流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

15 / 30
君だから

 例えば花火大会当日の豪雨。例えば電車内で大騒ぎする無神経な人。例えば歩きタバコする喫煙者。人をムッとさせたり、イラッとさせる負の要素は、ほんと世の中に溢れ返ってると思う。無視したらいいっていう人もいるけれど、そう簡単にいかないのが現実で、結局は頭を抱えることになる。

 今のミソラもそんな状態だ。どうしても不満に思うことが目の前にある。もうどうしようもなくって、変装用の帽子の上から頭を押さえたいぐらい。さっきも言った通り、負の要素なんていうのは無視しようと思っても、なかなかできない面倒ごとだ。

 それが好きな男の子に関わるというのなら、なおさらだ。

 

「見てよミソラちゃん! あれが電波望遠鏡! 大きいでしょ!?」

「うん、大きいね」

 

 いつもより数段低い声で答えてみたが、スバルは全く気付いてないみたいだった。

 

「あれで火星最大の山、オリンポス山が観測できるんだよ!」

「オリンポス山?」

「高さ25000m! 裾野は600km!

山頂のカルデラは長径80kmもあって、短径が60km、深さは3.2km! ね、すごく大きいでしょ!!?」

 

 大きいでしょなんて言われても、想像つかなくて分からない。言ってる内容も、カルデラあたりからサッパリだ。ほとんど行ってない学校で習ったような気もするが、忘れた。だから凄い凄いと連呼されてもなにも感じられない。

 

「そんなに凄いんだ?」

「当たり前だよ! と言ってもWAXAの望遠鏡はもっとすごいんだけれどね、だってカシオペア座のカフの構成物質の割合とかを70年以上かけて解明して……」

 

 もう途中から聞き流しておいた。別にそんなことを聞きたいから、今日という日に休暇を取ったわけじゃない。

 ため息をつきながらミソラはあたりを見渡した。

 

「夏休み中だから、人でいっぱいだね」

 

 平日は人が少ないアマケンも、今日は人の影でいっぱいだ。そんなに大きな町ではないというのに、この人の入れよう。それだけ天体オタクたちの間では有名な研究所なのだろう。

 

「ねえ、スバルくん」

「なあに?」

 

 尋ね返しては来るものの、スバルの目と耳は望遠鏡に向いている。ため息交じりに言葉を口にした。

 

「あのね、知ってる? 今日は……」

 

 小さい声は別の音でかき消された。スバルのハンターVGがピリリと音を立てたのだ。

 

「あ、いけない。うっかりしてた」

 

 パァっとミソラの顔に笑みが走った。きっと気づいてくれたに決まっている。

 

「思い出した?」

「うん、これからクイズ大会があるんだった!」

「……え?」

「今から、宇宙クイズ大会があるんだよ。出るつもりだったんだ、急ごう!」

 

 言うが早いか、ミソラの手を引いてスバルは歩きだした。拒否権は無いらしい。「あ~あ」と大きなため息が出た。どうやら彼は完全に忘れているらしい。

 

「今日は……私の誕生日なんだけれどな」

 

 

「なるほど、これが目当てなんだね」

 

 ハープに見せてもらった電子パンフレット見て、ミソラは今日何度目なるか分からないため息をついた。優勝賞品が最新式の望遠鏡だというのなら、この宇宙オタクに飛びつくなというのが無理な話だ。

 

「ま、今は諦めとけ。聞こえちゃいねえよ」

 

 ウォーロックが指さす先では、電子書籍とにらめっこしてるスバルがいた。今は決勝戦を前にした休憩時間。簡易に設けられた選手控室で、ご熱心にお勉強中らしい。女の子をほったらかしにして。

 ウォーロックの口を塞ぐハープを横目に見ながら、ミソラはまたため息をついた。彼の言う通り、これは何を言っても無駄だ。それでもやっぱり構ってもらいたいと思うのは、女の子の心理なのだろう。

 

「もうすぐ決勝戦だね?」

「うん……」

 

 微動だにしてない。

 

「休まなくていいの?」

「うん……」

 

 相変わらず目は電子書籍にくぎ付けだ。

 

「……そんなに優勝したいの?」

「うん……」

 

 指が動いた。ページをめくったらしい。

 

「……頑張ってね」

「うん……」

 

 また動かなくなった。ミソラの中で、誰かが呟いた。諦めようっと。

 ゆっくりと立ち上がる。

 

「私、ちょっとその辺見てくるね」

「うん……」

 

 最後まで同じ返事だった。控室を出て、ミソラは当てもなく歩き出した。

 アマケン内には子供心を掴むような展示物も置いてあるもの、その前を素通りした。追いついてきたハープが肩をたたく。ウォーロックは放ってきたらしい。

 

「諦めなさい、ミソラ」

「分かってる。分かってるけど……ね」

 

 宇宙や科学を前にしたら何も見えなくなるのがスバルという少年である。そんなことは一年の付き合いで重々承知である。

 

「それでもね、やっぱり一番は……て、思うよね?」

「そうね、女の子だもんね」

 

 分かってるけれど割り切れない。分かってるからこそ求めてしまう。憤る思いが胸でグルグルして、ミソラの足を鈍くする。

 

「おや、どうしたんだい?」

 

 頭上から声がかけられた。見上げると、ポッコリとしたお腹をした男性がいた。ミソラも良く知っている人だった。

 

「天地さん」

 

 ここアマケンの所長であり、スバルとミソラが電波変換することを知っている、数少ない理解者だ。

 

「どうしたんだい、そんな顔して。アイドルらしくないぞ」

「いえ、そんなことは……」

「スバルくんと喧嘩でも……いや、君らの場合は気持ちの行き違いかな?」

 

 ピタリとした推理に、素直に舌を巻いた。これはごまかせない。

 

「凄いですね、天地さん……」

「人間観察は大事だよ。ところでどうだい、屋上にでも行かないかい?」

 

 別に行く当てもないし、スバルの元に戻るつもりもない。天地の提案に乗ることにした。

 

 

 その選択を後悔したのは屋上に出た直後だった。暑い。夏真っ盛りの容赦ない日光が降り注いでる。アスファルトがフライパンみたいになっていて、加えて日陰になる場所もない。

 

「いやあ、暑いな~」

「そうですね」

 

 ならなんでこんなところに連れてきたのだろう。疑問には思ったが不満はなかった。天地がわざわざ連れてくるということは何かあるという事だろう。ミソラはまだまだ子供だが、天地が信用できる人だってことぐらい良く知っている。

 

「懐かしいな、覚えてるかい。前にここに来た時のこと」

「……はい、覚えています。あの時はごめんなさい」

 

 今更になって思い出した。この前ここに来たとき、ミソラは追われていたのだ。母親との思い出の歌を、マネージャーの金田に利用され、無理やり歌わされていたのだ。嫌になって逃げだして、スバルに助けてもらって、ここにかくまってもらった。でも結局は見つかって、天地には大きな迷惑をかけてしまった。

 

「いいよいいよ、頭なんて下げなくても」

 

 とんでもない目にあったというのに、天地はひらひらと手を振って笑って見せた。誰かの力になれるのなら多少の問題ごとなんて苦にも思わない。そういう人なのだろう。

 

「そんなことより、あの時のスバルくんを覚えてるかい?」

「スバルくんを……?」

「うん、スバルくんを」

 

 思い出してみた。学校に行けず、ブラザーバンドを結ぶことを怖がっていて……なのに困っている人を放っておけない優しい少年。一言でいうと「臆病な子……って感じでした」

 

「うん、そうだね」

 

 頷くと、天地は続けた。

 

「あのときのスバルくんは、本当に見てられなかった。1人でもブラザーが出来れば、それを結ぶ勇気の一歩を踏み出せたら、彼は変われる。僕はそう思っていたんだ」

 

 ミソラは黙って聞いていた。それは自分も同じだった。母親との歌にこだわって、すべてを拒絶してしまっていたのだから。

 

「だからこそ、ありがとう。ミソラくん」

 

 天地が頭を下げた。年上に頭を下げられて、思わずミソラは飛び上がる。

 

「そ、そんな! 頭を上げてください。それに、私はお礼言われるようなことはしてません。いつもスバルくんに助けてもらってばかりで、なのにスバルくんの力になれたことなんて、ぜんぜん無くって……」

「それは違うよ。スバルくんは君に助けられたんだ」

 

 それこそ違う。自分がスバルの何を助けたというのだろう。

 

「私はスバルくんを助けられてなんていません。

だって……スバルくんを引っ張ってきたのはウォーロックくんです。

スバルくんに居場所をくれたのは、ルナちゃんたちです。

私は……」

 

 そう、本当に何もしていない。ブラザーになってからしたことってなんだろう。少なくとも、ルナたち以上のことはしてないと思う。

 

「それでも、スバルくんが変わる一歩を作ってくれたのは君だ」

 

 天地のまっすぐな一言。そんな力強い声で言われたら、思わず耳を傾けてしまう。

 

「彼と同じような境遇にいた君だったから。彼にまっすぐな優しさを向けられる君だったから。……そんな君だからこそ、スバルくんは心の鎖を解けたんだよ」

 

 ミソラは屋上の一点に視線を移した。そこはちょうどスバルが金田に殴られたところだ。あの時、ミソラは涙ながらに止めたのだ。歌うから、スバルを殴らないでと。

 ミソラとしては、元々無関係だったスバルをそれ以上巻き込みたくなかった……しごく当然のことをしただけのつもりだった。

 でも、それがスバルの心を動かす大きな要因だったのだろうか。

 

「私は……特に何もしてないんです」

「だからこそだよ。これは他の誰でもない。君でなければいけなかったんだ」

 

 そうなのだろうか。よく分からない。

 

「まあ、何が言いたいかっていうとだね」

「はい」

「今のスバルくんがあるのは、君がいてくれたからなんだ。スバルくんにとって、君っていう存在は大切なものなんだ。だから、宇宙のことばかりだからって、すねないで側にいてあげてほしい」

「……あ、そこまで見抜いてたんですね……ハハハ」

 

 本当に敵わない。ずっと聞いていたハープも肩をすくめて見せた。

 

「これからもスバルくんの友達でいてあげてほしい」

「……はい」

 

 できれば、もう一歩上の関係になりたい。それが叶うかは自分次第だろう。

 

 

 天地と別れて、ミソラは館内を歩いていた。もうそろそろ決勝戦も終わりに近づいているはずだ。

 

「最後ぐらいは応援してあげないとね」

「その後は、スバルくんを連れまわしてやりましょ」

「うん。ここの食堂にあるデザート、全部食べつくしてやるんだから!」

「あらあら、スバルくんったら痛い出費になっちゃうわね」

「これぐらい許してもらうよ。せっかくの誕生日なんだもん」

 

 変装用の眼鏡がずれてないことを確認してから、決勝戦の会場へと入った。白熱してるようで、見学者たちが大勢いるのがうかがえる。舞台の上には、勝ち残った三人がいて、それぞれの合計点数が出ている。スバルの点数は……他二人よりも少しだけリードしている。つまりトップだ。

 

「最後の問題はこちらです」

 

 女性司会者が問題を提示した。それを見て、ミソラはクスリと笑ってしまった。

 

「問題。

『火星にある最も高い山の名前と、その高さ、すそ野の直系は?』

答えは手元のディスプレイにお書きください。制限時間は一分です。それではどうぞ」

 

 ここに来る前、スバルが自慢げに語っていたことだ。他の出場者2人は自信なさげに頭を抱えている。これはもう決まったようなものだ。

 

「……あれ?」

 

 異変に気付いた。ペンを持ったスバルの手が止まった。慌てているようにすら見える。

 

「ミソラ、電波変換よ」

「え……あ、分かった!」

 

 物陰に隠れ「トランスコード004 ハープ・ノート」と早口で唱える。ハープ・ノートに電波変換し、スバルの元へと駆け寄る。思った通り、ウイルスが取りついていた。ディスプレイが異常を起こして、スバルの答えを受け付けようとしていないのだ。

 答えが分かっているのに、答えられない。こんな負け方はあまりにも虚しいだろう。半泣きになっているスバルの顔が目に入った。これが地球を三回、本当は五回救ったヒーローの……ミソラのヒーローの姿だ。

 

「もう、しょうがないな」

 

 ウイルスなんて電波人間であるハープ・ノートの敵じゃない。あっという間に倒した。だが時間が来てしまった。「そこまで!ペンを置いてください」という司会者の声。スバルが悔しそうにペンを置く。

 

「ミソラ」

「うん、もう一肌脱いであげますか」

 

 ディスプレイの電脳にサイバーインし、答えを書きだした。

 

 名前:オリンポス山

 高さ:25000m

 すそ野:600km

 

 スバルの目が丸くなるのが見えた。ディスプレイの端っこに、ひょっこりと顔を出すと、「あっ」と小さく叫んでいた。

 

「後でお礼、期待してるよ」

 

 サイバーアウトして、何気ない顔で会場に戻る。スバルの優勝が決まったところだった。

 

 

 

「ありがとう。さっきは助かったよ、ミソラちゃん」

「どういたしまして。良かったね、望遠鏡」

「うん、ホント。これ欲しかったんだ~」

 

 スバルは嬉しそうにハンターVGを開いて見せた。数日以内に、望遠鏡を家に届けますという証明書だ。

 

「この証明書のデザインもかっこいいし、宝物にするよ!」

「うんうん、私も手伝ったかいがあったよ」

「よく覚えてたな、お前」

「はいはい。あなたは黙ってなさい」

 

 横から出てきたウォーロックという名のお邪魔虫を、ハープが馴れた手つきで縛り付けた。

 

「そうそう、これ。はい、ミソラちゃん」

「ん?」

 

 スバルが何かのデータを送ってきた。それを見て、今度はミソラが目を丸くした。

 

「副賞。疑似宇宙体験コーナー貸切チケット……?」

「うん、アマケンの目玉施設だよ」

 

 思い出した。アマケンには疑似宇宙空間という施設があって、実際に宇宙服を着て無重力宇宙空間を体験できるのだ。

 

「大人気だから平日でも人が多いのに、それを貸切で使えるんだよ? 一回だけだけれど。

本当は今日ミソラちゃんに体験させてあげたかったんだけれど、予約がいっぱいで取れなかったからさ……」

「あの……スバルくん」

「うん?」

「もしかして、これのために?」

「……まあ、望遠鏡も欲しかったんだけれどね」

 

 ハハハと笑っているスバルだったが、次の言葉で引きつった。

 

「これ、今日使えないよ?」

「……え?」

「ほら、見て。平日限定って書いてる。それも夏休みシーズンが終わったあとから」

 

 チケットの説明文を読んでみる。スバルの顔があっという間に暗くなった。

 

「そんなぁ……ミソラちゃんの誕生日は今日なのに……」

「……え?」

 

 今、なんて言っただろう。

 

「スバルくん、今なんて?」

「何って、ミソラちゃんの誕生日……」

「覚えててくれたの!?」

 

 思わず肩を掴んでしまった。スバルはきょとんとした顔をしてる。

 

「……あれ? そういえば言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ。あの一言」

「そっか、じゃあ……」

 

 こほんと咳払いすると、スバルは笑顔で告げてくれた。

 

「誕生日おめでとう、ミソラちゃん」

「フフ……ありがとう、スバルくん」

「ごめんね、疑似宇宙はまた今度で……」

「いいよそれは」

 

 まったく、分かってないのだこの朴念仁ヒーローは。

 

「私がほしいのは、そんなのじゃないよ」

 

 笑いながらスバルの手を取った。

 

「さ、食堂に行こう。デザートは、半分で我慢してあげる」

「え、甘いものがほしいの?」

「も~、違うよ。フフ」

 

 握ったスバルの手の感触を確かめる。あの時、この手が自分を掴んでくれたのだ。今だけ……今だけで良い。貸切にさせてもらうことにした。

 

 

 

 

 彼女の手を握り返す力が強かったのは、ここだけの内緒である。




間に合……わなかったが、一日遅れじゃ!

ミソラ誕生日おめでとう!!


そういえば、スバルがミソラの誕生日を祝う話って、書いたこと無かったな。
と気づいて、今回はストレート(?)に祝ってもらいました。

スバミソっていうよりはミソラ→←スバルって感じでしたが、こんな友達以上、恋人未満な2人が良いですよね。

え? スバミソがラブラブしてるのが見たかった?
私も見たいです(^ω^)/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。