ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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完全撃破

「学園長、お願いがあります」

 

「何だ、藪から棒に」

 

「オレに……リヴァイアサンのところに向かわせて下さい」

 

 ちょうど“D”達が攻撃を始めた際、大和は唐突にそんな事をシャルロットに頼み込んでいた。

 

「それはダメだ」

 

「何でですか」

 

「前にも言ったであろう? そなたは隔離されているのだと。ここから外出するのは、あってはならん行為だ」

 

「けど―――」

 

「私に何度も同じ事を言わせるつもりか? そなたはじっと堪えているしかない」

 

 大和は反発し、呆れていたシャルロットも流石に譲るつもりはないのか、退かない様子だった。

 

「大河さん、お気持ち痛み入りますが、ご自身の状況をお考え下さい。私もシャルロット様と同じお考えです」

 

 そこへマイカまでもがシャルロットに便乗するかのように言ってきた。

 

「…………」

 

 ぐっと歯噛みをする大和。しかし此方も簡単に退く訳にはいかないと、三度反論しようと言おうとした時だった。

 

 突如として、建物が大きく揺れたのは。

 

「な、何だ!?」

 

「……恐らく、リヴァイアサンの攻撃だろう」

 

 大和は驚き、シャルロットが真剣な面持ちで答える。

 

「学園が攻撃されたと?」

 

「ああ。斥力場による攻撃だろう。“D”がいてもあれを突破するには余程大きな力が必要だ。全く、厄介なものよな」

 

 シャルロットは、悔みを含めた表情だ。

 

 “D”がいても、簡単な足止めにしかならない。完全に侵攻を止められる訳ではない。

 

 それを瞬時に理解した大和は、覚悟を決め決心した。

 

「……学園長」

 

「何だ、今度は」

 

「いや、シャル。話なら後でいくらでも聞く。オレは学園の平和を守りたい、ただそれだけ。だから今回は悪い、許してくれ!」

 

 大和はそう言うと同時に、その場から姿がブれ始めた。

 

「お、おい大河大和!」

 

 何かをするつもりだろうと、その場から立ち上がったシャルロットが彼の事を呼びかけるが、気付いた時には姿を消していた。

 

 

「いやあシャルには悪い事したな……」

 

 念力で場所を移動する技―――『テレポート』で学園長室から抜け出した大和は罪悪感丸出しの表情である。

 

 移動した場所は最終防衛ラインに位置する砂浜だった。大和が学園長の私室で見えていた場所でもある。

 

 見ると、環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)の大半が吹き飛ばされている。もしかしなくてもリヴァイアサンの攻撃によるものだろう。

 

「まあいいやそれは後回しだ。リヴァイア=サンには世話になったからなぁ……今度はぶちのめす」

 

 大和は言いながら背中から、漆黒でボロボロの翼―――反骨ポケモン“ギラティナ”の翼を生やす。

 

 三年前、倒せていなかった分、それが大和の躍起のきっかけになった。

 

 もう手加減などしない。殺すつもりだ。

 

 そして、口角を歪めた大和は地面を強く蹴り、海を裂く衝撃が走る程の凄まじい速度でリヴァイアサンに向けて突貫していった。

 

 その時の大和は、実行して良かったと実感もあったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……だ、大丈夫か!?」

 

 悠は突如として飛んできた人物にイリスと共に駆け寄っていく。

 

 その人物とは―――。

 

「くっそ~……あの野郎、どんだけタフなんだよ。咄嗟に『守る』を使えて良かったけどびっくりしたなぁ」

 

 倒れ伏していた者が、頭に手を添えながらむくりと上半身を起こして告げる。

 

「お前……もしかして大和か!? 隔離されてたんじゃ……」

 

 そう、悠が述べた通り、先程までリヴァイアサンと戦っていた大和だった。

 

 何故、彼が外に出ているのか。また、何故吹き飛ばされていたのか不明だった二人は、驚きと困惑の表情を浮かべる。

 

「ん? 悠にイリスだっけ? 二人こそなんでいるの?」

 

 二人の存在に気付いた大和は首を傾げる。

 

「それは……リヴァイアサンが最終防衛ラインを超えたら、俺達で迎え撃とうと」

 

 疑問が尽きない悠だが、彼からの質問には答えておく。

 

「そっか。なら、問題ないな」

 

「え?」

 

 大和からの納得の言葉にイリスは間抜けな声を上げる。

 

 その際に、大和は土や砂を払いながらすくっと立ち上がり、言い放った。

 

「オレもリヴァイアサン退治に協力する。いいだろ?」

 

「「え!?」」

 

 思わず二人は驚愕の声を上げる。

 

「い、いいのか? お前隔離されてて動けないんじゃ……」

 

「いいも何も、前にアイツ倒しきれなかったんだ。それに、奴を倒さないとヤバいんだろ、そこの銀髪が」

 

 銀髪というのは、イリスの事だ。

 

「……そうだな」

 

「そうなる前に、奴を完全に倒す。仮に、アイツを撃沈させた事ある人がいるんだ。それでも不満か?」

 

「いや、悪い。確かにそうだったな。リヴァイアサンを撃退した頼もしい奴がいるのに不満はない。そうだろ、イリス?」

 

「う、うん!」

 

 肩を回す大和に文句もなく悠はフッと笑う。イリスも、彼に同意して言った。

 

「こんな事を頼むのは無理を承知しているが、頼む。リヴァイアサンを迎え撃つのに協力してくれるか?」

 

「あ、あたしからもお願い!」

 

 二人からの要望がきた。赤の他人の関係故、心苦しいが第三者の介入を求めているという事だ。

 

 しかし、大和はニヤっと笑みを浮かべた。

 

「当たり前だよなぁ? 自分で協力するって言ったし」

 

「それじゃあ……」

 

「ああ。任せといて」

 

 こうして、大和もリヴァイアサンの打倒に加わる事になった。

 

 だがその時、頭上から声が降ってきた。

 

 

「勝手な事を言わないで下さい」

 

「な―――深月?」

 

 驚いて空を見上げると、虹色に輝く架空武装の弓を持つ、宙に浮く深月の姿があった。

 

 悠は、間近で人間が宙に浮いている姿にぎょっとする。架空武装として保持した上位元素を断続的に空気へ変換し続ける事で飛行が可能になると、遥の講義で学んでいたが、普段扱える上位元素が少ない悠には不可能な芸当でもあった。

 

「兄さん、どうしてこんなところにいるのですか? イリスさんも……ご自分の立場を考えて下さい」

 

「ご、ごめんなさい、ミツキちゃん……」

 

 深月の当然ながらも辛辣な言葉に、反射的に謝るイリス。

 

「そして……大和さん。あなたは学園長の意向に逆らい、戦っている竜伐隊の場に……第二次防衛ラインまで来ましたね?」

 

「え? ど、どういう事だ?」

 

 深月の言葉に疑問が残る悠。

 

「そこ行ってリヴァイアサンをフルボッコにしてた事か。まあそうやな。リヴァイアサンをタコ殴りしてたのは変わりないね」

 

 最早誤魔化しは通じないと感じた大和は、素直に事実を述べる事にした。

 

 悠は、大和が先程まで何をしてたのか理由を聞いていないため、その事を聞き「な―――」とイリスと共に絶句していた。

 

 しかしその言葉に、深月は更に目を厳しくさせる。

 

「何故そのような真似を? 確かにリヴァイアサンにダメージを負わせて、動きを鈍らせる事は出来ました。ですが、これは私達の問題。余計な手出しは不要です」

 

「おいおい余計とは何でせうか。こっちはリヴァイアサンを倒すのに助けに行ったのに、それがいけないのか?」

 

「助けを出すのは此方としてもありがたいのですが、先程言った通り、これは私達の問題。本来私達で解決すべき問題に、関わらせたくないんです」

 

 遠回しに言えば部外者的な意味合いになるが、これは深月なりの配慮であり、大和はあくまで“協力者”とあるため、必要以上に関わらせたくなかっただけなのだ。

 

「それに……もう時間がないんです。第三次防衛ラインが突破されました。もう後がありません」

 

「なっ……」

 

(意外と早かったな……)

 

 重い声で答える深月に、悠は驚きに満ち溢れ、大和は神妙な面持ちで思考に耽る。

 

 深月の持つ反物質弾が通じず、毒や連鎖系の攻撃も体の切り離しにより言わずもがな。それは全て、リヴァイアサンの斥力場が物語っている。

 

 加えて、大和がダメージを与えながらも進んでいたため、結果的には完全に動きを封じていた訳ではなかった。やはり、三年もの間で力を蓄えていたのだろう。並々ならぬ体力になっていたのは火を見るより明らか。

 

「有効な手は……他にないのか?」

 

 掠れた声で悠は訊ねる。

 

「私が思い付く限りでは―――ありません。僅かなダメージを積み重ねて倒すのが唯一の方法かと。現在、竜伐隊の総力を挙げて攻撃していますが……間に合う可能性は低いです。だから私は……最悪の場合に備えるため、戻って来ました」

 

「おい、それってまさか―――」

 

「はい……最終防衛ラインをリヴァイアサンが越えた時、私の手でイリスさんを殺す事になります」

 

 何かを堪えるような顔でイリスを見つめる深月だが、悠はその視線を遮るようにイリスの前に立った。

 

「悪いな深月、イリスには先約があるんだよ」

 

「兄さん……私の出した条件を忘れたんですか?」

 

「条件?」

 

 大和はその言葉に疑問を持つが、深月が続け様に答える。

 

「イリスさんのドラゴン化が避けられなくなった場合に、手を下すのが私だって事です。命令は絶対なので、条件を呑めないのなら、イリスさんの護衛も許可しません」

 

「覚えてるよ。俺はイリスに直接命を託された。それに、深月がイリスを殺そうとしたら俺が守る。勝手にやるまでだ」

 

「聞き分けのない事を言わないで下さい! これは私がやるべき事なんです! 私の手はもう汚れてるんですから!」

 

 大和は再び疑問に思うが、この事は恐らく、マイカが講義で教えてくれた事に繋がる。

 

『二年前、二体のクラーケンを討伐した』、『クラーケンに見初められ、同種のドラゴンになった“D”を討った』

 

 この問題に関わってくるのだろう。加えて“深月の手は既に汚れている”とあった。

 

 だとすれば、この問題は深月が関わってくる事にも繋がる。つまり、“紫”のクラーケンに変わり果ててしまった人物を深月が討った、という事だ。

 

 別の事例があるかもしれないと思ったが、その可能性は低いだろうと考えた。

 

「―――篠宮都(しのみやみやこ)の事か?」

 

「っ……!?」

 

 息を呑む深月。

 

 対照的に大和は、篠宮という名字から遥の妹ではないかと連想する。

 

「親友だったらしいな」

 

「…………」

 

 深月は唇を噛み締め、何も答えない。

 

 リヴァイアサンと竜伐隊との戦闘を見届けていた時、遥に呼ばれ、彼女から聞いた事実を述べているだけに過ぎないため、辛そうな深月の表情に心が痛んだが、悠は更に言葉を続ける。

 

「どんな思いで深月がドラゴンになった仲間を討ったのか……俺には正直想像もつかないさ。だけど……その子を手に掛けたから、イリスの事も引き受けるなんて理屈は納得出来ない。篠宮都とイリスを一纏めにするな!」

 

 悠の言葉を聞いた深月は奥歯を噛み締めるが、ついに耐え切れなくなった様子で口を開く。

 

「だったら……他の誰かにやらせればいいんですか? 私はそれこそ納得出来ません。何より、兄さんにだけは絶対にイリスさんを殺させるつもりはありません!」

 

「俺も、深月にだけはやらせるつもりはない」

 

「……私は決めたんです。兄さんにはもう何も委ねません! 三年前のような後悔をしないために!」

 

 三年前。“青”のヘカトンケイルの一件以降に繋がる。

 

「だから、兄さんが言う事を聞いてくれないのなら……こうするしかありません」

 

 深月は虹の弓を悠に向けて構え、黒い上位元素の矢が番えられる。

 

「頑固な妹は言葉じゃ止まらないか」

 

 そう悠が言いながら、手元に上位元素を形成する。

 

 架空武装―――ジークフリート。

 

 対人戦では向かないものの、それは承知の上だ。

 

 一触即発の雰囲気にイリスが慌てる。

 

「モノノベもミツキちゃんも喧嘩しちゃダメだよ! 今はこんな事してる場合じゃ―――」

 

「いや、今はそんな場合だ」

 

「いえ、今はそんな場合です」

 

 兄妹故か、悠と深月の声が重なる。

 

「あ、あなたも止めてって言ってあげてよ! このままじゃ二人が……」

 

「え? 兄妹間の喧嘩ってのを見てみたかったんだけど……」

 

 あわあわとするイリスに言われるまでしばらくダンマリだった大和だったが、彼女に促されたため、はぁ……と軽い溜め息を吐く。

 

「はいはーい。二人とも喧嘩はやめやめ」

 

 大和は能天気に歩きながら二人の間に割って入る。

 

「……大和さん、何のつもりですか?」

 

「そうだ。悪いがどいてくれ。今はこの可愛い妹との決着を付けなければならない」

 

「かっ……かわっ!? こんな時に変な事を言わないで下さい!」

 

「おうどさくさに紛れてイチャつくのはやめちくり~。……それよりもだ」

 

 大和の言葉に深月から鋭い目で見られるが、そんな事は特に気にした様子は見せずに彼は話す。

 

「今リヴァイアサンが迫ってるんだろ? だったら尚更、今喧嘩してる余裕なんてないんじゃねえか?」

 

 大和が最もらしい持論を言う。

 

「だったら……何だと言うんですか? 私は兄さんをただ鎮めようとするまでです」

 

「悪いが俺も深月に同感だ。納得できてないからこそ、今深月に分からせるまでだ」

 

 しかし、二人はその言葉に対して反論する。

 

「こういう時だけ兄妹らしいよな。まあいいけど。オレは誰々を殺すとかどうとかは好き好まない」

 

「……言いたい事は終わりですか? それならそこから離れてください。もし退かないのであれば、怪我する事になりますよ」

 

 深月が警告を促しながら、構えていた弓を悠から彼に向ける。

 

「やれやれだぜ……。こっちはいつもと違って真面目なのによう」

 

 しかしそんな事はいざ知らずといった風に呆れる。いつもは真面目ではないのかという疑問が浮かぶが、そこは割愛。

 

「言葉で通じねえなら、力づくで分からせないとな! 出てこい!」

 

 大和が腰に添えていたポーチからモンスターボールを取り出すと、前方に向けて投げる。

 

 そこから出てきたのは、首は長く後頭部は突き出ており、全身が深い藍色のような色調、更に顔と背中や胸部に鎧のような装甲、胸部の中心にダイヤモンドのような核がある独特な外見のポケモンだった。

 

『グギュグバァッ!!!』

 

 それは時間を司る神と言われしポケモン、“ディアルガ”だった。

 

「ド、ドラゴン……?」

 

 深月がいる位置に頭部が届きそうな程、巨大なポケモンに戦慄を覚える。

 

「ディアルガ、吼えろ」

 

 大和が腕を横に向けたと同時にその一言だけ告げると、ディアルガが真上の空に向けて咆哮を上げた。

 

『グギュグバァァァァァァァァッ――――!!!!!』

 

「ぐっ……」

 

「これは……ッ」

 

 周辺の時空間が歪み、そのただならぬ咆哮に、大和を除いた面々に響き渡り、怯んでしまう。深月も耐えきれなくなったのか、地上に降りてしまう程。

 

 咆哮は長くは続かず、すぐに止んだ。しかし、先程のような一触即発といった雰囲気は消え失せ、逆に大和とそのポケモンのプレッシャーに気圧されてしまう。

 

「分かったか? これがオレが使うポケモンだ。二人が止める気無かったから出させて貰った。オレはイリスに止めてと言われたからやっただけに過ぎねぇよ」

 

 前に歩み出る大和は普段から見掛けるような、ふざけた様子は見受けられず、キッと目を細めて淡々と述べる。

 

彼がこのような行動をした発端のイリスは、ディアルガの咆哮により怯み、あわわと腰を抜かしていたが。

 

「これでも止めないなら、オレとこいつだけでリヴァイアサンを迎え撃つ。それだけだ」

 

『我が主の言う通りだ』

 

 怒声を含んだ声でその場の面々に告げ、水平線の彼方を仰ぎ見る。その際、ポケモンの声を聞き取れる大和にのみディアルガの声が届いた。

 

「……大和さん」

 

「……大和」

 

「ん?」

 

 少しの間の後、それぞれ武器を構えていた二人が、構えていた手を下ろし、大和を見据える。

 

「済まない、俺達、熱くなりすぎてた」

 

「そうですね。もし大和さんが止めてくれなかったら、私達お互いを傷付けあう可能性もありました」

 

「…………」

 

 二人の言葉に、大和は呆気に取られる。

 

「どっちがイリスを殺すとか、そんな争いはもう無駄だ。それよりも、リヴァイアサンを迎え撃つのに全力を尽くそう。深月もそれでいいな?」

 

「はい、そうですね」

 

 どうやら反省し合って、お互い仲直りをしたようだ。

 

 その二人を見て、イリスも笑顔を浮かべていた。

 

「あ、ああ……。仲直り出来たようで良かったよ。オレ、こういう雰囲気苦手だから少し熱くなってたかもしんね。何か……悪いな」

 

 大和は二人に申し訳なさを含めた震え声で告げる。普段はふざけていながらも、時折熱くなったり、反省する所も見受けられたので、本来は喜怒哀楽が激しい人物なのでは? と再認識したのだった。

 

「いや、お前のお陰で少し吹っ切れたような気がするよ」

 

「兄さんに同感です。私も思い過ぎていた点があるかもしれません。今は喧嘩をするよりも、戦いに備えた方が良いと思えるようになりました」

 

 行き過ぎた所もあったと思っていた大和だったが、平和的解決した二人のその言葉を聞けて僅かながら安堵を浮かべた。

 

「あ……」

 

 その時、イリスが海の方を見て声を上げた。

 

 三人と一体は、イリスの視線を辿る。

 

 環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)の壊れたレーザーユニットの向こうに揺らめく水平線。そこには蜃気楼の如く巨大な影が浮いていた。

 

 その周囲で光が煌き、小さな爆発が起こっている。恐らく、竜伐隊の攻撃によるものだろう。

 

「リヴァイアサン……遂にここまで―――」

 

 深月が険しい表情で呻く。

 

 かなりの速度で侵攻しているのか、その姿は見る間に大きくなった。

 

 その姿が余りに巨大で距離感が掴めていなかった。

 

 角が折れていたり、巨大な古傷が残っている事を除き、真っ白だった外殻は赤く斑に染まっていた。

 

 恐らく、環状多重防衛機構や竜伐隊、そして大和が与えた傷による出血だろう。片目には自身の角が刺さって生えている辺り、彼がやったのだろうと窺える。

 

 大和が神の技で一度倒した相手とは言え、それに匹敵する程巨大な決定打を打てず仕舞いに終わっていたため、高い耐久力で耐えていた。

 

『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン―――!』

 

 低く、大きな声が響き渡る。イリスが脇腹を押さえる。服の上からでも分かる程、竜紋が強く輝いていた。

 

「あたしを呼んでる……あたしが欲しいって叫んでる―――」

 

 リヴァイアサンの意志と共鳴しているのか、イリスはうわ言のように呟いた。

 

「つがいを求めてるって話は本当だったんだな」

 

「うん……そうみたい」

 

 体を震わせて頷くイリス。

 

「で、どうするんだ?」

 

「え?」

 

「男ってのは馬鹿だからな。大人しくしていると、勘違いして付け上がるぞ」

 

 悠の言葉で、どこか上の空だったイリスの瞳に光が戻る。

 

「……あたしは……ドラゴンに、あいつに、このまま何もできないであたしを奪われるなんて、そんなのはイヤ!」

 

 イリスは叫び、右手に架空武装―――双翼の杖(ケリュケイオン)を作り出す。

 

「ここから狙えるか?」

 

「かなり遠いけど、やってみる! 最大生成量でぶつけてやるんだから!」

 

「…………」

 

 杖の先をリヴァイアサンに向け、集中しながらいつもの呪文を唱えるイリス。

 

 その際、リヴァイアサンを包む斥力場よりも内側に上位元素を発生させ、その爆発によりダメージを与えるのは確かに有効だと大和は考えていたが……。

 

「深月、念のため周囲の竜伐隊に距離を取るよう連絡してくれないか?」

 

 しかしそんな考えをいざ知らない悠は、ここからでは点にしか見えない大勢の“D”達がリヴァイアサンの周囲を飛び回って攻撃を加えていたため、下手をすれば巻き込む可能性があると考えていた。

 

 深月は何か言いたそうな顔をしながらも頷き、首に装着していた通信機のボタンを押した。

 

「―――此方B3、総員A級衝爆を想定した距離を取れ。遠距離より攻撃は続行」

 

 深月が命じると、遠方の竜伐隊達は動きを変えて、リヴァイアサンから離れたのを悠と大和は確認出来た。

 

「いいぞイリス、やってやれ!」

 

「うん! 聖銀よ、弾けろ!」

 

 遠く離れた空を泳ぐ巨体の付近で、白銀色の爆発が起こる。

 

 その勢いに圧されたリヴァイアサンは、僅かに体を傾げた。

 

「効果は?」

 

 深月が通信機の向こうへ問いかける。

 

『―――対象の左側面に広範囲のダメージ。しかし深部まで傷は到達していない模様』

 

 応答の声が漏れ聞こえてきた。

 

 深月は息を吐き、通信を切る。

 

「やはり……こうなりましたか。リヴァイアサンは体の内側ににも斥力場を発生させます」

 

「―――それに、表皮ギリギリで爆発させても、ダメージが中までは届かない、だろ?」

 

「……はい、その通りです。あの能力は……余りに万能過ぎます」

 

 深月が言葉を続けようとした矢先に、代わりに代弁するように大和が言葉を紡いだ。彼にとっては、こうなる事は既に予測できていたのだ。

 

「だけどだ、あれでもダメージは有効なんで攻撃を続けて正解だし、それにあいつは、大きな力をぶつければ突破できない事もないから―――」

 

 大和が続け様に言った後、片方の手を自分の胸に添え、もう片方の手を彼の後方に佇むディアルガに、差し出すように手を向ける。

 

「こういう時に、ポケモンの出番って訳だ」

 

 そして、胸を張って言った後、それに応じるようにディアルガがズシンズシンと振動を鳴らしながら、大和の隣に立った。

 

『我の本領発揮だな』

 

「そういうこった」

 

隣の神から割と自信満々に感じ取れる言葉から、頼んだぞとばかりにディアルガの体をペシペシと軽く叩く。

 

「ですが大和さん、私達で解決しようとしている事に関わる必要は……」

 

「いいや限界だ言うねッ。なーに遠慮してんのさ。さっきから言ってる通り、協力するって言ってんじゃんか」

 

「……それは」

 

 深月は逡巡する。

 

「……それにオレにも責任がある」

 

「え? 責任……ですか?」

 

 責任―――それはこの戦いで彼が介入した事だろうか、と深月は考える。

 

「ああ。三年前、オレが単独でリヴァイアサンと戦ったろ? その影響かどうか知らんが、復活してどうやらパワーアップしてるっぽいんだ」

 

 彼女の予想とは違い、彼は三年前に一人で戦い、復活してパワーを上げて帰ってきたと。大和はそう感じていた。

 

「そこで責任を取る形でオレも戦う。だからまあいいだろ別に。オレもディアルガも全力を尽くすしさ」

 

『うむ!』

 

 大和はポキポキと指を鳴らし、ディアルガは威嚇としての軽い咆哮を上げ、両者共やる気MAXといった様子だ。

 

「あ、あとそうだ。悠、深月さぁ」

 

「「?」」

 

 不意に何かを思いついたのだろうか、大和が悠と深月の側に歩み寄ると同時に、二人は疑問を持つ。

 

「オレは三年前の悠のあの力、見てたぜ。それと、あの力を出すには他の“D”から上位元素を借りる必要があるって事も分かった」

 

「なっ……」

 

「やはり、それが条件でしたか……」

 

 急に何かと思えば、二人にとって重要な事だった。悠は驚き、深月は納得した様子で呟く。

 

 大和の言う通り、悠は十キロという少ない上位元素量でしか生成、物質変換出来ず、架空武装も、銃などの対人兵器が大抵で、ドラゴンを倒すには不可能と言っても過言ではない。

 

 だが、三年前のヘカトンケイルを撃退した事についてはどうだろうか?

 

 一人では、ドラゴンは倒せないが、逆に考えれば、深月が側に付いていたから三年前の巨大な物質変換―――上位元素で作られた対竜兵装が生成出来た。

 

 つまり、条件として誰か“D”がいれば三年前の再現が可能という事だ。

 

 その事を昨日、現有戦力の把握とその運用、管理のために深月が悠に訪ねたのだ。

 

 また、大和は悠がドラゴンを倒す方法はそれしかないと考え、推理してこの結末に至ったに過ぎない。

 

「ですが、大和さんは何故、今そのような事を?」

 

 深月は怪訝な表情で大和を見据える。確かに、昨日悠に訪ねた事を見透かしたかのように思えるため、こう思うのも仕方ないが。

 

「いや何、三年前の事を思い出してな。あん時みたいにやれば、倒せる可能性もあると思って」

 

 仮にも大和は、間接的ではあるものの、三年前のヘカトンケイルの時に関わっているためそう言った。

 

「……確かに、俺一人が取り出せる上位元素じゃ足りないからな。けど、それを満たしたところで、俺の力じゃリヴァイアサンに通用しないかもしれない」

 

「と、思うじゃん? ところで悠、あいつを見てくれ。あいつをどう思う?」

 

「え?」

 

 大和が不意に指差し、悠もその方向に連れて見据える。

 

 

 

「来ないで……来ないでよ! あたしは、あんたなんて……大っ嫌いなんだから!」

 

 そこには、諦めずに抗い続け、一人前を向きながら戦いを続けているイリスの姿があった。

 

「あいつが頑張ってるのに、オレ達が頑張らない訳にはいかないだろ?」

 

「ああ……やっぱり、放っておけないよな」

 

「だからこそ、だ。悠、あいつと“一緒に”協力すれば倒せるはずだ」

 

 大和が悠に何処か意味深な台詞を言うが、この言葉に、悠は理解した。

 

「ほら、行ってきてやれよ。お前とイリス、割と良いコンビだと思うよ」

 

「でも、それでも倒せなかったら……」

 

 悠の背中を押す大和だが、それでも不安が残っているのか悠は心配そうな表情を浮かべる。

 

「さっき言ったろ? オレも協力するって。仮にも倒しかけた奴がいるってのにまだ不安なのか?」

 

 そんな悠の様子に、自信有りげに大和が言い、悠に激励を掛けた。

 

「……済まないな。頼む」

 

「おk牧場」

 

「―――深月、俺はどんな事があってもお前の兄貴だからな」

 

 悠はその言葉を、自分自身に刻み込むように告げた。

 

「兄さん、一体何を……何をそんな当たり前の事を言ってるんですか?」

 

「そうだな、当たり前だ。当たり前だから……きっと忘れない」

 

 悠は深月に一度笑い掛けてから、イリスの元へ歩み寄った。

 

「大和さん、兄さんに一体何を言ったんですか?」

 

 不信に思ったらしい深月が、大和に訊ねる。

 

「なあに、ただあいつの力が気になってな」

 

「兄さんの力が……ですか?」

 

「ああ。三年前の時と同じ力を使っても、倒せる可能性が低い。だったら―――あれとはまた違う、“別の力”を使えば話は違うだろ」

 

 大和は淡々と話すが、深月は最後に言った言葉の意味が把握出来なかった。

 

「どういう事ですか?」

 

「見てれば分かる」

 

 その一言だけを大和は告げ、それ以降は何も言わなかった。

 

「俺はまだ“やれるだけの事”をやっていない!」

 

 直後、悠が声を上げると同時に、イリスの手を強く握る。

 

 そして、最終防衛ライン上空に至ったリヴァイアサンをこの場にいる全員が睨む。

 

 ウォォォォォォォォォォン―――――…………!

 

 リヴァイアサンが咆哮を上げる。目の前の雌(つがい)を手に入れるために突き進む。

 

 が、相対して巨大な『壁』が立ちはだかる―――。

 

「ディアルガ! オレ達も本気で行くぞ!」

 

『グギュグバァァァッ!!』

 

 その『壁』は、同じく目の前に佇む一人と隣に立つ神と言われし者。

 

 竜からすれば、どちらも大した事ない小さな生物のようだが、如何せん、秘めている力が大きすぎた―――。

 

 実際、空間の神による技で戦闘不能にまで追いやったのだ。今度はもう一つの神の技を喰らわして撃滅させると大和が考えたまで。

 

「はあぁぁぁぁぁ……ッ!」

 

 大和が閉目し、腕を交差し、力んだ様子を見せる。その次の瞬間には、彼の背中から黒い“もやのようなもの”が発生、それが輪郭を成しボロボロの翼と成り代わる。

 

 更にそこから、“三つの赤い棘のようなもの”が横並びに生える。今まで大和がギラティナの翼を再現してきたが、元々この赤い棘は、彼には生えていなかった。

 

「ふう……。久々に出したが、これがオレの本気だ……。見てろよ、リヴァイアサン。今からお前を抹殺してやんよ」

 

 腕を下ろし、脱力した様子を見せるが、眼を開けた大和の双眸が赤色に変わり、大和を中心に威圧感を漂わせる程にまでになっていた。

 

 これは、三年前に大和の実力が未熟であった事、加えてギラティナの翼が未完成であった事から、特訓を経て得たもの。

 

 今に至っては、未完成な状態と完成した状態との二つに分ける事も可能になった。本気モードになると同時に、ギラティナの力を持っている影響か、眼も赤くなるようになった。

 

 そんなボロボロの翼とその翼に生えた棘、眼が赤く変貌した事を除いても、見ているだけで身震いする程に、彼に凄まじいものを秘めている事を深月は再認識した。

 

「……深月は竜伐隊に指示を送って、最大の攻撃が出来る準備をしてくれ」

 

「は、はい!」

 

 醸し出される威圧感に圧倒されている時、突然大和から催促され、我に返った深月は準備に取り掛かる。

 

 その時、大和は悠から強い力を感じた。

 

 この力―――三年前と感じた力と似ている。しかし、何処かが違う。

 

 対竜兵装―――マルドゥーク。それは過去に存在した遺失兵器(ロストウェポン)

 

 深月の力を借りても完全に再現する事は出来ず、必要最低限の部分の構築がされてある。

 

 だが今回ばかりは違った。

 

 悠は右手を横に翳し、形作るモノの名を告げる。

 

「マルドゥーク、“主砲”―――天を閉ざす塔(バベル)!!」

 

 イリスから流れ込む上位元素によって巨大な砲身が構築されていく。

 

 今度物質変換を行うのは、マルドゥークの“別の箇所”に当たり、三年前のマルドゥークとは違い、砲身が二股に分かれ、内側にはレンズ状の機器が埋め込まれている。

 

 しかしこれでも、不完全の状態であり、“D”の力を借りて形成する条件は、この兵器の情報が必要だった。

 

 その提供する張本人が、グリーン・ドラゴン―――緑のユグドラシルであった。

 

 その兵器の情報は余りに膨大。その濁流の如く多大な情報に、物部悠としての人格を失い、恐怖という感情の欠如、部分的な記憶喪失をもたらしている。そして―――今この時も。

 

 だが、今回は必要な事は全て覚えており、戦う理由を見失わずにいた。

 

「…………(今のが、ユグドラシル)」

 

 大和は不本意ながらも悠のその力について探り、彼の中でもドラゴンの一体であるユグドラシルの力だと判明した。

 

 しかし、今は目の前に打ち倒す相手がいるため、頭の片隅に仕舞っておく事にした。

 

「行くぜ……!」

 

 大和も大技の発射準備を整える。両腕を突き出すと同時に漆黒のエネルギーが手元に渦巻いていく。

 

 やがて胴体以上に肥大化し、密度の高いエネルギーが更に集まっていく。

 

「時の咆哮―――発射用意!」

 

『心得た!』

 

 顔を横に向けた大和のその言葉を聞いたディアルガは了承し、全身が蒼いオーラに覆われると同時にダイヤモンドのような核がある胸部が蒼色に輝く。更にそこから突き出している四つの尾が膨張し、周囲の時空間が歪曲する。

 

 そして、口元にダイヤモンドの形をした蒼いエネルギーが集合していく。

 

「届かせてみせる―――――っ! ―――発射(ファイア)っ!!」

 

 “D”の力を借りた悠が撃ち放つ。そこから放たれたのは、闇を押し込めたかのような黒い奔流。底知れぬ闇の帯は大きく膨らみ、巨大なリヴァイアサンの体をも包み込む。

 

 黒く見えるのは物質ではなく、光さえ呑み込む空間の断層。超重力の特異点。

 

 その砲塔―――天を閉ざす塔は空間を裂いて、射線上にあるあらゆるものを押し潰す重力兵器。

 

 しかし、本来は一瞬で対象を呑み込んで閉じる闇の帯は、いつまでも開いたままだ。

 

 ォォォォォォォォォォォォォォオォォォオォォオォォオォォォン―――――……。

 

 リヴァイアサンが鳴いている。

 

 出力が上がった斥力場で超重力に対抗していた。

 

 此方の出力が足りず、過剰な負荷の掛かった砲身のあらゆる箇所で、小さな爆発が起こる。

 

 悠は分かっていた。この旧文明に活躍したであろう兵器で、現代のドラゴンを倒すという確証が残っておらず、これでも届かない事が。

 

 悠だけではドラゴンに勝つ事は出来ない。

 

 届かせるのは悠の一撃ではない。

 

「深月! 大和! 撃てっ!!」

 

「っ……! はいっ!」

 

「その言葉を待ってたぜ!」

 

 悠の言葉に、深月は頷いて手に架空武装を作り出し、大和は待ってましたと口元を歪める。

 

五閃の神弓(ブリューナグ)!」

 

 虹色に輝く弓に深月は上位元素の矢を番えた。

 

「くたばりやがれ……ッ!」

 

『―――――ッ!』

 

 大和も巨大な漆黒のエネルギーの塊を限界まで溜め、腕の先が包まれる程に膨張し、ディアルガも蒼い巨大なエネルギーをいつでも撃てるようにしていた。

 

 今なら届く。超重力と斥力場が拮抗している今ならば―――。

 

「終の矢―――空へ落ちる星(ラスト・クォーク)!」

 

 深月が作り出せる反物質。かつて二体のクラーケンを屠った矢。

 

「破壊光線ッ!!」

 

『―――――ッ!!』

 

 その攻撃と同時に一人と一体から特大の光線が放たれた。

 

 一つは大和よりも大きな漆黒の『破壊光線』。そしてもう一つは蒼く周辺の時空間にまで力を及ぼす『時の咆哮』。

 

 その二つの攻撃が放たれると同時に、深月は通信機へ叫んだ。

 

「総員―――放てっ!!」

 

 竜伐隊の放った数十もの攻撃が、左右からリヴァイアサンを貫く。

 

 そして、正面からは深月の放った矢が、大和とディアルガの攻撃が突き刺さった。

 

 眩い純白の爆発が起こり、リヴァイアサンの全身が内側から膨張し、二つの光線がそのリヴァイアサンの体を大きく抉った。

 

「あと少しだ、イリス!!」

 

「うんっ!」

 

 イリスは上位元素を悠に精一杯送り込み、壊れかけている砲塔を上位元素で補修し、オーバーヒートを覚悟で限界以上の出力を発揮させた。

 

 同時に、大和も力を込め、援護をする。

 

 その瞬間―――大和の頭に、何者かの言葉が流れ込んできた。

 

 

 ―――“この力を知っている”。

 

 この言葉は悠やイリス、深月でもない。かと言って遠方の竜伐隊が言ったとも思えない。

 

 だとすれば―――。

 

「ッ!!」

 

 大和は無言で、限界以上の力を発揮した。

 

 まさに臨界点とも思われる実力を発揮したその瞬間、破壊光線が更に威力を強め、超重力に匹敵する程の大きさになる。それは、リヴァイアサンの体を呑み込まんとばかりに。

 

 ヴォォォォオォォォォォォォォォォオォォォォォォォォン!!

 

 断末魔の咆哮が響き、大和とディアルガの攻撃でリヴァイアサンの体が大爆発と共に崩れていき、消し飛ばされる寸前で空間の断層に呑み込まれ、小さくなる。

 

 巨竜と反物質、そして莫大なエネルギーによる爆発を呑み込んで、空間が―――閉じた。

 

 ほぼ同時に限界を迎えた天を閉ざす塔は、小規模な爆発を起こしながら崩壊する。

 

 空を覆い尽くさんとしていた巨体は消え、彼らの頭上には広い青空が戻っていた。

 

「やった、の……?」

 

 最初に声を上げたのはイリスだった。

 

「勝った……?」

 

 深月も、矢を放った姿勢のまま固まっており、二人は信じられないと言った表情で、先程までリヴァイアサンが浮いていた場所を見つめていた。

 

「やったか……というのはフラグでしかないけどな」

 

 そこへ、大和がふうと一つ息を吐きながら告げる。

 

「奴の気配を感じない。どうやら完全に消滅したっぽいな」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。一回オレが倒しかけたからちょっとばかしパワーアップしてたけど、今度は撃破出来た。竜紋も消えてるしな」

 

 深月が大和に訊ね、悠やイリスも彼を見つめるが、口元を緩めて笑顔を浮かべたのを見て、イリスの竜紋がどうなっているか大和が念のため波導で確認したが、案の定消えていたと言い、三人も自然と笑みが零れた。

 

「やったな! イリス!」

 

「うん! モノノベ!」

 

「ふふっ」

 

 それぞれが喜びの思いを口にし、それは大和も例外ではない。

 

 最初、倒しきれておらず、歯痒い思いだった大和にとっては、皆の協力により、完全撃破を達成してほっと安堵したのだった。

 

(けど、さっきの声は何だったんだろ)

 

 大和が先程から思っていた疑問。それは、攻撃の最中に頭の中に響いてきた声。

 

(他の人じゃないってんなら、リヴァイアサンかもしれないけど……)

 

 その場で戦闘していた人物の声とは思えず、消去法で今は亡きリヴァイアサンの声かもしれない。否、それしか考えられなかった。

 

 それでも尚、半信半疑に思い、大和は戸惑ってしまう。

 

《マスター、深く考えるのは止めた方が宜しいかと思います》

 

 疑問に思っていた大和の表情から察したのか、リムが念話で告げた。

 

《あ、ああ……それもそうだな》

 

 リムに促され、確かにあまり考え過ぎるのも良くないので、彼女の言う通り、考えるのは止めにした。その際も念話で。

 

「さてと、帰りましょうかね。疲れたし」

 

 うーんと腕を伸ばし、そのまま踵を返して学園に戻ろうとした。

 

「待って下さい」

 

 その時、深月から制止を掛けられる。

 

「……何でせうか?」

 

 流石にほとんど全力を出して疲れが残っており、呼び止められて若干ながら不機嫌になる。

 

「あなたは先の命令無視を破りました。兄さんも同様ですが、言いたい事が山程あるので」

 

「いやでも、さっき皆で協力して倒したじゃんか」

 

「その事に関しては本当に感謝しております。ですが、それとこれとは話は別です。特に大和さんは流石にお咎めなしにはいきません」

 

 大和の自分勝手な行動に深月は淡々と指摘し、ついでにディアルガを一瞥し、心辺りがありすぎる大和にとっては、目を逸らし口笛を吹いて誤魔化していた。

 

「ところで慈悲は」

 

「ありません」

 

 深月は大和に微笑みながら宣告した。

 

 にぱっと笑う彼は彼女に慈悲に縋るが、深月にないと言われ、笑みのまま真っ白に燃え尽きたようになった。

 

『大変だな、我が主も』

 

 挙句の果てにはディアルガまでもが他人事のように言われる羽目になった。

 

 先程まで本気で戦っていたとは思えない、彼の様子に悠とイリスは苦笑いを浮かべていた。

 

 紆余曲折ありながらも、こうしてリヴァイアサンとの戦いに幕を下ろしたのであった。

 




これで終わりと思いました? 残念、もうちょっとだけ続くんじゃよ。てか1万4千字超えって……。

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