ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

63 / 69
お待たせしました。


激励

 しばらくするとエルリア公国の警察が集まり、辺りはにわかに騒がしくなる。

 

 状況説明は遥とアルフレッド達が行う事となり、戦いで消耗していた彼らは、ヘレンの運転する車で王宮に帰された。

 

 車内でもフィリルは泣き続け、リーザはそんな彼女を胸に抱き、頭を優しく()でていた。

 

 アリエラは向かいの席からフィリルを沈痛な表情で見つめ、キーリは毒気の抜いた表情でぼうっと窓の外を眺めている。

 

 責任を感じている様子で(うつむ)いているのは深月。イリス、ティア、レンは、そんな皆を心配そうに眺めている。

 

 悠と大和は慰めの言葉すら思いつかず、ただフィリルの嗚咽(おえつ)を聞いていた。

 

 王宮に到着すると、フィリルはリーザに「……もう大丈夫、ありがと」と告げ、自分の部屋に向かってしまった。

 

「大丈夫な訳……ないじゃないですか」

 

 リーザは悔しげな表情で呟くが、しばらく一人にするべきと考えたのか、無理に付いていこうとはしなかった。

 

「じゃあね……」 

 

 彼らとは別の場所に部屋があるキーリも、力のない声で言って歩き去る。

 

「…………」

 

 深月は言いたい事がある表情でキーリの背中を睨んでいたが、結局無言で自分の部屋に入って行った。

 

「おやすみ、モノノベ、タイガ」

 

 イリスも力のない笑みを浮かべて挨拶し、自室の扉を開ける。

 

「ああ、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 彼女に挨拶を返してから悠と大和は部屋に戻り、悠はベッドに倒れ込む。

 

 ―――本気になれなかったの?

 

 耳の奥にまだ、キーリの台詞が残っている。

 

 自分があの時何もできないまま、フレスベルグに好き勝手にされてしまった。

 

 何らかの対策をしてきたであろう大和がフレスベルグを相手取る事はできたものの、自分が不甲斐なかったためか手も足も出なかった。

 

 後悔と罪悪感に(さいな)まれながら、気を失うように眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、と」

 

 一方大和は、ベッドに腰掛けるとそんな気の抜けた声を漏らす。

 

「ぶっつけ本番でやってみたけど、動けたし攻撃もできたと」

 

『そうですね』

 

 あの時を思い返しながら顎に手を添え、時計状態になっているリムは彼に同調する。

 

「後はどうするかだな……」

 

『何をですか? マスターが行動できて攻撃もできる事以外に、他に問題が?』

 

「ああいや、オレの事じゃなくて、悠の事。対竜兵装が通じなかったから、またリヴァイアサンの時みたいに"アレ"をやるんじゃないかと」

 

 それは"白"のリヴァイアサン戦時に悠から感じた力。過去の兵器の情報と引き換えに一部の記憶を失うという"あるドラゴン"が関わっていた事を思い出す。

 

『"緑"のユグドラシルの情報提供の事ですか?』

 

「そうそれ。確か旧文明の兵器ってまだいっぱい残ってるんだよね? 今まで悠が見せてくれたモノ以外にも」

 

『ええ。膨大な数があります。ただそれを人間の脳で理解するとなると、情報の処理が追いつかずにキャパシティがオーバーするのは必然の事です』

 

「やっぱそうか……」

 

 グリーン・ドラゴン―――"緑"のユグドラシル。対竜兵器のデータを情報提供する代わりに、一部の記憶を欠落・欠如させてしまう代物。

 

 何故その事が分かるのかは、悠が記憶と引き換えに兵器データをダウンロードする構造を大和が彼の内部を探った時に理解しているためだ。

 

 まさにハイリスク・ハイリターン。"黃"のフレスベルグに対抗できなかった今、他に方法がなければ再びユグドラシルに頼るのではないかと危惧していた。

 

「今度悠とその事で真剣に話し合わないとな……」

 

 個のプライバシー等あるからあまり内部を探る事をしたくなかった大和だが、まともに話す必要があると思いながら、ベッドに横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――コンコン。

 

「……んん?」

 

 いつの間にか寝落ちていた大和は控えめなノック音で目が覚める。

 

 軽く跳ね起きて扉に向かいながら時計(リム)を確認すると、日付が変わった辺りだった。王宮に戻ったのが八時過ぎだったので、恐らく四時間程眠った計算だ。

 

「……誰かな?」

 

 扉の外に訊ねる大和。実のところを言うと、"波導"で誰かは分かるのだが、敢えて向こうにいる人物の声を聞きたかったのだ。

 

「―――ボクだよ、アリエラだ。ちょっと……いいかい?」

 

「ああ、今開けるよ」

 

思いがけぬ来訪者に多少戸惑いつつも、扉を開ける。

 

「こんばんは―――お邪魔するね」

 

 開けた瞬間、アリエラは返事も聞かずに部屋の中にするっと入ってきた。

 

「結構強引なんだね」

 

「大河クン、こっち」

 

 アリエラは大和の手を取り、部屋の窓際へと連れて行く。テラスに出られるようになった窓の向こうには、中庭の景色が広がっている。

 

「ところで何か用があったのか?」

 

「あそこ、見て」

 

 大和に構わず、窓の外を指差すアリエラ。

 

 彼女が指し示す方へ視線を向けると、中庭の噴水近くで(うずくま)っている人影を見つける。

 

「あれは……フィリル?」

 

 目を凝らさずともズバ抜けている視力を持つ大和は、それがドレス姿のフィリルである事に気付く。

 

「うん、さっき窓の外を見たら偶然見つけて―――それで、知らせに来たんだ。彼女のところに行ってもらおうと思って」

 

「わざわざ知らせに? というか、それってリーザとかの方が良いんじゃないの?」

 

 大和が出来たのはただフレスベルグに攻撃できただけ。泣き崩れている彼女を慰める言葉も思い付かず、ただ見ているだけだった。

 

「王宮に帰ってきた時、フィリルはリーザに強がりを言ったじゃないか。多分彼女にとってリーザは一番仲の良い友人なんだろうけど、(すが)る相手じゃないんだよ」

 

「だからって、どうしてオレに……」

 

「勘、かな。この国に来てからの様子を見ていると、彼女と一緒にいる時間が多かった気がするし、何となくキミが一番いいなって思って」

 

 明るい笑顔を浮かべて答えるアリエラ。だがその表情は、何処か無理をしているようにも感じられた。

 

「……それをオレに言う前にアリエラが自分で行こうと思わなかったの?」

 

「ボクじゃあ傷の舐め合いになるだけだ。共感はできてもフィリルの悲しみを受け止められない」

 

 苦い声音で答えたアリエラは、彼に揺れる眼差しを向ける。

 

「―――ボクもね、大切な人達の魂をフレスベルグに喰われたんだ」

 

「ッ!」

 

「ボクが育ったのは情勢が不安定な中東の国で―――大きな衝突があるとたくさんの死者が出た。そしてその度にフレスベルグはやってきて、魂を思う存分喰らうのさ」

 

 窓の向こうの夜空を見上げ、アリエラは言葉を続ける。

 

「あれは魂を天に運ぶ使いだとか言う人もいたけど、ボクにはただの食事にしか見えなかったよ」

 

 アリエラは窓枠を指でなぞりながら、感情を抑えた声で言う。

 

「まあフレスベルグが直接人を殺している訳じゃないんだけどね。ボクの大切な人達が命を失ったのも、テロに巻き込まれたのが原因だ。けれど、それでも……最後の魂すら刈り取ってしまうフレスベルグを、ボクは許せない」

 

 そう言うとアリエラは窓ガラスに爪を立て、庭園に蹲るフィリルを泣きそうな顔で見つめた。

 

「だって、魂がもうない(・・)と示されてしまったら、ボクらは一体何に祈ればいいんだい? 死者への言葉が無意味だと知ってしまうのは、とても絶望的な事だよ」

 

「アリエラ……」

 

「だから、フィリルのところにいってあげて。死者へ届かない言葉は、生きている人間が受け止めるしかないんだから」

 

 アリエラは切なげに微笑むと、大和の腕を再び引っ張って部屋の外へと連れ出した。

 

「キミには期待してるよ。フィリルを慰める事も、フレスベルグを倒してくれる事も。それじゃあよろしくね、大河クン」

 

 ポンと彼の肩を叩いて、自分の部屋へ戻ろうとするアリエラ。

 

「アリエラは―――大丈夫か? 話していて、辛そうな顔してたけど」

 

 大和は彼女の事も心配になり、遠ざかる背中に問いかける。

 

「ああ、うん、心配はいらないよ。もうかなり昔の事だからね。とっくに過去の話さ。ボクにとっては()()()()の方がよっぽど大変だったから」

 

「それから……って?」

 

「身寄りを失くしてから、ミッドガルに来るまでの事だよ。もしボクの事を気遣ってくれるなら、いつかその話を聞いてくれると嬉しいかな」

 

 眼差しに微かな弱さを垣間見せたアリエラの言葉に、大和は力強く宣言する。

 

「いいぜ。約束しよう」

 

「―――ありがとう。大河クンは、優しいな」

 

 嬉しそうに頬を染め、礼を言うアリエラ。

 

 ―――彼女は大和が想像もできない程、大変な人生を歩んできたのか。

 

 大和は今度話す時に何か力になれる事はないかと、そんな想いを内に秘め、フィリルの元へ向かう。

 

 だがわざわざ階段を降りるよりも、手っ取り早い方法はある。

 

 大和は急いでもう一度、自室に戻り、窓を開けてテラスへ躍り出る。

 

 そこから身を乗り出し―――。

 

「とうっ!!」

 

 勢いよく―――バッと空へ飛ぶ。

 

 言っておくが一階から二階という高さの規模ではない。故に"常人であれば"ただの墜死行為だが、大和は"常人ではない"ためこんな事ができる。

 

 空気を切り裂きながら重力に(のっと)り、両足、及び片手の三点を地面に着ける―――俗に言う「三点着地」で庭園へ降り立つ。

 

 その際、一瞬激しい地響きがしたが、上手く衝撃を逃したのか、手入れされた庭園の雰囲気を壊す事なく行えた。勿論このくらいなんて事ないとばかりに涼しい表情で立ち上がる大和。

 

 ぐっと冷え込んだ夜の風が吹き込んでいる。そこまで大和は寒いと感じなかったが、他の人がこんな場所に長くいたら風邪を引く恐れがある。

 

 落ち着かないと思うが、フィリルを屋内へ連れ戻すべく体に付いた土や埃を軽く払うと、彼は噴水の方へと向かう。

 

 噴水の中央には、鳥と戯れる少女の像が飾られている。今は深夜のためか、水は流れていない。

 

 フィリルは噴水の脇にしゃがみこんで肩を震わせていた。

 

 足音を立てて近づいても反応がないため、大和はパーティー用に着ていたコートの上着を脱ぎ、フィリルの肩に(かぶ)せる。

 

「どうしたんだいお嬢様。ずっとここにいると冷えるぞ? 中に戻ろう」

 

「……大河くん?」

 

 フィリルが顔を上げ、赤い目で大和を見つめる。

 

「大丈夫か、とか野暮な事は言わない。けど風邪を引いたら元も子もない」

 

「別に、いい」

 

「ええ……」

 

 さてどうしたものかと迷っていると、フィリルは小さな声で問いかけてきた。

 

「噴水の銅像―――これ、何に見える?」

 

「え? 女の子が鳥と遊んでる像に見えるけど……」

 

 戸惑いつつも、大和は見た通りの想像を答える。

 

「あのね……これ、私なんだって。私がミッドガルに行ってから、お爺様(じいさま)が作らせたみたいなの。ふふ、あんまり似てないよね」

 

 掠れた声で答え、ぎこちなく笑うフィリル。

 

「いや―――言われてみれば、そう見えなくもない。済まん。確かに、今よりずっと幼いけど、何となく分かる気がする」

 

「そう? 私にはやっぱり、別人に思えるけど。ただ、お爺様には私がこんな風に見えていたのかなって……それが、気になる」

 

 じっと―――祖父の目から見た自分を、フィリルは眺めていた。

 

「けど……もう、確かめられない。質問する事も、お別れを言う事も、お礼を伝える事も―――何も、できない。最後の最後まで、守られていただけだった」

 

 強い後悔が(にじ)む声で、フィリルは再度顔を伏せる。

 

「守られる事の何が悪いんだ?」

 

 大和は彼女の肩へ手を置き、力を込めて言う。

 

「え……?」

 

「孫を守ろうとする事に、特に理由もない。ただ、守りたいから守ったんだと思うな。最後まで―――魂だけの存在になってもそこを一切譲らなかった。仮にオレがじっちゃんの立場だったら、悔いはないさ」

 

 フィリルは彼の顔をじっと見た後、小さく息を吐いた。白く染まった息が風に流され消えていく。

 

「それ、私の意思は関係ないって……言ってる気がする」

 

「まあ、極論を言うとそうなるな。でも、守るっていうのはある意味、一方的な行動で、相手の意志関係なく成り立つんだ」

 

「そんなの、寂しすぎる。守られる側の気持ち……考えてない」

 

「かもな。けど、そういう守り方しかできない人間もいるんだよ」

 

 大和は自分で言っていて、心当たりのある人物を思い付く。

 

 恐らく、悠もそうだと。深月とイリスを守るために、記憶という大きな代償を支払った事を。それが、相手の事しか考えない(・・・・・・・・・・)自己満足だとしても。

 

「大河くんは、酷いね。お爺様が満足してるっていうなら……私が泣くのは、私のためでしかなくなっちゃう。泣き止むしか、ないよ」

 

「いんや、別に自分のために泣くのも悪い事だって言ってない。せめて―――もっと暖かい場所でならと思って。だから、中に―――」

 

「……分かった。もう少し、暖かい場所で泣くね」

 

 こくんと頷くフィリルだったが、彼女はそのまま大和に抱き付いてきた。

 

「ちょっ!? フィ、フィリルさん?」

 

「大河くんの腕の中なら、多分……泣いていいぐらいには暖かいよね?」

 

 彼の腰にぎゅっと手を回し、胸に額を押し付けてくるフィリル。

 

 突然触れる柔らかな膨らみに、普段の大和だったら、動揺して鼻血等を出してしまう恐れがあったが、彼女が肩を震わせているのを見て落ち着きを取り戻せた。

 

「―――そうだね」

 

 大和は肯定の言葉を返し、フィリルの頭に手を置いた。

 

 さらさらとした髪を指で()くと、彼女は静かに涙を流し続ける。

 

 以前、大和は学園長であるシャルロットに頭を撫でられた時、心地良さを感じ―――まるで自分が認められ、受け入れられているような気持ちを抱いた。

 

 故にフィリルにも安心して欲しいと思って柄にもない事をするが、優しく頭を撫で続ける。

 

 上着を貸した事で肩が肌寒く感じるが、彼女を抱いているので体の前面は暖かい。

 

 そのまま夜風に吹かれつつ、俺は彼女のか細い嗚咽を聞く。

 

 しばらくして泣き声が途切れると、フィリルはごしごしと目元を擦って顔を上げた。

 

「大河くん……鼻の頭、赤い」

 

「え、マジ? 気付かんかったわ……中々冷え込んでるからかな。そう言うフィリルの方は目が赤いぞ」

 

「お揃い?」

 

「かもね」

 

「ふふ―――」

 

 フィリルは小さく笑い、大和から離れた。

 

「ありがと、少し落ち着いた。大河くんが風邪引くと悪いから、そろそろ戻る」

 

 冷たい指で彼の手を握り、宮殿の方へ歩き出すフィリル。

 

(ん……?)

 

 その時、フィリルから妙な"気"を波導で感じ取る。そう思ったのも束の間―――。

 

「っ……」

 

 彼女は突然顔を(しか)め、左肩の辺りを押さえる。()()()波導を感じたのは彼女の左肩辺りだ。

 

「どうしたの?」

 

「分からない。何だか、急に熱くなって―――」

 

 ドレスの肩口をずらし、フィリルは異変を感じた場所を確認する。

 

 見ると左肩にフィリルの竜紋、その端が、微かに黄色く変色している。

 

「何だと……いやまさか……」

 

 大和は目にしたものが信じられず、掠れた声で(うめ)く。

 

 そしてそこに、(くら)い声が夜空に乗って流れてくる。

 

「まあ、そんな事だろうと思っていたわ」

 

 中庭の剪定(せんてい)された生垣の陰から、キーリが姿を現した。

 

「チッ、潜んでいたのに気付いていたが、いつから見ていた?」

 

「ついさっきよ。いちゃついてるあなた達が窓から見えたから、気になって様子を見に来たの」

 

「べっ、別にいちゃついていたわけじゃねーし」

 

「……そんな部分に(こだわ)ってる場合じゃないでしょう? 今大事なのは、彼女の変色した竜紋だと思うけど」

 

 呆れた口調で指摘してくるキーリ。

 

「ンな事くらいは分かってる。ただ、ちょっと冷静になる時間が欲しかっただけだ。これは、フィリルが見初められたって事なのかってな」

 

 大和は一部が変色しているフィリルの竜紋を見ながら、キーリに問いかける。

 

「ええ、そうなるわね。しかも私と同じ色だから、見初めた相手はフレスベルグ。多分フレスベルグは私のような(まが)い物じゃなく、本来の適合者を見つけたのよ。さっき、あの場でね」

 

 自嘲が濃く混じった声でキーリが答える。 

 

「紛い物っていうのは、どういう事だよ? キーリもフレスベルグに見初められていたんじゃ?」

 

「私の竜紋はフレスベルグの波長に合うよう、強引に作り変えられていた(・・・・・・・・・)だけよ」

 

「作り変えられていたって、まさか―――」

 

 そんな事が出来るのはキーリの創造主であるヴリトラだけだ。エルリア城で大和が彼女の正体を明かし、悠にも彼女の正体を明かしている。

 

 だがそれをフィリルの前で口にする事はできなかったため、大和は途中で言葉を切る。

 

「そう、多分あなたの想像している通り。だから私は紛い物。あらゆる意味で、ね」

 

 皮肉げな口調でキーリは言う。

 

「キーリ、お前は……」

 

「そんな目で私を見ないで。今、同情するべきは、フレスベルグのつがいに選ばれた彼女の方でしょう?」

 

 大和が僅かに抱いた(あわ)れみを敏感したキーリは、苛立(いらだ)った様子でフィリルを示した。

 

「つがい……か。なら、フレスベルグはまた―――」

 

「彼女の竜紋が完全に変色したら、もう一度やってくるでしょうね。ティアの時には、十時間程で竜紋の変色が完了して、その直後にバジリスクが移動を開始したわ。恐らく竜紋の変色が終わらないと、その子をつがいにはできないんだと思う」

 

「十時間ね……」

 

 既に変色は進行しているのだから、タイムリミットはそれよりも短いはず。

 

 先程の邂逅(かいこう)で見初めたのだとしたら、最悪の場合残り六時間程しかない。

 

 フィリルに興味を示しながらも飛び去ったのは、大和に怯んだのではなく、まだ彼女の準備が整っていなかったから。

 

「私が、フレスベルグに―――」

 

 フィリルは呆然と自分の竜紋を見つめていた。

 

「さて、あなたはどうするのかしら? あなたならフレスベルグに対する攻撃手段は得ているようだけど、他の人達はきっと手詰まりかもよ」

 

 ニヤリとキーリが不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふん、最悪のケースには絶対させねえ。この事をすぐに悠と遥先生、深月に報告する。その後の事はそれから考えればいい」

 

 最悪の選択肢をしない事を決意しながら、大和は二人を伴って屋内に戻った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。