5/12 加筆修正を行いました。
「気付いているんだろう?」
「アイツには、一夏には剣の才能が無いことに」
……とうとうちーちゃんも気づいたか。
「そうだね。確かにいっくんには剣の才能は無いね。いや、正確にはいっくんの見据える所に至るには才能が足りないって所だね」
私はちーちゃんに同意する形で言葉を重ねた。
「一夏の見据える所?」
私の言葉に疑問を感じたのか私に聞き返してきた。
おや? ちーちゃんは気付いて無いんだね。
私はちーちゃんに伝えるべきか少し考えて、まあ知っておいた方がいいと思い話す事にした。
「始まりはただ何となく、ちーちゃんにやらないかと誘われたから。始めた理由こそ曖昧だったけどある時そこに明確な理由が加わったんだよ」
「それは私も感じていた。だが明確な理由だと?」
ああ、なるほどね。当事者だからこそ解らないのか。
ちーちゃんが気づかなかった理由を察した私は更に続ける。
「いっくんは最初、明確な理由も意志も無くただ何となくで剣を握っていただけだった。当然いっくんにとって剣道は退屈なものになっていった。」
「そんな中もたらされた自分の大好きな姉であるちーちゃんと自分が知る限り最も強いであろう私のお父さんとの試合、そこで見たのは圧倒的な強さ。周りがすべて色褪せてしまうような存在感。それに対して強い憧れを抱いたんだろうね」
「まあ、いっくんも男の子だって事さ」
ここまで言うとちーちゃんの目の色が変わった。
ちーちゃんも私の言いたいことが分かったようだね。
「待て、ならば一夏の見据える所というのは……」
「私やちーちゃんと同じ所だろうね」
「だがその為には……」
私はちーちゃんの言葉に同意する形で言葉を続ける。
「うん、いっくんは篠ノ之流剣術を修めなければならない。でもいっくんじゃ篠ノ之流剣術を修める事は出来ないだろうね」
「…………何故だ?」
なるほど、ちーちゃんは認めたくないのか。
私は残ったキャラメルマキアートを飲み干してちーちゃんの目を見据えた。
「ちーちゃんは分かってて聞くんだね? ならハッキリ言うよ。いっくんが篠ノ之流剣術を修めようとすれば確実に命を落とすよ」
「……だ、だが」
私の言葉を聞いてなおちーちゃんは食い下がってきた。
「……はぁ、ちーちゃんは知ってるよね?」
私は人指し指で自分の右肩から左の脇腹にかけてなぞってみせた。
「ッ!! ……すまない」
ちーちゃんは気まずそうに目を背けた。
「そういうわけだからちーちゃんには悪いけどいっくんに直接言われても教える気はないよ」
「……そうか」
ちーちゃんのあの顔、本当はいっくんの剣の才能を認めてあげたいんだろうね。あるいは私の言葉を否定出来ないのが悔しいのか、まあどちらにせよあまり良い気持ちじゃないだろうね。
「いっくんに剣の才能が無いことは変えられない。おそらく近い将来、才能の壁にぶつかるんじゃないかな」
篠ノ之流剣術を修める為には努力だけでなくかなりの剣の才能が求められる。
それこそ神童と呼ばれる程の才能が。
剣術は剣道と違って命に関わる事もある。むしろ学べば学ぶほど命に関わる事は増えていく。
事実、私は死にかけたしね。
私はいっくんに剣術に関わって命を落とす事は望まない。
だからこそ私はちーちゃんにキツイ言葉をかけた。
「本来ならもっと早く才能の壁にぶつかってもおかしくないんだけどね。いっくんには"共に高め合う才能"があったからこそここまで来れたんだろうね」
「……そうだな。一夏にとって箒や他の門下生はいい意味で影響を与えていたんだろう」
ちーちゃんは若干沈んだ雰囲気でそう呟いた。
ここで私はちーちゃんにあることを告げる。
「ねえ、ちーちゃん、実はちょっと気になる事があるんだよ」
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「ねえ、ちーちゃん、実はちょっと気になる事があるんだよ」
私はコイツの言葉に少し気落ちしているとコイツはそんな言葉をかけてきた。
「気になる事?」
思わず私は聞き返した。
「うん、それはね…………」
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「面ッ!!」
体制を崩した僕の頭に箒の一撃が決まった。バシンという音と共に審判から「一本!」と声が上がる。
「「ありがとうございました」」
僕と箒は礼をした後、その場を離れた。
試合後、僕は少し落ち込んでいた。ここ最近、箒に負け越す事が増えて来て、今日に至っては一度も勝つことが出来なかったからだ。
「ちょっと千冬お姉ちゃんに相談しようかな」
僕は何かヒントになれば良いと思い、今夜聞いてみようと思った。
結局僕は今日、箒に勝つ事が出来なかった。
「なるほど、今日は一度も箒に勝つことが出来なかったのか」
「うん」
僕は夕食の後、千冬お姉ちゃんの部屋で今日の試合の事を話した。
「そうか………………一夏、お前に話しておきたい事がある」
「何?」
「これはお前にとってつらい話になるが聞くか?」
…………何だろう?
そう言われ僕は不安を感じながらも頷いた。
「そうか、なら落ち着いて聞いてくれ。……一夏、お前には剣の才能が無い」
……え?
「そんな……」
そ、それじゃあ僕のやって来た事って……
僕は千冬お姉ちゃんの言葉に目の前が真っ暗になるほどの衝撃を受けた。
「最近、箒に勝つことが出来なくなってきたのは一重に箒との才能の差だろうな。まあ同じ稽古してきたんだ、ある意味当然と言える」
「じゃ、じゃあ僕はどうすれば良いのさ!!」
僕は考えが纏まらず、叫ぶ様に言った。
「落ち着け、その事について束から話があるそうだ。明日アイツの所に行ってみるといい」
「…………分かった」
僕は肩を落としながら自分の部屋に戻ろうとする。
「一夏」
すると千冬お姉ちゃんは僕を呼び止めた。
「束はきっとお前にとって良い答えをくれる」
「…………そうだと良いね」
僕は千冬お姉ちゃんの言葉に淡々と返し、そのまま部屋に戻った。
僕は今夜、布団の中で声を殺して泣いた。
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「才能の壁にぶつかる、か。束の言った通りになったな」
一夏が自分の部屋に戻った後、私は誰もいない呟きながら束に電話を掛けた。何回目かのコールの後、束が電話に出た。
『もしもし、ちーちゃんがこんな時間に電話してくるなんて珍しいね? どうしたの?』
「ああ、夜遅くに悪いな。電話したのは一夏の件だ」
『ああ、とうとう壁にぶつかっちゃったか。それで私はいっくんにあの話をすれば良いのかい? 』
一言で察するとは話が速いな。
「ああ、頼む」
『うん、分かったよ。ちーちゃんの事だから明日、私の所に来るように言ってるんでしょ?』
…………何で分かるんだ。
「ああ、そうだ……………………ちなみに何で分かったか聞いて良いか?」
「
「おい、今の言葉に何とあてて読んだ?」
「ん~? なんの事だい?」
束はただとぼけるだけだった。
……………………いまいち釈然としないが、まあ良いだろう。
それから私は少し話をして電話を終えた。
「束、後は任せたぞ……」
ベッドに身を投げ出して私は一人呟いた。
願わくば一夏にとって良い結果になるように祈るばかりだ。
読んでいただきありがとうございます。