be with you いつもそばに   作:グリアノス

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第24話

未だ夜が明けない朝方と言うには些か早い時間。辺りを月明かりが薄く照らし出す山奥の一角で、長柄の武器を構え合う男女が居た。向かい合う二人とは言うまでもなく一夏と束だ。

 

二人の周囲を風がザザッと音を立てて通り抜けるがお互いに見動きひとつしない。

 

お互いの距離は10m程で、二人からすると一瞬で詰められる間合いである。動かないのは迂闊に先手を打てば攻め手を封じられた上に打ち倒されてしまうからだ。

 

このまま時間だけが過ぎ去るかと思われたが、それは二人の視界に割って入った木の葉によって膠着状態は破られた。

 

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

二人は狙ったかのように同じタイミングで短く息を吐くと、刹那にも満たない文字通り一瞬でお互いの武器を相手に振るう。

 

ガカァンッ!!

 

木製の柄が勢いよくぶつかり合い、大気を振り切るような風切り音と硬質なれど軽量な音が暗い山奥に響く。

 

一夏と束は一息の間に一合、二合とお互いの得物をぶつけ合う。

 

ガカァッ!! ガコォッ!! ガカカァッ!!

 

ちなみに今、二人が行っているのは夜間での視界が十分に利かない状況での戦闘を想定した掛り稽古である。使用する装備も木製のものである。

 

が、木製といえど侮る事無かれ。この稽古は実戦を想定している為に防具を装備せずに行っている為、受け損なって頭部を始めとした急所に食らえば下手をすれば死に繋がる事は想像に難くない。

 

それ故、稽古を付けられる側の一夏は内心では大慌て、冷や汗を大量にかきながら必死に束の猛攻をいなしながら一撃一撃を繰り出していく。

 

始めた当初はまともに打ち合う事すら出来ずに一方的に打たれるばかりだったが、徐々に気配を感じ取る事が出来るようになったのか今では十分以上も続けている。

 

「ふふ、いっくんも粘るようになったね」

 

「当たり前だろ。いつまでも守ってもらうばかりじゃカッコつかないからな」

 

「おっ、流石男の子。束さんにそこまで言ったのは君くらいだよ」

 

「いつか束さんも超えるよ。俺は」

 

「そうかいそうかい。束さんも楽しみにしてるよ」

 

一夏がそう言って啖呵を切ると束の繰り出す一撃の鋭さが増した。今までのものですら辛うじて凌いでいたのに、先程より苛烈になった攻めを前に一夏は体勢を立て直す事すら儘ならないままに追い詰められていく。

 

「うおっ!? ちょっ、容赦無さ過ぎだろ!!」

 

「おいおい、さっきまで格好良くキメてた啖呵はどうしたのかな? ああでもこれくらいで根を上げるっていうのならもっと手加減しないといけないね?」

 

「クソッ! やれば良いんだろ!!」

 

束の無闇に煽る言い方にカチンときた一夏はどうにかして一泡吹かせようと思い、意識を研ぎ澄ませて攻撃をいなし続ける。

 

柄で全ての力を受け止め続ければすぐに限界が来る。角度をずらして力を可能な限り受け流す、または力が乗り切らない場所である束の手元付近を狙って受ける事でなんとか凌いでいく。

 

もちろん全ての攻撃を防ぎきる事は今の一夏には不可能。かわし損なった攻撃は容赦無く一夏の体を殴打していくが、一夏は数度目からは大きく負傷しない程度のものは体にかすらせるようにしてあえて受ける事で致命打を受けないようにしていった。

 

そう言った事を五分程続けた辺りだろうか。一夏は束の放った一撃を受け損ない、武器で防ぐ事もままならないままに顎に攻撃を受けた。

 

「がっ!?」

 

束の一撃をその身に受けた事で脳を揺さぶられた一夏はたたらを踏んでよろめく。

 

「ここまで、かな」

 

束は顎を砕かない程度に力を加減したとはいえ、打ち込み自体に手心を加えたわけではない。常人ならば意識を刈り取られて倒れ込むだろう。

 

束自身もそう思っていた。

 

ブォアッ!!

 

「うそっ!?」

 

一夏は戦闘不能だと思い込んでいた束に冷や水をぶっかけるかのように振るわれる一夏の薙刀。束は目を大きく見開きながらもなんとかかわす。

 

「…………どうなってる?」

 

束は様々な疑問をないまぜにした呟きを一人口にした。

 

 

 

 

 

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一方の一夏は自身の意識に靄が掛かったかのような感覚に陥っていた。しかし地に足をつけていないかのような浮遊感とは裏腹に一夏の五感はどんどん鋭敏になっていく。

 

まず、一夏の聴覚から音が消えた。そして次に視覚に映る映像がモノクロに変わり、コマ送りになったかのようにスローモーションになった。

 

見えるのだ。

 

先程までかわせないとあえて受けていた攻撃も、力を流し損ねて苦悶の表情を浮かべていた攻撃も、全て。

 

今の一夏には一切合切全ての攻撃がどこに来るのか見えていた。

 

「!」

 

束が異変を感じ取ったのはすぐの事、切っ掛けは打ち込んだ時の手応えの軽さ。それから月明かりに照らされた一夏の顔や目から表情が抜け落ちていたのを見た事で束は確信した。

 

「無我の境地ってやつか」

 

全力と遜色ない一撃を放っても一夏の表情は揺らがない。

 

当然だ。半ば無意識で薙刀を振るう一夏の目から感情が読み取れる筈も無い。

 

そんな中、一夏の攻撃を凌ぎながら他の事に意識を割いていた束は目元に飛んできた木の葉がほんの一瞬、束の右目に死角を作り出す。

 

刹那にも満たないまさに一瞬だけ生じた極僅かな隙。されど致命的な一撃に繋がりかねない見せてはいけない隙。

 

これを一夏は見逃さなかった。

 

今までの一夏からは考えられない程の鋭さをもって放たれた一撃が束の頬を掠めると、つぅっと一筋の血が流れた。

 

「いやー、血を流したのは随分と久しぶりだねぇ」

 

束は傷口から流れ出る血を指で一掬いするとそれを感慨深いと思いながら見つめる。

 

「私に傷を負わせた事は褒めてあげるよいっくん。繰り出す一撃一撃も普段とは段違いに鋭い。けどね」

 

無駄の無い動きから繰り出される攻撃を紙一重でかわし続ける束。不意を突かれた先ほどとは違い、一夏の攻撃を危なげなくかわしながら微笑みすら浮かべていた。

 

「寝たままだと読み合いも出来ない以上、私を超えるには至らないね。だからいつか自分なりの速度でそこまで登って来ると良い」

 

束は一夏にそう言うと手首を打ち据えて手から得物を奪うと、顎を横合いから弾き間髪を開けずに鳩尾を打ち抜いた。その一撃で限界を迎えた一夏は重力に逆らう事なく倒れ込む。

 

しかし地面に倒れ込む前に束は一夏を自分の腕の中に抱き止めた。

 

「しかし私は君には驚かされっぱなしだよ。流石は私のパートナーだねいっくん」

 

お互い汗だくの汚れまみれといった有り様だが、一夏はすやすやと寝入っており束も一夏の頭を優しく撫でていた。

 

一夏と束の周囲は静寂に包まれ、今や二人から発せられる音は僅かな息遣いのみ。真夜中の山中で二人の事を見ているのは木々の隙間から覗く月のみだった。

 

 

 

 

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「しかし今回の一件は荒れるだろうね…………」

 

自分の膝の上に一夏の頭を乗せて撫でていた私は少し考え事をしていた。内容は三日後に控えた更識楯無との会談だ

 

平穏無事に終われば万々歳。しかし奴らが絡んでいる以上、ただでは終わらないだろうね。会談と平行してある作戦を実行していくつもりだけど、いかんせん人手が足りないね。

 

「こちらは常に安全性皆無の綱渡り。全くもっていやになるね…………」

 

「それでも俺達がやらないといけない…………だろ?」

 

下から聞こえてきた声に視線を落とすとぱっちりと目を開けていたいっくんが目に映った。私はにこりと笑顔を浮かべるといっくんの髪を手で通してみる。

 

うん、男の子なのに意外とサラサラだね。

 

「おやおや、お早いお目覚めだねいっくん。結構本気で打ったから朝まで起きないと思ってたよ」

 

「目が覚めただけだけどな。体自体はまだ動かないよ」

 

「そうかいそうかい。なら動けるようになるまでは束さんの膝枕を堪能すると良いさ」

 

「そいつは役得だ。しかし二人して酷い格好だな」

 

くくっと笑いながらいっくんは愉快そうに笑う。言われてみれば二人揃って泥だらけの汗まみれで、いっくんが笑い出すのも無理はないね。

 

「ふふふっ、いやいや全くだね」

 

しかし、思いの外気分は悪くない。月も綺麗だし、稽古でもたまにはこうやって夜にするのも良いものだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぁ…………」

 

それからしばらく俺と束さんはとりとめのない話をしていたんだが、夜も随分と更けてきたな。

 

時間は…………2時くらいか。うん、眠くもなるわけだ。

 

「いっくん、そろそろ拠点に戻ろうか」

 

「ああ。そうしよう、と言いたいところなんだがまだ満足に体が動かないんだ」

 

あー、体が動かないのはやっぱり不便だな。話によれば俺が普段以上の動きをした事と束さんに叩きのめされたダメージが原因らしい。まあ基礎鍛錬は普段から欠かしていなかったから、半日もすればまたいつも通りには動けるらしい。

 

いやはや、こういう時に基礎はやってて良かったと思うよほんとに。

 

…………しかし問題はまったく解決してないんだけどな。半日もすればとは言ったものの、それまでは碌に動けないってわけだからどうにもなんねえ。

 

さて、どうしたもんかね。

 

「あ、帰りは私が抱えて行くから大丈夫だよいっくん」

 

「……………………はっ?」

 

聞き間違いか? 今何かすごい事を言われた気がするんだが…………

 

「だから私が抱きかかえて行くから大丈夫だよいっくん」

 

「さっきと変わってるぞ!?」

 

「ええ〜、だけどこんなとこにいつまでもいたら風邪引いちゃうし」

 

「ちょ、待ってくれ束さん!」

 

そんなやり取りをしながらも俺は束さんに体を起こされる。男の身でありながら軽々と起こされるのには僅かに抵抗が、ってそんな事言ってる場合じゃねえ!

 

「あーもう、聞き分けのないいっくんにはこうだ!」

 

「むぐぅっ!?」

 

言い訳をつらつらと並べる俺に痺れを切らしたのか、俺の口を自分の胸で塞いだ束さん。

 

や、柔らかい…………それにすごいボリュームだな。鈴だと20人分あっても足りないんじゃないのか?

 

口に出したら殺されるだろうから絶対に言わないけどな。そう言うのは弾に全部任せる。

 

…………って、のんきな事言ってる場合じゃねえ! 呼吸が出来ないのは命に関わる!

 

「んーっ、んんーっ!!」

 

「ん? ああ、これじゃあ息が出来ないか。ごめんよいっくん」

 

俺の出すサインに気づいた束さん、そう言うと口と鼻は自由にしてくれた。まあ、俺の事は抱きしめたままなんだが。

 

「…………死ぬかと思った」

 

「いやー、気づかなくてごめんよ。けどまあ、男の子ならああいうのは嬉しかったんじゃないかな?」

 

「それに関しては否定しない」

 

俺も男だからな。相手が好きな人と来れば尚更だ。

 

「ふふふ、正直なのは良い事だよ。じゃ、帰ろうか」

 

「ああ。で、俺はこのまま抱えられて行くのか?」

 

「あっはっは。当たり前じゃないか」

 

……………………まあ良いか。マドカやクロエも待ってるだろうし、さっさと帰る方が大事だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。



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