悠や大和達を乗せた輸送船は、ミッドガル第一次防衛線の内側まで退避し、そこで、ミストルテインを運んできたニブルの大型輸送艦と合流した。
深月からの再召集が掛かるまで手持ち無沙汰となった大和は、自身の船室で「瞑想」や「竜の舞」といった積み技で決戦まで力を蓄えていた。
そして、もう五周は積もうかと思った矢先、ドアがコンコンとノックされた。
「はーい」
返事をしながら入口に向かい、扉を開く。そこに立っていたのは、疲れた顔をした深月だった。
「大和さん、少し、お話いいですか?」
「うん、いいよ。そこに座って」
大和は頷きながら深月を部屋に招き入れ、奥のベッドに腰掛けるよう促す。
「ありがとうございます」
深月は礼を言いながらベッドに腰掛け、深々と嘆息した。
「ふぅ……やはり中々、上手くいきませんね」
「作戦を考えるのに?」
深月と向かい合うように手前のベッドに座った大和は、先程の事を思い返しながら問いかける。
「いえ、既に新たな作戦立案は終わっています。ただ、私はその上で、皆さんに志願を取り下げてくれないかと、頼んで回っていたんです」
「流石はMTK。もう作戦を考えるとはね……でももう今更誰も取り下げたりしないっしょ。皆、決意固そうだったし。自分もその一人だけど」
改めて深月の優秀さに溜め息を吐きながらも、大和は言う。
「ええ……フィリルさん達や兄さんの部屋も回ってきましたが、誰も頷いてはくれませんでした。大和さんもやはりそう答えますか」
「やはり……って事は最後にオレのところへ来たって訳か。まあオレも
大和は深月に作戦を考える前、誰よりも早く自らが出ると作戦に志願したのだ。その影響故か、それに続く形で皆が志願する事にも繋がったのだが。
彼は深月の用件を察し、釘を刺しておく。深月は呆れて溜め息を吐いた。
「そう答えるとは思っていましたが……こう堂々と言われると何だか癪ですね」
「はははっ。でもそう考えれてるって事は自分に余裕を持ててる事やで」
「えっ……?」
深月は大和の言葉に疑問を持つ。
「何か、吹っ切れてるというか、そんな感じの顔だったからさ」
深月は今まで余裕がなかった表情ばかりだった。先程に関しても自分一人で作戦を決行しようと抱え込む程に切羽詰っていたのが大和にも感じ取れた。
そんな中、自分に対して少し腹が立ったと言える余裕ができていた事を、大和は彼女の顔を見て思ったのだ。
「そうでしょうか?」
「うん。何かいい事でもあった?」
「…………特に何も」
さっきまで悠の部屋にいて、色々言われたり抱き締められたりして力づけられたのだが、そんな恥ずかしい事口が裂けても言えない。
と、顔を赤くしながら妙な間を作ったと思った大和だが、これ以上は詮索しない事にした。
「……とにかく、降下作戦はこれで皆参加するって事だな?」
「はい。不本意ながらそうなりますね―――皆さんを、絶対死なせません。大和さんも、私が守ります」
やはり、重責を背負わされてる感はあっても、深月は強心臓だと内心でカッコいいと思ってしまった大和。
それは皆を守る覚悟を決めたが故の強さだろうか。だが、いずれにせよ一人きりで悲壮な想いを抱えていては得られないモノだ。
「守られる程弱くはないけど、その言葉はありがたく受け取らせてもらうよ。勿論オレも出来る範囲でならサポートするつもり」
「ありがとうございます。ですが、無理はしないでくださいね」
「そっちもな」
お互いに頑張ろうと意気込みを見せた後、深月は立ち上がる。
「では、これから他の皆さんにも召集を掛けに行きます。大和さん、付いてきてもらえますか?」
「おk」
有無を言わさず了承した大和が見た深月の瞳は、生きて帰る事を見据えたような真っ直ぐな眼差しだった―――。
三巻も終わりに近い。