バーベキューが終わった後、教師陣は荷物を片付けて帰り、ブリュンヒルデ教室の面々は深月の宿舎へと移動した。
リーザ達は、深月の宿舎で外泊する許可を遥から特別に貰ったようだ。
今夜は深月の部屋でパジャマパーティをするつもりらしいが、男性である悠と大和は流石に混ざる訳にもいかない。
悠はシャワーを浴びてジャージに着替え、一人で自室のベッドに寝転がる。
部屋にはティアもいない。皆と一緒に深月の部屋だ。たぶん今日一日の出来事で、ブリュンヒルデ教室のクラスメイトのことは信用してくれたのだろう。
―――というか、リーザのお陰かもしれない。
悠と別れるときは不安げな顔をしていたが、リーザに手を引かれるとティアは大人しく付いていった。その光景はどこか母娘のようにも見えて、つい頬が緩んだのを覚えている。
横になっていると瞼が重くなってきた。
このまま寝てしまおうかと少し考えたが、その前に穂乃花へメールを送ろうと端末を手に取る。けれど画面を見ると、いつの間にかメールが二件程届いていた。一件は穂乃花からの返信で、もう一件は上司であるロキからのものだった。そういえばロキは、キーリのデータを悠に送るとも言っていた。
悠はまず穂乃花のメールを開く。
『折角誘って頂いたのに、行けなくてごめんなさい。母から急に連絡があり、そちらに向かうタイミングを逃してしまいました。私が一人でやっているか、心配だったそうです。どうやら私、信用ないみたいですね』
文面を読み、返事を打ち込む。
『事前の約束もなく急に誘ったんだから、気にしなくていいって。そっちの用の方が大事だしな。外部からミッドガルに回線を繋ぐのはややこしい手続きが必要なはずなのに、連絡してくれるなんて、いいお母さんだな』
ドライな関係などと言っていたが、実は仲のいい母娘なんだろう。少しほっとしながら送信し、しばらくするとすぐにメールが返ってきた。
『そう言って頂けると助かります。まあ、母は相変わらず一方的な物言いでしたが。あ、そういえば悠さんの事を話したら興味を持っていましたよ。もしかしたら近いうちにミッドガルへ来るかもしれないので、その時は色々と頑張ってくださいね』
ミッドガルへ来る……?
悠は疑問を抱いていた。ここは例え“D”の親族であろうと、簡単に立ち入れる場所ではない。穂乃花の母は世界中を回っているらしいが、実はかなり凄い人物である可能性が浮上してきた。
悠は『できればお手柔らかに頼む。じゃあ、おやすみ』とだけ返す。
―――さて、次はロキ少佐からのメールだ。
悠は意を決したように気分を引き締め、メールを展開する。メールに本文はなく、データファイルだけが添付されていた。
圧縮されていたデータを解凍してから開くと、画像付きのデータが表示される。
―――こいつがキーリか。
恐らくだが戦場で撮影されたもので、燃え盛る炎の中に立つ一人の少女が写っていた。
浅黒い肌と長い黒髪。顔立ちは整っているが、目つきは鋭い。
昔、キーリについて説明を受けた時には、ここまで鮮明な写真はなかった。ティアを保護する際にキーリとの交戦があったようなので、その時に撮影されたのかもしれない。
―――キーリ・スルト・ムスペルヘイム。女性、身長約160センチ、年齢不明、体重不明……国籍や家族構成も不明……三年前よりドラゴン信奉者団体“ムスペルの子ら”のリーダーとして活動、彼女が関わったとされるテロ事件は三百件を超える、手も触れず人や物を燃やすとの報告あり、炎の生成を得意とする“D”の可能性が高い、確証はないまま災害認定……。
ニブルの諜報機関が全力で調べているはずなのに、確定情報はとても少ない。真偽が定かではない情報は備考欄に山程書かれているが、それはとても素直に信じる事ができないものだった。
―――推定災害人数は少なく見積もっても十万人、千人規模の大隊が駐留していた町を一晩で壊滅させた、一キロ以上離れた場所にいた狙撃手が引き金を引く前に焼死、広域爆撃により死亡が確定的かと思われた時もあったが後に生存を確認、“青”のヘカトンケイル通過後の町に現れる事が多い……。
「こいつ、本当に人間か……?」
悠は思わず言葉を漏らす。
例えキーリが“D”だとしても、ここまでの事が可能とは思えない。
ここまでの事を余裕で出来そうな、既に見知っている人物が身近にいるが、彼はあくまで“人間”として生きている。
実は八体目のドラゴンだったという方が余程しっくり来る。
「いや……そうか、こいつは“ドラゴンとして”生きてるんだな」
キーリはティアに“D”がドラゴンだと吹き込んだ張本人。キーリも己がドラゴンだと信じているのだとしたら、彼女はもうドラゴン以上にドラゴンらしい存在なのかもしれない。これがドラゴンである事を選んだ“D”の姿なら―――。
「……絶対にティアは、こいつみたいになっちゃいけない」
悠は強い意志を込めて呟き、再びベッドに寝そべって天井を見上げた。真上にある深月の部屋からは、ティア達の声や足音が微かに聞こえてくる。
ちなみに、隣にいるであろう大和の部屋からも微かに―――どころか『しゃー! フルコン!』だとか『あっクソッ! 最後の方なのにミスったし最悪!』という、ゲームをしているのか熱い声が割と大きめに聞こえてきたが、気にしない事にした。
―――バジリスクからも、キーリからも、ティアを守ってみせる。
彼の胸の内で誓い、悠は目を瞑った。
再び眠気がやってくる。次第に考えが纏まらなくなり、意識が遠くなる。
そして―――。
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…………―――――!!
大きく低い地響きに、悠は目を開けた。グラグラと部屋が揺れている。勉強机の上から電気スタンドが落ち、ガシャンと甲高い音を立てた。
「何だ……!?」
驚いて体を起こす。だがすぐに揺れは収まった。枕元の目覚まし時計は、深夜二時を示している。いつの間にか眠ってしまったらしい。
―――地震じゃない。大きな音がした……今のは何かの衝撃による揺れだ。
すぐにそう判断できたのは、以前全く同じ音と揺れを経験したことがあったからだ。
だけど、“あの時”と同じわけがない。“あいつ”がこんな場所にいるはずがない。
「…………」
しかし手のひらは汗ばんでいた。口の中には唾液が溜まり、悠はそれをごくりと呑み込む。
彼はベッドから飛び降りて窓際に駆け寄り、カーテンを勢いよく開け放った。
宿舎の裏手にある森の向こう、夜を彩る満天の星空。その一部が不自然に切り取られている。
夜の
その影は、青く、淡く、燐光を放ち、あまりにも巨大な体躯を揺らす。
悠は今目にしているものが何なのかを……よく知っていた。
「ブルー・ドラゴン―――“青”のヘカトンケイルっ……!」
ただ呆然と、掠れた声で夜に君臨する者の名を呟く。かつて、悠と深月が住む町を踏み潰そうとした怪物がそこにいた。
ヘカトンケイルの全身は青い鱗に覆われ、動くたびに幾何学模様が明滅する。目も鼻も口もない頭部からは、大きな角だけが天を衝くように聳えていた。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン―――!
深夜だったからかというものもあってか、ようやく時計塔からサイレンが鳴り響く。
それはミッドガルも、今初めて事態を認識したことを意味していた。
「いったいどうして……誰も気付かなかったんだ?」
だが悠達の前に、バジリスクでもキーリでもない、予想外の危機が現れたのは紛れもない事実だった。
サイレンを鳴らしながら時計塔は地下へと格納されていく。
だがヘカトンケイルはゆっくりと身を屈め、その長い右腕を伸ばした。
巨大な手のひらが学園の上空にまで届き、真横へ薙ぎ払われる。
(動いた―――?)
ただ歩くだけだと思っていたヘカトンケイルが“まるで意志を持ったかのように動いた”と思ったのも束の間、刹那―――激しい破砕音が鳴り響いた。
下降途中だった時計塔の上半分が千切れ飛び、残った下半分も崩壊しながら傾いた。
サイレンの音が途切れ、衝撃で歪んだ時計塔の下部も動きが止まる。
「あ―――」
呆気に取られた声で自分の喉から漏れるのを、他人事のように聞く。
あの時計塔にはミッドガルの重要設備が集まっている。非常時の司令室もあるし、今吹き飛んだ上階には学園長室も……。
ついさっき別れたばかりの、シャルロットとマイカの顔が脳裏を過ぎる、
「っ……」
悠は奥歯を噛み締め、部屋を飛び出した―――。
「……ふぁっきゅー」
一方、何処からかそんな一言が呟かれていたのには、誰にも気に留められる事はなかったのだった。
◇
「深月っ!」
悠が宿舎二階にある深月の部屋へ駆け込むと、大和以外既に全員が制服に着替えて窓際へ集まっていた。
「しーっ!」
イリスが口元に指を当てて、静かにしろと伝えてくる。見れば深月が端末を手に、早口でどこかへ呼びかけているところだった。
「―――至急応答してください! 司令室! 篠宮先生! 応答してください!」
深月は必死に呼びかけるが返事はない。見切りを付けた深月は通信を切り、彼らに顔を向けた。
「皆さん―――見ての通り非常事態です。司令部は崩壊し、後方支援は期待できません。ですから私たちが中心になって対処します。いいですね?」
「もちろんですわ! 深月さん、早く指示を」
深月の言葉に応じるリーザ。他の皆も表情を引き締めて頷く。
正式な竜伐隊である面々は、小型の通信機を頭に装着していた。
しかし―――悠は約一名、足りていなかった事に気がついた。
「待ってくれ、大和がいないぞ?」
「そうなんですよね……」
「全く、この非常事態の時に何をやっているのでしょうか」
深月もリーザも困惑の表情を浮かべている。すぐに連絡を入れようとした次の瞬間だった。
ズドォォォォォォォォォォン―――!!!
『!?』
凄まじく鈍い轟音に、その場の全員が驚く。どうやら外の方で鳴り響いた音だ。
まさか、再びヘカトンケイルが動き出したのか―――と皆が部屋の窓に近づき、ヘカトンケイルが佇んでいる方向を見据える。
が、待っていたのは予想だにしない光景だった。
『なっ!?』
再度驚愕する。見ると、何とヘカトンケイルの巨体が大きく仰け反っていた。それも、よく見ると胸元が抉れた状態で。
あれはどう見ても、攻撃を受けた証拠。だが周囲には何もなく、未だに召集をかけていないので竜伐隊が攻撃をしたとも思い辛い。
では一体誰が? という思いは、元の姿勢に戻ったヘカトンケイルの前にある、“白いオーラを纏っていたなにか”で、理解した―――。
◇
ヘカトンケイルが時計塔を破壊し、その後は何もせずただ佇んでいただけだった。
しかしその直後、勢いよく“なにか”が此方に向かって飛来してきた。そして―――。
―――地響きでもするかのような、鈍音をヘカトンケイルから響かせた。衝撃で胸部を抉らせ、大きく仰け反らせた。
攻撃をした反動で、後方へと退いた“ソレ”は、呟いた。
「てめぇ……折角さぁ、デ〇ステ難易度30あとちょっとで初フルコンできると思ったら、いい時にいきなり出てきやがってぇ……許さん」
横倒しの姿勢のまま、大和は明らかに憤慨している目をヘカトンケイルに向ける。
要は、大和がスマホと化したリムを使用し某リズム音楽ゲームをしていた矢先、突然ヘカトンケイルが現れ、コンボが途切れてフルコンボができなくなってしまったという事だ。それも、高難易度のを何度も練習してやっとの思いでフルコンできると思っていればこの始末。
沸々と沸いた怒りで、出現したヘカトンケイルに向かい、ドロップキックを浴びせたという訳だ。
確かに共感できる
それを未だに根に持っている大和は、沸騰したかのような白いオーラを纏っていた。
仰け反り姿勢から普通の立ち姿勢に戻ったヘカトンケイルだが、目の前に宙に浮いている人がいるにも関わらず、そのままダラっと腕をぶら下げていた。
その事にも尚、腹が立った大和はギリ……と歯を食いしばり、拳も握り締める。
「……特性『鉄の拳』発動」
大和がそう呟くと、一瞬だけ拳が銀色に染まったような素振りを見せる。
この特性とは、一言で言うと「拳で殴る」技の威力が1.2倍になり、種類の多いパンチ系統の技が強化されるというもの。
それを十二分に活かすために使用したのだ。
「うらあああぁぁ! マッハパンチ!」
雄叫びを上げながら大和はヘカトンケイルに肉薄し、目にも止まらぬ音速のパンチを数十発程、繰り出す。
まるで何処かの釘パンチの如く、遅れてヘカトンケイルから連続して衝撃音が響き、怯む。
「バレットパンチィィッ!」
続けて大和は弾丸のような速さで拳を繰り出し、やはりその攻撃も傍からでは見切れぬ速度だった。
拳の雨を受け続けて何度も怯むうちに、次第にその青い鱗が削がれていた。
しかし、大和は「君がッ死ぬまで殴るのをやめないッ!」とばかりに拳を放つどころか、蹴りまで含んでいた。
いつの間にか特性の恩恵を受けない高威力の技、『インファイト』を繰り出していた。やはり怒りが治っていないためか。
それでも、向かい合っているように見える大和から拳や蹴りの残像ばかりを残し、動作が一切見えない無数の打撃を次々と繰り出していた。更に、巨人の体を貫通するようにも見えている程。
それに相対して、『守りを捨てて、相手の懐に飛び込んで相手を攻撃する技』とあるので、自身の防御力が下がっているが一切気にも留めなかった。
そして、二秒に千発のパンチを放つポケモン以上に攻撃を浴びせたヘカトンケイルの身体は青から赤に染まり―――。
「
拳を大きく引き、ヘカトンケイルの胴体ど真ん中に鋭く重い拳を突き刺した。
その瞬間―――巨人の上半身が木っ端微塵に粉砕されたのだった。
大和、デレ〇テやっててフルコンできなくてブチギレる説。
私も、まだマスプラだけはフルコンできません……(聞いてない)
皆さんはどの子担当もしくはPですか? 良ければ教えてください!←
あと補(蛇)足ですが、大和は大槻唯、本田未央、サンキューユッキこと姫川友紀の三人です。え、三人は多すぎなんじゃないかって? 愛があれば気にしないんです()
ちなみに私は十時愛梨、鷺沢文香、ウサミン星人こと安部菜々さんです(隙自語)
モーさんの台詞の後のパンチはアニメとかでよく見るような繰り返し、1、2、3Hit性のものだと考えてくださいw