流星のロックマン 思いつき短編集   作:悲傷

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バレンタインver.2019年(後編)

 その日はやってきた。ハンターVGの日付は2月14日。時間は17時。今日は平日、スバルには学校があるので、放課後のこの時間にした。ミソラも多忙な今日一日の中で、なんとか時間を作って、ここコダマタウンの公園に来ている。

 

「スバルが指定した場所は、ここだよね」

 

 まだスバルの姿は見えない。こうしている間にも、当然時間は過ぎていく。スバルと一緒にいられる時間が、一秒一秒と短くなっていく。

 

「まだ……かな?」

 

 周囲を見渡す。来ない。スバルの姿が見えない。

 

「もしかして心配しているのかしら。約束を放り出されたんじゃないかって」

 

 ウィザード・オンしたハープが尋ねてくる。もちろん、ただのからかいだと分かっている。

 

「するわけないじゃん。スバルくんは、そんなことしないよ」

 

 手に持った上等そうな紙袋の中身を見る。これ赤い包装紙にリボンがついた四角い物体がある。あの日、ルナと共に作った自信作だ。

 

「ヘヘヘ……待ってろよ、スバルくん」

「そのお目当ての人が来たわよ」

 

 ハープが指さす方を見ると、スバルが息を切らして公園に入ってくるところだった。

 

「ゴメン、ミソラちゃん。学校の電子掲示板でウィルスが暴れてて……」

「いいよ、スバルくんが遅れるときって、だいたい人助けとかが多いもんね」

 

 そんな二人の近くでは「こういう時ぐらい電波変換で来なさいよ」「うるせぇ、俺は移動の道具じゃ……っていうか、この弦はいい加減に止めろ!」という痴話喧嘩をしながら離れていく二体の姿があった。

 

「はい、じゃあこれ。バレンタインのチョコレート……受け取ってくれる?」

 

 おずおずと紙袋を渡そうとするミソラ。スバルも頬を赤くする。

 

「うん……ありがとう……」

 

 受け取ろうと手を伸ばす。その時、ふと手が触れた。手袋越しだというのに、なぜか気恥ずかしくって、思わず互いに手を引っ込める。

 

「ご、ごめん……」

「こ、こっちこそ……ゴメン……」

 

 そうだ、紙袋ごと渡そうとするから手が触れてしまうのだ。ミソラは紙袋の中身を取り出して、直接スバルに差し出した。

 

「本命チョコです……受け取ってください」

「……はい」

 

 今度こそ、ちゃんと受け取った。

 

「どうせだから、いま食べて良い?」

「え、今!?」

「うん」

 

 そう言いながらスバルは近くのベンチに腰掛けてしまった。こうなると、ダメとも、恥ずかしいとも言えない。ミソラも隣に座るしかない。

 

「じゃあ、開けるね?」

「う、うん……」

 

 スバルは包装紙のシールを探すと、ペリペリと丁寧にはがしていく。隣でミソラはドキドキと胸を高鳴らせていた。一所懸命に作ったチョコを好きな人にみせる。やっぱり緊張する。そんなミソラの気持ちに気づくわけも無く、スバルは包装紙をはがし終えて、箱のふたを開けた。

 

「おお……」

「どう?」

「……綺麗だと思う」

「……普通って言ってくれていいんだよ?」

 

 チョコを溶かして、丸い型にはめて冷蔵庫に入れただけだ。ものすごく普通のチョコが並んでいる。

 

「いや、そんなことないよ。手作りじゃなくても良いって言ったのに、大変だったでしょ?」

「ううん、それほど大変でもないよ。溶かして固めただけだから」

「それでも嬉しいよ。忙しいのに手作りしてくれたんだから」

 

 その言葉にミソラは「うん?」と首をひねった。

 

「えっと……スバルくん」

「なに?」

「重く……ない?」

「重い?」

 

 今度はスバルが首を傾げた。

 

「いや、だってこの前のメール……」

「……メール? ああ、手作りじゃなくても良いってやつだよね。忙しいみたいだから、市販のでもいいよって……」

 

 ガクリとミソラの肩が落ちた。どうやら、勘違いして一人勝手に気落ちしていただけらしい。

 

「そっか……うん、そっか……うん……」

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」

 

 苦笑しながら、ミソラは箱の中を指さす。

 

「さ、食べて食べて」

「うん」

 

 スバルの手が丸いチョコたちの一つを掴んで、口に放り込む。笑顔でかみ砕いたその顔が、一瞬で青くなる。

 

「……ミソラちゃん……これ……中身……」

「へっへーん、イチゴジャム入れてみたんだ。イチゴソースが入ったチョコとかあるじゃん。あれを作るのは流石に無理だったから、代わりにジャムを入れてみたんだ。どうかな?」

 

 もちろん美味しいわけがない。イチゴソースは、チョコの甘味を邪魔しないために薄めに甘さを抑えてある。味のない食パンに塗るジャムとはわけが違うのだ。チョコとジャムの甘さが混ざれば、気持ち悪いに決まっている。

 

「……お、美味しいよ……」

「ほんと? 良かった~」

 

 どうやら味見はしてないらしい。スバルは口を押えながらも、必死に飲み込んだ。

 

 

「だから止めておきなさいって言ったのにね……」

 

 公園の入り口で見守っていたルナは小さく肩を竦めた。彼女の視線の先では、ベンチに腰掛けたスバルが、ミソラに悲しい思いをさせまいと必死にチョコを口にほお張っている。

 

「お前ってバカだよな、ほんと」

 

 隣にいたジャックが呆れたように呟いた。

 

「お前だろ、あそこに二人で座れって言ったの。スバルは信じねえからな。『一緒に腰かけると幸せになれる』なんて噂」

「良いのよ、これで」

 

 ルナは少しだけ……公園の周りに植えられている木の後ろに移動した。スバルとミソラの姿が見えなくなる。

 

「私は、今の私が好きだから」

「……そうかよ」

「ええ。はい」

 

 何の前触れもなく、ルナはジャックに物を押し付けた。

 

「な、なんだよ」

 

 ジャックがそう言った時には、ルナはもう歩き出していた。

 

「……これって……あ、おい!」

「いらないって言葉は聞かないわよ」

 

 ジャックに振り返ることも無く、ルナは軽く手を振ってその場を後にした。

 

「……っと……どうすれば良いんだよ……これ」

 

 後には、顔を赤くしたジャックが一人残された。




ようやく終わりました……遅くなったな。
バレンタインが終わって、10日目に完結とか……。

今回はカッコいいルナを描きたかったのですが、難しかったです。

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