流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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バレンタインに間に合わなかったぜ!
二日も過ぎちまったぜ!
しかもまだ前編だぜ!

続きはお待ちください……遅刻どころじゃねえよ、乗り遅れてるよ……


バレンタインver.2019年(前編)

「お疲れさまでした~!」

「おう、気をつけてな」

 

 浦方とスタッフたちに手を振って、ミソラはパタパタと駆け出した。オクダマスタジオの廊下は、夜であることもあって肌寒い。まだ二月に入って一週間。これから本格的になってくる寒さとは裏腹に、ミソラの胸の中は熱くていっぱいだ。

 

「お仕事も終わったし、ようやく準備に取り掛かれるわね」

「ねぇ、ハープ~」

 

 猫なで声をするミソラに、ハンターVGの中のハープはやれやれと首を横に振った。

 

「もう、今回だけよ?」

「まあまあそう言わずに。なんたって、バレンタインだからね~」

 

 来週は2月の14日、バレンタインだ。恋する女の子にとっては1年で最も大切なイベントであり、チョコ業界の陰謀にのせられる日だ。当然のごとく、トップアイドルであるミソラの元には山のように仕事が寄せられる。

 だがそれも今日でようやく一区切りついた。

 

「明日しかないんだよね~」

 

 ミソラはアイドルである前に1人の女の子だ。そして恋人になれたスバルという存在がいる。

 これで手作りチョコを渡さずに終われば、何が女の子、何が恋人と称せるのだろうか。何が何でも作らないといけないのだ。

 

「だから、明日に備えて早く寝ないとね」

「美容にも気を使って頂戴ね」

 

 スキップするように廊下を進む。と、話し声が聞こえてきた。ふと角の向こうを見ると、男性俳優がいた。ミソラも何度か顔を合わせたことのある人だ。彼の目の前には女性がいる。マネージャーだろうか。見たことない人だ。彼はすごみのある顔でこう叫んだ。

 

「今時手作りチョコとか、男にとっては重いんだよ!」

 

 ビクリとミソラは肩を強張らせた。なんだろう、ここにいてはいけない気がして、いそいそとその場を後にした。だからミソラは知らなかった。「今の感じで良いですか? スポンサーさん」「良いですわ。ドラマではその雰囲気で」という会話が続いたことに。

 

 

「ハアァァァァ……」

 

 家に帰るなり盛大にため息を吐くミソラに、ハープは呆れたように頭を抱えた。

 

「ミソラ、あんなの気にすることじゃないでしょ?」

「いや、でもさ……もしかしたら、スバルくんもそうなのかなって……」

 

 そんなことあるわけない。傍から見れば誰もがそう思うだろうが、当の本人からすれば不安でしょうがないのだろう。こんな杞憂を払い飛ばす方法は一つしかない。

 

「なら、スバルくんに訊いてみなさい」

「そ、そんなの無理だよ!」

「でも、尋ねないと分からないわよ?」

「それは……」

 

 至極当然のことを言われて、ミソラは黙ってしまった。

 

「お風呂入れてくるから、その間に決めなさい」

 

 言うだけ言って、ハープは去ってしまった。一人残されて、ミソラは頬を膨らませた。

 

「ハープったら、私の気持ち分かってよ……」

 

 ミソラからしたら、スバルに嫌われるのではないかと心配でならないのだ。好きな人に嫌われるほど辛い事など、そうそうあるものではない。それが世界で一番大切な人だというのなら、なおさらだ。ミソラが慎重になり、過剰に心配するのも無理はないと言える。

 

「どうやって訊こう……?」

 

 だがハープのいうことも確かだ。本人に尋ねる以外に、確かめる方法なんてない。

 

「よし……!」

 

 意を決してエアディスプレイを開く。連絡先一覧からスバルを選び、通話ボタンを押そうとする。そこで指が止まった。

 

「何て尋ねればいいんだろう?」

 

 スバルと連絡を取るのは良い。だが、電話で何と尋ねればいいのだろう。電話している自分を想像してみる。

 

『スバルくん、私の手作りのチョコ……欲し……い?』

 

 頭を思いっきり横に振った。

 

「無理!」

 

 紅潮した顔を押さえながら叫んだ。

 

「そんな……恋愛ドラマじゃないんだから……」

 

 そういう彼女は何度もドラマに出演しているのだが、今は突込み役のハープは不在である。

 どうやって電話をしようかと頭を悩ませていると、エアディスプレイの右上に目が止まった。そこはデジタル時計。時間は21時を過ぎている。電話をするにはちょっと遅い時間だ。それを言い訳にすることにした。

 

「電話は失礼だよね。よし、じゃあメールを……と」

 

 メールなら文面だけだから簡単だ。メール作成画面を開く。そこでまた手が止まった。どう尋ねればいいのだろう。

 

『スバルくん……手作りのチョコ用意しようと思ってるんだけれど……欲し……い?』

 

「だから、恋愛ドラマじゃないって!」

 

 一人で器用にボケと突っ込みをしながら、自分に怒鳴る。

 

「う~、なんて送れば……」

「ミソラ~、早くしなさい」

 

 ハープが急かしてくる。仕事の疲れと一人相撲という自爆のせいで、ミソラも若干パニックに陥っていたのだろう。

 

「あ~、もうこれで良い!」

 

 メールの送信ボタンを押した。安どのため息をつく。直後に送ったメールを確認した。

 

『スバルくん、バレンタインの当日だけれど、手作りチョコでないほうが良い?』

 

 少し首を傾げてみるが、疲れ切った頭は動いてくれない。考えるのを止めた。

 

「まあ、いいか……うん」

 

 別に恥ずかしいことは書いて無い筈だ。そろそろお風呂が沸く頃だろう。服を脱ごうと裾に手にかけたところで、ハンターVGが鳴った。慌てて手に取る。スバルからの返信だった。

 

「早い!」

 

 ちょうどそのタイミングだった。ハープが風呂場から戻ってきたのは。

 

「ミソラ~、38度に沸かしておいたわよ~。どう、スバルくんに訊け……」

 

 リビングに戻ってきたハープは言葉を詰まらせた。当然だ。ミソラががっくりと四つん這いになって項垂れているのだから。

 ひっそりと近づき、ミソラの頭上に展開されているエアディスプレイを見てみる。

 

「……あら?」

 

 そこにあったのはスバルからの返事。ハープにとっても意外なものだった。

 

『別に、手作りじゃなくてもいいよ』




いや、思いついたのが13日でね…時間取れなかったんですよ。
スイマセン……
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