ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

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大変お待たせしました。
アニメダイパ編でポケモンリーグのサトシvsシンジ戦まとめ見たら書きたい欲が増してしまった……。


"黄"の消滅

 東の山脈から太陽が顔を覗かせ、空の雲が(くら)い灰色から朝焼けの色に染め変えられていく。(まばゆ)い朝日は足元の影を長く伸ばし、湖から流れ落ちる大量の水を壮大に彩った。

 

 今日も轟音(ごうおん)を響かせるエルリアの大瀑布を、大和は少し離れた広場の中央から眺めていた。

 

 フレイズマルを倒し、決戦となるであろう広場へ帰ってきた大和とフィリル。そこで彼らは皆と合流を果たした。

 

 二人の傍にいるのは悠と深月、イリス。

 

 リーザ、アリエラ、レン、ティアの四人は彼らを遠く囲むようにして、広場の端で配置に付いていた。

 

 周辺道路は封鎖されているので、他に人影はいない。

 

「あと少し、ですね」

 

 深月が変色を終えようとしているフィリルの竜紋を確認し、緊張した声で呟いた。以前より大瀑布から距離を取っているので、普通の声でも何とか聞き取れる。

 

「そうだな……」

 

 刻一刻と迫る―――"今の自分"が終わる瞬間。悠は失いたくない記憶を頭の中で繰り返し再生する。

 

 しかし今は、使わざるを得ない。大和へ大々的に言った手前、出し惜しみする必要もない。

 

「では、作戦を確認します。フレスベルグを視認後、接近される前に兄さんが"奥の手"で、大和さんがポケモンの技で攻撃。撃破し切れなかった場合は、私たちが全員で迎撃する―――という段取りでいいんですよね?」

 

「ああ」

 

「だな」

 

 深月が二人を見据えながら作戦の概要を伝える。

 

「では、もう一つ。この作戦が失敗した場合は、どうしますか?」

 

 深月は悠、大和と―――広場のベンチに腰掛けているフィリルへ問いかける。

 

 今回はイリスの時のように、ドラゴンになるぐらいなら殺して欲しいと頼まれている訳ではではない。最悪の結末に至った場合、フィリルが何を望むのか―――彼らは知る由もない。

 

 視線をフィリルに向けると、彼女は小さく息を吐いて答える。

 

「……正直に言うと、私は死にたくない。死ぬぐらいならドラゴンになる方がマシかなって、少し考えてる。でも―――深月や、リーザ達はそれを許さないよね?」

 

 痛みを堪えるような表情で沈黙を返す深月。

 

「だから、私を殺して深月達が辛い思いをするぐらいなら、私は自分で決着を付けるよ。死にたくはないけど……(みやこ)の時みたいに、深月達をずっと苦しめるのは嫌だから」

 

 篠宮都(しのみやみやこ)―――クラーケンに見初められ、ドラゴンと化した深月の親友であり、深月は彼女を自分の手で討った罪に、ずっと(さいな)まれていた。全てのドラゴンを倒すというのは、その償いの一つ。

 

 そんな深月をずっと見て来たからこそなのだろう、フィリルはコートの内ポケットからコンバットナイフを取り出した。

 

「それは確か、フレイズマルの―――」

 

 悠はフィリルの持つナイフを見て驚く。恐らく先程の戦闘で大和が"(はた)いて"、何処かへ飛んでいったものだろう。

 

「さっき、拾っておいたの」

 

 苦笑を浮かべ、フィリルはナイフの峰を指先でなぞる。

 

「……トリック」

 

 何かを持っていた大和がボソっと呟いた瞬間、彼の手にナイフが移り、フィリルの手に白い葉が手にされていた。

 

「……えっ?」

 

 覚悟の光を瞳に灯していたフィリルが、突然持っていたものが変わって目を丸くさせる。

 

「こら、そんな危ないものを持っちゃいけません。代わりにその"メンタルハーブ"を持っておいてくれ」

 

「メンタル……何?」

 

「メンタルハーブ。いざ戦いになって不安になった時に、それを咥えるか匂いを嗅げば気持ちが落ち着くものだ。こんなものは絶対使わせない」

 

 大和がナイフを仕舞いながら言葉を続ける。

 

「さっきドラゴンからも守るって、言ったろ? 命は投げ捨てるものではない。お前を守るためなら手段を選ばない。だから悲観的にならないでくれ。な?」

 

「……うん」

 

 両手で白い葉を包むように握り締め、こくんと首を縦にに振る。

 

「あ―――」

 

 だがそこで彼女の顔に苦痛の色が走った。

 

「フィリルちゃん、どうしたの?」

 

 イリスが焦った声で問いかけると、フィリルは竜紋のある肩を押さえて(うめ)く。

 

「っ……熱い」

 

「み、見せてください!」

 

 深月が慌てて彼女の襟を広げ、肩口の竜紋を確認した。これまでとは比較にならないほど竜紋が黄色く輝いている。

 

「竜紋が、完全に変色しました。兄さん、大和さん―――フレスベルグが来ますよ」 

 

 大和達にそう報告した深月は、広場の端に散った皆にも手を挙げて合図を送った。

 

 リーザ達は架空武装を生成し、空に視線を向ける。

 

「イリス、頼む」

 

 悠も曇った空を見上げ、イリスに手を差し出した。

 

 ユグドラシルから得られるデータがどんなものかは分からないが、今までの対竜兵装と同じ規模であるなら、物質化するには誰かの上位元素(ダークマター)を借りる必要がある。

 

 だがイリスは、悠の手をじっと見つめてから首を横に振る。

 

「モノノベ、やっぱり今回はミツキちゃんの方がいいと思う」

 

「え?」

 

「ミツキちゃん、皆への指示はモノノベに上位元素を渡しながらでもできるでしょ? だから、あたしと代わってくれない?」

 

 悠の返事を聞かず、イリスは深月にそう言った。

 

「そんな急に―――」

 

「お願い。きっとミツキちゃんと一緒の方が上手くいくから!」

 

 真剣に訴えるイリスを見て、深月は渋々と頷く。

 

「そこまで言うのなら……分かりました。イリスさんはフィリルさんの傍に付いていてください」 

 

 深月は悠の左手を、右手でそっと握る。

 

 悠の隣を深月を譲ったイリスの真意が気になり、彼は彼女の方に視線を向けた。

 

 悠と目が合ったイリスは切なげな笑みを浮かべ、小さく頷く。

 

「頑張って、モノノベ。繋いでいれば、失くさないでしょ?」

 

「イリス……」

 

 恐らくイリスは、悠が少しでも深月の事を忘れないように役目を代わったのだ。

 

「オレも行くとしようか」

 

 大和はそう言って、腕を広げながら"紅い棘の生えた"ボロボロの翼を()()と共に生やす。最初から全力を出すという証拠だ。

 

 迎撃準備完了と思われたその時、太陽がまだ山の縁にあるというのに、天頂にある雲の向こうが急に明るくなる。

 

「お出ましー! ってか?」

 

 大和はあるポケモンの言葉を交えながら、フレスベルグの来襲を察知する。

 

 そして悠は、目を閉じて心の中でユグドラシルに呼びかける。

 

(力を貸してくれ、ユグドラシル! フレスベルグを倒すための力を!)

 

 ―――要求承認。情報転送を再開する。

 

 悠からの言葉を待っていたかのように、即座にユグドラシルの無機質な声が返ってきた。

 

 意識がどこかに繋がり、そこから膨大なデータが流れ込んでくる。

 

「ぐっ……」

 

 頭が軋み、流れ込む情報の内圧で心が歪む。

 

「悠、大丈夫か?」

 

 恐らく内部の様子を窺ったのであろう―――大和が傍で心配そうに声をかけてくる。

 

「大、丈夫だ―――!」

 

 (うめ)きに近い声で喉から声を張り出す悠。

 

 あまりの情報の濁流に彼は意識が遠のきそうになるが、不快な異物感を(こら)えながら悠は情報を検索する。

 

 求めるのは、あらゆる物理干渉が通用しないフレスベルグに届く兵器。

 

 ―――該当、対竜兵装マルドゥーク、副兵装。

 

 頭の中でユグドラシルの声が響いた。

 

 不完全なマルドゥークのデータが補完されていき、現状を打破できる可能性を見出(みいだ)す。

 

(接続遮断!)

 

 悠は必要な情報を得た瞬間、ユグドラシルとの回路を切断する。

 

(俺の名前は―――物部悠)

 

 駒の内で自分の名を確認してから瞼を開き、視線を巡らせる。

 

 広場の端に展開し、架空武装を構えている少女達―――ティア、リーザ、アリエラ、レン―――全員、憶えている。

 

 彼の後ろには白いハーブを手に戦いを見守るエルリア公国の姫―――フィリル。その傍で悠を心配そうに見つめているイリスと大和。

 

 そして今、手を繋いでいる少女が深月という事も確認できた。

 

(あ……)

 

 だが―――失った物の輪郭を(おぼろ)げに感じた。

 

 声に出なかった事で深月達を心配させなかったのが幸いか。

 

 戦う理由を忘れていないのなら、今は余計な事を考えるな。討つべき相手に集中しろ。

 

 そう自分に言い聞かせるように叱咤(しった)し、空に視線を戻す。

 

 そんな悠の目に、金色の光が飛び込んできた。雲を突き破って光り輝く巨鳥が現れる。

 

 イエロー・ドラゴン―――"黄"のフレスベルグ。

 

 フィリルを求めてやってくる怪物。倒さねばならない敵。

 

「マルドゥーク……念式連装砲、彼岸を貫く方舟(ノ ア)!」

 

 悠は深月の上位元素を借り、目の前の敵を(ほふ)るための遺失兵器(ロストウェポン)を構築する。

 

 回転可能な砲座の上に、二連装の砲塔が具現化した。これまでの兵装より一回り小さいため、ほぼ完全な形で構築できた。

 

 悠にダウンロードされた情報を読み解き、これがどのような兵器なのかを理解した。

 

 この兵器の開発者達は、魂に干渉する粒子―――今日、皆が未確認媒介粒子(エーテル)と呼んでいるもの―――が大気中にも微量に含まれている事を発見し、応用したもの。

 

 "彼岸を貫く方舟"は砲手の思念を増幅させ、放つ兵器。高密度に圧縮された精神波は微量の未確認媒介粒子でも具現化し、物理的な干渉力を得る。

 

 精神エネルギーを砲弾として用いるのなら、フレスベルグの精神体に干渉できる可能性は高いと踏んだ。

 

 悠は全体に発行する光のラインが刻まれた連装砲を、彼の意思のままにフレスベルグへと照準を合わせる。

 

 金色の粒子が、ちらほらと雪のように舞い始めた。

 

「いくぞ、大和!」

 

「あいよっと!」

 

 悠長に構えている余裕はない。悠は大和に声を掛けた。

 

 そして、粒子の根源―――一直線に降下してくるフレスベルグへと、己の精神を撃ち放つ。

 

「―――発射(ファイア)!」

 

「サイコショック!」

 

 二門の砲口から同時に光の砲弾が発射され、大和の掌から念波の奔流を放った。

 

 "サイコショック"というこの技は不思議な念波を実体化させ、相手に物理的なダメージを与えるというもの。大和はその念波を光線状として撃ち放ったのだ。

 

 リーザの陽電子砲や深月の反物質弾には回避する素振りを見せなかったフレスベルグが、大きく翼を羽ばたかせて制動を掛ける。

 

 恐らく本能的な危機を察知したのだろうが、フレスベルグの回避行動は間に合わず、念波の光線と一発の砲弾が翼の端に命中した。

 

 舞い散る金色の翼。

 

「……効いた!」

 

 イリスが歓声を上げる。

 

 しかしフレスベルグは空中で乱れた体勢を立て直し、旋回軌道に移った。

 

 二人の攻撃が命中し、ダメージを与えられたが、翼の端だったためか致命傷には程遠かった。

 

 ならば力尽きるまで攻撃し続けるのみ。

 

()ちろっ!!」

 

 飛翔するフレスベルグに合わせて砲塔を回転させ、連続して砲弾を放つ。

 

「サイコブレイクッ!!」

 

 大和も実体化した念波を、巨大なエネルギー弾として放つ。

 

 大和は平気だが、悠が光の砲弾を撃ち上がる度、疲労が蓄積していく。砲弾の源は悠の思念―――精神エネルギーであるため、気合や気力と言った心を支える力が摩耗していく。

 

 フレスベルグは大瀑布の上空を高速で旋回し、二発の砲弾とエネルギー弾を回避する。

 

 当たらない。手数が足りない。

 

 着実にフレスベルグは高度を下げてきていた。辺りに舞う金色の粒子もだんだん濃くなりつつある。

 

 大和は粒子に対する手段を持っているが、もう少し接近されれば、他の皆はまた粒子に包まれて身動きを封じられてしまう。

 

「頼む、イリスも俺に上位元素を!」

 

 そう言って悠は空いていた右手を、振り返らないまま後ろに伸ばす。 

 

 深月の上位元素を砲塔の駆動・維持に必要なエネルギーとしているため、()()()()()()()()()()()()()()彼女の協力が必要だった。

 

「わ、分かった!」

 

 イリスは悠の右手をぎゅっと掴み、彼女の上位元素が悠のうちに流れ込んでいくのを感じた。

 

「彼岸を貫く方舟―――第二砲塔!」 

 

 悠はフレスベルグに砲弾を撃ち続けながらも、その隣にニ基目の念式連装砲を構築した。

 

 強い負荷が脳に掛かり、眩暈(めまい)を覚える。

 

 しかし途切れそうな意識を気合だけで繋ぎ留め、天空のフレスベルグを見据えながら声を張り出す。

 

発射(ファイア)っ!!」

 

 一基目の砲弾はフレスベルグを追うように、二基目を行く先の進路を塞ぐように撃ち放つ。

 

 だがフレスベルグは器用に体を捻り、砲弾は翼を(かす)めるに留まった。

 

「分散型……サイコブレイク!」

 

 大和も手を(かざ)しながら技の撃ち方を応用して、相手の周囲を無数の念波で取り囲みつつ、手を握り締めると同時に様々な方向から蜂の巣にしようとばかりに、フレスベルグに集束されていく。

 

 しかしその攻撃も錐揉(きりも)み回転しながら(かわ)し、ノーダメージとはいかずとも、僅かに光の衣を剥がす程度に収まった。

 

 辺りの粒子が濃くなり、タイムリミットが迫る。

 

 このままでは、間に合わない。

 

「くそっ、こうなったら―――!」

 

 悠は脳が焼き切れるのを覚悟の上で、最後の賭けに出ようとしたが―――。

 

「悠、それ以上無理するな」 

 

 悠の目の前に大和がゆっくりした速度で前に立つ。()()()()()()()()()()()()()

 

「大和……?」

 

 それは悠のみならず、傍に立つ深月やイリスがどういう事だと言わんばかりに困惑の表情をする。

 

「今ので、奴をぶっ倒す道ができたからだよ。"心の目"、からの―――!」

 

 大和がそう言った後、腕を横に向け(ほとばし)る光を凝縮させていく。

 

 次第に掌には、紫色に輝くビー玉程の大きさをした光の塊が浮かんでおり―――。

 

「サイコ……ブゥゥストォォォッ!!」

 

 そして、周囲が小さな衝撃を及ぼすと共に、振り被って投擲した。

 

 まるで、天に墜ちて行く流れ星の如くその念の光弾は、フレスベルグに向かって一直線に突き進んでいく。

 

 凄まじい速度で迫る光の塊を危険と感じ、悠の砲弾を躱した時のように体を捻って避けるが―――。

 

 その光弾は虚空に向かって飛んでいくと思えば、何と突然急に無理矢理操られたかのようにフレスベルグの方向へ逆戻りしていた。

 

 大和が技を放つ直前、『心の目』という"敵の動きを心で感じ取り、次の攻撃を確実に当てるようにした"技を使用していた。

 

 つまり―――どんな技も必中技になるという事。

 

 一度避けられた光弾は再びフレスベルグに肉薄する。

 

 流石のフレスベルグも避けた技が再度接近してくるとは思っていなかったのだろう。向かい来る光弾を避ける素振りを見せなかったのだから。

 

 そして、先の大和の攻撃で一部剥がされた光の衣の間を縫うように、光の塊が入り込んだ直後。

 

 眩い朝日をも上書きする程の輝く閃光と共に―――巨大な爆風が、上空で巻き起こった。

 

 余りに絶大な威力だったのか定かではないが、一瞬遅れて爆発の轟音が響き渡った。

 

 広場が爆風で大きくざわつく。大和を除いたその場の全員が顔を背けて風圧に耐える。

 

「倍返し、完了」

 

 その最中、大和がポツリと呟いた声は、誰にも届く事はなかった。

 

 どうやら、以前の戦いで腕を持っていかれた事(自業自得)を根に持っていたのだろうか。その証拠に口角を吊り上げていた。

 

 太陽を覆い隠す程の巨大な爆煙、そこからフレスベルグがヌッと出てくる。

 

 あれだけド派手な攻撃でもフレスベルグは健在だった―――光の衣の大部分が剥がれ、煙に塗れた黄色の羽毛を覗かせている事を除けば。

 

 フレスベルグが纏う光の衣は、自身の精神。肉体の中に精神が収まっている人間とは違い、フレスベルグの精神は()()()()()()()()()()()()と思われる。

 

 それが、今の技で巨鳥の精神を大きく抉り散らした。

 

 ―――ギュアァァァァァ……!

 

 受けたダメージが大きすぎたのか、フレスベルグの呻き声が響く。

 

「今だ! 深月! 皆に攻撃の合図を!」

 

 金色ではなく、黄色の羽毛が覗いている事から、フレスベルグの本体が剥き出しになっている。これを千載一遇のチャンスと思い、悠は深月に言った。

 

「は、はい! 分かりました! 皆さん―――撃ってください!」

 

 深月は左手を高く上げ、勢いよく振り下ろす。それが攻撃開始の合図。

 

 広場を囲むように布陣していたリーザ達が、空に向けて架空武装から攻撃を放つ。

 

 光の衣を失ったフレスベルグに、皆の攻撃が直撃した。

 

 粒子ではなく、本物の羽毛が空に舞い散る。

 

 悠の砲弾、リーザ達の攻撃により片翼を失ったフレスベルグは、大瀑布へと落ちていく。

 

「もう一丁喰らっとけ!」

 

 大和は両手を向け、再び紫のエネルギーを集束させる。

 

 本来、先程の『サイコブースト』という技を放った直後には特攻が二段階低下するデメリットがあるのだが、能力の変化が反転する特性―――"天邪鬼(あまのじゃく)"で逆に特攻が二段階上がっていた。

 

 悠は二基の砲塔を操作し、照準を合わせる。最後に残った気力を全てつぎ込み、"彼岸を貫く方舟"のエネルギーに転化する。

 

 最早瀕死の状態のフレスベルグに、成す術はなかった―――。

 

「―――――発射(ファイア)っ!!」

 

 砲口から眩い光が(あふ)れ、これまでの数倍はある砲弾が放たれる。

 

「―――――サイコブーストッ!!」

 

 威力が上がり、先程よりも一回り大きな光の塊を大和が撃ち放つ!

 

 フレスベルグの体に真っ直ぐ吸い込まれる五発の光球。

 

 そして―――巨大な爆発がフレスベルグを呑み込んだ。

 

 爆風と共に飛び散る金色の粒子。

 

 爆煙が収まっていくのを見届けた頃には、金色の巨鳥は跡形もなく消滅していた。

 

 空から黄色い羽毛と、光り輝く粒子が、雪のように舞い落ちてくる。

 

 三百六十度、上空を見渡してみても、フレスベルグの姿は見当たらない。

 

「対ありでした。今まで人間の魂喰ってきた事、地獄で悔い改めて、どうぞ」

 

 大和がやり遂げた顔で言う。まるで倒した確信を得た口ぶりだが、実は波導でフレスベルグの"気"は完全に消えていた事を確認していた。

 

 大和がそう言うと、勝ったと確証を得た皆は歓声を上げ、彼らの方に駆けてくる。

 

 それを見て、悠もようやく勝利したのだという実感が湧いた。

 

 それでも気力は空っぽで視界も揺れている事から、喜びを分かち合うのは今は難しい。

 

「悠、お疲れ。大丈夫か?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

 フラフラながらも声を上げる悠。

 

「肩、貸すよ」

 

 悠の腕を引っ張り、大和の肩に回す。倒れないよう補助するという事だ。

 

「悪いな……大和」

 

「なんの。それよりも今後無茶は控えてな」

 

 苦笑いを浮かべる悠に忠告する大和。

 

「あっ―――」

 

 二人の近くにいたフィリルが声を上げる。

 

「どうかした?」

 

 大和がフィリルに問いかける。

 

「今、あそこにお爺様(じいさま)がいたような―――」

 

 彼女の指差した方を見るも、そこには薄れて消えていく金色の粒子があるだけだった。

 

「フレスベルグに取り込まれた魂が解放されたって風に考えられるかな。もし何か伝えたい事があるなら……今、言っておいたらいいんでない?」

 

 大和がそう促すと、フィリルはこくんと頷く。

 

「そうだね。もし本当に、お爺様がいるなら……伝えなきゃ」

 

 彼女は祖父の姿を垣間見た場所に視線を向ける。

 

 それと同時に大和は悠の腕の力を抜けるのを感じた。流石に体力の限界を迎えたようで気を失っていた。

 

「……ありがとう」

 

 フィリルが絞り出すように感謝の言葉を告げた感謝の言葉。それに続くように大和も天に視線を向ける。

 

(……ん?)

 

 大和はふと、違和感を感じ取った。

 

 何か空から嫌な気配というか、言葉に出来ないような不可思議な違和感。

 

(何だろ……この感じ)

 

 モヤモヤとした違和感が今だ拭えぬ中―――。

 

「……大河くん?」

 

 怪訝そうな表情をしていたのか、フィリルに心配そうな声をかけられる。

 

「ああ、いや、ごめん何でもない」

 

 何でもないと表情を切り替える大和。

 

 何かは分からないが、ドラゴンとの戦いに勝利したのに難しい顔をする時ではないと思い、気にしない事にした。

 

 

 しかし大和は知らなかった。

 

 フレスベルグを倒した基点から、()()()()()()()()()、それがすぐ閉じた事を……。

 




最後の部分、分かる人には分かります()
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