私はどうやら決断しなきゃいけないらしい。
「束、どうするんだ?」
ちーちゃんが私に問いかける。
「ちーちゃん、お願いがある」
「白騎士に乗ってほしい」
「良いのか?それをすればお前は、お前の夢は……」
ちーちゃんは私の言うことを察してそう言った。
「良いんだよ。それにこれしか方法は無いよ」
「…………そうか。ならばこれ以上は何も言わん。それで私はどうすれば良い?」
「うん、それじゃ「待ってくれ」お父さん?」
私がちーちゃんに詳しい説明をしようとしたとき、お父さんが声をかけた。
「白騎士には私が乗ろう。千冬ちゃん、君にそんな危険な事はさせられない」
なんとお父さんが白騎士に乗ると言い出した。
でも白騎士にはあの問題がある。
「ダメだよ、お父さん。白騎士は何故か男性には反応しないんだ」
「なんだと!?」
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「ダメだよ、お父さん。白騎士は何故か男性には反応しないんだ」
「なんだと!?」
その言葉を聞いた私は思わず聞き返した。
どういう事だと聞く前に千冬ちゃんが私に、
「大丈夫です。私はちゃんと帰って来ますから。一夏を残して死ぬ気はありませんよ」
一夏君の頭を撫でながらそう言った。その目には生きて帰るという確かな決意があった。
…………ああッ!! また私は何も出来ないのかッ!! 私は自分の娘の夢を助ける事はおろかこの子達を守ることすら出来ないのかッ!!
握りしめた拳から血が滴る。
だが今の私にはそんなことはどうでも良かった。
……せめて、せめて無事に帰って来てくれ。
そう思いながらも私は悔しさと己の不甲斐なさに震える事しか出来なかった。
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束に一通りのレクチャーを受けた私は白騎士に搭乗していた。
「これで最適化は終わりだよ。次は一次移行だね」
束が凄まじい速度でキーボードを叩きながらそう言う。
「千冬お姉ちゃん」
すると一夏が声をかけて来た。
(ふむ、やはり不安なようだな)
まあコイツからすれば当然か。一夏は家族を失う事を何よりも怖れているからな。きっと父さんと母さんの時と重ねているのだろう。
「一夏、そう心配するな。私にもまだやりたい事があるからな、こんな所で死ぬつもりは無いさ」
私は一夏を安心させる為にそう言った。
(しかしこれはいわゆる死亡フラグというやつだったような)
私は一夏にそう言いながらそんな事を考えていた。
…………まあ、なんだ、実際に生きて帰って来れば問題無いな、うん。
「さあ、ちーちゃん、覚悟はいいかい?」
「ああ、サポートは頼むぞ?」
私と束はそう声を掛け合い、互いに笑いあった。
「じゃあ、行ってくる。……織斑千冬、白騎士出るぞ‼」
そう声を上げ、私は飛び立った。
しばらく飛んでいると前方から飛来する夥しい数のミサイルが見えた。
私は自分が震えている事に気づいた。当然だろう、飛来する一発一発が容易く人の命を奪えるのだから。
震えるな、背筋を伸ばせ。
恐れるな、目を開け。
あれを片付けなければ皆が死ぬ。
「全部纏めて叩き落とす!! 一発足りとも通さん!!」
私は自分を鼓舞するように叫び、右手にブレードを、左手には荷電粒子砲を展開してミサイルに突っ込んで行った。
私は先ずミサイルを出来るだけ多く誘爆させられる所に荷電粒子砲を撃ち込んだ。これにより数十発のミサイルが消し飛んだ。
「次だ!! 」
『ちーちゃん、次は北西から来るよ!』
北西に目を向けると二十発余りのミサイルが見えた。
私はスラスターを全開にして新たに確認したミサイルに近づいて行った。
それから私はただひたすらミサイルをブレードで切り裂き、荷電粒子砲で撃ち落とすというのを繰り返た。危うくミサイルを通しそうになって肝を冷やしたのも一度や二度ではなかった。
そしては遂に最後の一発を落とした。
「はあ……、はあ……、これで、終わりか?」
私が息を切らせながらそう呟くと束が、
『うん。今のミサイルで最後みたいだね』
束がそう言うと後ろで一夏や柳韻さん、先ほどまでは居なかった箒と秋穂さんが歓声を上げるのが聞こえた。
私はようやく安堵すると皆の元に帰ろうとする。
『ッ!! ちーちゃん大変だよ!! 今そっちに在日米軍や周辺国の空軍の戦闘機が向かってる!! 急いでそこから離れて!!』
私はギョッとしてハイパーセンサーで確認すると束の言う通り数十機の戦闘機がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
チッ、コイツらの目的は白騎士か。
『ああもう!! 自衛隊まで!?』
後方からも戦闘機や海上自衛隊の艦船が来るのが見えた。
そして在日米軍の戦闘機が私に向かってミサイルを撃ってきた。私はスラスターを吹かして機体を上昇させてミサイルを回避した。
ええい、こうなったら殺さないように落とすか?
私に対して次々とミサイルが放たれる中、ここにいる誰もが予想しないことが起こった。
『在日米軍及び各国の空軍に告げる。直ちに戦闘行動を停止せよ。日本政府は日本の領空内での戦闘を認めない。在日米軍は基地に帰投し、各国空軍は領空を速やかに離脱せよ。繰り返す、直ちに戦闘行動を停止せよ』
なんと遅れてやって来た自衛隊が停戦勧告をしてきた。
おいおい、どういう事だ?
困惑する私に対して自衛隊のイージス艦が光信号を送った。
「束、なんと言っているか解るか?」
『ちょっと待ってね、なになに、コノバハワレワレガウケモツ、スミヤカニホンクウイキヲリダツセヨ。キキノユウキアルコウドウニカンシャスル。だってさ』
どうやら少し運が向いてきたか?
「ならばここは自衛隊に任せて帰るとするか。束、帰り道のナビゲートは任せるぞ?」
「オッケー、任せてちーちゃん」
私はその場を離れたが自衛隊のおかげで追撃はなかった。しかし私には疑問があった。
(しかし何故自衛隊は本来は所属不明である私に対して何もしなかった? 恩義に感じて? いや、何かが違う気がする……)
私は帰る途中にそんな事を考えていた。
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よもや現役の間でこんなことがあるとはな。こんなことは漫画だけかと思っていたがそんなことも無いらしいな。
現実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。
作戦後、私は所属する基地に帰投して一息つきながらそんなことを考えていた。
「小嶋海将、本当によろしかったのでしょうか」
すると考え事をしている私に対して副官の新浪二等海佐がそう聞いてきた。
「ふん、もちろんだ。後悔等ありはしない」
「しかし実際の命令は「領空内の所属不明機の拿捕、場合によっては戦闘も許可する、だったか」……はい」
ふむ、こいつとは長い付き合いだが、ここいらで最後の指導をしてやるか。
「確かに私の取った行動は組織に所属する者としてあってはならんものだと自覚している」
「だが彼は我々はおろか我々の家族をも救ってくれたのだ。私は恩人に対して銃を向ける為に自衛隊に入ったわけでは無い」
私は新浪に対してそう言うとそこに一本の通達が防衛省から入った。
『小嶋海将は直ちに防衛省本部に出頭されたし』
「ふむ、それでは最後の仕事を片付けるとしようか。新浪、これからも頑張れよ」
「小嶋海将、どうかお元気で」
新浪は私に敬礼をしながらそう言った。
「ああ、じゃあな。もう会うこともないだろう」
私は手を振りながらその場を後にした。
その日、1人の男が自衛隊を去った。しかし彼の行動は後の自衛官にも伝えられ、多くの自衛官に影響を与えたのだった。
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