精霊だってお休みしたい   作:家臣さん

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第1話を投稿した後に、原作において受験番号と成績が対応していることを思い出しました。
本作では2つは関係ない、という事でお願いします。


第2話 英雄とニート

アパートの郵便ポストにアカデミアの“合格”通知が届いてから一か月。志雄たち学生は荷物をまとめ、アカデミア行きの船へと乗り込んだ。

 

デュエルアカデミアが建つ孤島と本島を繋ぐのは、一日に1便のみの連絡船。ただし毎年の入学式に限り、学生が全員乗り込むために5便出港する。1隻でも相当のサイズなので、学生の総数の多さは明らかだ。

未来の学生生活に想いを馳せて海を眺める者、購買やレストランで食事をする者。彼等は思い思いの方法で船旅を満喫する。

そんな中で志雄は個室にいた。一部屋で2人分のベッドがある。相部屋の学生はまだ船に乗り込んでいないようだ。

 

『うう……気持ち悪い……』

「まだ出港してないぞ。精霊も船酔いするんだな」

 

今のニートは志雄にしか目視できない。どうやら自らの意思で可視化と不可視化が出来るようで。だが基本的に精霊は自らのマスター以外の人間に見られてはいけないようだ。今まで志雄が“精霊”の存在を知らなかったのもこれが理由だろう。

 

『アタシ外に出ないから船なんかにも乗らないしさあ……』

 

この1か月は、思った通りのニートっぷりだった。彼女が外へ出た姿はおろか、家事の手伝いをしてもらったことすら一度たりともない。志雄が一瞬でも想像した「主従関係」は存在しなかった。

 

『ね、背中さすって……お願い』

「でも今お前に触れないぞ」

『あ゙~……触れるようにしちゃったら他の人に見られちゃうかもしれないし……』

 

見るからに顔色の悪いニートをベッドに寝かせ、志雄が代わりにベッドから降りた。

 

「ちょっと待ってろ。購買で酔い止め買ってきてやるから。お前に効くのか分からんけども」

 

そう言うと、志雄は廊下へと出ていった。相部屋の者はまだ姿を見せない。もうすぐ出港時間なのに大丈夫なのだろうか。会ったこともない他人の心配をしつつも、案内を見ながら足早に購買所へと進んでいった。

 

中央のホールでは決闘を行っている者も多い。周りでは野次馬が歓声を上げながらそれを観戦する。若干の興味を覚えつつ、志雄は本来の目的を達するために購買へと直進する。

――曲がり角。急ぎ足でなければ、衝突することはなかったかもしれない。

 

ドンッ!

 

「いてっ!」

 

豪快に尻餅をついてしまった。恥ずかしさを押し殺して相手を確認する。オールバックの髪型、長身の男性だ。

 

「わ、悪い……」

「いや、こちらこそ済まない。不注意だったよ」

 

見るからに優等生といった口調と外見。一足先に立ち上がった男性は、手を差し伸べて志雄を引き上げた。

 

「急ぎの用かい?」

「ああ。ちょっと購買に用があって」

「目的地は同じだな。どうせならそこまで向かおう」

 

そう言うと、彼は購買の方へ指を差した。物腰柔らかな性格だ。

 

「俺は“三沢 大地(ミサワ ダイチ)”。ラー・イエローに配属されることになった。君は?」

 

――三沢の口にしたラーイエローとは、アカデミア入学時に割り振られるクラスの事。成績順にオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドにクラス分けされるが、中等部からの内部進学者でなければラー・イエローかオシリスレッドにしか入ることは出来ない。

 

「俺は……オシリス・レッドの“朝倉 志雄”だよ」

 

船に乗っているという事は高等部編入組。その時点で彼と自分の成績差は歴然としている。劣等感が体中に走り回った。

 

「オシリス・レッドか……君は“遊城 十代(ユウキ ジュウダイ)という男を知っているか?」

「いや、知らないな」

 

唐突な問いかけに、志雄は頭にクエスチョンマークを浮かべてしまった。

 

「入学試験の時に俺が出会ったデュエリストだ。彼はオシリス・レッドだと言っていたが、その実力は一級品だった」

「そいつの決闘を見たのか?」

「ああ、何せ教員と決闘していたからな。俺以外も注目していたよ」

「きょ、教員と?!」

 

志雄は思わず上ずった声で聞き返す。入学試験で相手をするのは例外なく他の入学志望者だったはずだ。それほどに十代という男が特別な存在なのか。

 

「今年の1年……現時点でのトップは彼だと思っている」

「そいつがオシリス・レッドなのか。何があったんだよ」

「ひょっとすると、一部の教員に嫌われてしまったのかもな」

 

事情は知れぬが、良くも悪くもアカデミアにとって特別視されているらしい。目立つ事が果たして良いのか悪いのか知れない。

一通り話終えた所で2人は購買へ到着した。

 

「また会おう。志雄」

「ああ」

 

 

* * * * *

 

 

「見てたわよ。あなたの無様な姿」

 

その一言で、何かが彼の胸を突き刺した。

船内のファミレスにて。志雄たちと違う隻で、入学試験で志雄に敗北した北斗が真っ白に燃え尽きていた。歯に衣着せぬ言葉で彼をどん底へたたきつけた犯人は、北斗と同じLDSからの推薦入学である“光津 真澄(コウツ マスミ)”。

 

「あ、あれはマグレに過ぎない……! 相手の手札が良かっただけだ!」

「プレアデス立てといてそれはねーんじゃねーか?」

「ぐひぃっ!」

 

追い打ちをかけたのが、これまたLDSからの推薦である“刀堂 刃(トウドウ ヤイバ)”。

確かにプレアデスは圧倒的な制圧力を持っており、多少の展開なら阻害できるが……

 

「あの場面でプレアデスを特殊召喚すること自体間違ってたんじゃない? エクシーズせずに2体を並べておく方が、相手のデッキを考えても得策だった筈よ」

「むむむ……それは結果論で……」

「覚えてねーのか。相手が《イービル・ソーン》を使ってた時点でレベル1を中心にしたデッキだったことは割れてただろーが。低速・低火力のデッキだと分かれば《強制転移》の存在だって予想できるぜ」

 

完全なる2体1。最早北斗の敗北は言い逃れできない。LDSの看板に泥を塗ってしまったことも事実だ。おかげで北斗がLDS出身にして前代未聞のオシリス・レッド配属となってしまったのも、2人の呆れっぷりを加速させている。

 

「真澄はオベリスク・ブルー……ってか、女生徒は成績関係なしでブルーだっけか」

「ええ。刃はイエローなんでしょう?」

「たりめーだ。どこぞの面汚しとは違うぜ」

「……くぅっ!」

 

憎しみを力に変え、北斗は覚悟を決める。LDSが被った汚名を逸早く返上することが、彼に課せられた至上命令だ。

 

「お、覚えていろ受験番号2番……! いつか必ずこの恨み晴らしてやる!」

「かませ役らしいセリフだわ」

「ぐひゃぁっ!」

 

 

 

* * * * *

 

 

志雄が自分の個室へと戻った時、そこには奇妙な光景が広がっていた。

 

『う、ううぅぅぉ……』

「大丈夫かよ。ほら。精霊も船酔いするんだなぁ」

 

ギョッとした表情を隠せないまま、志雄はその光景を間近にする。本来他の人間には見えない筈のニートが、他の生徒に介抱されている。

その生徒が志雄の存在に気付いたのは、別の“精霊”がその生徒に声をかけた時だった。

 

『クリクリ~!』

「どうしたハネクリボー? ……あ!」

 

彼こそ、志雄と相部屋になった学生。彼はベッドから降りると、屈託のない笑みで志雄に語り掛けた。

 

「この精霊、お前の相棒か?」

「えーと……」

 

状況の把握が追い付かないが、どうやら“彼”も精霊を見ることが出来る。そして周りに浮かぶ“ハネクリボー”と呼ばれた一頭身の生物も精霊であり、彼の「相棒」らしい。そんな人間同士が相部屋になるなど、よっぽどの偶然だ。

 

「俺は“遊城 十代”。お前は?」

「“朝倉 志雄”……って、あんたが十代か!」

「なんだ? 俺のこと知ってるのかよ!」

「いやまぁ、色々噂は聞いてるよ。いろんな意味で強烈だって」

「強烈?」

 

三沢が口にしていた、(暫定)1年最強のデュエリストにも拘らずオシリス・レッドに配属された不運な学生。そう記憶している。

 

「こいつは“ハネクリボー”の精霊なんだ。この子は?」

「ああ、ニートだよ」

「ニ、ニート……?」

『違う! “シャイニート・マジシャン”です!」

「つまるところのニートだ」

 

出会ってまだ数日だが、このやり取りも何度目だろう。次第に彼女も諦め始めているような気もする。

枕の代わりにハネクリボーを抱き寄せるニートに酔い止めの薬を与えると、再び志雄はベッドから降りる。

ちょうど、窓の外で海が動き出した。船が出港したらしい。

 

「楽しみだなぁ、アカデミア……どんな強敵が待ってるのか、ワクワクするぜ!」

 

三度の飯より決闘が好きといった青年だ。実力が伴うのも頷ける。

 

「そうだ、志雄! 決闘しようぜ!」

 

心のどこかで彼がそう言うことを予想していた。

 

「それはアカデミアに到着してからにしよう。どうせならソリッドビジョンシステムがある場所の方がいいしな」

「そうか? じゃあ飯だ!」

「切り替えが早いな……」

 

そうは言うものの、志雄にとってもアカデミアは長年羨望の的だった。毎年多くのプロデュエリストを排出する超名門校――自分がここに入学することをずっと待ち望んでいた。

これから待っている強敵を楽しみにしているのは十代だけではない。

 

 

* * * * *

 

 

「ここがオシリス・レッドの寮……」

 

大量の荷物が入った鞄を持ち、十代と志雄は自らが生活する寮の前に立っていた。志雄が今まで住んでいたアパートよりもみすぼらしい。超名門校の学生寮とはとても思えない。立地も最悪で、校舎から相当離れている。絶壁に立つその学生寮に、打ち寄せる波飛沫が舞う。

 

「なんつーか、ちょっとした嵐で吹き飛びそうだな」

「この際住めれば何でもいいや。早速入ろうぜ!」

 

一足先に十代が階段を上り、割り振られた部屋の扉の前に立つ。十代の手招きを確認し、志雄も小さなため息をしてから後を追った。

その時、遠方から一人の男の声が響く。

 

「アニキ~! ちょっと待ってほしいッス!」

 

その声に呼応して2人が向こうを見ると、そこにはこちらへ走ってくる学生の姿があった。

 

「船着き場で待ち合わせって言ってたはずッスよ!」

「あれ? そうだったっけ……悪い悪い!」

 

一部屋4人。今追いついてきた少年の“丸藤 翔(マルフジ ショウ)”と合わせてもあと1人。翔は扉の前に到着すると、肩から鞄を降ろして肩で息をした。

 

「“アニキ”? 兄弟……じゃないよな」

「僕はアニキの決闘を見て惚れ込んだッス。僭越ながらアニキと呼ばせてもらってるッス!」

 

これも一つの友情の形かと、志雄は心の中で飲み込んだ。一通りの自己紹介を終えた後、3人は部屋の中へと足を踏み入れる。外見から想像される通りの室内に淡い期待も打ち砕かれた。

そんな志雄とは対照的に鞄を床に放り投げて上段のベッドに身を投げる十代。食事と決闘以外、多くは望まない性格だ。

 

「おぉー! このベッドフカフカだぜ! 志雄も翔も試してみろよ!」

「楽しそうだなお前」

「ちょっとアニキ~。自分の荷物は端に置いて欲しいッス!」

『うう……頭に響くからやめて……』

『クリクリ~!』

「なんだニート、まだ治ってないのか?」

『ほら志雄が“ニート”って言うから十代くんもニートって言い始めたじゃん!』

「具合悪い割には元気じゃないか」

「2人とも誰と話してるッス……?」

 

修学旅行の旅館ではしゃぐ高校生。このオシリス・レッドの不当な待遇を心なしか楽しんでいるようにも見えた。

ここで、室内に入るや否や騒ぎ立てる彼等の声を留めたのは、最奥のベッドから聞こえるゆっくりとした声だった。

 

「煩いんだな……もう少し静かにして欲しいんだな」

 

4人目の同寮生であることはすぐに察した。その男はのっそりとベッドから体を出し、虚ろな目でこちらを見つめている。形容するならコアラ。

 

「あ! あんたが4人目の!」

 

前田 隼人(マエダ ハヤト)”。彼こそがこの寮の4人目の学生。

一通り彼等を見渡した後、隼人は再びベッドの中に潜り込んでしまった。見た目も性格も、志雄たちと同じ新入生とは思えない。ともかく彼はこのまま寝かせておいた方が得策だ。

 

「まだ船着き場に到着してない船もあるみたいッス。入学式は明日ッスね」

「なんだ。じゃあ今日はやる事ないのかー。……」

 

チラリと、十代は志雄を見た。何の目配せなのかは容易に想像できる。昨日船内で申し込まれた決闘の事だろう。

 

「本当にやるのか……」

「当たり前だろ? 絶好の決闘日和じゃないか!」

 

謎のワードが出てきたところで、まだ顔色が芳しくないニートを確認する。露骨に嫌そうな表情をするが、約束してしまった手前この決闘を断る訳にはいかない。

頷きで申し込みを受け入れた合図をすると、志雄はデッキとデュエルディスクを持って外へ出た。それについていくように、高ぶった面持ちで十代も外へ駆けていった。

 

決闘が始まるとの事で、荷物を置き終えた他のレッド寮の学生も表へと顔を出した。それも入学試験で教員を倒すという偉業を成し遂げた実力者の決闘ともなれば、話のタネにはもってこいだろう。

 

「大丈夫か? ニート」

『具合の良し悪し以前に働きたくないでござる』

「分かった分かった……お前は召喚されてもその場に寝てるだけでいいから」

 

呆れ顔でデュエルディスクを展開。

 

「「デュエル!!」」

 

志雄 LP8000

十代 LP8000

 

 

「俺の先攻だな。俺は《黄泉ガエル》を通常召喚」

 

《黄泉ガエル》

星1/水属性/水族/攻 100/守 100

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が表側表示で存在する場合は発動できない。

 

 

「更に、手札から《ジェスター・コンフィ》を特殊召喚!」

 

《ジェスター・コンフィ》

星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

このカードは手札から表側攻撃表示で特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚した場合、次の相手のエンドフェイズ時に相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと表側表示のこのカードを持ち主の手札に戻す。「ジェスター・コンフィ」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

 

最速で揃えられた2体のレベル1モンスター。こうなれば次の展開は読めている。エクストラデッキに眠るニートがまた呻いているのが聞こえるが、そんなものはお構いなしだ。

 

「レベル1のモンスター2体でオーバーレイ・ネットワークを構築。《シャイニート・マジシャン》!」

 

《シャイニート・マジシャン》 ランク1/光属性/魔法使い族/攻 200/守2100

 

志雄に言われた通り、ニートはその場で怠けている。入学試験が珍しかっただけで、本来このモンスターは戦闘に参加する役割は持たない。ただじっとしていればその役割を果たしてくれる。

 

「カードを1枚セットしてターン終了」

 

志雄 LP8000 手札2

□□■□□ 《シャイニート・マジシャン》

□□■□□  伏せ

 

十代にターンが回った。入学早々噂になっているデュエリストの実力を、目の前でこれほどに早く見られるのも悪くはない。

 

「俺のターン、ドローッ! 俺は《E・HERO ブレイズマン》を召喚!」

 

《E・HERO ブレイズマン》

星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1800

「E・HERO ブレイズマン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。

(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。

このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

「【E・HERO】か……」

 

HEROと名の付いたモンスター群で構成される、融合を軸にしたデッキ。HEROの融合体を連打し、力で押し切るタイプだ。1体ならばニートで耐えられるが、それ以上については彼の手札次第。

 

「ブレイズマンの効果発動! デッキから《E・HERO ネオス》を墓地へ送り、その属性、攻守をコピーするぜ!」

 

《E・HERO ブレイズマン》 攻1200→2500

 

《融合》をサーチしない。つまり――

 

「手札にあるのか……」

「おう! 俺は魔法カード《融合》を発動! 手札の《E・HERO シャドー・ミスト》と《E・HERO バースト・レディ》を墓地へ送る!」

 

手札の2体のHEROがそのまま墓地へ送られる。その映像は、宛ら水上の絵具をかき混ぜるように混色していく。数秒後、そこから現れたのは燃え盛る火を体に纏う新たなヒーロー。

 

「現れろ! 《E・HERO ノヴァ・マスター》!」

 

《E・HERO ノヴァ・マスター》

星8/炎属性/戦士族/攻2600/守2100

「E・HERO」モンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

十代のフィールドに、炎をその身に司る2体のヒーローが揃う。どちらも攻撃力はニートの守備力を上回っている。

 

「やっべー……」

「融合素材として墓地に送られたシャドー・ミストの効果発動。デッキから《E・HERO エアーマン》を手札に加えるぜ。バトルだ。まずはブレイズマンで《シャイニート・マジシャン》に攻撃!」

 

熱を発する鉄拳が、ニートの手前で止まった。1ターンに1度の戦闘耐性だ。分かってはいても恐怖心は拭い去れないのか、ニートは慌てて紅い枕で頭を覆い隠した。しかし2回目の攻撃は残っている。

 

『アタシ戦闘耐性とかいらないよ……さっさと退場させてぇ……』

「はは……ごめんな。ノヴァマスターで2回目の攻撃!」

 

炎の渦に巻かれ、ニートは墓地へ送られる。退場の間際どこか嬉しそうな表情を隠しきれないでいたが、よっぽどフィールドにいるのが嫌なのだろう。

 

「ノヴァマスターが相手モンスターを破壊した時、デッキからカードを1枚ドロー出来る! 俺はカードを1枚セットしてターン終了だぜ!」

 

十代 LP8000 手札3

□□■■□ 《E・HERO ブレイズマン》《E・HERO ノヴァ・マスター》

□□■□□ 伏せ

 

早速ニートは退場したが、ライフポイントの差はまだ開いていない。劣勢と言うにはまだまだ早い。

 

「俺のターン、ドロー。手札から《ミスティック・パイパー》を召喚」

 

《ミスティック・パイパー》

星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0

このカードをリリースして発動する。

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

この効果でドローしたカードをお互いに確認し、レベル1モンスターだった場合、自分はカードをもう1枚ドローする。

「ミスティック・パイパー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「効果発動。自身をリリースして1枚ドロー」

 

《ミスティック・パイパー》が自身の持つ横笛を吹くと、当たりには鮮やかな音色が広がった。それに反応して志雄のデッキトップが淡く光る。ドローしたのは、レベル1モンスターである《サクリファイス》。

 

「レベル1モンスターをドローした場合、もう一枚ドローできる! 更に魔法カード《高等儀式術》を発動!」

 

《高等儀式術》

手札の儀式モンスター1体を選び、そのカードとレベルの合計が同じになるように

デッキから通常モンスターを墓地へ送る。その後、選んだ儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 

「儀式召喚か!」

 

様々な召喚方法の中でも一際特殊なのが、エクストラからではなく手札から特殊召喚される「儀式召喚」。儀式魔法と儀式モンスター、加えてリリース素材を用意しなければならないため、難易度は高い。

 

「デッキからレベル1の通常モンスターを墓地へ送り、手札から《サクリファイス》を儀式召喚!」

 

《サクリファイス》

星1/闇属性/魔法使い族/攻 0/守 0

「イリュージョンの儀式」により降臨。

1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターのそれぞれの数値になる。

この効果でモンスターを装備している場合、自分が受けた戦闘ダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

また、このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 

引き裂かれた虚空から不気味な音を奏でて現れたのは、青色の体を持つ魔物。頭部にある無機質な一つ目が、対峙するヒーローたちをじっと見つめている。身の毛もよだつ外見にギャラリーの学生達は慄いた。

 

「《サクリファイス》の効果発動。《E・HERO ノヴァ・マスター》を吸収させてもらうぞ!」

「くっ……やるなっ……!」

 

腹部の薄い膜に、ノヴァ・マスターは吸収されていく。それはまるで悪魔が獲物を捕食する様だ。《サクリファイス》は吸収したモンスターの攻守をそのまま得る。よって攻撃力は2600。

 

「バトルだ。《サクリファイス》でブレイズマンに攻撃!」

「うわぁぁっ!」

 

十代LP8000→6600

 

一足先に相手のライフを削ったのは志雄だった。そして、反撃の芽も出来るだけ摘んでいく。

 

「エンドフェイズ……《リビングデッドの呼び声》を発動! こいつでブレイズマンを……」

「そうは行くか! そいつにチェーンして《転生の予言》を発動する!」

 

《転生の予言》

お互いの墓地のカードを合計2枚選択して発動できる。

選択したカードを持ち主のデッキに戻す。

 

 

自分の墓地のモンスターを蘇生する《リビングデッドの呼び声》。ブレイズマンのサーチ効果はリビングデッドによる特殊召喚でも発動する。これ以上融合の準備をさせる訳には行かない。

 

「これにより、相手の《E・HERO ブレイズマン》と俺の墓地の《シャイニート・マジシャン》をデッキに戻す!」

『ええ?! 戻るのお?!』

「もうちょっと頑張ってくれ頼むから!」

 

文句たらたらのニートの言葉を軽く流す。何はともあれ《リビングデッドの呼び声》を不発に終わらせることが出来た。

 

「ターン終了」

 

志雄 LP8000 手札2

□□■□□ 《サクリファイス》

□□■□□ 《E・HERO ノヴァ・マスター》 

 

 

「俺のターン! ドロー!」

 

無論、慢心はしない。相手は相当の強敵だ。

 

「魔法カード《コンバート・コンタクト》を発動!」

 

《コンバート・コンタクト》

このカードは自分フィールド上にモンスターが存在しない場合のみ発動する事ができる。

自分の手札及びデッキから1枚ずつ「N(ネオスペーシアン)」と名のついたカードを墓地に送り、デッキをシャッフルする。その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「ネオスペーシアン……」

 

志雄にとって、ギャラリー達にとって初めて目にするカテゴリー。戦い方が分からないのはこれ以上ない不安だ。

 

「手札から《N・グラン・モール》、デッキから《N・ブラック・パンサー》を墓地へ送り、2枚ドロー!」

 

デッキ圧縮と手札交換を同時に兼ねるカード。だがそれよりも、十代がこのターン見せたネオスペーシアンに注意を向けずにはいられない。不安を煽られる志雄を前に、十代は更に1枚のカードを掲げる。

 

「魔法カード《ミラクル・コンタクト》!」

 

《ミラクル・コンタクト》

自分の手札・フィールド上・墓地から、融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、「E・HERO ネオス」を融合素材とする「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する。

 

《E・HERO ブレイズマン》の効果によって墓地へ送られたネオスは、幻像としてフィールド上に姿を見せる。頭上に放たれる光は、新たなヒーローを呼び出す合図だ。

 

「墓地のネオスと《N・ブラック・パンサー》をデッキに戻し……現れろ! 《E・HERO ブラック・ネオス》!」

 

《E・HERO ブラック・ネオス》

星7/闇属性/戦士族/攻2500/守2000

「E・HERO ネオス」+「N・ブラック・パンサー」 

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。

フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、選択したモンスターの効果は無効化される(この効果で選択できるモンスターは1体まで)。

また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

 

 

特撮ヒーローを彷彿とさせる風貌のネオスは、その体を漆黒に包み込む。それはまるで蝙蝠のよう。

 

「ブラック・ネオスの効果発動! 《サクリファイス》の効果を無効にするぜ!」

「……通す」

《サクリファイス》攻2600→0

 

攻撃力の上昇も、戦闘に対する身代わり効果も消え去った。残ったのは何の効果も持たない攻撃力0の魔物のみ。加えて十代はまだ通常召喚権を残している。

 

「手札から《E・HERO エアーマン》を召喚!」

 

《E・HERO エアーマン》

星4/風属性/戦士族/攻1800/守 300

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。

●デッキから「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

「エアーマンの効果により、デッキから《E・HERO スパークマン》を手札に加える」

 

後続をサーチしながら、盤面を整える。ただ闇雲に展開させている訳ではないらしい。

 

「ブラック・ネオスで《サクリファイス》に攻撃! エアーマンでダイレクトアタック!」

「っ……!」

志雄 LP8000→5500→3700

 

吸収されていたノヴァ・マスターもろとも《サクリファイス》は破壊された。というより、魔物から解放されたといった方が正しいかもしれない。場を返されたが、志雄はすぐさま次のターンからの展開を考えていた。

――しかし、十代のバトルフェイズはまだ終わっていない。

 

「速攻魔法《コンタクト・アウト》発動!」

 

《コンタクト・アウト》

自分フィールド上に表側表示で存在する「ネオス」と名のついた融合モンスター1体を融合デッキに戻す。

さらに、融合デッキに戻したモンスターに記された融合素材モンスター一組が自分のデッキに揃っていれば、この一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

再び放たれた強烈な光とともに、ブラック・ネオスは2つのモンスターに分離した。今度は墓地ではなく、十代のフィールド上だ。

 

《E・HERO ネオス》星7/光属性/戦士族/攻2500/守2000

《N・ブラック・パンサー》星3/闇属性/獣族/攻1000/守 500

 

 

「ネオスとブラック・パンサーで追撃だ!」

「ぐぅぅっ!」

志雄 LP3700→1200→200

 

予想を大きく超えた量のライフダメージに、その場の者達は湧きあがった。目まぐるしいヒーローの猛撃とそれを可能にする彼のドロー運――入学当初から注目の的になるのも合点がいく。

だが、このターンの攻撃は終了した。何としても巻き返さなければ今度こそライフは尽きる。

 

「ターン終了だぜ」

 

十代 LP6600 手札2

□■■■□ 《N・ブラック・パンサー》《E・HERO ネオス》《E・HERO エアーマン》

□□■□□《リビングデッドの呼び声》(不発)

 

 

十代が持ち合わせているのは単純な強さだけではない。対戦相手をも楽しませるプレイングが、彼を彼足らしめている。それこそまさに、プロデュエリストの素質。

 

志雄はデッキトップのカードを捲る。彼はどこか嬉しげな表情をしていた。

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