精霊だってお休みしたい   作:家臣さん

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第6話 教諭の意地……ナノーネ

また来ますね――という言葉を置いた後美奈樹は病室を後にし、そこ残されたのはベッドの上で療養する志雄と精霊であるニートのみになった。しんとした空間を包み込むように燦々と降り注ぐ日光が布団の表面温度を温めていく。ニートは志雄の足元に覆いかぶさるようにうつ伏せになっていた。足をパタパタと揺らし存分に日向ぼっこを満喫しているその姿はまさに猫そのものである。

 

「重い。どけ」

 

喉を揺らす度にその振動で痛みが体中を駆け巡る状態である志雄は、極力少ない言葉数で不満をアピールした。しかし無論彼女に聞く耳は持ち合わせていない。

 

『いいじゃん。お昼寝お昼寝』

「……ま、いいや」

 

いつもなら更に憎まれ口を叩いているところだが今回は許す。ふんわりとした室内の匂いとニートの光を弾く青色の髪から漂う甘い匂いが混じり、さらに布団が擦れる心地よい音と相まって志雄のストレスを一気に緩和してくれた。

病室の外の世界で起きている出来事を志雄が知ることは出来ない。平和な空間をニートと2人で共有し、一秒一秒を思うがままに過ごすのみ。ずっと静穏な時間が続いて欲しいと心の中で願いつつ、いつこれが打ち砕かれてしまうのかと心の中で不安を淀ませていた。

 

『ね、志雄』

「ん」

『昨日みたいに、また狙われちゃうのかな』

 

どうやら不安を拭い去れないのは彼女も同じだったようだ。いや、身を狙われている張本人なら志雄よりもずっと不安なのかもしれない。そんな彼女にどう声をかければいいものか、志雄は決めあぐねていた。俺が守る――とか何とか言うと臭いだろうか。

 

「なるようになるだろ」

 

予想以上に適当な返答になってしまったことを数秒後に後悔した。語彙の少なさに自分を許せなくなる。

 

『ちょっと! そこは“俺が守る”でしょー!」

 

口を尖らせて全力の抗議をされた。普段の態度には出さないが、ニートは志雄の事を信頼し始めているのだろうか。自分の心を読まれたような彼女の発言に、胸が熱くなったような気がした。

 

「でも俺が真顔でそんな事言ったらどう思うよ」

『……なんか、キモイね』

 

ストレートど真ん中の返答に思わず閉口した。やはり彼女との信頼を築くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

――話を元に戻そう。あの一件以来、ずっと頭の中から消え去ってくれることのない疑問を呈することにした。

 

「ニート。心当たりはないのか? 実際に怪我しちまうようなモンスター……精霊と何か関係あるんだろ?」

『わ、私にはそんな能力ないよ! あのドラゴンだけが持ってる力なんだと思うけど』

 

ただでさえ非科学的で説明のつかない生物なのに、それぞれが所有している特殊能力だとか言われても脳は追いついてくれない。出口のない迷路から抜け出そうとする気力すら沸いてこない。

ふと、何気なしにニートを見た。いつもと変わらぬ力の抜ける表情でおだやかな太陽に向かって力を蓄えている。

 

「なぁ。ひょっとしてさ」

『んー?』

「お前が俺のいう事を聞かないのって、そういう能力だったりするの?」

『知らなーい』

 

ある程度の予想はしていたが、案の定含みの一切ない返答に志雄は有無を言わせず飲み込むほかなかった。どうやら彼女は本当に何も知らないらしい。堂々巡りになるであろう議論を中断し、また天井を仰ぐ。

 

「あー。暇だ」

『最高の言葉だよ“暇”って。何にも縛られずこうやってゴロゴロできるなんて夢みたいだよぉ……』

「じゃぁお前はずっと夢の中じゃねーか」

『それもまた夢みたいで最高だなぁ。ずっとここに居ようよ』

「お前だけならいいよ。俺はさっさと出ていくけど」

『それが出来たらねー……』

「だからニートって呼ばれんだよ。お前はもうちょっとマスターである俺に申し訳ないと思え」

『好きで志雄の元に来たんじゃないもん。もっと優しい人が良かったー!』

「これ以上の寛容さを求めるな!」

 

怪我人であることを忘れて絶叫してしまったが、痛覚は忘れることなくやってきた。そんな志雄を顧みずに夢路へ旅立つ彼女を見て、志雄はこれ以上ない程の項垂れを見せた。

 

 

* * * * *

 

 

地上でどれだけ大事件が起きていようとも太陽は変わらず煌めきを放ち、平等に地上を照らしてくれる。花々が萌芽する春の暮れ、オシリス・レッドの担当教員である山城 美奈樹は医務室から校舎への道のりを歩いていた。

 

「ふぅ……そろそろ暑くなってきたかな」

 

天を仰いで一人そう呟く。じんわりと滲む汗が胸元を濡らすその姿は、慎ましやかな色香を漂わせる。ハンカチで汗をぬぐうと、美奈樹はまた目的地を目指して歩みを進めていった。

ふと、視線の端に影が落ちた。それを視界の中央に合わせると、人の影は隠れることなく自分の元へ向かっていた。

 

「あ、あなたは……駄目ですよ。今は外出は――」

「“山城 美奈樹”と見受ける」

 

彼女が2年の“北条 聖奈”であり、そして此方を敵対視していることはすぐに悟った。展開されたデュエルディスクは、聖奈自身の覇気と合わさってまるで鞘から身を出した刀のようにも見えた。

 

「な、何か用でしょうか……」

 

年齢差や立場の差を感じさせぬ佇まいに、美奈樹は何故か下手に出てしまった。

気づけば周りには他の学生達が集まっている。虎の群れとそれらを束ねるリーダーが小鹿の逃げ場をなくしているように、美奈樹は四方八方から囲まれていた。もう自分の素性を隠すつもりは微塵もないらしい。

 

「この者どもに邪魔立てはさせませんよ。決闘は私が」

「もしかして、この一件はあなたの仕業ですか?」

 

美奈樹の問いかけに聖奈が直接答えることはなかった。しかし否定をしないという事はつまり関与を認めているのと同義。

ふと、今まで看病をしていた志雄が頭を過った。もしこの決闘に敗北すれば、自分も同じ末路を辿ってしまうかもしれない。

 

(私に何かあったら、今度は朝倉くんに看病してもらおうかな……)

 

心中でそんな冗談を交らせて従容たる立ち振る舞いを維持しようとしたが、それでも彼女の足は無意識にも震え緊張に蒼ざめている。直射日光による汗はいつの間にか冷や汗に変わっていた。こんな状態ではとてもじゃないが彼女の相手をする事など出来ない。

自失のまま、半ば諦観気味でデュエルディスクを装着しようとしたその時。突拍子の喚声が周囲を騒めかせた。

 

「ちょっとまつノ~ネッ!」

 

独特な声質に加えて独特過ぎる語尾のおかげで、一瞬にしてその声の主は察しがついた。ヒロインを助けに来たヒーロー……にしてはあまりにみっともない程の汗を流し、肩で息をして酸素を大量に取り込んでいる。背中を折り曲げて立つその姿に、美奈樹や他の学生達は動揺を隠せずにいた。

 

「そ、その決闘……見過ごすわけには……いか、いかないノーネ……」

「クロノス教諭、どうしてここに!」

「見回りをしていたんデスーノ。こんな異様な光景、見逃す方がおかしいノーネ!」

 

一しきり説明した後、クロノスは乱れた服を整えて体勢を立て直す。真っ直ぐ聖奈を指すクロノスの指は、音で表すならば「ビシィッ!」というところか。

 

「さて、シニョーラ聖奈! アナタのやっていることは見過ごせないノーネ! このアカデミア実技担当最高責任者であるクロノス・デ・メディチが相手をするノ~ネッ!」

「私は構いませんよ。教諭が相手であっても」

 

雲間を吹き抜けるように現れた乱入者にも聖奈は一切のたじろぎを見せることなくデュエルディスクを構えている。クロノスの実力は彼女自身も理解しているが、その程度で後退するような質ではない。

 

「シニョール美奈樹! ここは私に任せるがいいノーネ!」

「は、はい! でも逃げられません!」

 

どんな方法で洗脳を施したのかは定かではないが、聖奈の配下と思しき学生達が美奈樹の行く手を阻んでいる。

 

「ウームムム……仕方ないノーネ。ここはワタシの決闘をとくと見、今後の教師人生の糧とするといいノーネ!」

 

美奈樹の目に映ったクロノスの背中は大きかった。瞬間に芽生えた良い様の無い感情が美奈樹の胸を焦がす。しかし生憎、その時の彼女に原因を理解することは出来なかった。

 

「私が勝利したあかつきには全ての悪事を止めるノーネ!」

「……結構」

 

 

 

「「デュエル!!」

クロノス LP8000

聖奈 LP8000

 

 

「ワタシの先攻ナノーネ! 手札からフィールド魔法《歯車街》を発動!」

 

《歯車街》

「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくする事ができる。このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の手札・デッキ・墓地から「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚できる。

 

緑一色の草原だった場所は一転、辺りに鳴り響く轟音と共に機械仕掛けの街へと成り替わる。鈍い色の歯車が各々様々なスピードでギリギリと回転し、彼方此方から耳を抜ける水蒸気の音が調和を奏でていた。

 

「モンスターを裏守備でセット、カードを1枚セットし、ターン終了ナノーネ!」

 

 

クロノス LP8000 手札2

□□■□□ 裏守備

□□■□□ 伏せ

■ 《歯車街》

 

 

「私のターン。《魔轟神 レイヴン》を召喚。その効果により、手札から《暗黒界の武神 ゴルド》を捨て――ゴルドを墓地から特殊召喚」

「アナタのデッキは知っているノーネ。かかってくるがいいノ~ネ!」

「……レベル5の《暗黒界の武神 ゴルド》に、レベル3となった《魔轟神 レイヴン》をチューニング。シンクロ召喚! 《魔轟神 ヴァルキュルス》!」

 

 

《魔轟神 ヴァルキュルス》

星8/光属性/悪魔族/攻2900/守1700

「魔轟神」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、手札から悪魔族モンスター1体を捨てて発動できる。デッキからカードを1枚ドローする。

 

 

聖奈の放つ覇気をそのまま男性に憑依させたようなモンスターであり、魔轟神における切り札の1体だ。しかしその効果はエースと言うよりもデッキにおける潤滑油。後続を呼ぶ準備を行う役割を果たす。

 

「ヴァルキュルスの効果発動。手札の《魔轟神 クシャノ》を捨て、1枚ドロー。

 バトルフェイズ……ヴァルキュルスで裏守備に攻撃」

「通すノーネ! ノ~ネッ!」

 

破壊されたのは《古代の機械箱》。墓地に存在する事で効果発動の準備が整うカードだ。クロノスが得意満面で攻撃を受け止めたのもそれが理由。

 

「ターン終了」

 

教え子である聖奈のデッキをクロノスが把握しているように、聖奈も教諭であるクロノスのデッキを把握している。取り澄ました態度を崩さない聖奈に若干の引けを覚えながらも、クロノスは反撃の布石を打つ。

 

「速攻魔法《サイクロン》! ワターシの《歯車街》を破壊するノ~ネ!」

 

空を裂く突風が歯車を発泡スチロールのように軽々しく砕いていく。本来《サイクロン》は相手の魔法や罠を破壊して戦略を妨害することがその役割だが、クロノスの思惑はそれとは違う。

地に落ちた無数の金属は、一つ一つが命を吹き込まれたように浮かび上がり集結していった。

 

「《歯車街》が破壊されたことで、デッキから《古代の機械巨竜》を特殊召喚(ショウカーン)!」

 

《古代の機械巨竜》

星8/地属性/機械族/攻3000/守2000

このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

このカードの召喚のためにリリースしたモンスターによって以下の効果を得る。

●グリーン・ガジェット:このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

●レッド・ガジェット:このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手ライフに400ポイントダメージを与える。

●イエロー・ガジェット:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、相手ライフに600ポイントダメージを与える。

 

 

機械要塞と見紛う巨竜は、クロノスの後方で軋みをあげて空中に浮かぶ。翼の羽搏きによる風に乗って、鉄錆の嫌な臭いがその場にいる者達の鼻に纏わりついていた。《歯車街》によって特殊召喚できる内で最高の攻撃力を持つモンスターだ。

 

聖奈 LP8000 手札4

□□■□□ 《魔轟神 ヴァルキュルス》

□□□□□ 

 

「ワタシのターン! ドロー! 魔法カード《古代の整備場》を発動!」

 

《古代の整備場》

自分の墓地に存在する「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を手札に戻す。

 

「これにより手札に戻った《古代の機械箱》の効果を発動! デッキから《古代の機械騎士》を手札に加えるノ~ネ」

 

聖奈のフィールドに伏せカードは無い。それはつまり、クロノスによる反撃を防ぐものが一切存在しないことを意味している。にも拘らず崩れない毅然とした態度は単なる虚勢か、それとも何か企みを含んでいるのか。

 

「魔法カード《融合》! 手札の《古代の機械巨人》を含めた3体を融合するノ~ネッ!」

 

地が割れ盛り上がり、草花はそこから逃げていくように移動していく。腹部まで響かせる轟音と共に亀裂からゆっくりと姿を見せたのは、機械仕掛けの巨人。地に足を付けていながらそのサイズは宙に浮かぶ機会巨竜の位置に達している。

 

「あらわれナサ~イ! 《古代の機械究極巨人》!」

 

《古代の機械究極巨人》

星10/地属性/機械族/攻4400/守3400

「古代の機械巨人」+「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター×2

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

このカードが破壊された場合、自分の墓地の「古代の機械巨人」1体を選択し、召喚条件を無視して特殊召喚できる。

 

 

このモンスターは本来教え子に対して使用するカードではない。しかし、非行に走らんとする学生の歩道を正すためには、自分も全力で向かう必要がある。相手が主席である彼女ならば猶更。

――《古代の機械究極巨人》には、クロノスのそんな覚悟が見え隠れしていた。

 

「バト~ル! 《古代の機械究極巨人》で《魔轟神ヴァルキュルス》に攻撃ッ! さらに《古代の機械巨竜》でダイレクトアタッックッ!」

 

聖奈 LP8000 →6500→3500

 

「これにてターン終了ナノーネ」

 

ふんと、馬の鼻息のように息を吐いた。振り返る事こそせずとも、後ろで見守っている美奈樹に対して恰好を付けるように見える。

 

クロノス LP8000 手札0

□■■□□《古代の機械究極巨人》 《古代の機械巨竜》

□□□□□

 

「鋭敏な洞察力、流石は教諭」

 

カードをドローする前、拍子なく聖奈が口を開く。

 

「私の使用するカードではその2体……そして後に現れる《古代の機械巨人》全てを処理できぬと判断しての行動なのでしょう」

 

今クロノスのフィールドに立ちはだかるのはどちらも戦闘では容易に破壊できないほどの超大型モンスター。加えて《古代の機械究極巨人》は破壊されると墓地から融合素材である《古代の機械巨人》を場に残す効果を兼ね備えている。防御策もなく手札をすべて使い切り展開したのも、聖奈のメインデッキとエクストラデッキを把握したうえでのプレイングだ。

 

「しかし。自らの知の及ばぬものが何時如何なる時であっても存在する事はご理解していましょう」

「ど、どういうミーニングナノ~ネ……」

「貴方の言葉を敢えて借りるならば、“井の中の(フロッグ)”――でしたか?」

 

入学試験の日、アカデミアを震撼させた“遊城 十代”との決闘中にクロノスが放った一言。少量の笑いを含ませてクロノスを煽るようにそんな言葉を吐いた。

 

「何が目的ナノーネ……シニョーラ聖奈ハ!」

「このアカデミアの体制を変えてやろうとしているのだ」

 

核心に触れられたのかそれとも触れさせたのか。その刹那聖奈の目尻は吊り上がり、凛としてクロノスを睨み付ける。敬語を使っていた彼女はどこかへ行ってしまったようだ。

 

「た、タイセイ……デスート?」

「今のアカデミア生は凡俗の徒にしか見えぬ。未来を背負って立つ者達の養成所とは俄かには信じられん」

 

自分が代わりにアカデミアを変えてやると彼女は言う。それはクロノス達に対する明確な宣戦布告だった。ここに立つ女生徒はすでにアカデミアの生徒としてではなく、一人の決闘者としてクロノスを倒して学園を乗っ取ろうと画策しているのだ。

 

「私のターン。墓地の《魔轟神 クシャノ》の効果を発動。手札の《魔轟神 クルス》を捨て、自身を手札に戻す。捨てられたクルスの効果によって、墓地の《魔轟神 レイヴン》を蘇生」

 

《魔轟神 レイヴン》星2/光属性/悪魔族/攻1300/守1000

 

「レイヴンの効果を発動。手札の《魔轟神 クシャノ》と《暗黒界の尖兵 ベージ》を捨てる。ベージの効果により、自身を特殊召喚」

 

《暗黒界の尖兵 ベージ》 星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1300

 

「レベル4の《暗黒界の尖兵 ベージ》に、レベル4となった《魔轟神 レイヴン》をチューニング。シンクロ召喚!」

 

悪魔への貢物のように2体のモンスターはオレンジ色の“炎”に包まれ、姿を消す。

蒼ざめたクロノスの顔を照らし、ゆらゆらと舞う炎がフィールドを這う。漸くその勢いが弱まり視界が良好になると、中央に浮かぶのは燃え盛る繭。そこから身を出すように姿を見せた聖奈のシンクロモンスターは、その場にいる誰もが見たことのない竜だった。

 

「《琰魔竜レッド・デーモン》!」

 

《琰魔竜レッド・デーモン》

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分のメインフェイズ1でのみ発動できる。

このカード以外のフィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

この効果を発動するターン、このカード以外のモンスターは攻撃できない。

 

「し、知らないノーネ……こんなモンスターハッ!」

 

悪魔であると言われればすんなりと信じてしまいそうな、そんな風貌。長年決闘者として生きてきて、アカデミアの実技担当最高責任者にまで上り詰めた彼でさえ初めて目の当たりにしたモンスター。

 

「レッド・デーモンの効果発動。このカード以外の攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」

 

身を焼く炎が機械仕掛けのモンスターを一瞬にして包み込む。ゴトゴトと部品が落ちていくのは、間接が焼き切れ溶けていったためだ。

 

「は、破壊された《古代の機械究極巨人》の効果により、墓地の《古代の機械巨人》を召喚条件を無視して特殊召喚するノーネ!」

 

《古代の機械巨人》星8/地属性/機械族/攻3000/守3000

 

「ならば、レッド・デーモンで《古代の機械巨人》に攻撃!」

 

攻撃力は共に3000。エース級の攻撃力を持つ2体がフィールド上で衝突すると、耳を劈く爆音と共にその巨体は消滅した。

 

「ターン終了」

 

聖奈 LP3500 手札3

□□□□□ 

□□□□□

 

 

数秒前の戦火が嘘のように、フィールドはまた緑の生い茂る野原に戻っていた。そしてクロノスの手札も綺麗さっぱり失われている。

彼のライフは今だ削られていないが、それは全力でモンスターを展開していたからこそ。増援を出せないこの状況では、圧倒的に聖奈が有利となっている。

 

「ワ、ワタシはこのままターンエンドなのーね……」

「私のターン。手札から《ダーク・バグ》を召喚」

 

《ダーク・バグ》

星1/闇属性/昆虫族/攻 100/守 100

このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3のチューナー1体を選択して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「これにより、墓地の《魔轟神 クシャノ》を特殊召喚。さらに墓地の《魔轟神 クルス》を除外し、《暗黒竜 コラプサーペント》を特殊召喚」

 

《暗黒竜 コラプサーペント》

星4/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1700

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地から光属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。この方法による「暗黒竜 コラプサーペント」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「輝白竜 ワイバースター」1体を手札に加える。

 

 

「この暗澹たるアカデミアの土台を一度すべて崩すのだ。それこそアカデミアが再生する唯一の策」

「他に……方法はないノーネ?」

「それを考え実行すべきだったのが貴様等教員であろう。椅子を腐らす人間が上に居る以上、そこに蝿が集るのも必定よ」

 

一切の希望も見出さず、完全に現時点でのアカデミアを見限っていることは彼女の言葉選びからも把握することが出来た。決闘の腕が全てを決める世界で彼女を止めるためには、決闘に勝利するしかない。

 

「私がここ(アカデミア)を作り直す。それを可能にする力を私が持っていることを今証明して見せよう。レベル4の《暗黒竜 コラプサーペント》とレベル1の《ダーク・バグ》に、レベル3の《魔轟神 クシャノ》をチューニング」

 

チューナーが放つ目を焼く光とそれを囲む2体のモンスターが放つ瘴気は、互いに食いつくされることなく、そして中和することなく共に広がっていく。

混沌とした空間を演出するのは、デュエルディスクによる立体映像(ソリッドビジョン)システムの力だけではない。本来目に見えない不可思議な存在が、立体映像システムを借りて彼等の前に姿を見せていた。

 

「顕現せよ――《カオス・ゴッデス-混沌の女神-》!」

 

《カオス・ゴッデス-混沌の女神-》

星8/光属性/天使族/攻2500/守1800

光属性チューナー+チューナー以外の闇属性モンスター2体以上1ターンに1度、手札から光属性モンスター1体を墓地へ送り、自分の墓地のレベル5以上の闇属性モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはシンクロ素材にできない。

 

 

厳しい召喚条件を持つシンクロモンスターであり、存在は知っているもののアカデミアで使用した記録はない。しかしクロノス達が感じていた違和感は、そんな物珍しさなどが原因ではなかった。

 

「精霊が宿っている」

「セ、セイレイ……デスート?」

「主らが感じている違和感の正体だ。そして、逃げ場を塞いでいるこの者達は、この精霊によって操られている」

 

悪い夢を見ているようで、クロノスは一瞬目眩を覚えてしまった。カードに精霊が宿り、その精霊が人間の意思を操っている――常識だと思っていたものが一瞬にして音をたて崩れ去っていくのを感じていた。

今一度クロノスと美奈樹は周りの学生達に視線を流す。石像のようにその場から動かず、ただじっとこちらを見つめているばかり。

 

「彼等のように操られる人と、朝倉くんのように怪我を負う者の差は一体なんなんですか?」

「……私自身、他人に物理的な外傷を与えるつもりはないのだが」

 

美奈樹の問いかけに対するその時の返答は、一瞬くぐもったようにも聞こえた。

 

「私がこの精霊の力を借りる代償として、この精霊の目的も遂行している」

「精霊に目的……どういう意味ですか?」

「“他の精霊を集める”……と。そのためには精霊と人間の主従関係を強引に断ち切る必要がある」

「そのために怪我を負わせたって言うんですか……」

 

精霊を持つ決闘者は怪我を負わせてそれを奪い取り、それ以外の決闘者は洗脳を施して自らの配下とする。それが聖奈と精霊(カオス・ゴッデス)が行っている事の全貌だった。

 

「無駄話はここまでにしよう。墓地へ送られた《暗黒竜 コラプサーペント》の効果発動。デッキから《輝白竜 ワイバースター》を手札に。そしてワイバースターをコストにして《カオス・ゴッデス-混沌の女神-》の効果を発動する!」

 

杖の下部に集中する光は、上部へと昇っていく内に禍々しい闇の塊へと変化していった。そこから姿を見せたのは先のターンにクロノスのモンスターを全滅させた悪魔。

 

《琰魔竜レッド・デーモン》星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

 

「このターンで終幕だ。《死者蘇生》を発動、墓地の《魔轟神 ヴァルキュルス》を蘇生させる!」

「ア、アンビリーバブル……ナノーネ……」

 

総攻撃力はクロノスのライフである8000を超えた。自らが敗北するという事は、後ろに立っている美奈樹を守りきることが出来なかったという事を意味している。己の不甲斐なさに、とても後ろを振り返る事など叶わなかった。

 

「……申し訳ないノーネ……シニョール美奈樹。恰好つけておいて何も出来なかったノーネ……」

「く、クロノス教諭……」

 

「しかぁぁぁぁぁぁぁっし!!」

「ひっ……!」

「ワタシが手掛けた教え子はシニョール聖奈だけではないノーネ! シニョール聖奈が見限ったこのアカデミアにもまだ希望が残されていると、ワタシは信じているノーネッ!」

 

敗北者の姿とはとても思えぬ立ち振る舞いに美奈樹は言葉を失った。そして勝利者である聖奈も存外、クロノスの折れぬ心に驚いていた。

 

「……面白いことを言う。ならば試すか。今の堕落したアカデミアに何が出来るのか見せてもらおう」

「ワタシは煮るなり焼くなり好きにするがいいノーネ。しかし必ず思い知ることになるノーネ! 一体どちらが間違っているのカ!」

「ふん。貴方にはこちらの駒になってもらう。……アカデミアの敵として、その“敵”をどこまで信じられるかの?」

 

アカデミアの実力が下がっていることは、クロノスも思い悩んでいたところだ。

しかしだからとしてもこのような事が許される訳はない。学生の自主性を重んじ、教諭はただ彼等の成長を支え、見守る事。それこそが唯一にして絶対の使命。

 

「3体のモンスターでダイレクトアタック!」

 

クロノス LP8000→5000→2100→0

 

洗脳が解けた頃には、必ず元のアカデミアに戻っている。クロノスはそう信じ、ゆっくりと目を瞑った。

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