精霊だってお休みしたい   作:家臣さん

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序章
第1話 はたらけ精霊


「……」

 

カーテンが光を遮る、狭いアパートの一室。目覚めたばかりの状態で聞こえてくるのは、時計の長針が時を刻む音と、一人の女性がソファの上でたてる寝息のみ。毛布で肌を覆わなければ風邪を引いてしまうような寒々とした空間で、男は覚醒を待ちながらベッドから這い出ていく。

 

「おい。さっさと起きろ」

 

眠気に苛まれながら掠れた声で女性に一言。この声量では恐らく起きないが、そもそも起きる期待はしていない。

頭を掻いて洗面所へ向かう。朝の支度を終わらせている間に彼女が起きてくれれば恩の字だ。

 

キュッ……

 

蛇口を捻ると少量の水が流れたが、お湯に変わるまでそれには触れたくない。虚ろな目で排水溝に吸い込まれていく水を眺めながら男は物思いにふける。

 

「やっぱり……夢じゃないんだな」

 

居間で今だ夢に落ちている女性は、幻でもなんでもない。触ろうと思えばその肌に触れるし、声をかければ返事が返ってくる。食事もとるし睡眠もとる。それなのに彼女の存在はあまりにも摩訶不思議なのだ。

もう一度彼女の元へ戻ろうかとも思ったが、迷っている間に水はお湯へと変化していた。両手でお湯を溜めこんで顔へとかける。水と比べれば目は覚めない。

 

が、昨日の事を思い直すにはこれで十分の温度だった。

 

 

 

 

男の名は、朝倉 志雄(アサクラ シユウ)

 

「おいこら。ニート。いい加減おきやがれ」

 

ソファの上でどうしても目を覚まさない女性の前で仁王立ちしながらそう言い放った。目が覚めているのかも分からないが、女性は毛布をより深く被ってしまった。言う事を聞く気はないようだ。

午前7時30分。時計を確認した男は、毛布を無理矢理引きはがした。

 

「ニートこら! 起きろこら!」

「んん……うるさいなあ……」

 

やっとの事で目が開く。カーテンは開かれ、日の光は存分に室内に入り込んでいた。右腕で目を覆い、眩しい光を何とか押さえつけた。

 

「昨日もさ……言ったけどお……“ニート”はやめてって……」

「じゃぁその怠惰な性格を直すんだな」

 

目が覚めたことを確認すると、志雄は彼女の二度寝の危険を感じながらも台所へ移った。昨日以来、2人分の食事だ。否、1人分の食事を2分の1にしたともいえる。経済への打撃は半端ではないのだ。幸い、自分は(恐らく彼女も)大喰らいではない。

 

支度中、ニートが後ろを通りかかった。それを一瞬横目で見ると、志雄は見るからに怪訝な顔をした。

 

「おいニート。その格好で歩くな。一応女だろうが」

「“一応”じゃないし、ニートって言うな。っていうか何とも思わないの?」

「あ?」

 

ベーコンを刻みながら、流すようにニートの問いかけに反応する。

 

「下着姿で立ってる年頃の女の子見てなんの興奮もしないの」

「俺は生活リズムが整ってて下着姿で歩き回らない真面目な子がいいな。ニートはいらん」

「ニートっていうな」

 

血圧の低い者同士の会話は概ねこのような具合である。

2人の身支度が終了したのは午前9時。その頃には漸く脳が本格的に活動を開始してくれていた。

 

さて、脳が活動を再開したと同時に、志雄の眼前に座り頬杖をつく彼女の存在を今一度顧みるようになった。

 

「……えーと」

 

 

それは、昨日の夕方の話。

 

―――。

 

デュエルモンスターズ。今やその存在を知らぬものはいない。財界や政界と肩を並べる存在となったそのカードゲームは、それを専門とした塾や学校も最早当たり前のものとなった。

“デュエルアカデミア”――孤島に聳え立つ大きな建物は、業界最王手のデュエリスト養成所である。とても本島から通えるような距離ではないため必然的に寮生活を強いられる。また最王手である以上、門を潜る事ができる生徒も限られる。

志雄はアカデミアへの入学試験を明日に控え、スーパーで購入した食材の入った袋を両手にさげて自らが住むアパートへの道を歩いていた。

 

ふと、扉の前で鍵を手に取った直後何やら妙な違和感を覚えた。

 

「……」

 

扉の奥。自分の部屋の中に誰かが居る。無論、鍵は開いていないし誰かが入ることも出来ない筈だ。自分の思い違いである事を祈りながら、ゆっくりと鍵穴に鍵をさした。

 

ガチャ……

 

扉の奥。今のソファで横たわっていたのが、“彼女”だった。

 

「お、おい! 誰だあんた!」

「ん……んん。ん~……」

 

徐に上体を起こすと、細い手で両目を擦る。露出の高い服装だった。

スッと通った高い鼻筋に、肌理細やかな肌。ほんのりと赤く引かれた唇。すり抜けてしまいそうなほど透き通った蒼の髪。世間一般で言う美少女。

男一人暮らしに突如現れた美少女という展開など在り来たり過ぎて最早食傷気味だが、いざそれが自分の番になるとそんな事も頭に入らない。

夢か現か。脳が考えることを辞めたがっているようだった。

 

「……あ。どうもお」

 

涎を垂らして此方を見ている。確かにそこにいるのは現実の少女。泥棒にしてはあまりに呑気で、家出少女にしてはあまりに自分の家に馴染み過ぎている。訳の分からぬ状況に心拍数が上昇する中で、訳も分からず志雄は自分のベッドに横になった。

 

――見ず知らずの少女と2人屋根の下。

 

「……」

 

好機ととるか、非日常ととるか。夢ととるか、幻覚ととるか。

寝息が聞こえる。また彼女は眠り始めたらしい。

 

「なぁ」

 

もう一度彼女の元へ戻る。何度顔を確認しても、自分の知らない少女だ。志雄は、自分でも何を思ってそう語り掛けたのか分からない。

 

「飯……今から作るけど」

 

“飯”に対する彼女の反応は素早かった。

 

 

* * * * *

 

 

彼女と出会った翌日。時は午前9時へ戻る。

 

「一応、改めて自己紹介しとくね」

「ニートだろ」

「ニートじゃない。“シャイニート・マジシャン”」

 

一日の彼女の振る舞いで察した。この女性は人間世界で言われるような“ニート”そのものであると。常に眠気に誘われているような表情を見ていると、こちらまで脱力してしまう。

 

「何で俺の家にいたんだ? というかお前は何者だ?」

 

昨日からずっと問いただしたかったのに、この女は飯を喰らう以外一晩中寝ていたのだ。だからこその“ニート”。

 

「うん。精霊」

 

予想していたというか、その言葉を聞きなくなかったというか――確かに彼女はデュエルモンスターズに存在する《シャイニート・マジシャン》。そのイラストに描かれている女性と全く同じ容姿をしている。

言うまでもなくこのアパート内に立体映像(ソリッドビジョン)システムは存在しない。つまり、彼女は機械的に出現した物ではなく、正真正銘の「生物」だ。触ろうと思えば触る事ができるし、人と同じ血が流れている。

 

「ニート。お前が俺の家にいた理由だよ」

「だからニートは止めてってば」

 

話が全く前に進まない。ともかく彼女の呼び名を決めなければ。

 

「……じゃあ何て呼べばいいんだ」

「ん? んー……マジシャンじゃあ普通過ぎるよね」

「シャ、シャイ?」

「それだと別のイメージが浮かぶんですけど。シャイニート……じゃあ長い?」

「長いな。縮めてニートだ」

「前を削るな!」

 

初めて彼女の怒号を聞いた。が、全く覇気がない。大声を出すのに慣れていないに違いない。

 

「“シャイ”と“ニート”で分けて、“シャニ”でどう?」

「ポ○モンみたいな略し方か。なんかなぁ」

「何が不満なの……」

「やっぱニートだ。はい決定」

「ちょ、ちょっと!」

 

パン、と両手を鳴らす。これは呼び名を決める議論の終了の合図である。志雄にとって呼び名など今はどうでもいい。彼女の素性を理解することが最優先。

 

「で、もっかい聞くけど、なんで俺の家にいたんだ?」

「……偶然だよぐうぜん。アタシたち精霊がカードに宿るのは偶然なの。だからアタシがこの世界に来たのも偶然だし、君の元に来たのも偶然。だから今日からお世話になります」

 

そんな大事な事を昨日のうちに言わなかったことに若干の腹を立てつつ、志雄は引き気味で返事を絞り出した。

 

「ええ……いきなりすぎる」

「こういうシチュエーションって嬉しいもんじゃないの?」

「自分で言うなよ」

 

確かに美少女なのだが、どうせならもう少し清楚な女の子が良かった――と心の底で思う。

 

「で、何でこんなに早く起きたの?」

 

ニートの一言で、志雄ははっとした。両手で机をたたき、体を起こす。食器が音をたて、コップの牛乳が揺れた。

 

「そうだよ! アカデミアの入学試験!」

 

訳も分からぬ精霊とやらが現れて失念していたが、今日は自分の未来を決めるといっても過言ではない大切な日なのだ。

急激な態度の変化に、ニートは呆気にとられて口を開けていた。

 

「な、なに。アカデミア?」

「最王手の学校だよ。デュエルモンスターズの!」

 

慌ててベッドのそばに置かれていた荷物を拾い上げた。まだ時間こそあるが、心の準備をする時間も必要だ。

志雄の行動を目で追うニートの表情は彼のそれとは対照的……であると同時に、若干の動揺を覚えているようにも見えた。

 

「それって、デッキがいるの?」

「あ? 当たり前だろ。他の受験者と決闘するんだよ」

「あー……えーと……」

 

ニートの苦笑いは、志雄の心を少なからず揺さぶった。焦燥感を焚きつけてくる。

 

「何か問題があるのか?」

「悪いんだけど、デッキを変えて欲しい」

 

志雄の周りだけ時間が停止した。あまりにも不可解な事象に加え、彼女の発したその提案に志雄の脳は遂にオーバーレイ……ではなく、オーバーフローしてしまった。

 

「おまえはなにをいっているんだ」

「だからね。アタシをデッキに入れてほしいの。不本意だけど。それからアタシにあったデッキにしてほしいの」

「……時間がないんだよ」

「手伝うし。ね。めんどくさいけど」

 

《シャイニート・マジシャン》はランク1のエクシーズモンスター。つまりそれに合わせたデッキを作るとなれば、レベル1のモンスターを多く投入したデッキ――【ローレベル】にする必要がある。

パーツは無くはない。しかし生憎そのデッキを使ったことはない。

 

「試運転も出来ないじゃないか! この入学試験で合否が決まるんだぞ?!」

「んー……頑張って」

 

その瞬間、志雄はこれ以上ないほど悔いた。美少女が家に転がり込んだことに、一瞬でも心の底で喜んだこと。

まさにこの精霊は、志雄にとっての疫病神。美少女の皮を被った悪魔に映っていた。

 

 

* * * * *

 

 

入学試験会場はアカデミア本校ではない。都市部の大きなホールを借りて行うようだ。取り急ぎで新たなデッキを構築し、早速出鼻をくじかれた志雄が会場に到着したころには既に大勢の入学志望者が列を成していた。

 

「すっげえな……全員かよこれ」

 

まさにお祭り状態だ。年に一度のアカデミア入学試験に、メディアも殺到している。本校の知名度と成績を考えれば妥当な所だ。

志雄は受験票を提示すると、列に入っていく。試験当日は自分以外の受験者が全て優秀に見えてしまう原理がこれでもかという程働いている。

 

『ふぁぁ……ねっむ』

「お前は呑気だな相変わらず」

 

志雄の頭上でニートがふわふわと浮いている。新たなデッキの構築を手伝うだとか言っていたが、結局最後まで自分一人で作る羽目になってしまい、デッキの試運転もしていない。だがもう文句を言う気力すらない。

 

『出番が来るまでデッキは確認できるんだよね。余裕あるじゃん』

「ま、まぁな。どれだけ時間があるか分からねーけど」

 

これだけの受験者だ。数組が一気に決闘を開始するとしても、全てのプログラムが終了するには相当の時間を要する筈。受験生ごとに割り振られた控室でデッキを見直さなければならない。ともすれば構築し直しすら有り得る。

 

『それで、君は何番なの?』

「えーと……」

 

 

――――――。

――――。

――。

 

「2番だ」

 

 

目の空くほど自分の受験票を確認したが、事実は揺るがない。志雄は一番最初に決闘を行う。割り振られる控室は当然存在しない。すぐさま決闘が始まり、終わり次第解放だ。

 

「受験番号1番から20番の方! 会場へどうぞ! それ以外の受験生は指示に従って控室へお願いします!」

 

試験官のアナウンスと同時に、立ち止まっていた受験者たちが一斉に動きだす。

――腹を括るほかない。もう、後戻りは出来ない。

 

 

* * * * *

 

 

志雄が立っていたのは、10個のデュエルフィールドの一番端。受験番号1番と2番が相対する場所。そして対戦相手は既に到着し、腕を組んで志雄を待っていた。

 

「漸く来たか。受験番号2番」

 

眉を顰めてにやけ顔。明らかに志雄を挑発している。その出で立ちは強敵のそれだった。

決闘が開始される前、ギャラリー席の後方で受験生たちを見つめる2人の人影が居た。彼等はこのアカデミアの教員であり、この入学試験の試験官である。

 

「あの出席番号1番……“志島 北斗”ですよね」

「そうデスーノ。業界最王手の決闘塾であるLDSでエクシーズコースの主席……超に超が付くエリートナノーネ! シニョーラ美奈樹もLDS出身なら、その素晴らしさは理解できるはず、ナノーネ」

 

LDSからの推薦である以上、何があっても北斗は合格が確定している。彼にとってこの入学試験は最早消化試合だ。しかしそれでも“エリート”という肩書をつけられている以上、手を抜くことは出来ない。否、手を抜くつもりはない。

 

「悪いがこの決闘、もう結果は見えている。この僕が対戦相手になった以上はな。己の不運を呪うといい」

 

対戦相手は選べない。対戦相手を憂うことは徒労だ。自らの力を試験官に見せつけることが、自らに出来る最善手。

 

「頼むぞニート。お前の為に慣れてもいないデッキを作ったんだ。働いてくれよ」

『気が向いたらねー……』

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

志雄 LP8000

北斗 LP8000

 

デュエルディスクが先攻、後攻をランダムで決定する。先攻のランプが灯ったのは志雄だ。

 

「俺のターン」

 

手札を確認。【ローレベル】というデッキの性質上手札事故はそこまで頻繁には起きないが、如何せんこのデッキには慣れていない。

アカデミアの入学試験で使ったことのないデッキを使う猛者など、恐らく志雄くらいのものだ。

 

「俺は《イービル・ソーン》を召喚!」

 

《イービル・ソーン》

星1/闇属性/植物族/攻 100/守 300

このカードをリリースして発動する。

相手ライフに300ポイントダメージを与え、自分のデッキから「イービル・ソーン」を

2体まで表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。この効果で特殊召喚した「イービル・ソーン」は効果を発動する事ができない。

 

「効果を発動。自信をリリースし、相手に300ポイントのダメージを与える!」

「ちっ……僕のライフに傷をつけるなど!」

 

北斗 LP8000→7700

 

「更にデッキから同名モンスターを2体特殊召喚!」

 

手榴弾を思わせる花を持つ、余に不気味な植物。2体の《イービル・ソーン》はゆらゆらとフィールド内で揺れ動く。無論、この2体をそのまま置いておく訳はない。

 

「何をする気だ?」

「察しはついてるだろ。俺はレベル1……2体の《イービル・ソーン》でオーバーレイ!」

 

虚空を裂いて突如現れた大きな渦。《イービル・ソーン》は巨大な渦の中に吸い込まれていった。同レベルのモンスターを重ね合わせてエクストラデッキからモンスターを特殊召喚する方法。これこそ、「エクシーズ召喚」だ。

 

「こい! 《シャイニート・マジシャン》!」

 

《シャイニート・マジシャン》

ランク1/光属性/魔法使い族/攻 200/守2100

レベル1モンスター×2

このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

また、このカードを対象とする魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

いつか家の中で見たニートが、今目の前にいる。大きな赤い枕を両手で抱きながら、フィールドに座り込んでいる。が、心なしか不満げな表情でマスターである志雄を睨んでいる。

 

「な、なんだよ……」

『出番早いよお。めんどくさいなあ……』

 

そう言うと、枕をその場に置いてうつぶせで寝込んでしまった。果たして本当に役目を果たしてくれるのか疑問に思える。

 

「お前が活躍するのはどう考えても序盤だろうが! 働けこのニート!」

『だっからニートって呼ぶなー!』

 

この会話が対戦相手である北斗や試験官に聞こえているのだろうか。それに気づいた志雄は思わず北斗の顔色を伺った。

……不思議そうな表情をしている。どうやら聞こえているのは志雄の声のみらしい。

 

「な、なんだ? 誰と会話している?」

「……何でもない! ターン終了!」

 

志雄 LP8000 手札4

□□■□□ 《シャイニート・マジシャン》

□□□□□

 

「ふん、僕のターン、ドロー! 僕は《セイクリッド・ポルクス》を召喚!」

 

《セイクリッド・ポルクス》

星4/光属性/戦士族/攻1700/守 600

(1):このカードが召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「セイクリッド」モンスター1体を召喚できる。

 

「ポルクスの効果により、手札から《セイクリッド・カウスト》を召喚!」

 

《セイクリッド・カウスト》

星4/光属性/獣戦士族/攻1800/守 700

このカードはS素材にできない。

(1):フィールドの「セイクリッド」モンスター1体を対象として以下の効果から1つを選択して発動できる。この効果は1ターンに2度まで使用できる。

●選択したモンスターのレベルを1つ上げる。

●選択したモンスターのレベルを1つ下げる。

 

一瞬にして現れた2体のモンスター。どちらもレベルは4。しかし、【セイクリッド】におけるエースモンスターはこのままでは場に出すことが出来ない。

 

「カウストの効果を発動! 自身とポルクスのレベルを1つずつ上げる!」

《セイクリッド・ポルクス》レベル4→5

《セイクリッド・カウスト》レベル4→5

 

「お決まりの……だな」

「僕はポルクスとカウストでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

再び現れる大きな渦は、今度は北斗のモンスターゾーンで2体のモンスターを吸い込んでいく。セイクリッドにおける最強のエースであり、対戦相手にとっての最凶のモンスター。

 

「現れろ! 《セイクリッド・プレアデス!》

 

《セイクリッド・プレアデス》

ランク5/光属性/戦士族/攻2500/守1500

光属性レベル5モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主の手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

白と金に輝く鎧が、飛び交う流星を鮮明に映し出す。足元まで伸びるマントは、その内側で宇宙を取り込んでいる。その荘厳な出で立ちは、相対す者全てを委縮させてしまう。

――はずだが、ニートは一切の動揺を見せない。変わらずうつ伏せのまま動こうとしない。

エクストラデッキからの特殊召喚を多用するデッキ相手には、プレアデスは天敵中の天敵。しかし《シャイニート・マジシャン》にはプレアデスの効果が通用しない。戦闘でも1ターンに1度の耐性を持つニートをプレアデス単体では処理することが出来ないのだ。

 

「……」

「……」

 

しかし勿論ニートも単体でプレアデスを倒すことは出来ない。別のモンスターを出したとしても、プレアデスによって処理される。

一種の硬直状態――北斗はそれを承知でその忍耐勝負を受けて立った。

 

「ターン終了だ」

 

北斗 LP4 LP7700

□□■□□ 《セイクリッド・プレアデス》

□□□□□

 

 

相性の差で均衡しているものの、単純なカードパワーで言えばプレアデスに軍配が上がる。つまり、何かが起きれば一気に北斗に形勢を持っていかれてしまう。志雄が築いた壁は高くはあれど余りにも薄っぺらな物と言わざるを得ない。

加えてこれは単純なデュエルではなく、試験官が始終を見る入学試験。下手に長引かせてしまえば自分の評価を下げる要因にもなる。

 

「俺のターン」

 

引いたカードを確認すると、志雄はすっと前を見た。

 

「時間稼ぎは止めておいた方がいい。次のターン、君の《シャイニート・マジシャン》は破壊される」

 

高々と指を差し、再び志雄とニートを挑発した。確かに、2体目の大型モンスターを出された時点で志雄の防御策は打ち砕かれる。

 

「……そうだな。次のターンがあれば」

「な、なんだと?」

 

それは志雄の勝利宣言。決闘を見守る試験官も、その突然の宣言に思わず息を呑んだ。

 

「魔法カード《スケープ・ゴート》を発動!」

 

《スケープ・ゴート》 速攻魔法

このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)4体を守備表示で特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない。

 

 

単体では弱小のモンスターだからこそ、相手に不信感を与えてくれる。このレベル1を使って何をしでかすのか……と。活用方法はエクシーズ召喚だけではない。

 

「手札から《強制転移》を発動!」

「な、何ィ?!」

 

《強制転移》

お互いはそれぞれ自分フィールド上のモンスター1体を選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える。そのモンスターはこのターン表示形式を変更できない。

 

「何かチェーンはあるか?」

「ぐっ……貴様っ……!」

 

強制転移は効果の適用時に互いのフィールドにモンスターが1体以上ずつ存在していなければ不発となる。プレアデスの効果によって自身をデッキへ戻せば不発になるが、そうなればフィールドはがら空きになる。

しかし、強烈な制圧力を持つプレアデスを相手に送る事など絶対にあってはならない。

 

「プ、プレアデスの効果により、自身をデッキへ戻す……」

 

騎士の体は粒子と化し、柔らかな音と共に姿を消した。先に壁を失ったのは北斗。だが、まだ平静を失ってはいない。

 

「ふん……だがお前のデッキは見た所レベル1を中心にしたデッキ。1ターンで8000近くのライフを削れるか?」

「……削れるさ。簡単に」

「なっ……!」

 

会場内の一部で動揺が走る。その中心は対戦相手である北斗だ。そしてそれと同時に、試験官である彼等にも、同じ感情が芽生えていた。

 

「な、なんナノーネ……あの自身ハ!」

「あの手札に何か秘策があるのでしょうか……?」

 

 

 

 

「おい、ニート。働き時だ」

『え、何』

 

一呼吸を置いた後、志雄は動き出す。

 

「《シャイニート・マジシャン》を攻撃表示に変更!」

『ゑ?』

 

攻撃力は200。とても戦闘に参加できるステータスではない。目を丸くして志雄を見つめるニートを後目に、続けてカードの発動を宣言する。

 

「装備魔法《団結の力》発動!」

 

《団結の力》

装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき800ポイントアップする。

 

ニートの周りにふわふわと舞う4体の羊。いよいよ戦闘に参加する絵柄ではないが―――羊トークンを合わせ、志雄のフィールド上にモンスターは5体。つまり攻撃力は4000上昇する。

 

《シャイニート・マジシャン》攻200→4200

 

「よ、4200だとぉっ?!」

 

北斗が後退りしたのは無意識だったろうか。守るものが何もない状況で、攻撃力4200のモンスターが相手フィールド上に立っている(寝ている)。

当の本人であるニートも、唐突な展開に困惑しているらしい。

 

『……この羊さんたちと団結するの?』

「ああそうだ。これでお前は最高クラスの攻撃力を得た!」

 

しかし、これでもまだ北斗のライフは半分しか削り取ることは出来ない。あと一つ、何か加えなければ。

 

「魔法カード《鬼神の連撃》発動!」

 

《鬼神の連撃》

自分フィールド上に表側表示で存在するエクシーズモンスター1体を選択し、そのエクシーズ素材を全て取り除いて発動する。

このターン、選択したモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

「ば、馬鹿な?!」

「ニート……いや、《シャイニート・マジシャン》のオーバーレイ・ユニットをすべて取り除き、このターン2回攻撃を可能にする!」

 

周りに浮かぶ2つのオーバーレイ・ユニットは、ゆっくりと増幅して体を包み込んでいく。力が沸いている……筈なのだが、どうにもニートはその節が見えない。

 

「これで終わりだ! 《シャイニート・マジシャン》でダイレクトアタック!」

『えー……めんどくさい。動きたくない』

「なんでだよ! 攻撃できる状態ならしろ! ほら!」

『んもー。ちょっと待って……」

「ダイレクトアタック!」

『2回言わんでいい』

 

ダイレクトアタックの宣言からダメージを受けるまで妙な時間があった。北斗がその攻撃力アップと2回攻撃に驚愕してから、敗北を覚悟するまでの時間だ。彼女の行動の一部始終を見ていなければ、何があったのか分からない。

ニートは文句を垂らしながらゆっくりと立ち上がり、のろのろと北斗の元へと歩いていく。

 

「ひぃっ!」

 

北斗の前に立つや否や、虚無的でありながら鋭い眼差しで彼を睨み付ける。一瞬の静寂の後、ニートがとった行動は――

 

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

2回の往復ビンタだった。

 

北斗 7700→3500→0

 

 

 

「こ、この僕が……これほどに呆気なく……」

 

気が付いたら、ライフが0になっていた。まさにこの状況はその表現が相応しい。

呆然と立ち尽くす北斗を横目に、志雄はその場を後にする。予想だにしなかった展開に、その場にいた誰もが目を白黒させていた。

 

 

* * * * *

 

 

「運が良かった……」

 

受験番号21番以降の決闘が始まり、志雄たちは解放された。会場の近くのバーガーショップで一人(とニート)、テーブルに突っ伏していた。

合格発表とクラス分けは後日知らされる。あとは両手を合わせて祈るほかない。

 

『ところで、なんで《鬼神の連撃》なんて入れてたの?』

「お前だよ。お前はまず素材を使わない」

 

相手の効果の対象になった時に素材を取り除いて無効化する。それを分かっていて対象に選択すること者などいない。ならば、エクシーズ素材を別の用途に使う方が得策であると判断した。

 

『アタシのために入れてくれたの?』

「働けっていう俺からのメッセージだ。というかお前がデッキ作り直せって言ったんだろ」

 

一通り愚痴をこぼした後で志雄はその席を後にする。彼女の目には、志雄の背は一体どう映っていただろう。

精霊は主人を選べない。どんな主人と出会うかは、彼等の運命次第。

 




不遇な北斗くんは原作通り(
今後は彼もきちんと活躍させる予定なのでご安心を。

それから、一話当たりの文章量に迷っているところです。もう少し短い方が良いという意見がありましたら調節する予定です。
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