん。




読んでいただきありがとうございます。
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