「そう言えばこんなものが届いていたぞ」
クロウ・クロワッハことクロウは既に封の切られた彼宛の手紙と、布で巻かれた棒状の大きめの何かを投げ渡した。
ちなみにティアはミドを引き摺りなからミドの部屋に届けに行ったきり戻ってこないため、屋敷の掃除にでも行ったのだろう。
「そうですか、ありがとうございます」
それらを慣れた様子でキャッチし、脇に置いた彼は消印を見ると顔色を変え、じっくりと手紙を眺め始めた。
「長ったらしいそれを簡単に纏めると、プロテスタントの教会から1本エクスカリバーが奪われたため、カトリックの管理するエクスカリバー1本を預かってほしいと言うことだな」
「勝手に読んだぐらい今更咎めませんよ……ええ。概ねそうですが、正式なバチカンの依頼など随分と久し振りですね。その割りに依頼内容は随分軽い」
布を払うと現れたのは、かつて最強とも謳われた伝説の聖剣だったが、大昔の戦争で折れてしまい。その破片を教会が回収し、錬金術を用いて7つの特性を7本の聖剣に分けて作り直された聖剣エクスカリバーの内のひとつ。
「ククク…水面下で色々と動いているからな。カトリックも最高戦力のお前が一番信頼に置けるのだろうさ」
「ただの貸金庫代わりでしょう。なんのためのローマカトリックバチカン法王庁特務局なんでしょうか?」
彼はソファーから立ち上がるとリビングの隅に不自然に置いてある大きな傘立てのようなものに向かい、その中に立て掛けてある2m近い剣身を持つ幅広の無骨な大剣をいとも容易く引っ張り上げると、天閃の聖剣と比べるように暫く眺めてから両方をテーブルに置き、深い溜め息を吐いた。
「………………やはりいつ見ても7分の1とは言えこれがあのエクスカリバーの末路とは同情を禁じ得ませんね…」
「どう見てもお前のその"聖なる鉄板"以下だものな。まあ、戦争を知らん世代にはそれぐらいの玩具で丁度良いんだろうさ」
「聖なる鉄板でも戦争を乗り越えられるんですから玩具も馬鹿に出来ないでしょう」
「まあな」
クロウはそう言葉を返すと立ち上がり、ソファーの後ろから彼にもたれ掛かった。
「それはそれとして今からどうだ? たまには昼間からも良いだろう?」
「節操のないメイドさんですね」
「仕方ないだろう? 邪竜は本能のままに生きるモノだからな。この身体になってからお前に何か奉仕したくて堪らないんだ。それにそれを言うなら聖職者のお前もどうなんだ?」
「良いんですよ私はあくまで神父っぽいモノですから」
そう言うと彼は立ち上がり、クロウを連れて部屋へと向かって行った。
◆◇◆◇◆◇
「おや?」
「んー?」
既に深夜と言える時間。リビングのソファーに腰掛けた彼と、隣に居る酒瓶を抱えているメイドも声を上げた。
どうやら二人だけで酒盛りをしているようである。
「教会の方がしゃーしいね。犬や猫ではねえやろ」
そのメイドは水色の髪に紫の瞳を持つ褐色の女性だ。足が見えない程丈の長いスカートをしているのが印象的だろう。
彼女の名はリヴァイアサン。元四大魔王の一人であり、原初の超越者。そして"最強の生物"と謳われた初代レヴィアタンその人である。
その硬い鱗と巨大さから、いかなる武器も通用しない。本来はつがいで存在していたが、あまりにも危険なために繁殖せぬよう、雄は殺されてしまい雌だけしかいない。その代わり、残った雌は不死身にされている事は有名だろう。
故に彼女は"無限の龍神"に並ぶほどの頑丈さと、"終末の大龍"すら越える体躯、トドメに不死性まで持っていると言うとんでもない化け物なのだ。
最もタレ目を細め、八重歯をちらつかせながら酒を煽り、小倉弁を話す彼女の姿からは想像すら出来ないだろう。
「俺が行きますよ。少し待っていて下さい」
「はよう戻るんやん」
リヴァイアはソファーから立ち上がり、リビングから出る彼にコップごと手を振って見送った。
◇◆◇◆◇◆
「おやおや? これは珍しい」
彼は息を荒げながら教会の長椅子に座り、手を広げながら背もたれに手と背中を付けている青年に声を掛けた。
「フリード・セルゼン。元若き天才エクソシスト。今は小さな教会の神父にすら刃を向けるただの野良犬と言ったところですか。落ちぶれたものですね」
「ああん…? 俺っちに説教か? 神父サマよう?」
「そんなつもりはありません。ただ見たところアバラ数本と内臓を少し痛めているようだ。そのままではあなた死にますよ? 野良犬でも野垂れ死にたくはないでしょう。如何なるモノでも門を潜った者には手を差し伸べるのが…」
「神の慈悲ってか? くだらねぇ…くだらねぇなぁ!」
彼の話の途中でフリードが立ち上がり、光の剣を振り上げながら彼へと刃を向けた。だが身体のダメージが深刻なのか剣先が小刻みに震えているようだ。余裕がないのか額には脂汗も浮いている。
それを見た彼は顔をしかめると溜め息を吐いてから言葉を続けた。
「いえ、それこそありえない。あなたのような大多数に毛が生えたような人間を相手に一々あの方が手を差し伸べていては千手観音像になってしまうではありませんか。そのような雑務をしなくてもいいように私のような聖職者が代わりにしているのですよ。強いて言えば私の慈悲です」
「ケッ! 厚顔な神父サマも居たもんだな!」
「ええ、それで結構。で? どうしますか?」
「そんなの決まってんじゃん…」
フリードは切っ先を向けたまま彼に飛び掛かる。
「死ねや! クソ神父!」
人間とは思えない加速からの槍のように突き出されたその剣は彼の心臓のある位置を突き貫いた。
「あ…?」
だが、フリードはポカンとした表情で固まっている。
手応えはあった、剣も胸を深く貫き、言うことは無い結果だろう。
「ぐがっ!?」
だが、現実は胸を貫かれたままの神父に片腕で首を掴まれ、宙に吊り上げられている。
「生憎、私は剣でも光力でも殺せませんよ? でも今の一撃は中々でした。だからもう休みなさい」
彼の掌に浮かんだ小さな魔方陣をフリードに押し付けると、フリードの動きが次第に緩慢になり、最後には眠ったように全く動かなくなってしまった。
彼はそれを確認してから肩にフリードを抱えると、本邸へ向けて歩き出した。
「おっと…」
その途中で胸にまだ光の剣が突き刺さっていることに気が付き、柄を掴んで引っこ抜くと剣を眺めた。
剣を抜いた瞬間からみるみるうちに胸の傷は塞がり、気付けば攻撃を受ける前の状態へと戻っている。
「やはりこの形態の私ではこんなライン生産の武器ですらダメージを受けますか……まあ、気にするような事でもありませんね」
彼は光の剣の柄を握り潰し、その辺りに放ると再び本邸へと足を進めた。
ちなみに主人公ことユルギスさんは本当にクソ神父です。
フリード君を鹵獲しました。家には天閃の聖剣があります。あっ…(察し)。