ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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大変お待たせしました。


守護者

 悠は大和に、自身の現状を伝えた後、次いでイリスに大和に話した事と同じ内容を伝えた。

 

 彼女は悠が変わっていく事を酷く悲しんだが、"今の"彼が忘れたくない大切な思い出を代わりに(おぼ)えておくと、力強く宣言した。

 

 それから悠は時間の許す限り、イリスに思い出を語った。

 

 しかし、深月が彼らに状況を伝えるために呼びかけられる事になり、全てを伝え切れずに終わった。

 

 王宮に戻ってきた遥の部屋にキーリも含めた全員を招集し、固い声で現状を伝えた。

 

 フィリルの竜紋が八割以上が黄色く染まっており、これまでの進行速度から計算すると完全変色まであと二時間程だという。

 

 そして深月は作戦を立案できなかった事について、皆に謝る。

 

「―――申し訳ありません。"霊顕粒子(エーテルウィンド)"の仮説を唱えた人物にもコンタクトを取ろうと試みたのですが、空振りに終わってしまいました」

 

 深月はそう言って、ちらりとレンの方を見る。

 

 その仮説を唱えたのは宮沢健也(みやざわけんや)という人物。宮沢という名字はレンと同じで、悠は彼女と関係あるのかと一人考える。

 

 しかし深月はその事について何も言及せず、話を続ける。深月の表情にはレンを気遣うような色が垣間見えた。

 

「現在の段階では、フレスベルグに対する有効な作戦は立案できていません。ですが……」

 

 悠と大和の方を(すが)るように見つめる深月。

 

 分かっている―――と悠は頷き返し、皆の前に歩み出た。

 

「俺と大和には、奥の手がある。だから諦めないで欲しい。フィリルを救える可能性は、まだゼロじゃない」

 

「奥の手? それは一体何ですの?」

 

 リーザが当然の質問を向けてくる。しかし悠には、それに答える言葉を持たなかった。

 

 現時点ではユグドラシルへのアクセスはまだ行っていない。データのダウンロードは記憶や感情を塗り潰してしまうほどの負担が脳に掛ける。故にデータの内容が分からないリスクがあろうと、ダウンロードは戦闘直前で行うしかない。

 

「俺の方は……済まない。今は―――言えないんだ」

 

「なっ……ふざけているんですか?」

 

「ふざけてない。俺は本気だ。頼む、信じてくれ。絶対に大和と共に突破口を開いてみせる―――イリスを救った時のように」

 

「っ……」

 

 リーザは悠の言葉に、息を呑んだ。

 

「頼む……」

 

 悠は皆に頭を下げる。部屋にはしばらく沈黙が落ちた。

 

 ユグドラシルとの契約について説明すれば少しは信憑性(しんぴょうせい)も増すだろうが。それを深月の前で話す事はできない。

 

 加えてミッドガルの司令官である遥もいる。悠がドラゴンと取引していると(おおやけ)にした場合、ミッドガル側である遥がどんな判断をするかは不明だ。最悪、身柄を拘束される事も考えられる。

 

「オレからも頼む。悠の力はフレスベルグに通用する。そう断言できるぐらいにはね。だから……どうか信じてくれないか?」

 

 フレスベルグに立ち向かうため、ここで悠の行動を制限させる訳にはいかない。大和も頭を下げてお願いする。

 

「大和……」

 

 大和が同じように言ってくれた事に、悠は綻びを見せる。

 

 やがてリーザが嘆息する。

 

「…………はぁ、仕方ありませんわね。それを言われたら、何も言い返せませんわ。あなた達の力がなければ、リヴァイアサンを倒せなかったのは事実ですから。根拠はなくとも、あなた達の実績を信頼いたしましょう」

 

 彼らが顔を上げると、彼女がやれやれという表情を浮かべていた。

 

「では、改めて大和さんも攻撃手段の内容をお願いします」

 

 続けて深月が大和の意見を促す。彼が奥の手―――もとい、攻撃手段を述べる。

 

「オレは超能力や、霊や魂に関するポケモンの技を使える。皆も見た通り、それを使ったら、フレスベルグを怯ませたり、霊顕粒子に関係なく攻撃できた。その中でも高威力な技を使えば、奴にも大ダメージを与えれると思う」

 

 実際に不意打ちとはいえ"思念の頭突き"で攻撃したり、更には彼がゴーストタイプになった事で霊顕粒子の領域の中でも動けていたのは皆の目が証明している。

 

「確かに、あの場であなただけが動けていたし攻撃もできていたわね。言葉でも行動でも信用に値するわ」

 

 納得の表情のキーリの言葉通り、この場で一番信頼できるのは大和だった。

 

 他の皆からも異論は上がらない。

 

「では―――第二次フレスベルグ迎撃戦は、兄さんと大和さんを中心として行います。大和さん、兄さん、作戦内容に関しての指示を出してください」

 

 深月は竜伐隊(りゅうばつたい)の隊長として話を進める。

 

 その際、大和にも指示を求められた事に意外そうな表情をするが、すぐに真剣な表情に切り替える。

 

「オレも? まあいいけど。そうだなぁ……まずは、周囲への被害があまり出ないところで戦いたいな。何処か適した場所はある?」

 

「……それなら、大瀑布(だいばくふ)の付近がいいと思う。あの辺りは民家がないし、夜明け前の今なら誰もいないはず」

 

 フィリルが小さく手を挙げ、意見を言う。竜紋の変色が分かった時とは違い、表面上は落ち着いて見えた。

 

 彼女の言葉を聞いて、深月は頷く。

 

「では迎撃場所は大瀑布周辺にしましょう。篠宮先生、作戦地域の封鎖手続きをお願いしてもいいでしょうか?」 

 

「分かった。任せておけ」

 

 遥は深月の言葉に頷き、即座にどこかへ電話を掛ける。

 

 悠はその様子を見ながら、もう一つ留意しなければならない事を告げる。

 

「それと―――気になるのはニブルの動きだな。作戦行動中にフィリルが狙われたら、何もかもが破綻する。竜紋の完全変色までもう少し時間が掛かるのなら、今のうちに手を打っておきたい」

 

「確かに……そいつらの動きもあったな。奴らはキーリの監視が目的だったし、フィリルが変色した竜紋を見せた中庭には、キーリもいたしな。それに屋外だったし見られてる可能性が十分にあるわなぁ」

 

 大和の発言を聞いたキーリは「そうね、甘く見ていい相手じゃないのは確かだわ」と相槌を打つ。

 

「では、どうしますか?」

 

 表情を固くして問いかける深月。

 

「フッ、簡単な話よ。フレスベルグ戦前までに、"片付ければいい"」

 

 鼻を鳴らした大和は簡潔に答え、フィリルに顔を向けた。

 

「という訳でフィリル、オレと少しばかり付き合ってくれるか?」

 

「え……?」

 

 大和の誘いに、彼女はぽかんとした表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明け前の町を、大和はフィリルと二人きりで歩く。

 

 空気はとても冷たいが、防寒対策はしっかりしてきたので問題ない。フィリルは暖かそうなコートとモコモコした生地の帽子を(かぶ)っている。大和は動きやすさを重視したのか、エルリア公国に来てから着用する回数が多いロングコートのみという格好だ。

 

 目的地は大瀑布(だいばくふ)を一望できる広場―――フレスベルグとの決戦を行う地点。

 

 彼らは王宮から徒歩で、大瀑布へと向かっていた。

 

「……仕掛けてくるかな」

 

 フィリルが白い息を吐き出し、抑えた声で問いかけてくる。

 

「竜紋が変色した事を知っているんなら……間違いないね。(やっこ)さんもフレスベルグが来る前に、片を付けたいんだろうな」

 

 ポケットに手を突っ込んでいる大和は雲の多い空を見上げながら答える。

 

「もし何も起こらなかったら、これ……ただのデートだね」

 

 フィリルが彼の方を見て呟く。

 

「そういう事に……なるのかな。それはそれで悪くないでしょ?」

 

「……うん、そうかも」

 

 くすりと小さく笑い、頷くフィリル。

 

 最も、大和にとっても女の子を誘うという行為は中々した事がないため、ほぼ初めてのデートと言っても過言ではなかった。

 

「ねえ、大河くん?」

 

「何だ?」

 

「デートなら……手、(つな)ご」

 

 フィリルはコートのポケットから手を入れ、そんなことを言い出す。

 

「え? い、いや、それは……」

 

 大和は多少焦りながら周囲を見渡す。

 

 自身もニブルに狙われているキーリだけは王宮に居残りだが、他の皆は離れた場所から彼らを監視している。戦闘になった場合は彼の援護はせず、フィリルを遠距離から守るよう頼んであった。

 

「ダメ?」

 

 だがフィリルの瞳が心細そうに揺れているのを見て、大和は諦めの息を吐く。

 

「ダメじゃないけど―――少し手が冷えないか?」

 

「じゃ、こうする」

 

 フィリルは彼のポケットに手を突っ込み、指を絡める。その行動に思わず大和が間抜けな声を上げてしまう。

 

「うおいっ?」 

 

「……これなら、あったかい」

 

 微かに頬を染め、彼女は笑う。

 

「っ……」

 

 妙な気恥ずかしさに思わず照れ臭くなってしまう大和。

 

 東の山稜が淡く白み始め、星の光が薄くなってきている。

 

「私、男の子とデートするの、初めて」

 

「お姫様だからかな。まあ、オレも初めてだ」

 

「そうなんだ……一緒だね。そんな私を誘ったんだから、大河くんは……王子様になる覚悟、あるんだよね?」

 

 首を傾げ、悪戯いたずらっぽく笑いながらフィリルは俺に問いかけた。

 

「…………」

 

 大和は前にも同じような台詞を言われた事を思い出す。

 

 確か―――「王子様になる覚悟がないなら、惚れちゃダメ」と言っていた気がすると。

 

「ないの?」

 

 ポケットの中でぎゅっと手を握り、体を寄せてくるフィリル。柔らかな胸が腕に触れた。

 

「フ、フィリル……」

 

 彼女がどこまで本気か分からず、彼は戸惑う。

 

「これが最後かもしれないから、今だけ王子様になってくれると……嬉しいな」

 

 大和の肩に頭を預け、フィリルは震える声で(ささや)いた。

 

 それを聞いて、彼女が内心ただ不安で、(おび)えているのだと彼は気付く。

 

「ふー……。あのな、これが最後じゃないから。オレが絶対に何とかする。だからそんな諦めたような事を言わないで」

 

 彼女の手を握り返し、溜め息を()きながらも大和は強い口調で宣言した。

 

「うん……そうだね、ごめん。大河くんに励まされると、本当に何とかなる気がしてくる。でも……」

 

 フィリルは表情を(かげ)らせ、彼をじっと見つめる。

 

「今の大河くん、お爺様と似たような顔してる」

 

「似たような?」

 

 大和が聞き返すと、フィリルはこくんと頷く。

 

「守るって、決めた顔。守ってくれるって、信じられる顔。でも―――何となく一方通行な感じがする、そんな顔」

 

 大和の顔から目を離さず、フィリルは言葉を防いだ。

 

「…………」

 

 心の内を見透かされた彼は、視線を逸らした口を(つぐ)む。

 

「大河くんは、私のために何をしようとしているの?」

 

 フィリルは何か期待しているのか、そんな眼差しを大和に向ける。

 

「前に……フレスベルグがエルリア城を襲って、魂が全部吸い込まれる直前で、一瞬だけどアルバート王が―――オレの事を見てくれた気がしたんだ」

 

「えっ? お爺様が?」

 

 大和は少し思い返しながら言う。彼の言葉通りでエルリア城戦時、アルバート王の魂が消える直前で、確かではないが大和の方に視線を向けられた気がしたのだ。

 

「何を伝えたかったのか、その時は分からなかったけど……今だったらこう言えるな」

 

 大和は一呼吸置き、言う。

 

「きっと、王はオレにフィリルを任せられた―――いや、託された(・・・・)んだと思う」

 

「……託された?」

 

「ああ。無我夢中だったから気付かなかったけど……今思い返せば、フィリルを守っていたように見えたんだろうな、あの時。じゃなかったら、きっとオレの方なんか見ないよ」

 

 彼は頬をポリポリと掻きながら照れ臭そうに言う。 

 

 大和にとっては、"もう駄目になる自分の代わりに後は任せた"と言いたいのだろう。例えそういう想いでなくとも、きっとそれに近い想いを持っていなければ大和に託したりなどしないのだと。

 

 託されたからには、それ相応の行いで応える必要があると。

 

「だから今は託された想いを含めて、フィリルのために守る。何が何でも。例えニブルの刺客だろうと、ドラゴンだろうと、どんな有象無象だろうと、守ってみせる」

 

 力強く宣言する大和。相手の意思を尊重しつつ、守るべきものを誰かとはっきりさせる。

 

 まるで―――"守護者"と言っても過言ではない程に。

 

「ふうん。そういう事にしておいてあげる。今は大河くんに、守ってもらう。でも、今日を人間のままで生き延びられたら……やり返すね」

 

「や、やり返す?」

 

「うん。覚悟、してて」

 

 強気な笑みを浮かべて告げるフィリル。

 

 お手柔らかにと冷や汗が頬を伝うが、彼女が明日の事を考えてくれるのは―――悪くないと思う。

 

(……!)

 

 その時、針のような、鋭く細い殺気を大和は感じ取った。

 

 ―――ここで仕掛けてきたのだと。

 

 乾いた破裂音が大和の耳に届く。

 

 それが銃声だと容易に判断できた頃には、大和の腕がブれていた。

 

「……えっ?」

 

 遅れて気付いたフィリルの眼前に、大和の手が映る。その指の間には弾頭(だんとう)であろう鉛の塊が挟まっていた。

 

 原理は他愛もない事。音速で迫る銃の弾丸を、たった"指二本で"掴み取ったのだ。

 

 常人なら不可能な事を容易くやってのけていた。

 

「……言ったろ? 守ってみせるって。このぐらい造作もない」

 

 ニヤリと口角を上げながら大和は塊を握り締め―――否、鈍い音がしたので"握り潰した"のだろう。

 

 手を話すと、無惨に潰れた塊が落ち、金属音が響いた。

 

「全く無粋でKYな野郎だ。邪魔しやがって……まあいい。フィリルを守るとしますか」

 

 そう言った大和は懐からモンスターボールを取り出し、フィリルから多少距離を取った後―――。

 

「出てこい、レジスチル」

 

 フィリルの方向に向けて、軽くボールを放り投げる。

 

『じ・じ・ぜ・じ・ぞ』

 

 機械染みた声を上げたと思えば、フィリルや大和よりも大きいおよそ二メートル程のポケモンが出現した。

 

 身体全てが鋼で出来たゴーレムのような姿、中心と両腕部分は黒く、それ以外は白い外殻で覆われた姿。

 

 黒鉄(くろがね)ポケモン―――レジスチル。

 

「外野からの攻撃はそいつが守ってくれる。オレ一人でも大丈夫だと思うけど、一応保険として、ね」

 

 要はポケモンを出さなくても大丈夫だと思ったが、思わぬ攻撃を貰わぬよう念のために鉄壁の役割を持つポケモンを出しとけば安全さが増すという事。

 

 他のどんな金属より硬く傷一つ付かない程の強度を誇る以上、銃は勿論、爆弾や対物ライフルといったものにも対応できると思ったまで。

 

「心配しなくても、すぐに終わらせるから、安心してくれ」

 

 フィリルを安心させるために、彼は優しく微笑みかけた。

 

「あ……う、うん」

 

 微かに頬を染め、フィリルは頷く。

 

 そして彼は一歩前に出て、銃弾が放たれた方向へ視線を向ける。

 

 後方へ待機しているレジスチルも、"鉄壁"、"ド忘れ"といった積み技も彼からの指示なく行い、その細長い腕でフィリルを抱えるように守る。

 

 ―――ガチャン。

 

 一つ先の角から"彼"が現れた。

 

 コートの下に銀色の装甲服を(まと)った者―――フレイズマル。フードの陰から硬質な輝きを覗かせ、彼は大和達に近づいてくる。

 

 こうしてフィリルを狙ってくる辺り、竜紋変色を把握していたようだ。

 

 昨夜、悠はフレイズマルに圧倒された。その時点で簡単に倒す事が出来る相手ではないのは確か。

 

(でも、今の悠なら楽勝だろ。未来予知で悠が倒せていたのは分かってるんだから)

 

 フィリルと出かける直前、もし悠が目の前の人物と相対したら―――という、"未来予知"を既に行っており、余裕で倒している情景が浮かんだ。

 

 大和も負ける気がしなかった。多種多様な技を行えば、敵を翻弄しつつ倒せる。

 

 懸念点があるとすれば、目の前の人物が"人間"なら戦闘不能に追い込むまでなのだが―――。

 

(ま、人なら殺しはしないけど、中身が本物の人間じゃない(・・・・・・・・・)から関係ないよネ)

 

 意味深な事を思う人為不殺主義(絶対人間殺さないマン)の大和だが、昨日の時点で様子見と波導で中身を探ったので、装甲服の中身がどういう者なのかを知っていた。

 

 なので、躊躇なく倒せる。

 

「さーてと、誰かは存じませんが、フィリルには指一本足りとも触れさせないぜ。向かってくるんだったら、"無に還す"だけだ」

 

 大和は高らかに宣言する。フレイズマルは、殺意をもって彼に応える。

 

 悠が受けた昨夜の焼き直しのように、コートの内側からノーモーションで放たれるナイフ。

 

「まっ、聞いてくれる訳ないか」

 

 呆れた表情を浮かべながら、飛来したナイフを右の人指し指と中指の二本で挟む。尚、刃の部分であるのにも関わらず。

 

 そして空いた左手はリムの籠手状態に変化させる。

 

「すぐには倒さない。少し遊んでやる」

 

 ニヤリと嗤う大和に気が障ったのか、銃を構えたフレイズマルが此方に向けて突進してくる。

 

 恐らく肉薄しながら発砲する手立てだろう。しかしそれは予測済み。

 

「ストーンエッジ!」

 

 手首のスナップを利かせながら腕を高く掲げる。すると前方の地面から数本もの巨大な尖った岩として隆起してくる。

 

 フレイズマルは視界から大和の姿を隠しつつ、その岩に激突するかと思われたが、踏ん張る力を強めて急制動し、横へ移動しつついつでも撃てるよう引き金に指を添える。

 

 しかしそこに佇んでいたはずであろう大和の姿がなく、フレイズマルは周囲を見渡す。

 

「ドコミテルンディス!!」

 

 後方から難読不能な男の声が聞こえたと思えば、フレイズマルの背中に拳が突き刺さった。

 

 そして、その強力なパンチを浴びせた瞬間、吹き飛んだフレイズマルごと尖った岩を砕いた。

 

 先程大和は技を放ち、フレイズマルが止まっている間にその背後へと"高速移動"し、視界から消えたと思わせたのだろう。しかしその速さは音速どころか光と同等の域にまで達していた。

 

 手を休めず次なる技―――"岩砕き"を繰り出し、フレイズマルを巻き込んで形成した岩を砕いたのだ。

 

 フレイズマルは瓦礫となった岩と共に下敷きになってしまった。

 

「……ふうん? その程度か。話にならないな」

 

 衝撃の余波で舞った土煙を見て、手を掲げつつ呆れた声を上げる大和。

 

 しかしその瓦礫の中から立ち上がろうとするフレイズマルの姿が。

 

 昨日の時点からただならぬ人物なのは知っていた。見ると、所々に付着した土や先程のダメージによる傷がコートと装甲服にあったが、致命傷を受けた訳ではなかった。

 

 しかしそれも大和は予測済み。このぐらいでやられる柔な相手ではないのは十分分かっていたので、その上で先程の煽りのような言葉を言ったのだ。

 

 完全に立ち上がったフレイズマルはボロボロのコートの内側からナイフを取り出し彼に向けて投擲(とうてき)する。

 

 大和は冷静にそれを軽く"(はた)いて"対処し、明後日の方向に飛ばした。

 

「鬼火!」

 

 彼の掌に青白く燃える不気味な炎の塊を形成し、フレイズマルに向けて投げ放つ。

 

 迫る炎に対して、フレイズマルは飛び上がる事で避ける。さらに無駄のない動きで着地した瞬間、素早く銃を構え連射する。

 

 的確に迫る何発もの銃弾が大和に直撃し、仰け反ってしまう。だが、大した様子もなく涼しい顔を見せた。

 

「うわー当たっちゃったー。なんちゃって。お前らの銃の弾とかポップコーンが当たった? ぐらいにしかならないから。残念でした」

 

 ふざけながら敢えてオーバーリアクションで攻撃を喰らったと表現する大和。その上でどんな攻撃も一切効かないと言わんばかりに手を広げカミングアウトする。

 

 最早決定打がなくなったフレイズマルに、大和は畳み掛ける事にした。

 

「絶望を感じてるか知らんけど、そろそろ終わりにしようか」

 

 至近距離なら効くかもしれないと思ったのか、接近してくるフレイズマル。対して腕を組みながら地面を強く踏み込む大和。

 

【大和のハードプラント!】

 

 その瞬間、地が一瞬振動し、肉薄するフレイズマルの周囲の地面から巨大な樹木が次々と生えてきた。

 

 あまりに一瞬の出来事だったためか、為す術なく樹木に絡まれ身動きができなくなってしまうフレイズマル。

 

「今だリム! テクノバスター!」

 

『techno buster stand by』

 

 籠手形態のリムの無機質な声が発せられたと思えば、光と共に籠手の形状が変化していく。

 

 手の甲の部分から砲身のように伸びていき、終いには砲口が三角の形状をしている小型の砲台が完成した。

 

 そして、砲口がエネルギーが充電されていく。さらに、反動に耐えるためか腕に手を添えている。

 

 この"テクノバスター"という技は、幻のポケモン―――「ゲノセクト」の専用技で、装着する"カセット"によってタイプが変わる。

 

 しかし今回は技のタイプは関係ない。あくまでポケモンバトルで優位に進めるためにあるアイテムなので、使う意味がないのだ。

 

 本来であれば、溜めている時間は隙だらけなのであるが、未だ密度の多い樹木がフレイズマルが絡まっており、ナイフで切ろうにも物量が減るどころか増えていく一方だ。隙だらけなのは向こうも一緒だった。

 

 やがてチャージが済み、藻掻いているフレイズマルに砲台を向け―――。

 

「―――無に還れ」

 

 その言葉の瞬間、砲口から白の光線が射出された。

 

 勢いよく突き進む絶大な威力の奔流は、樹木ごとフレイズマルに着弾。一瞬の閃光の後、巨大な爆発が発生した。

 

 周囲を巻き込む程の爆風に、大した様子を見せない大和は仁王立ちのまま砲台付きの籠手をリリースし、リムをメガリング形態に戻していた。

 

 しばらくして爆風が止み、視界が晴れる。着弾した地点にはクレーターが出来上がっており、その近くに装甲の一部らしき物体が転がっていた。

 

 どう見ても、消し飛んだようにしか見えないが……。

 

「解放できた、か」

 

 その地点を仰ぎ見ながらそう告げる大和。

 

 彼が言う"解放できた"とは一体どういう意図があったのだろうか。

 

 しかしその問題よりも、まだ懸念している事が残っていた。

 

「あっそうだ。"ス"から始まってルで終わる何とか軍隊の皆さぁん! アンタら見てるのはまるっとお見通しdeath!」

 

 ふざけた声で言い放つ大和。気配を殺して見ているようだが、波導がある限りどこで見ているのかが手に取るように分かった。

 

 彼ら(ニブル)の役割は監視と事後処理。だからここまでは手を出してこなかったが、フレイズマルが敗れた場合にどんな行動を指示されているかは分からない。

 

「見てるか見てるかー? フレイズマルとやらは倒した! という訳で、さっさとこれを片付けて四十秒で帰る支度しな!」

 

 親指でフレイズマルだったものを指し、言葉を続けた。

 

「まあもし? チミ達もフィリルを狙うと言うなら、容赦しないかな。植物状態になりたい奴だけ来てどーぞ」

 

 末恐ろしい事を言い捨てた大和は、フィリルの元へ戻った。

 

「レジスチル、ご苦労さん」

 

 その際、守りの役目を任せていたレジスチルをボールに戻した。

 

「大河くん。守ってくれて、ありがとう。その……カッコよかった」

 

 フィリルはどこかぼうっとした表情で大和を見つめ、感謝の言葉を告げた。

 

「礼を言うのは、まだ早いよ。これからが本番なんだから」

 

 大和はそう言ってフィリルと共に、目的地である大瀑布への歩みを再開する。

 

 彼は先程のスレイプニルが攻撃に転じる事なく監視を続けた場合でも、彼らを無力化するつもりでいた。フレスベルグ戦に集中するため、不安要素はここで全て取り除いておかなければならないためだ。

 

 普通に歩いているように見せて、足を進める。

 

 しばらく進んでから振り向くと―――フレイズマルの装甲服はなくなっており、スレイプニルの気配も消えていた。

 

 どうやら、退いてくれたという事。

 

 これでやるべき事は、ただ一つ―――"黄"のフレスベルグを倒す事のみ。

 




補足事項として、今回のテクノバスターが光線なのは劇場版由来なのですが、溜める時間で砲弾になるか光線になるか変わってきます。
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