東京喰種endless   作:さかなたん

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第三話 珈琲

「少女や青年に臓器提供の意思はあったのですか!? 遺族への確認はありましたか!? 彼らは見殺しですか!? 医者なら死力を尽くすべきでは!?」

 

 僕はテレビをつけていた、テレビではワイドショーをやっていて一人の少し老年の男性が、多くの人に質問をされている。いや、質問というよりは責めているといったほうがいいかもしれない。そしてその男性は、その質問責めに真剣な表情で答える。

 

「その二人は、搬送された時点で死亡が確認されていました……即死だったものと思われます……目の前の命を救うことこそ医師としての私の使命だと考え今回の決断をいたしました。」

 

 そう嘉納先生は答えた。嘉納先生は短時間で二人の命を救った医師として、話題となっている。だが、世間やメディアは先生を良いようにみていない。死亡していたとはいえ勝手に二人の臓器を移植したからだ。あの日、僕は近隣の住民に救急車を呼ばれて搬送されたらしい。僕が倒れていた近くでは、工事中のビルの鉄骨が落下して女性一人が即死、男性が内臓に怪我を負ったらしい。嘉納先生は、その即死の女性の腎臓をその男性に移植したらしい。そしてもう一人は……シュウだ。僕もその男性と同じように腎臓に傷を負っていて、シュウの腎臓を移植したらしい。この二人には遺族が確認されなかったため。移植したのだという。シュウにはおじさんがいたはずだがどういうことだろう……

 僕は、現在病院に入院していて、今は嘉納先生のところへ向かっている最中だ。歩けるようにまでは回復したが、あの日のことは今でも夢なんじゃないかと思う。だけどお腹のあたりにあるこの傷は本物だ……あれは現実だったんだ。シュウが喰種だったこと、僕が亜人だったこと、あの謎の黒い幽霊に襲われたこと、すべて現実だったんだ……

 あの日のことは警察にはシュウと歩いていたら喰種に襲われたと話した、すると喰種捜査官たちにいろいろ聞かれたが暗かったので何も見えなかったと説明してある。

 

 

 

 そして嘉納先生の下へ着いた。

 

「失礼します。」

「やあ。調子はどうだいサクラくん。」

「ええ、おかげさまで元気ですよ。」

 

 僕が笑顔でそう返すと、嘉納先生も安心したような表情になった。

 

「それはよかった。免疫抑制剤をちゃんと飲み続ければ大学にもすぐ戻れるはずだよ。」

「そうですか……」

「それにしても、同じ日に二人も重傷者と死者が運ばれてくるなんて驚いたよ……君の友人までは救えなくてすまないね。」

「いえ、もういいんです。先生は僕の命を救ってくれましたし。」

 

 とはいっても僕は死ぬことはないのだが……

 シュウが喰種であることは誰にも言っていない。言ったらシュウの死体がCCGに持っていかれてしまうのではと考えたからだ。あいつの亡骸は病院側が弔ってあげたらしい。

 

「あの……僕の他に搬送された男性は誰なんですか?」

 

 僕は疑問に思っていたことを聞いた。同じ日に重傷を負い、同じ臓器を移植された人間として気になっていたのだ。

 

「悪いけど、答えることはできないよ。ほら、今私のせいで世間を騒がしてしまったから、患者の情報を漏らしたら患者にマスコミが流れてしまうかもしれないからね。同じ理由で君のことももう一人のほうに言う気はないよ。」

「そうですか……それもそうですね。余計な質問をしてすいませんでした。」

 

 何も考えずに詮索したことを詫びた。そしてもう一つ先生に言いたかったことを伝える。

 

「あと……」

「? 何かね?」

「世間がどう言おうと先生が俺の命を救ってくれたことに変わりはありません。本当にありがとうございます」

 

 死ぬことがないとはいえ、先生が自分の命を救ってくれたのだ、そのことへの感謝は何度やっても足りない。

 

「ふふ……医者として当然なことをしただけだよ。」

 

 そして今度は先生が、質問をしてきた。

 

「……そういえば、ナースに聞いたんだけど。病院食は気に入らなかった?」

「え!? い……いえ、おいしいです。」

僕は先生から目をそらして答えた。

 

 

 

 

 場面は変わり今、僕は自分の病室にいる。目の前には病院食が用意されている。メニューは鮭に味噌汁や白飯などの典型的な和食って感じのものだ。僕は朝は、米派なので、このメニューには心が踊るはずだ……はずなんだ……僕は鮭を箸で一口分だけ崩して口へと運ぶ。

 

「うっ……!!」

 

最初に感じたのは鼻に突き刺さるような生臭さ、そしてものすごいマズさだった。吐き気が襲ってきたが、僕は無理やり喉の奥へ鮭を通す。それでも、気持ちの悪い嫌な感じがする。

僕は、箸を置いた。

 

「あら、サクラさんもういいんですか?」

 

病院食を運んできた看護婦さんが僕に聞いてきた。

 

「ええ、あの……これ味が少し……」

「え? 少しいいですか?」

 

 そういい看護婦さんはその鮭を一口食べる。僕の箸で。

 

「普通においしいですよ?」

「え!?」

「全くあなたもお魚が嫌いなんですか! 好き嫌いしてたら治るものも治りませんよ。」

「すいません……あなたも?」

「ああ、もう一人お魚が苦手な人がいるんですよ。そんなことよりちゃんと食べてくださいよ。」

「はい……」

 

 魚だけじゃない……ご飯は、糊を口でこねているような感覚がするし、味噌汁は、油と名のつくものをツべて混ぜたような感覚だ。要するに全部まずい……

 ほとんど何も食べていないのに不思議と腹は空いていない。

 僕は、あまり小説なんて読むほうじゃないが、東野圭吾の『変身』にはハマった。主人公が脳移植によって段々人格が変わっていく話だ。自分が自分じゃなくなっていく主人公の恐怖と苦悩がひしひしと伝わってくる素晴らしい作品だ。

 

 

 

「僕も……彼のようになってしまうのだろうか……ハハ……」

 

 手がかすかに震えた。

 

 

 

――あれから数週間が経ち僕は退院することになった。結局、退院するまでほとんど水しか飲んでいない。食欲は減る一方である。

 そこで僕の携帯に着信が来た。

 

Date:10/22

From:母さん

Subject:退院おめでとう!

本文:退院おめでとう! 病院まで迎えに行けなくてごめんね……あなたの大好物作ってるから早く帰ってきて!

 

 

 母さんからのメールだった。母さんは仕事の都合で今日は病院にはこれなかったらしい。僕が病室で目を覚ました時母さんはすごい形相で泣いていた。それから母さんはほぼ毎日僕の見舞いに来てくれた。見舞い品を食べない事をかなり心配していたが食欲がないと言い張って乗り切った。だが今日は母さんがかなり手を込んで料理を作ると言っていた……さすがに食べないと母さんに悪いだろう……今日から食事のたびに覚悟がいるかもしれない。

 

 

 

 

 家に着き玄関の扉を開けると母さんが出迎えてくれた。

 

「おかえり! 退院おめでとう! ご飯できてるから一緒に食べましょう。」

「う……うん」

 

 僕はそのまま食卓へと着く。テーブルには僕の大好物のオムライスが置いてあったオムライスが大好物なんて子供っぽいと思われるかもしれないが、僕は母さんの作ったこの料理が本当に好きなのだ。だから……だから残さず全部食ってやる。

 

「さあ、いっぱい食べなさい!」

「いただきます……」

 

 僕は目の前のオムライスをスプーンですくい口へ運ぶ。

 

「!!」

 

 まずい!! ふわふわに焼いてあるはずの卵はグニグニとしたゴムのように感じ、ケチャップライスは動物の血に糊を混ぜたみたいな味がする。さらに卵の上にかけられていたケチャップが舌にへばりついて吐き気が押し寄せてくる――だが……僕は笑顔で飲み込んだ。喉の奥でそれらすべてが混ざった味がしてより強い吐き気がボディーブローのように体に襲い掛かってくる。だが、それでも……母さんの気持ちを踏みにじることはしたくない……僕は笑顔で母さんに言う。

 

「やっぱり母さんの料理が一番だよ。」

「あら、うれしいわ!」

 

 母さんも喜んでくれたみたいだ。だが、一口で来れだ……頑張ろう……

僕は二口目に取りかかった。一口目のせいでこのオムライスに今は、恐怖すら覚えている……まてよ……味がする前に飲み込んだら大丈夫ではないだろうか。僕は、覚悟を決めて二口目を口へ放り込む。今度は味がする前に飲み込んでみた。喉の奥で味がして、吐き気にまた襲われるがさっきほどじゃない。これならなんとかなるかもしれない。

そこから僕は少しずつ少しずつオムライスを食べていった。母さんと談笑をしながら。

 

「本当に嘉納先生にはいくらお礼しても足りないわ……大事な息子を助けてくれたんだから……」

「ああ……僕も本当に感謝してるよ。あのまま死んでしまう所だったんだから……」

  

 まあ死んでしまっても大丈夫な体なのだが……

 

「でも……シュウ君は残念だったわね……あんなに仲が良かったのに……」

「うん……今でもあいつがいなくなったなんて信じられないよ……」

 

 僕は、あの日のシュウのことを思い出した。あの黒い幽霊から助けてくれたシュウの事を。あの幽霊は何だったのだろうか……やはり亜人ぼくと何か関係があるのか……そう思っていると母さんがまた口を開く。

 

「ああ、ごめんなさいね……食事中にこんな暗い話……」

「いや、大丈夫だよ」

 

 僕はオムライスへ意識を戻す。胃にオムライスが溜まっていくのを感じるたびにそれら全てを吐き出しそうになる。僕はそれでも黙々と食べていく。だが、半分ほど減ったところで母さんがまた話しかけてきた。

 

「リンドウ……もう無理しなくていいよ……」

 

 母さんは優しくてでも悲しげな顔で言った。

 

「何の……こと?」

 

 僕は意味が分からず、質問する。なぜだろう、いやな予感がする。

 

「おいしくないんでしょ?」

「!!」 

 

 それは、今の僕には一番衝撃的な言葉だった。

 

「なんでそう思うんだよ……おいしいよ、すごく美味しいよ……」

「だって辛そうだわ。私のために笑顔でいてくれたんでしょうけど、やっぱり子供が無理をしているのを見るのは私もつらいわ……」

 

 なぜわかったんだ……他人から見てもわからないような笑顔をして見せた、なのに……何故だ……

 

「なんで……分かったの……?」

「だってあなたのさっきの笑顔あなたが、私に嘘をつく時の笑顔だったもの……あなた、昔から辛いことがあっても私に心配させないように、笑顔しか見せなかったから……」

 

 母さんは昔のことを思い出しているのか、しみじみとした感じで言った。

 

「母さんにはかなわないなぁ。」

「あなたの母親だからね。」

 

 母さんはまた優しい笑顔で言った

 

「でも僕は、食べるよ。」

「でも……あなた。それ美味しくないんじゃないの?」

「体調がまだ万全じゃないから、食欲がなかっただけだよ。味は、すごく美味しいのは本当さ。だから全部食べるよ。」 

「そう……じゃあ、召し上がれ。」

 

 最初はまだ心配そうに、だがすぐに微笑んで僕に母さんはそう言った。

 僕は、またスプーンを進めていく。相変わらず吐き気に襲われるが、あと一口という所まで来た。そして最後の一口を胃に無理やり流し込み――

 

「ごちそうさま……」

 

――完食した。

 

「大丈夫? 体調悪くなってるみたいだけど……」

「ああ、大丈夫……じゃないッぽいから今日はもう寝るね。」

「そう…… おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

 僕は、自分の部屋へと向かう。すると

 

「リンドウ」

 

 母さんが僕を呼んだ。

 

「何?」

「もう辛いことがあっても、嘘をつかないでね……」

 

 母さんは、優しい声でそう言った。

 

「……うん、わかった……」

 

 僕は、今度こそ自分の部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 僕は、自分のベッドの上で寝転がり考える。

 

(この体は本当にすべてがまずく感じる。どうすればいいんだろう……)

 

 そこである方法が僕の頭をよぎる。

 

(いや……それは駄目だ……それをしたら僕は本当に人じゃなくなってしまう……)

 

 すぐにその考えを頭からもみ消した。

 

(クソ……ダメだ思いつかない……今日はもう寝よう)

 

僕は、そのまま深い眠りへついた。

 

 

 

 

 

翌日起きたら、最悪の気分だった。吐き気が常に止まらないし体がだるい。大学に行く予定だったがこれは無理そうなので今日は家で休むことにした。

 

「やっぱり昨日無理したのが駄目だったか……」

 

 どうやらこの体は、普通の食べ物を消化すると体調を崩すらしい。このままでは、まともに暮らすことは難しい。昨日無理やりかき消した考えが再び頭をよぎる。

 

「いや……それだけは駄目だ……少し寝て体調が回復したら僕でも食べれるものを探してみよう。」

 

 

 

 

 

 少し寝て体調が少し良くなったので家中の調味料などを含んだ食べ物を食卓に並べた。母さんは仕事に行っていて夜まで帰ってこない。

 

「まずは……ジャムから行こう」

 

 そこから僕は、食卓にならべた食べ物を口に含んでみた。結果は――

 

「うおええっ!!」

 

――すべてダメだった。すべての食べ物が超が付くほど不味い。

 

「はぁ……はぁ……くそ! どうすれば……」

 

 家じゅうの食べ物は全て試した。こうなれば外に出て何か食べられそうなものを探すしかない。

 

 

 

 

 

「外に出てみたのはいいけど……どこに行こう……」

 

 勢いで外出してしまったが全くのノープランだ。どこに行けばいいのかなんて何も考えてなどいない。

 

「ファミレスに入っても全部食べ切れる自信ないしお金だってかかる……スーパーとかに行って試食をしても人目があるから吐き出したりもできない……本気でどうしよう……」

(腹減ったな――)

 

 そう思った瞬間僕は悪寒が走った。

 

「腹減った?」

 

 あの事件からしばらくたったが、僕はほとんど水だけで過ごしてきた。それは一度も空腹を感じたことがなかったからだ。だが僕はいま空腹を感じたのだ。つまり体が食べ物を求めているのだ……早く、僕でも食べれるものを見つけないとどうなるか分からない。得も知れぬ不安に襲われた。

 不安に駆られたままふらふらと歩いていると香ばしい匂いが鼻をくすぐった。その匂いをたどるとある喫茶店が目に入った。

 

「……あんていく」

 

 それはシュウと一緒にいった喫茶店だった。適当に歩いてたらここの近くに来ていたのか……だとしたらこの香りはコーヒーだろうか。いつもよりいい匂いに感じる。今までの料理はすべて胸がムカつくような匂いだったのに……もしかして……

 

「いらっしゃいませー」

 

 「あんていく」に入ると前来た時にもいた。可愛らしい店員さんや年配の店長らしき人がいた。この店は不思議と落ち着けるような雰囲気がする。適当に客席に座り、メニューを開いた。この間のサンドイッチもあったがどうせ食べられないだろう。なら、さっきからずっと僕の鼻を刺激してくるコーヒーを頼んでみよう。

 

「すいませーん」

「はい、ご注文お決まりでしょうか?」

「え、えーと……ブラックコーヒーください……」

「はい、かしこまりました。」

 

 自主的にコーヒーを飲もうと思ったのは初めてだ……しかもブラックを……

 

 

 

 

 

 程なくしてコーヒーが僕の下に届いた。近くで嗅ぐとより一層深い香りが漂ってきた。

 恐る恐るとカップを口に持っていく。

 

「――!? 美味しい……」

 

 あれだけ嫌いだった毒に侵されているような苦味が今は心地よい気分になる。前は感じることのなかったコクを感じる。コーヒーとはこれほどに美味な物だったのか……

 僕は続けてもう一口飲む。

 

「美味しい……おいしい……うっ……くうっ……」

 

 あまりの美味しさと久々のまともな味ということで涙が出てきた。回りから、変な目で見れれている気がする。

 

「お客様いかがなさいましたか?」

 

 店長と思われる年配の人物が余りにも不審に思ったのか僕に話しかけてきた。

 

「いえ……このコーヒー……すごく美味しくて……」

 

 鼻声でそう言った。

 

「ふふ……そうですか……私もうれしいです。これどうぞ。」

 

 店長さんはハンカチを差し出してくれた。

 

「ありがとう……ございます……」

「前来た時はコーヒー苦手なように見えましたが、本当は好きなんですね。」

「え? 前来た時のこと覚えてるんですか?」

「はい。来てくださるお客様は全て覚えています。」

 

 ああ、この喫茶店が完全に好きになった。

 僕はまたコーヒーを飲んだ。そして以前この店へ来た時のことを思い出す。シュウと他愛もない話をしながら頑張ってブラックコーヒーを飲んでいたあの時を……

 

「シュウ……コーヒーってこんなに美味しいんだな……」

 

 また涙が出そうになった。 

 

 

 

 

 僕は、コーヒーを飲み干しお金を払った。

 

「また……来させていただきます。」

「ええ、またのご来店をお待ちしております。」

 

 僕は店を出た。

 




 3話まで読んでもらってありがとうございます。
 いやー投稿遅くて本当にも仕分けないです。これからもこんな感じになると思いますがよろしくお願いします。
 本編についてですが、もっとうまく書きたかったなーていうのが本音です。なんか書いてる途中で何か違うな――ってなったんですが、どこ直せばいいのかわからなかったのでこれで投稿させてもらいます。次話はもっと完成度あげるよう努力します。
 戦闘シーンとかはだいぶ後になると思いますのでどうか長い目で見てほしいです。
 ではさようなら!
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