流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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 ミソラの誕生日である、八月二日に合わせて書いた作品です。
 ミソラ単体でネタがあれば良かったのですが、なかったのでスバミソになりました。


寝顔

「もう! なんでこんなことしてるのかな、私達は!?」

 

 毎日忙しいミソラにとっては珍しいことに、本日、丸一日休みが取れたのである。今日は忘れられない一日にしよう。そう考えたミソラは、掛け替えのない人の元に、朝早くから足を運んでいた。

 だが、現実は理想と大きく違っていた。現在、二人はスバルの部屋で向かい合って坐している状態だ。その間には、丸いテーブルが一つあり、上には本やペンが散らばっている。

 

「しょうが無いでしょ。ミソラちゃん勉強遅れちゃってるもん」

「でも! 恋人と一緒に過ごすって言ったら、もっと他にあるでしょ!!」

 

 プクーッと河豚(フグ)のように膨らむミソラに対し、彼女の彼氏であるスバルはにっこりと笑って見せた。

 

「可愛く膨れてもダメだよ」

「ブゥッ!」

 

 朱色になった頬を指先で押してあげる。プニッとした柔らかくて弾力のある感触に触れると、頬は元の大きさに戻った。

 

「あれ? 河から陸に上がった?」

「ちょっと、それ以上言うと……」

「ああ、ごめんって!」

「なら、今から……」

「宿題しようね?」

「ブゥッ!!」

 

 ハムスターの様な頬に触りたくなる気持ちを抑え、スバルも自分の宿題へと目を落とした。カリカリと音の鳴る世界の中でスバルを睨みつけていたが、とうとう諦めたようにシャーペンを手に取り、漢字の勉強を始めた。

 

 

 

 ミソラの質問に答えてあげたスバルはフゥと息を吐いた。

 

「ちょっと休憩するね?」

「は~い、お疲れ様です」

 

 コテンと、スバルはミソラの隣で横になった。先ほど教えてもらった問題を解き終わる前に、スースーと寝息が上がった。

 

「早っ! もう、恋人ほったらかして寝ちゃうなんて、酷いよ」

 

 また、頬を膨らましながらミソラは宿題に目を落とした。

 

「まあ、そう言わないでやってくれや」

 

 ずっと、屋根の上で暇を潰していたウォーロックがスッと部屋に入って来た。

 

「こいつ、昨日からほとんど徹夜で勉強してたんだ。お前に勉強教えてあげなきゃってな」

「スバル君が?」

 

 そっと、隣で寝息を立てているスバルを覗きこんだ。よく見ると、目尻がうっすらと紫色になっている。

 

「ポロロン。方向が変だけれど、やっぱり優しいわね。ミソラ?」

「……うん」

 

 ペンを置き、ごろんと隣に寝転んだ。

 

「ウフフ」

 

 スバルが目を覚まさないように、優しく頬を撫でる。ふんわりとした、滑々の感触が指から伝わってくる。

 

「こうやって見ると、どこにでもいる普通の男の子なんだよね」

 

 スバルの正体は地球を三回救った英雄、ロックマンだ。だが、同時に11歳の男の子だ。

 

「忘れちゃうんだよね。私のヒーローだもん」

 

 あの時のことを思い出す。ブラザーを結んでくれた、自分を孤独から救いあげてくれたあの時を……

 

「ん、うん……」

 

 ごろりと、スバルが寝返りをうった。ミソラの方に向かってだ。

 

「きゃ!」

 

 スバルの顔がミソラの前に無造作に転がっている。鼻先が当たってしまいそうだ。だが、一番驚いたのは、ちょうどスバルの頭がミソラの手の上に乗ってしまった事だ。ミソラの片方の手のひらを枕にして、スバルはグーグーと眠っている。

 

「もう、びっくりさせないでよね?」

 

 聞こえていないと分かっていても、笑って文句を言っておいた。

 

「私の腕枕、気持ちいい?」

 

 眠っていても、彼の頭は言葉を理解しているのだろうか? 「うん」と言う寝言と共に、ミソラの手にゴシゴシと頭を擦りつけた。

 

「フフ、カワイイな~」

 

 赤ん坊の様な、安らかな寝顔をもう片方の手で撫でながら、目を細めた。

 

 

 

「……うん?」

 

 そっと重い瞼を開いた。ホッぺには柔らかくて温かい感触がある。

 

「何してんの? 僕??」

 

 目の前で、ミソラが無防備に眠っていた。おまけに、ミソラの両手が自分を挟んでいる。

 

「あ、でも癖になるかも……」

 

 優しい手の温もりに瞼が落ちてくる。

 

「お、起こさないと……」

 

 寝ぼけた頭で、ミソラを起こそうと手を伸ばす。指先が頬に擦れる程度に触れた。それで充分だった。

 

「あ、柔らかい」

 

 ミソラの頬に手を添えた。その下で、スースーと彼女は眠っていた。

 

「疲れてたんだね……」

 

 仕事だけじゃない。両親のいない11歳の女の子の一人暮らし。ハープと言う家族がいるものの、両親の温もりが無い生活はやっぱり不安だろう。それでも、懸命に生きようとする彼女の姿に自分は励まされてきた。

 

「ありがとう、ミソラちゃん……こう言うと、君はびっくりするかもしれないけれど……僕のヒーローなんだよ?」

 

 そんな彼女だから、あの時、自分の殻を破るための一歩を踏み出す勇気もらったのだ。

 ミソラの頭を持ち上げるように、もう片方の手をゆっくりと滑り込ませた。ちょっと寝言が上がったが、手を枕として貸してあげると、嬉しそうに頬を緩めた。

 

 

 

 ガチャリとリビングのドアが開くと、スリッパ特有の音が響いた。

 

「あの子達、いつまで宿題やってるのかしら? 夕飯食べていくか訊かないと」

 

 スバルの母、あかねがトントンと夕陽に染められている階段を上がっていく。昇りきると、スバルの部屋の前に二つの影が合った。二人はあかねの姿を見ると、ソッと手を自分の口先に当てた。「静かにしてね」というジェスチャーだ。

 

「どうしたの、ウォーロック君、ハープちゃん?」

「おふくろ、ソッとだぜ?」

「シーですよ?」

 

 ハープが慎重にドアを開き、隙間を作った。そこからあかねは覗き見る。ウォーロックとハープはドアすり抜け、顔だけを出して見ている。

 

「あらあら、ラブラブなんだから」

 

 あかねの隣で、ウィザード二人も愉快げに笑っていた。

 スバルはミソラの手に、ミソラはスバルの手に包まれて眠っていた。互いの温もりの中で、二人は静かに瞼を閉じている。

 

「ハープちゃん、ミソラちゃんの夕飯用意しておくわね?」

「はい、できればお布団も……」

「ええ、泊まっていきなさい。パジャマも用意しなきゃ」

 

 蔓延の笑みを浮かべながら、三人は部屋を後にした。

 

「……うん……」

「ん……? んん……」

 

 太陽だけが見守る世界で、二人の姿勢が少しだけずれた。スバルは、自分の胸に飛び込んできたミソラの頭をそっと抱き締めていた。

 柔らかい温もりの中で、二人は安らかな笑みを浮かべた。

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