精霊だってお休みしたい   作:家臣さん

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北条聖奈 編
第3話 最強の印


「クソッ……どこなんだレッド寮は!」

 

大きな鞄がずしりと肩に圧し掛かる。一日の船旅で疲れている体に鞭打って、“志島 北斗”は(不本意極まりないが)自らの宿泊する寮を探し回っていた。このような辺境の地に飛ばされたのも、入学試験での大失態が原因だ。

しかしあれは自分の本来の実力ではない。運が味方しなかったに過ぎない。そう自分に言い聞かせ、なんとか平静を保とうとした。自尊心(プライド)と自己嫌悪感の醜い鬩ぎ合いだ。

 

「あそこか……レッド寮。ん?」

 

彼がそこに到着すると、眼前に広がったのは2人の決闘者による決闘。一人は見た所【HERO】に別のテーマを混合させたデッキ。相当のプレイングとドロー運がなければロクに回すことすら容易ではない。

そしてもう一人は――

 

「ああっ! あいつは!」

 

自らをレッド寮に叩き落とした諸悪の根源――受験番号2番。憎き宿敵である。この場で呼び止めてやろうとも考えたが、それは咬ませっぷりを増大させる。大人の余裕でここはグッと我慢し、彼等の決闘の一部始終を見送ることとした。

一つ、好都合と考えよう。ライバルのプレイングやデッキを確認することは後々のアドバンテージとなる。必要もなく草の茂みに隠れた。

 

 

――――。

 

 

「俺のターン……ドロー」

 

神に祈るような形で、カードをドローする。その結果を十代や翔たちは固唾を飲んで見守っていた。

どうやら、まだ志雄は戦えるらしい。戦意の火は今だ盛りだ。

 

「スタンバイフェイズ時、墓地の《黄泉ガエル》を特殊召喚。更に手札から《金華猫》を召喚!」

 

《金華猫》

星1/闇属性/獣族/攻 400/守 200

このカードは特殊召喚できない。

召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。

このカードが召喚・リバースした時、自分の墓地からレベル1モンスター1体を選択して特殊召喚できる。

このカードがフィールド上から離れた時、この効果で特殊召喚したモンスターをゲームから除外する。

 

 

「墓地のレベル1……まさか!」

「そのまさかだ。墓地の《サクリファイス》を蘇生させる!」

 

子猫の背後から見える怨霊がけたたましい唸り声を上げると、十代のヒーローを吸収した魔物が地面から這い上がる。一度正規の方法で特殊召喚してしまえば、他のカードの効果でも墓地から蘇生することが出来る。

 

「《サクリファイス》の効果を再び発動する! ネオスを吸収!」

《サクリファイス》 攻0→2500

 

「バトル! 《サクリファイス》でエアーマンに攻撃!」

「そう簡単には終わらないか! ワクワクしてきたぜ!」

十代LP6600→5900

 

モンスターが破壊された時に発生する一陣の風が、十代の髪を強くなびかせた。しっかりとライフダメージは入っている。

ライフの差こそまだ縮まらないが、再びエース級のモンスターを処理することが出来た。あとは“奴”をもう一度呼んで盤石の壁を築けば、勝負はまだ分からない……かもしれない。

 

「メインフェイズ2だ。レベル1の《金華猫》と《黄泉ガエル》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《シャイニート・マジシャン》!」

 

一度のデュエルで2回のエクシーズ召喚。後で相当な文句を垂らされることを覚悟の上だ。

 

 

……しかし、彼女のリアクションとその後の展開は、志雄の甘すぎる予想を余りにも大きく上回った。

 

『嫌です』

 

短く、きっぱりと、はっきりと。

 

「は?」

『もう働きたくないの』

「いや、そこにいるだけでいいんだってば」

『ここに居るのも疲れるし! っていうか2回も呼ばないでよ!』

 

両手両足をバタつかせ、ボイコット。まるでおもちゃを買ってくれない子供の図。頬をぷっくりと膨らませて仰向けになるその姿は、傍観者ならばきっと志雄とは別の感情を萌芽させてくれる。

 

「えーと、どうするんだ?」

 

苦笑いで十代が問いかける。確かに私情で決闘を長引かせるわけにはいかないが……

精霊とはこれほどに謀反を図るものなのか――十代の相棒はあれほどまでに従順そうだというのに。

とはいえ所詮はカードの1枚。あったとしてもゴネるまでで、いう事を聞かない事などあるはずが――

 

『ねえ志雄』

「なんだよ……」

『その手札』

 

細い指で差された手札。志雄は眉をキッと潜めてそれを確認する。恐らく彼女は志雄が手札に握っている《ワンダー・ワンド》の事を言っているのだろう。彼女が何を伝えんとしているのか、すぐさま理解してしまった。とても悔しい。

 

「いやいや、これはお前の隣の《サクリファイス》に使うんだよ」

『私に使ってくれないと駄目。この魔物くんも攻撃力高いじゃん!』

 

魔物くん。

 

「ライフがあと200なんだよ! 2700以上でゲームエンドなんだよ! それでなくても装備カードが剥がされたら終わりだし! お前を残した方が強いの!」

 

隣で浮かぶ《サクリファイス》も、困った表情をしている……ように見えなくもない。こんなヤツが味方モンスターとは、サクリファイスに申し訳が立たない。

 

『……使ってくれないならこうですー!』

 

ニートは徐に立ち上がった。

 

「何やってんだお前」

『……私を攻撃表示で特殊召喚』

 

―――――。

 

―――。

 

一瞬、その言葉を耳に入れることを戸惑った。

 

「はぁぁぁぁぁ?!」

 

勇ましい(つもりの)表情、加えて慣れない手つきで構え、ピョンピョンと跳ねて臨戦態勢をとっている。ちなみに攻撃力は200だ。ハネクリボーより低い。

 

「てめぇふざけんな! そりゃねーだろ!」

『つーん』

 

まず疑ったのは立体映像(ソリッドビジョン)システムのバグ。あまりに理不尽なモンスターの謀反に、志雄はどうしようもなく立ち尽くす。ちなみにバグではない。

依然動かない盤面に、翔たちギャラリーはざわつき始めた。

 

(何やってるッス? 志雄くん……)

(誰と話してるんだろう)

(長考中じゃねえの)

 

周りからの視線が痛い。志雄からニートに向けての視線はこれほどに通用しないというのに。

 

「こ、このアホニート……覚えとけよ! 《ワンダー・ワンド》を《シャイニート・マジシャン》に装備!」

 

《ワンダー・ワンド》

魔法使い族モンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

また、自分フィールド上のこのカードを装備したモンスターと

このカードを墓地へ送る事で、デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「……《ワンダー・ワンド》と《シャイニート・マジシャン》を墓地へ送り、2枚ドロー。ターン終了……」

 

志雄 LP200 手札3

□□□■□《サクリファイス》

□□□■□《E・HERO ネオス》

 

「お、俺のターンだな……」

 

事の次第を知っているのは決闘している十代もである。だからこそ、今引いたカードはあまりに無慈悲だ。高らかに宣言していいものか少し迷いながら。

 

「えーと……魔法カード《サイクロン》発動! 装備カードになっているネオスを破壊する!」

「あっ」

「《E・HERO スパークマン》を召喚するぜ」

 

《E・HERO スパークマン》 星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400

 

「スパークマンで《サクリファイス》に攻撃!」

 

 

 

 

―――――――。

 

シャイニート『マスター! 何があってもあなたを守ります!』

 

志雄「ニ、ニート……いや、シャイニート! お前って奴は!」

 

シャイニート『当たり前でしょう? あなたは私のマスターなのですから!』

 

敵A「グォォォォォ!」

 

敵B「グォォォォォ!」

 

シャイニート『さぁ来なさい化け物たち! マスターには指一本触れさせません!』

 

―――――――。

 

 

などというやり取りをしてみたかった。

 

「バカヤロォォォォォォ!!」

 

志雄 LP200→0

 

 

 

 

 

 

 

――決闘は受験番号2番の敗北に終わった。最後は明らかなプレイングミス……《ワンダー・ワンド》の対象を自分の操る《セイクリッド・プレアデス》を食い止めた宿敵ではなく、《サクリファイス》にしていればまだ勝負は分からなかっただろう。

余りに初歩的なミスだ。そんなミスを犯す者に敗北したことに対する自分への自己嫌悪の念を、北斗はどうしても拭い去れなかった。

 

「……ふん。まぁいい」

 

すぐに自分はオベリスク・ブルーへ昇格し、この落ちこぼれ達とは次元の違う世界へと足を踏み入れる。LDSの看板を背負っている以上、万が一にも失敗は在り得ない。きっと次はないだろう。

そうとなればじっとはしていられない。(何故か)こっそりと自分の部屋に入り、デッキのカードを並べた。

逸早くこのようなみすぼらしい寮から抜け出すこと。そして同じLDSからの推薦である刃や真澄に追いつくこと。それらも自分がプロになり頂点を目指すための通過点に過ぎないのだ。

 

「デッキを強化しなければ……」

 

入学式が明日とはいえ、学生寮も購買も食堂も既に開かれている。この空いた時間すらも利用するのがエリートだ。恐らく。

必要最低限の荷物を抱え、北斗は校舎の購買へと足を運ぶ。かなりの長距離だが、強さのためなら厭わない。これから歩んでいくエリート街道と変わらない。

 

 

* * * * *

 

 

「最悪だ」

 

開放されたばかりのレッド寮食堂に座っていたのは激闘を終えた十代と志雄。それから寮を同じくする翔と、相変わらず虚ろな目で俯く隼人。ネガティブな一言を放ったのは、先ほど十代に敗北した志雄本人だった。

 

「プレイングミスは仕方ないッスよ。気を取り直すッス!」

「いやぁ……そういう訳じゃないんだけどな」

「と言うと……どういう訳なんだな?」

 

カードがいう事を聞かなかった――そんな事を信じてくれる者が果たしてどれだけいるだろう。これが大切な決闘ではなかったのが不幸中の幸いだ。

犯人であるニートは、またハネクリボーを枕代わりにして爆睡している。隼人や翔にもこの憎たらしい光景を見せつけてやりたい。

そうこうしている間に彼等の注文した料理が完成した。特段舌鼓するような料理ではないが、文句を言う者は誰も居ない。雑草魂とでも言うのだろうか。

 

「腹が減っては戦は出来ぬ、だぜ!」

 

一応、最初の戦は終わったのだが……十代なりに気を遣ってくれているのかもしれない。確かに過去の事を一々顧みても仕方がないが、今回ばかりはニートのあのふざけた態度を改めさせなければ解決しない。

各々が食事をとっている中、志雄は隣の席に座る十代に耳打ちをした。

 

「なぁ。ハネクリボーと最初に出会ったときはどうだった?」

「んー? ハネクリボーと出会ったのは最近なんだ。ある人に貰ってさ」

 

志雄とニートのように単なる偶然だったのか、あるいはオカルト的な運命があったのか。それはともかく、ニートが特別言う事を聞かない精霊だという事はよく分かった。

爆睡するニートをジロリと睨み付ける。ハネクリボーが窒息してしまいそうな気がする。

人の性格が十人十色であるのと同じく、精霊が主人にとる態度も千差万別だ。

 

「それより、そのエビフライ食わないのか? 俺がもらっちまうぞ!」

 

了承をとる前に十代の持つ箸は志雄の皿の上に向かっていた。しかしその時の志雄は、彼女(ニート)の事で頭が一杯だった。

命令を聞いてくれないことに対する恨みと、どうすればいう事を聞いてくれるのかという一種の寂しさが、志雄の心の奥底で蟠っているのを感じた。

 

「……」

 

今は、考えるだけ無駄だ。小さなため息と共にその蟠りを吐き出したあと、漸く皿の横に置かれている箸に手をかける。

 

「……あれ」

 

既に志雄の分は消え去っていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ラー・イエロー校舎。イエローとブルーは一人につき一部屋を割り振られており、相応の費用をかけている。というよりはオシリス・レッドの扱いが悪すぎるというべきか。

 

「中々悪くねー部屋だな」

 

背中の竹刀を部屋の隅に立てかけると、最初はベッドに身を投げて寝心地を確認する。悪くない。ラー・イエローに選ばれた“刀堂 刃”は、そのまま目を瞑り夢へと進もうとした。

 

コンコン……

 

部屋のノックの音が、夢見心地の刃を現実へと叩き落とした。頭を掻いてベッドから降り、その客人を迎える。

 

「いきなりすまない。隣の部屋だから挨拶しておこうと思ってな」

「おう……そいつはご親切に」

 

自分もすぐにでもオベリスク・ブルーに昇格する予定だが、仲間作りはしていて損はない。刃はその男を快く迎え入れた。

 

「俺は“三沢 大地”だ。よろしく」

「“刀堂 刃”。仲良く頼むぜ」

 

どちらもトップクラスの成績で合格を果たしたデュエリストだが、いまだ互いの素性を理解していない。今後、好敵手として立ちふさがることもこの時は予想していなかった。

 

「そうだアンタ。今どうせ暇だろ?」

「ん? そうだな。荷物の整理も終わったし……」

 

彼の提案は聞くまでもない。アカデミア生がまずすることと言えば一つ。刃は口元を釣り上げ、自分の持つデッキを三沢に見せつけた。そして三沢も当然の返答をする。

 

「「デュエル!!」」

 

 

* * * * *

 

 

オベリスク・ブルー生専用の食堂は、まるで高級ホテルのパーティー会場。食欲をそそる料理の香りだけでも白米一杯はいける。高い天井につられる煌びやかなシャンデリアに、鮮やかな紅色の絨毯。

 

「イエローやレッド生に申し訳なくなるような待遇ね……」

 

腕を組み、壁にもたれかかるのは“光津 真澄”。同じ出身である刃や北斗の事を頭の隅で考えながら、そんな言葉を漏らした。

 

「ここは実力至上主義だから。それも仕方ないわ」

「あなたは……」

「ごめんなさい。私は“天上院 明日香(テンジョウイン アスカ)”。あなた、LDS出身の“光津 真澄”よね」

 

明日香はデュエル・アカデミアの中等部出身生徒だ。この場に慣れきった振る舞いをしていることから真澄も想像がつく。

 

「事実、一部の教員もブルー寮の生徒もオシリス・レッドに対しては冷たい態度をとる事が多いわ」

「実力至上主義ね。……悪いとは思わないけど」

 

刃はともかく、北斗は実力でオシリス・レッドにまで落とされてしまった。それは彼自身も隠しようのない事実。この間までLDSのエリートとして共に鎬を削り合った仲間だとしても、それを顧みるつもりはない。

弱者は切り捨てられる。何もおかしなことはない。

 

「弱者がいるから強者が存在するし、強者が存在するから弱者はそこから這い上がろうとする……どちらも必要な存在よ」

 

真澄のそんな言葉からはLDSでの熾烈な争いをくっきりと想像させる。アカデミアもLDSも、絶対数の多い団体はその分格差が広がってしまうのだ。警戒心が強い真澄に対し、明日香は優しく微笑みかけた。

 

「食事はとった?」

「いいえ」

「精を付けないと勝ち上がれないわよ。さぁ」

 

一歩前に出て真澄に手を差し伸べた。誰にも聞こえない音量で腹の音が鳴ったことを隠しつつ、真澄は髪をかきあげてそれに同行した。

 

「私もプロになりたいの。あなたもでしょう?」

「……勿論」

 

中等部からの進学生ではない学生たちは、ここの具体的なレベルを知らない。ここへ入学する前の学校や塾では多くが上位に立っていたことも、世間知らずを加速させている。真澄も例外ではなく、LDSでもアカデミアの入学試験でも挫折の苦汁を味わった経験がない。

 

「心配ないわ」

「……?」

 

そんな彼女を察したように、明日香はそう言った。

 

「明日の入学式でエキシビションマッチがあるの。一人は今年主席で合格した生徒。それからもう一人が……」

「もう一人が?」

 

一瞬明日香は言葉を詰まらせた。その後も歯切れの悪い口調で続けていく。

 

「……1年先輩のオベリスク・ブルーってことくらいで、他は私も詳しく知らないの。ただ、希に見る才能の持ち主だとか……」

 

謎の多い生徒にも拘らず、その圧倒的な存在感が学校中に伝播しているとか。かみ砕けばかみ砕くほど、掴みどころを失っていくような人物だ。結局の所、明日の入学式になってみなければ分からない。

話によれば、“アカデミアですら把握していない野望”を持っているとか――

 

「明日の決闘でアカデミアがどんなところか少しは分かるかもしれないわ。……ま、色々と尖った人らしいから参考になるかどうかは保証しないけれど」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

高等部編入の新入生たちがアカデミア本校に到着した翌日。校内の大きなホール内で入学式が執り行われていた。規模の大きいコンサートも開くことが出来るこのホールは、プロデュエリストを招いての決闘や、劇団を呼ぶこともあるらしい。

青・黄・赤の制服がきっちりと分けられている。どこかレッド生は他のクラスに対して萎縮しているようにも思える。入学時点で付けられた差が、目に見える形で表されているのだ。

 

「これより、デュエルアカデミア入学式を執り行います」

 

ホール内に響くアナウンスで、学生達の喧騒はピタリと静まった。その後舞台の中央に現れた男性がマイクの前で言葉を紡いでいく。

 

「皆さんご入学おめでとうございます。私、本校の校長である鮫島と申します」

 

そのお決まりの挨拶から始まり、開会の辞はスタートした。校長の話に対する態度は様々だ。三沢や明日香たちのようにじっと耳を傾ける生徒もいれば、十代のように一瞬で眠りに落ちる生徒もいる。志雄が一瞬真横に視線を映すと、その時には十代は背中を折り曲げて爆睡中だった。ちなみにニートも同様である。

 

(こいつら夕べずっと寝てたのによくまだ寝られるな……)

 

十代のいびきとニートの寝相の悪さが志雄の快眠を阻害していた。さっさとこの寝床に慣れなければ、いつまでたっても睡眠不足が解消できない。

教員の言葉が脳を経由せずに耳を抜けていく。十代たちとは対照的に志雄は睡眠時間が圧倒的に足りていないのだ。

 

「さて、新入生諸君の歓迎を兼ね、エキシビションマッチを行います」

 

その一言で、志雄はハッと目が覚めた。それと同時に視線を隣の十代へと移す。思った通り、ギラギラに目が輝いている。決闘の話になれば睡魔も吹き飛ぶのだ。

志雄たちだけではない。その場にいた多くの者が、校長の一言に反応した。

 

「対戦カードは、新入生の主席と現2年生の主席……我々アカデミアが誇るデュエリストです」

 

徐々に湧きあがる歓声。アカデミアの主席という事はつまり、プロに最も近いデュエリストの一人であるという事。例えアカデミア生であってもそんな対戦を目にする事はそうそうない。

舞台の中央がせり上がり、デュエルフィールドへと変化する。その後両端から2人の学生が姿を見せた。

 

「ご紹介しましょう。皆さんと同じ試験を受け、見事主席という成績を収めた……“三沢 大地(ミサワ ダイチ)”君」

 

志雄は目を丸くして驚愕した。ラー・イエローの制服を着て舞台の中央に立つのは、昨日アカデミア行きの船内で出会った学生なのだ。優秀なのは昨日の内に知っていたものの、まさか主席合格とは思いもよらなかった。

 

「おおっ?! 2番じゃねーか!」

 

突如、十代が声を出す。

 

「は? 2番?」

「1年で俺の次に強いから2番!」

 

三沢は主席(一番)だからあの舞台に立っているのだが――それでも十代が言うと冗談に聞こえないのが恐ろしい。志雄はそれ以上言葉を入れることを止め、中央の舞台に再び視線を映す。

 

「そして2年生主席……“北条 聖奈(ホウジョウ セイナ)君”」

 

はっきりと顔が見えないような数十メートル離れた場所からでも感じ取ることが出来る、あの女生徒の圧倒的な威圧感。彼女は腕を組んで対戦相手である三沢を強く睨み付けている。

 

「貴様が今年の主席か」

「ええ。恐縮ながら」

 

三沢の立ち振る舞いは、一切の萎縮を感じさせない。大勢が見るこの舞台で、しかも対戦相手が初見でもわかるような強烈な存在感を放つ先輩にもかかわらず、だ。

聖奈は小さく鼻で笑い飛ばすと、左腕のデュエルディスクを大きく振り下ろす。

 

「言うまでもなかろうが、一切の手は抜かんぞ」

「勿論、俺も全力で戦います。構いませんね?」

「ふん……是非もない」

 

決闘が開始する数秒前、ホール内は静寂に包まれた。アカデミア全体の実力を理解するためにもこの決闘は決して目が離せない。

 

「「デュエル!!」」

 

三沢 LP8000

聖奈 LP8000

 

「先攻はくれてやる。精々備えるがよい」

「なら俺のターンです。手札から《冥界騎士 トリスタン》を召喚」

 

《冥界騎士 トリスタン》

星4/闇属性/アンデット族/攻1800/守 0

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の守備力0のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

(2):自分フィールドにこのカード以外のアンデット族モンスターが存在する場合、

このカードの攻撃力は300アップする。

 

「更に手札から《冥界の麗人 イゾルデ》を特殊召喚!」

 

《冥界の麗人 イゾルデ》

星4/闇属性/アンデット族/攻1000/守 0

このカードはこのカードの(1)の方法でしか特殊召喚できない。

「冥界の麗人イゾルデ」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに「冥界騎士トリスタン」が存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):自分フィールドのアンデット族モンスターを2体まで対象とし、5~8までの任意のレベルを宣言して発動できる。

そのモンスターはターン終了時まで宣言したレベルになる。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分はアンデット族モンスターしか特殊召喚できない。

 

光の位置に関係のない黒い影を体に渦巻かせ、騎士は馬に乗ってフィールドを駆ける。その後ぬらりと姿を現したのは、アンデッド族とは思えない美麗な人型のモンスター。

 

「イゾルデの効果発動。自身とトリスタンのレベルを5に変更」

《冥界騎士 トリスタン》 レベル4→5

《冥界の麗人 イゾルデ》 レベル4→5

 

「レベル5となったトリスタンとイゾルデでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚! “紅貴士-ヴァンパイア・ブラム”!」

 

《紅貴士-ヴァンパイア・ブラム》

ランク5/闇属性/アンデット族/攻2500/守 0

アンデット族レベル5モンスター×2

このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

相手の墓地のモンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。

「紅貴士-ヴァンパイア・ブラム」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

この効果で特殊召喚に成功した場合、このターンそのモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

また、フィールド上のこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、次のターンのスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から表側守備表示で特殊召喚する。

 

 

地面から立ち込める黒々とした煙が、2人の足を覆い隠す。そこから這い上がったのが新たにエクシーズ召喚されたモンスター、ヴァンパイア・ブラム。相手のカードによる破壊を受けても無限に復活するエース級のモンスターだ。

 

「カードを1枚セットしてターン終了です」

 

三沢 LP8000 手札3

□□■□□ 《紅貴士-ヴァンパイア・ブラム》

□□■□□ 伏せ

 

「私のターン」

 

場内はシンとした。張り詰めた空気が、三沢の精神を研ぎ澄ましていく。

 

「《魔轟神レイヴン》を召喚」

 

《魔轟神レイヴン》 チューナー

星2/光属性/悪魔族/攻1300/守1000

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

自分の手札を任意の枚数捨て、その枚数分このカードのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、この効果によって捨てた手札の枚数×400ポイントアップする。

 

 

「場に魔轟神が存在する時、手札の《魔轟神 グリムロ》を捨て、他の魔轟神をサーチする。《魔轟神 クルス》を手札へ」

「【魔轟神】……ですか」

「否だ。……レイヴンの効果を発動。手札の《暗黒界の武神 ゴルド》を捨て、レベルを1上昇させる。ゴルドの効果を発動し、自身を特殊召喚」

 

《暗黒界の武神 ゴルド》

星5/闇属性/悪魔族/攻2300/守1400

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手フィールド上に存在するカードを2枚まで選択して破壊する事ができる。

 

 

手札から捨てられることで効果を発動する【魔轟神】と【暗黒界】を組み合わせたデッキ――使用されるカードから推測して間違いない。ともかくこれで、チューナーを含めた2体のモンスターが場に揃った。

チューナーとそれ以外のモンスターを合わせて特殊召喚する召喚方法。聖奈は高らかなソプラノボイスで宣言する。

 

「レベル5の《暗黒界の武神 ゴルド》に、レベル3となった《魔轟神 レイヴン》をチューニング。――シンクロ召喚」

 

2体のモンスターを囲むように、青色の輪が出現した。

 

「《ダーク・エンド・ドラゴン》」

 

 

《ダーク・エンド・ドラゴン》

星8/闇属性/ドラゴン族/攻2600/守2100

チューナー+チューナー以外の闇属性モンスター1体以上

1ターンに1度、このカードの攻撃力・守備力を500ポイントダウンし、相手フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 

黒く染まる翼を広げゆっくりと地上に降り立った。先鋭な爪を地面に食い込ませ、咆哮を以て三沢のモンスターを威嚇する。腹部に浮かぶもう一つの顔が大きく口を開けて笑っているようにも見える。

 

「《ダーク・エンド・ドラゴン》の効果を発動。攻撃力を500下げ、貴様のヴァンパイア・ブラムを墓地へ送る」

《ダーク・エンド・ドラゴン》 攻2600→2100

 

破壊ではなく“墓地へ送る”。これにより、ブラムの自己再生能力は封じられる。いとも簡単に打ち砕かれた第一の策に、三沢は苦い顔をした。

 

「バトルフェイズへ移行する。《ダーク・エンド・ドラゴン》でダイレクトアタック」

「ぐっ……!」

三沢 LP8000→5900

 

「カードを1枚セット……ターン終了」

 

 

聖奈 LP8000 手札3

□□■□□ 《ダーク・エンド・ドラゴン》

□□■□□ 伏せ

 

 

歓声……というよりは驚嘆のどよめき。ドラゴンの放つ禍々しさと聖奈の圧力が、容易に声を荒げることを抑止している。いつの間だろうか――三沢は、聖奈を前にして怯んでいた。

衝撃や迫力を立体的に体感するソリッドビジョンシステムだけが原因ではない。肌で感ずる“本当”の緊張感が、確かにそこには存在する。

 

これは誇張ではない。むしろ、抑えた表現だ。

 

「おい」

「……!」

 

 

「1年最強。私を打倒すに――貴様で足るか?」

 

三沢は一方的に試されている。途方もない強さを見せつける、2年の主席に。

 

 

 

 













三沢くんのデッキですが、アンデットという繋がりだけで漫画ZEXALの八雲のカードを使用させています。本作ではシンクロ、エクシーズも入り乱れた状態なので、主席足るものカードプールも最新まで網羅していて当然だと考えた結果であります。

ただ、原作で特別視されているカードの扱いには困ってます(主人公勢のエースや、ZEXALのナンバーズなど)。出来るだけ本作でも特別にしたいのですが、如何せん汎用性の強いものも多いので使っちゃいたいんですよね……
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