ミソラ単体でネタがあれば良かったのですが、なかったのでスバミソになりました。
「もう! なんでこんなことしてるのかな、私達は!?」
毎日忙しいミソラにとっては珍しいことに、本日、丸一日休みが取れたのである。今日は忘れられない一日にしよう。そう考えたミソラは、掛け替えのない人の元に、朝早くから足を運んでいた。
だが、現実は理想と大きく違っていた。現在、二人はスバルの部屋で向かい合って坐している状態だ。その間には、丸いテーブルが一つあり、上には本やペンが散らばっている。
「しょうが無いでしょ。ミソラちゃん勉強遅れちゃってるもん」
「でも! 恋人と一緒に過ごすって言ったら、もっと他にあるでしょ!!」
プクーッと
「可愛く膨れてもダメだよ」
「ブゥッ!」
朱色になった頬を指先で押してあげる。プニッとした柔らかくて弾力のある感触に触れると、頬は元の大きさに戻った。
「あれ? 河から陸に上がった?」
「ちょっと、それ以上言うと……」
「ああ、ごめんって!」
「なら、今から……」
「宿題しようね?」
「ブゥッ!!」
ハムスターの様な頬に触りたくなる気持ちを抑え、スバルも自分の宿題へと目を落とした。カリカリと音の鳴る世界の中でスバルを睨みつけていたが、とうとう諦めたようにシャーペンを手に取り、漢字の勉強を始めた。
ミソラの質問に答えてあげたスバルはフゥと息を吐いた。
「ちょっと休憩するね?」
「は~い、お疲れ様です」
コテンと、スバルはミソラの隣で横になった。先ほど教えてもらった問題を解き終わる前に、スースーと寝息が上がった。
「早っ! もう、恋人ほったらかして寝ちゃうなんて、酷いよ」
また、頬を膨らましながらミソラは宿題に目を落とした。
「まあ、そう言わないでやってくれや」
ずっと、屋根の上で暇を潰していたウォーロックがスッと部屋に入って来た。
「こいつ、昨日からほとんど徹夜で勉強してたんだ。お前に勉強教えてあげなきゃってな」
「スバル君が?」
そっと、隣で寝息を立てているスバルを覗きこんだ。よく見ると、目尻がうっすらと紫色になっている。
「ポロロン。方向が変だけれど、やっぱり優しいわね。ミソラ?」
「……うん」
ペンを置き、ごろんと隣に寝転んだ。
「ウフフ」
スバルが目を覚まさないように、優しく頬を撫でる。ふんわりとした、滑々の感触が指から伝わってくる。
「こうやって見ると、どこにでもいる普通の男の子なんだよね」
スバルの正体は地球を三回救った英雄、ロックマンだ。だが、同時に11歳の男の子だ。
「忘れちゃうんだよね。私のヒーローだもん」
あの時のことを思い出す。ブラザーを結んでくれた、自分を孤独から救いあげてくれたあの時を……
「ん、うん……」
ごろりと、スバルが寝返りをうった。ミソラの方に向かってだ。
「きゃ!」
スバルの顔がミソラの前に無造作に転がっている。鼻先が当たってしまいそうだ。だが、一番驚いたのは、ちょうどスバルの頭がミソラの手の上に乗ってしまった事だ。ミソラの片方の手のひらを枕にして、スバルはグーグーと眠っている。
「もう、びっくりさせないでよね?」
聞こえていないと分かっていても、笑って文句を言っておいた。
「私の腕枕、気持ちいい?」
眠っていても、彼の頭は言葉を理解しているのだろうか? 「うん」と言う寝言と共に、ミソラの手にゴシゴシと頭を擦りつけた。
「フフ、カワイイな~」
赤ん坊の様な、安らかな寝顔をもう片方の手で撫でながら、目を細めた。
「……うん?」
そっと重い瞼を開いた。ホッぺには柔らかくて温かい感触がある。
「何してんの? 僕??」
目の前で、ミソラが無防備に眠っていた。おまけに、ミソラの両手が自分を挟んでいる。
「あ、でも癖になるかも……」
優しい手の温もりに瞼が落ちてくる。
「お、起こさないと……」
寝ぼけた頭で、ミソラを起こそうと手を伸ばす。指先が頬に擦れる程度に触れた。それで充分だった。
「あ、柔らかい」
ミソラの頬に手を添えた。その下で、スースーと彼女は眠っていた。
「疲れてたんだね……」
仕事だけじゃない。両親のいない11歳の女の子の一人暮らし。ハープと言う家族がいるものの、両親の温もりが無い生活はやっぱり不安だろう。それでも、懸命に生きようとする彼女の姿に自分は励まされてきた。
「ありがとう、ミソラちゃん……こう言うと、君はびっくりするかもしれないけれど……僕のヒーローなんだよ?」
そんな彼女だから、あの時、自分の殻を破るための一歩を踏み出す勇気もらったのだ。
ミソラの頭を持ち上げるように、もう片方の手をゆっくりと滑り込ませた。ちょっと寝言が上がったが、手を枕として貸してあげると、嬉しそうに頬を緩めた。
ガチャリとリビングのドアが開くと、スリッパ特有の音が響いた。
「あの子達、いつまで宿題やってるのかしら? 夕飯食べていくか訊かないと」
スバルの母、あかねがトントンと夕陽に染められている階段を上がっていく。昇りきると、スバルの部屋の前に二つの影が合った。二人はあかねの姿を見ると、ソッと手を自分の口先に当てた。「静かにしてね」というジェスチャーだ。
「どうしたの、ウォーロック君、ハープちゃん?」
「おふくろ、ソッとだぜ?」
「シーですよ?」
ハープが慎重にドアを開き、隙間を作った。そこからあかねは覗き見る。ウォーロックとハープはドアすり抜け、顔だけを出して見ている。
「あらあら、ラブラブなんだから」
あかねの隣で、ウィザード二人も愉快げに笑っていた。
スバルはミソラの手に、ミソラはスバルの手に包まれて眠っていた。互いの温もりの中で、二人は静かに瞼を閉じている。
「ハープちゃん、ミソラちゃんの夕飯用意しておくわね?」
「はい、できればお布団も……」
「ええ、泊まっていきなさい。パジャマも用意しなきゃ」
蔓延の笑みを浮かべながら、三人は部屋を後にした。
「……うん……」
「ん……? んん……」
太陽だけが見守る世界で、二人の姿勢が少しだけずれた。スバルは、自分の胸に飛び込んできたミソラの頭をそっと抱き締めていた。
柔らかい温もりの中で、二人は安らかな笑みを浮かべた。