どこまでも続く空をふっくらとした雲が支えています。その下の砂利道を僕らは歩いています。
生い茂る稲畑。そばの小川では、メダカ達が鯉のぼりごっこ。飽くことなく続けている彼らに頬笑み、僕は側を歩いてる彼女を見る。
雲よりも柔らかそうな頬に、小川よりも澄んだ白い肌。広がる緑の輝きを吸い込んだ瞳。稲畑の緑の中で、日に照らされた髪はピンク色となってなびいています。
見渡す限り広がる自然。そのどれよりも、彼女は美しく輝いている。
ポツポツと存在している民家を覆う木々の香りをめいいっぱいに吸い込む。そんな様子を見ているだけで、僕も嬉しくなってくるんだ。
「たまにはこんなデートも良いね?」
「ほんと? 気に入ってもらえて良かった」
僕の彼女は知らぬ人はいない程のアイドルです。だから、僕と一緒にいる時はいつも顔を隠して窮屈そう。今日はちょっと人の少ない場所に誘ってみました。
帽子も、サングラスも、だて眼鏡も取り払い、お日様の下で伸びをする彼女を見るのは久しぶりです。
肩を出した白いシャツに、短いスカートをふわりと広げて回って見せる。何も飾らない服装でにっこりと笑いかけてくれる。模様を羽織ったチョウチョなぞより可愛らしい彼女が見れただけで、誘って良かったと思う。
さっと僕は手を伸ばした。小石に足を取られ、宙に延ばされた彼女の手を掴む。
「ありがと」
「気をつけてね?」
手を開く。けれど、温もりが離れない。
「もうちょっとだけ……良いかな?」
僕も白い肌に指を折りたたみ、踏むたびに変わる砂利の感触を一緒に楽しむ。
「私、好きだな。スバル君の手」
「手?」
「うん。この手で、いろんなものを守って来てくれたんだよね?」
僕の手を包み込むように、握ってくる。
「どんなに怖いことからも、皆を守ってくれた……私が辛いときも、この手で私の手を引っ張ってくれたよね? 小さいけれど、温かいから……好き」
君の手の方が温かいよ。そう言いたかったけれど、彼女に悪い気がしたのでお礼を言った。
「僕も好きだよ。ミソラちゃんの手。柔らかくて、優しくて、頑張り屋さんなこの手が好きだよ」
たくさんギターの練習をしたからだろうね。マメが潰れて、そこだけが堅くなった指先を擦る。
「けれど、僕は知っているよ」
「え?」
なぞっていた指を掌へと持っていく。
「本当は、誰よりも寂しがりやで、甘えん坊さんなんだってこと。皆に元気を届けるために、それを必死に隠して強がっていることも、全部知っている」
お父さんに触れたことがない。お母さんに抱きつくこともできなくなったミソラちゃんの手。
「だから、僕の前では素直になって欲しいんだ」
それでも練習で傷つき、寂しい手を僕は握りしめる。
「僕が、全部受け止めてあげるから」
どんな緑より美しい碧を覗き込んだ。
「やっぱり、私……スバル君の手、大きくて、優しくて……大好きだよ」
止めてよ。滲ませないで。僕が見たいのは、太陽よりも綺麗な君の瞳なんだ。
頬を伝う涙を拭ってあげたい。けれど、君の手がそれを邪魔している。
「泣いても良いんだよ?」
僕が君の全てを包み込んであげるから。だから、泣き終わったら、最高の笑顔を僕に見せてね?
お日様が僕を照らしつける。
「ねぇ! ここの牧場ってソフトクリーム売ってるみたいだよ?」
ここは田舎だよ。でも、そこそこ旅行に訪れる人はいるみたいなんだ。僕達みたいにのんびりしたい人達が来るんだろうね? 嬉しそうに看板に描かれた大好物を指差している。
「今から?」
「いやかな?」
「ううん。行こっか」
走り出すミソラちゃんに対して、僕はグッと足を堪える。途端に勢いを止められて立ち止まる。
「走ったらさっき見たいになっちゃうよ?」
「そしたら、スバル君が止めてくれるでしょ?」
「もちろん。でも危ないからダメ」
「良いじゃん! 早く食べたいよ!」
雲から顔をのぞかせている方のお日様を指差して見せる。
「急ぐ必要はないよ。ゆっくり行こうよ?」
日の光に射られて、覆うようにしていた手を下ろすと、ぴょんと僕の隣に立つ。
「そうしよう!」
クスリと彼女に笑って返し、僕たちはお昼ご飯を食べに向かいます。
これから一番暑い時間が始まります。きっと、牧場にはしぼりたての牛乳を使ったスイーツがたくさんあるはず。一体幾つの好物が彼女の口に頬張られるのかと思うと、ちょっと残念になってくる。
だって、その間はこの手を離さなきゃならないんだから。
ご飯を食べたら、その後はずっと繋いでいられるよね。その時間が待ち遠しいな。