なんとか今月中に投稿出来ました。
あまり長くないですがどうぞ、第23話です。
「で、いっくん。私は誰と交渉すれば良いのかな?」
「ああ、交渉してもらいたいのは更識楯無っていう人だよ。この人はドイツから帰ってきた俺の護衛を務めてくれた人物で、人柄はこのご時世であってもなかなか信頼出来ると思うよ」
束さんの質問に俺は考えている事をそのまま伝えると、マドカが言葉を挟む。
「一夏兄さんの護衛を務めたって事はその更識楯無は日本政府と繋がりがあるって事か」
「そうなるな。だから束さんには交渉の前段階として更識家に亡国機業が関わっているかどうかを調べてほしいんだ」
「ではその調査は私がやりますよ。お母様は此処の廃棄を進めてください」
「くーちゃん……うん、なら更識家の調査はくーちゃんにお任せしよう! それにくーちゃんの腕を持ってすれば足が着くことも無いだろうしね」
束さんのお墨付きって…………クロエ、お前凄いな。
俺が素直な称賛の籠った視線をクロエに向けるとクロエは大船に乗ったつもりで任せろと言いたげな目をしながらサムズアップをしてきた。
こりゃ心配するだけ野暮みたいだな。
「なら束さん、俺とマドカにも指示をくれるか? 何もしないのは気分が悪い」
「ああ、一夏兄さんの言う通りだ。出来る事があれば遠慮無く言ってくれ」
「ふふ、勿論二人にもやって貰いたい事は沢山あるよ」
束さんは俺とマドカにそう言うと早速指示を出してきた。先ずは、データベースの複製を作る、か。大変そうだが任された以上、抜かり無くやらないとな。
それじゃあ俺達も取り掛かるとしようか。やることは沢山あるんだからな。
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ふむ、こうして物事を語るのは初めてとなるから此処では初めましてと言っておこうか。
私は更識楯無という者だ。主に要人の警護や諜報活動を生業とする、所謂暗部と呼ばれる一族の当主をしている。
今、私は東京湾に面している埠頭にとある少年に呼び出されている。私を呼び出した少年の名前は織斑一夏。数ヶ月前に警護を請け負った少年で、現在は行方不明になっていて日本政府からも捜索の指示が出されていた。
その少年が私に対して突然連絡を取ってきた。何でも大切な話があるそうで、政府には伝えずに此処まで来てほしいと言われたのだ。
一応、日本政府には報告はせずに来たが、しかし彼の目的が解らんな。罠の可能性もあるが同行者には我々の擁する人員の中でも選りすぐりを数名選び、周囲に配置してある。それに万が一の際は刀奈に楯無を継がせれば問題は無い。
と、そろそろ指定された時間だな。さてさて、鬼が出るか蛇が出るか…………
「おやおや、どうやら少し遅刻してしまったかな?」
「…………貴女は」
…………これは予想外と言わざるを得ないな。此処には彼が来ると聞いていたのだが彼女がどうして此処に居るのだろうか。
「いや、時間通りだ。そのような事はないから安心すると良い。しかしこの場には織斑一夏君が来るはずだったが、まさか貴女が来るとはな。篠ノ之束博士」
いやはや、藪をつついて出てきたのが鬼でも蛇でもなく兎だとは誰が予想出来ようか。しかし何故彼女が私の前に現れたのかが全く解らん。彼女はにこやかに笑顔を浮かべるだけで何を考えているのかすら察する事は出来ない。
「貴方とコンタクトを取る事を私に薦めたのはあの子だよ。まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に聞くよ」
「この私、篠ノ之束は亡国機業を壊滅させる為に、いや“消滅”させる為に更識家の力を借りたい」
亡国機業か…………ここでその名を聞くとはな。私が秘密裏に追っているテロリストに彼女も浅からぬ因縁があるのだろうか。
奴等は私から妻を奪い、簪をも奪おうとした怨敵だ。それに対して篠ノ之束と協力関係を結べるというのはメリットが非常に大きい。
「それは秘密裏に、という事だろうか?」
しかしまだだ、まだ情報が足りない。安請け合いすれば己を滅ぼす。
「無論、そうなるね。奴等の手は世界中に伸びている。まるで金属すら食べ物にするカビのようにね」
「そしてそれは日本政府も例外ではないと?」
「そう、更に言えば国際IS委員会もね」
…………開いた口が塞がらんな。そこまでとなると我が更識家ですら奴等の息がかかっている者も居るのかもしれん。
「ああ、そうだ。貴方にはこれを渡しておくよ」
そう言って投げ渡されたのは一つのUSBメモリー。これは一体……?
訝しむ私に彼女は投げ渡したUSBメモリーについて説明を始めた。
しかしここでも私は度肝を抜かれた。何でも内容は更識家や日本政府に潜む内通者や協力者に関するデータだというのだ。これで驚くなというのは無茶だろう。
「この事は誰にも言わずに貴方だけで決めてほしい。とはいえ、即答出来るような問題でもないだろうから一週間だけ待とう」
一週間か…………確かにありがたくはあるな。今は私の考えは協力するのも吝かではないという程度だが、このUSBメモリーを確かめる時間を確保出来るのは大きい。
恐らく私がこう考えているのも読まれているのかも知れないが無闇に反発する必要もないな。
「わかった。ならば一週間後に落ち合う場所は何処だろうか?」
「それは追って連絡しよう。それじゃあ良い返答を期待しているよ。あ、でも次に会うときは護衛なんて連れて来ないでくれよ更識楯無」
篠ノ之博士はそう言うと忽然と姿を消した。まるで最初から誰も居なかったかのように辺りを静寂が支配する。
…………いやはや、こっそり配置した護衛にすら気づいていたとは何処までも規格外だな篠ノ之束は。しかしそのまま話をしたということは今回連れて来た者は白と考えても良いのだろう。
いやしかし、彼女はひょっとすると武術の心得があるのかも知れんな。機会があれば一本手合わせしてみたいものだ。
私はそんなことをとりとめもなく考えながらこの場を後にした。
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「────こんなもので良いかい。いっくん」
「ああ、バッチリだ束さん」
いやー、慣れない事は疲れるねぇ。駆け引きなんて面倒なことは出来るならもうしたくないよ。
上空で万が一に備えて見ててくれたくーちゃんとマドちゃんも随分と疲れただろうし、たっぷりと労ってあげないとね。
「くーちゃんとマドちゃんもありがとう。拠点に戻るからもう降りておいでよ」
私がそう言うと近くにそれぞれ専用機を纏ったくーちゃんとマドちゃんが降り立った。
「マドカ、クロエ、お疲れ様だ。二人が居てくれて助かったよ」
いっくんの言う通りだね。私もいっくんも奴等に標的にされてるから、取れる手段は選んでられないし。
本当に目障りな奴等だ。私達はただ宇宙に行きたいっていう夢を叶えたいだけなのにね。
「さて、皆は今夜何か食べたいものはあるか? 無茶なものじゃなければリクエストに答えるぞ」
まあ今は忘れよう。そんな連中より今はいっくんの作るご飯の方が大事だからね。
「いっくん、私はハンバーグが良いな」
「一夏さん、私はカレーが良いです」
「兄さん、私はエビフライだ」
おおう、皆見事に意見が分かれたね。というかくーちゃんの好むカレーって私とマドちゃんにはキツい、いや食べれないんだけど………
横目でマドちゃんを見るとカレーと聞いて若干青くなってるし。
「ハンバーグにエビフライにカレーか…………よし、いっそ全部作るか。体には良くないかもしれないがたまには良いだろうし。あ、カレーは束さんとマドカには別で作るから安心してくれ」
ああ良かった、なら安心だ。マドちゃんもほっと息をついてるから私と似た心境なんだろうね。
というかいっくんは健康面にはうるさいから全部作るっていうのは少し意外かもね。
「たまには目一杯食べるのも悪いことじゃないからな。ここしばらくは皆忙しかったし、こういうので疲れを癒してほしいんだよ」
…………狙ったかのようなタイミングだね。もしかしていっくんは束さんの思考が読めるのかな?
「時々だけどな」
そっか。いっくんなら別に嫌じゃないから良いんだけどね。
「なら良かった」
「一夏さん? さっきから誰に向かって話してるんですか?」
「ん、なんでもないぞ」
あー、今のはいっくんが一人で喋ってるようにしか見えないか。ごめんねいっくん。
「よし、それじゃあ気を取り直して食材を買い揃えて拠点に戻ろうか」
そうしよっか。お腹も空いてきたしね。
そして今夜は豪勢な夕食に皆が満足そうにしていたのが凄く印象的だったね。
勿論いっくんも私もだよ?
読んでいただきありがとうございます。