ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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明けましておめでとうございます。今年もどうぞ本小説「ファフニール? いいえポケモンです。」と他執筆をしている小説共々どうぞよろしくお願いします。


間に合った(小声)。


天墜のミストルテイン

 白く染め変えられた海原を、赤い怪物が()く。

 

 体調がおよそ五十メートルで、外観を一言で表すのであれば、巨大なトカゲというのが適当だろうか。しかしこの生物は、ただ大きいだけの爬虫類ではない。

 

 人類が()()()()()()()、明らかに害をなす存在でありながら、役二十年間に(わた)って放置し続けていたドラゴン―――“赤”のバジリスク。

 

 古い神話にも名が記された、伝説の怪物だ。

 

 人間がバジリスクの傍まで近づくのは非常に困難だが、もし至近距離からこの怪物を見る事ができたのなら、誰もがその威容に息を呑むだろう。

 

 人類の敵対者でありながら、バジリスクの外観はとても(きら)びやかで美しい。

 

 何せバジリスクの体は、赤みを帯びたダイヤモンドの鱗に覆われているのだから。首の周りと背筋には、石柱状の巨大な結晶が生えており、一際眩い輝きを放っている。

 

 その分、体重はかなり重いらしく、踏み出した足は塩化した大地に沈み込む。まるで小さな山が動いているかのような光景。

 

 バジリスクはゆっくりとした足取りながらも、確実に前へと進む。迷いなく、休む事もなく、目的地へと近づいていく。

 

 やがて白い世界は途切れ、その向こうに紺碧(こんぺき)の海が現れた。しかしバジリスクが紅玉の瞳から赤い閃光を放つと、波打つ海原は一瞬で塩の砂漠へと変貌する。

 

 これこそ、バジリスクが恐れられる理由。過去の伝承では“石化”と呼ばれた能力。

 

 けれどその表現は、適当ではない。バジリスクの力の本質は、寧ろその()()にあるのだから。

 

 大海に塩の道を作りながら、バジリスクは歩み続ける。

 

 進撃を阻むものは何もない。そのはずなのだが―――。

 

 ぴくり、とバジリスクは何かに反応して空を見上げた。

 

 石化の赤光すら届かない高みに現れたモノを、人に(あだ)為す怪物はその双眸(そうぼう)でしっかりと捉える。

 

 そしてそれが己にとって危険な存在である事を、バジリスクはすぐさま察したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深月達が慌ただしく温泉から去った後、大和は辺りに気を配りながら脱衣所へと向かった。彼は生きた居心地がしなかったが、それでもこれから臨時のミーティングが行われるらしいので、気を切り替えて早く戻らなければならない。幸いリムこと携帯端末は肌身離さず持っていたので、その連絡はすぐに窺えた。

 

 急いで自分の服を着て、船へと戻り、会議室へ直行する。彼の移動も人外染みていたので、余裕で間に合う。

 

 皆は既に部屋の中に揃っており、雑談をしている辺りどうやら大丈夫らしい。と安心した大和は着席する。

 

 携帯端末を(いじ)りながらふと横を見ると、フィリルが口角を僅かに上げていた。まるえで「女ばかりの温泉は楽しかった?」と言わんばかりの顔だ。とりあえずまあ良かったと親指を立てておいた。

 

 皆、まだ微かに顔が火照っており、妙に色っぽい。妙にいい匂いを感じ取れた。

 

「大和さん、もしかしてお風呂上がりですか?」

 

 大和が風呂上がりの熱気に当てられていると、横から(反対側は悠)深月に声を掛けられた。

 

「まあね。する事もなかったし」

 

 先程までの出来事をまるで無かったかのように慌てる様子もなく、取り繕いながら説明し返す。

 

 最も、よく考えれば彼は皆以上に温泉に浸かっていた事や、色々刺激的な事があったため深月達よりも顔は茹だっていたのもあるが。だからこそ、一発で深月に見破られたのだろう。

 

「そうですか。もうすぐ篠宮先生も来るので席に着いていてください」

 

「うい」

 

 どうやら深月には先程まで一緒に温泉に入っていた事がバレなかったようだ。

 

 程なくして、遥が会議室に入室する。彼女は全員が席に着いたのを確認すると、ホワイトボードの前に立って話し始めた。

 

「―――先程、ニブルから連絡があった。明朝六時にかねてより準備していた作戦を実行に移すらしい。あちらさんは、これでほぼ確実にケリが付くと考えている。もし本当にそうなれば、我々の出番はなくなるわけだ」

 

 それを聞いたリーザが手を挙げ、発言する。

 

「わたくし達としては、ニブルがバジリスクを倒してくれるのなら御の字ですけれど……そんなに上手く行くのでしょうか?」

 

「まあ、それなりの根拠はあるようだな。作戦内容の詳細と共に、ニブルが収集・分析した最新データも提供された。今から皆にも見せよう」

 

 遥がリモコンらしきものを操作すると、天井からスクリーンが降りてきた。更に電気が消え、スクリーンにニブルから提供されたらしい資料が映し出される。

 

「これによると、ニブルはバジリスクの能力を特定した上、様々な方法で測定をも行っている。このデータに基づいて立てられた作戦であれば、信頼性は高いだろう」

 

「……バジリスクの能力、特定できたんだ」

 

 フィリルの呟きが耳に届く。遥は頷き、スクリーン上のデータをポインタで指し示した。

 

「バジリスクが放つ赤い閃光、それによって引き起こされる現象の正体は―――()()である事が分かった」

 

 遥の言葉を聞き、会議室にどよめきが起こる。だが悠の前に座っていたティアは、振り向き、小さな声で訊ねてくる。

 

「ユウ、風化ってなあに?」

 

「えっと……例えば、大きな岩でも風雨や日光に晒され続けたら、砕けて細くなって、どんどん小さくなるだろ? そういう、時間による変化の事だな」

 

「加えるなら岩だけじゃなく鉱物もな」

 

 大和も言葉を付け足す。

 

 悠達の会話を聞いていた遥は、大きく頷いて言葉を続けた。

 

「―――そう、風化の原因となるのは時間だ。つまりバジリスクの攻撃は時間を吹き飛ばすものだと言える」

 

 ―――時間を吹き飛ばす。

 

 遥はさらりと言ったが、それはとんでもない事だと悠は戦慄する。

 

「ニブルは半減期の異なる複数の放射線物質を使って測定したところ、赤い閃光を浴びた物質は数百年から数万年の時間経過が観測されたらしい。かなり差があるが、これは被照射時間の違いによるものだと分析されている。それを考慮すると、一秒間の照射でおよそ二千年が吹き飛ぶようだ」

 

「に、二千年ですか……」

 

 深月も、声を上擦らせる。

 

「ああ、人間など一瞬で骨か塵だ。生物にとっては最強最悪の攻撃だな。この能力は“終末時間(カタストロフ)”と呼称する事になった。学者達はタキオン粒子がどうこうといった仮説を立てているようだが、根本の原理は未だ不明。けれど起きている現象が風化だと分かれば、対応策を立てることも可能だ」

 

(……守るで防げるかな。いや神の攻撃ですら守るんだから無い事はないか)

 

 大和はその攻撃の想定をする。保証はないが。

 

 そんな事はいざ知らず、遥はポインタを移動させ、ニブルが実行しようとしている作戦の説明に移る。

 

「時間は万物に例外なく影響を与えるが、それでも変化しにくい物質はある。そういった物質なら、バジリスクの閃光にある程度耐えられるだろう。そこで立案されたのが、ミスリルでコーティングした爆弾を、目標の上空から垂直投下する計画だ」

 

 ポインタで示されたのは、爆弾の外観写真。逆さになった円錐形で横に幅広く、何となく独楽(こま)を連想させる。

 

「知っての通り、ミスリルは最も硬く、安定した合金。防壁としては最適と言える。そのミスリルを用い、厳密に耐久力を計算し、バジリスクまで到達するよう設計された兵器―――それがこの対バジリスク用大型爆弾、ミストルテインらしい」

 

 ミストルテイン―――北欧付近の神話に登場する宿り木の槍だったように思われるが、重要なのはそこではない。

 

 ニブルはどうやらこれでバジリスクを葬れると思っているらしいが、大和は怪しさ満点だった。

 

「篠宮先生自身は、どのくらいの成功率だと考えていますか?」

 

 悠は手を挙げ、遥に訊ねる。

 

「―――五割だな。ドラゴンは未知数の存在だ。それまで得たデータが正しいとは限らない。もはやこれ以外に打つ手のないニブルは作戦の成功を信じているようたが、私はそこまで楽観的になれんよ」

 

 肩を竦め、重い口調で答える遥。 

 

「打つ手がないって……これだけ能力が分析できたんだから、他の方法もあるんじゃ……」

 

「分析したからこそ、と言えるな。爆弾を垂直投下するのは、弾道軌道のミサイルだと、閃光を浴びた瞬間に運動エネルギーを“風化”させられてしまうからだ。その点、重力なら時間を吹き飛ばされても影響が持続する。実弾であるのも、ニブルが所持する光学兵器では、ダイヤモンドの鱗に散乱させられて通用しなかったためだ」

 

 そう解説されると、確かに他の方法が思いつかない。だが深月は違ったのか、挙手して遥に問いかけた。

 

「地雷はダメなんですか? これまでの事例で、地面が赤い閃光の影響をあまり受けていなかったのは、大地は数千年を掛けても変化が小さいものだからと考えられます。それなら地面の下に爆弾を仕掛けておれば……」

 

「その方法も試されている。けれどバジリスクはあらかじめ自分の進行方向を掃除するので、地雷は影響を受けない地中深くに設置しなければならない。しかしそれでは、爆発が地表に届く前に察知され、爆発そのものを閃光で吹き飛ばされてしまうんだ」

 

「爆発そのものを……では、私達の計画も、見直さなければなりませんね」

 

 難しい顔で考え込む深月。

 

 ミッドガル側の作戦は火山島を遮蔽物として利用し、島ごとバジリスクを攻撃して殲滅するというもの。しかしそれは、バジリスクの足元で地雷を爆発させるのと、さほど変わらない。攻撃は最大の防御というものの、バジリスクの能力はまさにそれだ。

 

「幸い、こちらにはまだ時間がある。今回提供されたデータを元に、作戦は最考しよう。とは言え、ニブルがバジリスクを倒してくれれば、私達が頭を悩ませる必要もなくなるのだがな」

 

 遥は苦笑しながら言うと、部屋を明るくしてスクリーンを仕舞う。

 

「明日は朝五時半に艦橋へ集合する事。ニブルが作戦映像をリアルタイムでこちらに回してくれるらしい。よほど私たちに自分たちの力を誇示したいようだ」

 

「あ、朝五時半……」

 

 露骨に嫌そうな声を上げたのはフィリル。朝起きるのが苦手なのだろうか。 

 

「寝坊はするなよ? 時間までに現れなかったら、私が叩き起こしにいくからな」

 

 彼らに釘を刺し、遥は会議室から出て行く。何か相談があるのか、深月は急ぎ足で遥を追いかけて行った。他のクラスメイト達は、雑談をしながら席を立つ。

 

 悠はティアに何か話をしている。大和はティアが小刻みに震えている事が分かり、どうやら先程の話を聞いて不安になったのだろうと感じ取る。それを見た悠は不安を和らげるために励ましているのだろう。

 

 ティアの事はひとまず悠に任せておけばいいと、大和は部屋に戻ったのだった。




ポケモン「ソード」が欲しいけどswitch持ってないから買えないぃぃぃ! あ、後リングフィットアドベンチャー(略してRFA)も欲しい!
悲しいなぁ。

ですので、本小説にダイマックス要素はないと思ってください!()

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