ファフニール? いいえポケモンです。   作:legends

69 / 69
ミドガルズ・カーニバル
疑念


 薄雲の向こうに月明かりがぼうっと(にじ)む、静かな夜。

 

 柔らかな夜風を(たの)しむように、二人の少女が歩を進める。

 

 一人は長い黒髪を(なび)かせ、もう一人は月光に映えるプラチナブロンドを風に遊ばせていた。

 

 黒髪の少女は髪と同じ色のドレスを纏い、プラチナブロンドの少女は軍服姿。

 

 ちぐはぐな印象を受ける組み合わせの少女達は、歩きながら辺りに立ち並ぶ窓のない建物を見回す。

 

「ジャンヌちゃん―――ここで間違いないのね?」

 

 黒髪の少女が落ち着いた声で問いかけた。

 

「……馴れ馴れしい呼び方をするな、キーリ・スルト・ムスペルヘイム」

 

 ジャンヌと呼ばれたプラチナブロンドの少女は、不機嫌な声で黒髪の少女―――キーリに言い返す。

 

「別にいいじゃない。可愛いあなたにはお似合いよ、ジャンヌちゃん」

 

「黙れ」

 

 緑色の瞳で睨みつけるジャンヌだが、キーリは楽しげな様子で笑った。

 

「あら、怖い。今は同じ目的のために協力する仲間なんだから、もう少し仲良くして欲しいわね」 

 

「お前もフレイズマルと同様、隊長に害を及ぼす者だ。慣れ合うつもりはない」

 

 ジャンヌは鋭い視線でキーリを睨む。

 

「あら、心外だわ。私も彼のためを思って行動しているのに」

 

 キーリはわざとらしく溜息を吐く。

 

「テロリストの言葉など、信用できるものか。しかも害を及ぼすのはお前だけじゃない。隊長の近くにいたあの男もだ」

 

「あの男って……」

 

「お前も知っている通り、単独でドラゴンを倒せる男、大河大和の事だ」

 

 ジャンヌはミッドガルに滞在する、大和の名を出す。

 

「あの男は脅威だ。奴は今大人しくしているが、いつ隊長を裏切ってもおかしくはない」

 

 彼女はどうやら大和を相当警戒視している。彼と悠と行動している事に疑問を持っており、本性を(あらわ)し、悠を(あざむ)く事を危惧していたのだ。

 

「そんな事はないわ。確かに私ですら圧倒する人だけど、エルリア公国にいた時の大和は私を守るって約束してくれたし、悠も彼を信頼しているわ」

 

「ふん。口だけでは何とでも言えるが、やはり信用できんな」

 

「何言ってるの。ここへ一緒に忍び込んだ時点で、あなたも私の同類よ」

 

 皮肉っぽい口調でキーリは言い、辺りを示す。

 

 彼女達がいるのは、夜の散歩に適した憩いの場などではない。

 

 広い敷地を取り囲むのは、高いフェンスと高圧電流が通じた鉄条網。窓のない四角い建物の入り口や、通路の角には、死角が生じないように監視カメラが設置されている。

 

 ここは、ニブル西ヨーロッパ方面第三基地。一般人が立ち入る事を許されない軍事施設だ。

 

「…………」

 

 複雑な表情で視線を逸らすジャンヌ。

 

「ここまで来たんだから、覚悟を決めなさい。あと、さっきの質問にもちゃんと答えてくれないと。この基地に、フレイズマルの手がかりがあるのは間違いないの?」

 

 キーリは軽やかな足取りでジャンヌの視線の先へ移動し、首を傾げて問いかけた。

 

「……少なくとも、足取りを辿(たど)る事はできるはずだ。フレイズマルがスレイプニルと合流する際に使ったヘリには、この基地の識別番号が記されていたからな」

 

 渋々といった様子でジャンヌは答える。

 

「ふうん、なら一時的にであれ、彼がこの基地にいたのは間違いないわけね。じゃあとりあえず、その辺りの情報を探ってみましょう」

 

 キーリはそう言うと、道のど真ん中を堂々と進んでいく。ジャンヌは辺りを見回しながら後に続いた。

 

 しかしその時、行く手の死角から見回りの兵士が現れる。

 

「っ!?」

 

 反射的に戦闘態勢に入ろうとするジャンヌだったが、キーリは余裕の表情で首を横に振った。

 

「大丈夫よ。静かにしていれば気付かれない」

 

 キーリの言葉通り、兵士達は横を素通りしていく。

 

「まるで、魔法だな……」

 

 兵士達の姿が見えなくなってから、ジャンヌは嘆息と共に呟いた。

 

「空気を熱して、光の屈折率を調節しただけよ。効果範囲は狭いから、あまり離れないでね」

 

 大した事ではないという風にキーリは言って、近くの建物に近づく。他の建物と同様に窓はなく、入り口の扉は電子錠でロックされていた。カードキーと暗証番号が必要なタイプだった。

 

「回路を焼き切れば開くかしら」

 

 電子錠に手を(かざ)すキーリ。

 

「やめろ、壊れて動けなくなるだけだ。仕方ない―――」

 

 ジャンヌは手の平大の機械を取り出すと、電子錠に取りつけて手早く操作する。十秒もかからず、扉のロックが外れる音が響いた。

 

 そうして彼女達は屋内へと侵入する。

 

 建物の内部にも監視カメラやセンサーがあったが、二人は難なくそれらを突破し、事務室らしき場所に辿り着いた。並んだデスクの上にはパソコンが置かれている。

 

「ひとまず、ここを調べてみましょうか」

 

 キーリの言葉にジャンヌは無言で頷いた。

 

 パソコンを起動させ、目的の情報を手分けして探し始める二人。

 

 カタカタとキーボードを叩く音だけが暗い室内に響く。

 

「へぇ……」

 

 しばらくして、キーリが小さく声を漏らした。

 

「どうした? フレイズマルの出入記録が見つかったのか?」

 

 ジャンヌが自分の作業を止めて(たず)ねる。

 

「いいえ、違うわ。ちょっと面白い情報が目に入っただけ」

 

「面白い情報?」 

 

 キーリの言葉に、ジャンヌは眉を寄せた。

 

「この前ミッドガルで消し飛ばされた"青"のヘカトンケイルが―――日本で再び現れたそうよ。今はユーラシア大陸を西へ横断中みたい」 

 

「……特に面白い情報とは思えないな。不死と言われるヘカトンケイルがいずれ再出現するのは、ある程度予想されていた事だろう」

 

「ふふ、ジャンヌちゃんには分からないかもしれないけれど、これはとても価値のある情報なの。それにヘカトンケイルの進路も、凄く興味深いわ」

 

 口元に手を当て、まじまじとパソコンの画面を見つめるキーリ。 

 

「ヘカトンケイルはどこへ向かっているんだ?」

 

「仮に直進したとしたら、いずれドイツとデンマークの国境付近を通過するわね」

 

「確かその場所は―――」

 

 ジャンヌは何かに思い当たった様子で、息を()む。

 

 彼女の反応を見たキーリは頷き、僅かに高揚した声で告げた。

 

「そう―――そこには今、別のドラゴンがいる。グリーン・ドラゴン、"緑"のユグドラシルがね」




今回は短めでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

南雲さんちのメイドラゴン(作者:佐世保の中年ライダー)(原作:ありふれた職業で世界最強 )

何処にでもいるオタクな高校生、南雲ハジメとその家族はある日一頭の巨大なドラゴンと出会い、そして。▼ありふれた職業で世界最強は「小説家になろう」及びテレビアニメ版二期まで視聴。▼小林さんちのメイドラゴンは現在、原作コミックス12巻まで及びテレビアニメ版二期まで視聴、スピンオフ作品などには目を通していない為に知識不足の面が多々あろうと思いますが、よろしくお願い致…


総合評価:2811/評価:8.68/連載:52話/更新日時:2026年05月04日(月) 16:04 小説情報

ワンナイトから始まる狩猟生活(作者:タク@DMP)(原作:モンスターハンター)

女好き過ぎてパーティから追放された大剣使いハンター。そんな彼を酒の勢いで襲ったのは、昔彼に助けられた双剣使いの少女。腕は優秀だが揃いも揃って問題児の二人が、各地で起こる異変、陰謀、そして黒いリオレイアの謎に挑む。イチャコラあり、真面目な狩猟ありのハンター生活が幕を開ける……!?


総合評価:1075/評価:8.87/連載:54話/更新日時:2026年03月04日(水) 23:49 小説情報

紫煙燻らせ迷宮へ(作者:クセル)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

 紫煙燻らせながら迷宮に潜る系TS憑依異世界転生者。▼ ※注意▼ オリ主、憑依、性転換、転生(?)


総合評価:6329/評価:8.51/連載:40話/更新日時:2026年04月03日(金) 16:53 小説情報

ジム巡り?コンテスト?そんなことより観光だ!(作者:そじゅ)(原作:ポケットモンスター)

前世は普通のオタク社会人だったのに、なぜかこの世界に生まれ変わっちゃった……って、ポケモンはやったことないんですけど!?▼父の研究に付き添って各地を転々とする中で、ポケモンたちの可愛さに毎回理性が飛んでしまう。▼「んぎゃわいいいいいい!!」ってまた理性が飛んで、あ、意識が…▼バトルは二の次、ポケモンたちと一緒に楽しく過ごすのが一番!▼せっかくのポケモン世界に…


総合評価:1003/評価:7.64/連載:12話/更新日時:2026年04月11日(土) 18:00 小説情報

忍界の英雄はオラリオで英雄になるのか!!(作者:もるさっさ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼ 第四次忍界大戦が終わり世界が平和になったかと思ったが、人々は尾獣を求めて争い始めた。▼ナルトは争いの原因がなくなれば平和になると思い、尾獣を己の体に取り込み、六道仙人の術によって忍界から姿を消し、オラリオで冒険を始めるのだった。▼初めて小説を書きます。▼誤字脱字が多いと思いますが、楽しく読んででもらえるように頑張ります!!▼誹謗中傷はやめてください。


総合評価:1522/評価:7.62/連載:21話/更新日時:2026年04月27日(月) 20:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>