はぐれ神父フリードを無理矢理拾ってから暫く経ったある日。
とある山の中腹にある広く整備された場所でフリードとユルギスが対峙していた。
フリードの方はこの時代ではめっきり見なくなったが、ありふれたような鋼の直剣を持っており、彼は天閃の聖剣を持っているようだ。
ただし、戦闘は既に終了しているらしくフリードは大の字で地面に横たわっている。
「旦那に勝てないんで……那珂ちゃんのファン止めます…」
「まだまだ元気そうでなによりですね」
フリードはむくりと起き上がると肩をすくめ、ヘラヘラと笑い声を漏らす。
「いやー、強い。俺っちじゃ勝てねぇ。というかそのカッチョいい剣を俺にもプリーズ」
この変わりようである。どうやらフリードという青年は長いものに巻かれるという処世術は心得ているようだ。
「こう見えてもそれなりに長生きしているものでね。いつでも掛かってきなさい。相手になりましょう。ところであなたはまだここにいるのですか?」
「こりゃ、手厳しい。破門ですかい?」
「いえいえ、あなたの好きなようにしなさい。ただ、あなたは何か仕事を請け負ったようではありませんか。それはほっといて良いのですか?」
「あ、やっぱバレてます? いいバイトが見つかったんすよ。歩合制で聖剣ちゃんを振れて……アイツらにリベンジも出来ちゃうんですよねー!」
そう言うフリードの目には誰かに対する明らかな怒りが見て取れる。
「聖剣…? あなたが聖剣を振るんですか?」
その言葉に彼の表情が僅かに曇る。まるで何かが足りないとでも言いたそうな表情である。
「あ、やっぱ旦那も気になります? でもこれは僕ちんの仕事ですから横取りはダメダメ」
「ふむ…そうですか……あなたは聖剣を望みますか?」
「へ? そりゃ、やっぱ男の子ですから憧れるっしょ」
「そうですか、なら少しだけじっとしていて下さい」
そう言うと彼は懐から青い珠のようなものを取り出し、フリードに投げ渡した。
「ん? ちょ!?」
フリードはそれを受け取ろうと手を伸ばしたが珠はそれを避け、フリードの胸へと入っていった。
「……なんですか今の?」
「なに、仕事が成功するおまじないですよ」
「旦那は原住民の方ですか?」
「部族の呪術ではありません。それとこれを持って行きなさい。完治祝いです」
彼は自らが持っていた天閃の聖剣を投げ渡した。
フリードの手に天閃の聖剣が納まる。その間、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしていた。
天閃の聖剣はフリードに投げ渡されても彼の手にあった時と変わらぬ輝きを放っている。
「うお!? 本当に良いんッスか!? 返しませんよ!?」
「ええ、別に問題ありませんよ」
フリードは暫く天閃の聖剣をぶんぶん振るいながら手応えを確認すると近くの荷物を持ち上げた。
「やったぜ! んー…じゃ、仕事に言ってきますわ! バイビー!」
それだけ言うとフリードは飛ぶように何処かへと去って行った。
それを彼が小さく手を振りながら見送ると、彼の隣に影のような何かが現れる。それは彼のどらごんメイドの一人であるクロウだった。
「ほら、教皇のお達しだ。後、こんな茶番に俺は参加する気はないからな」
クロウはそう言いながら彼に書類を渡すと、彼は目の色を変えることなくそれを眺めている。
「カトリックとプロテスタントの計2人の聖剣使いと連携し、堕天使コガビエルを討伐しろですか。尻拭いの面倒事をこの私に押し付けるとは……ふふふ…教皇には少し怖い目に会ってもらう必要があるかも知れませんね」
「多目に見てやれ。お前の事を深く知らない青二才なんだ。それよりよかったのか? これからテロリストになる奴に件の聖剣を渡して」
「この教会に助けを求めて来たものは誰であり関係はありません。それに私は弟子に剣を渡しただけです」
「そうか、お前の専門はこの教会の子供たちのような"天然物"じゃなかったのか?」
天然物という言葉に反応して彼の肩が跳ねる。彼は懐からフリードに投げたような青い珠を幾つか取り出し、掌の中でコロコロと転がしながら再び口を開いた。
「"養殖物"も中々ですよ。彼も筋はいい。才能もある。きっと素晴らしい聖剣使いとなる事でしょう。まあ、あれで私が昔に製造した聖剣因子は残り少なくなってしまいましたがね」
「相変わらずどこまでも剣バカだなお前は。"デュランダル"も"アスカロン"も渡してしまったクセに……お前の左手には何を持つ気だ?」
「なんだっていいですよ。私より若者が持つべきものだ。正剣でも、野剣でも、邪剣でも剣での殺し合いは素晴らしい。勿論、戦争の在り方は邪道その物だ。ですが、戦争で剣と剣を交えるモノ同士の間には何もありません。目の前のモノを斬り殺すことだけをその身に、心に、剣に宿し、最後にはどちらかが倒れる。故に本来、剣が人を選ぶなどあってはならない。剣は人のためにあるのです。人が剣を選ぶのですよ」
「この世にある全ての剣を振れるお前が言うと説得力があるな」
「……今の時代に私に並ぶ剣士はいますか?」
「お前が最高だな。比べるまでもない」
「ええ、そうです。私は最高の剣士です」
だが、そう言う彼の表情は優れない。寧ろ苦虫を噛み潰したように歪んでいた。
「誰も彼も今の自分に満足して成長を止めた者ばかり…嘆かわしい……私はあの方の最強の剣で無くてはなりません。最高ではダメなのですよ。私はまだまだ最強には程遠い……ですが世界には昔のように私を越える剣士がもういない。ならば私を越える剣士を作るしか無いでしょう?」
「ふ……それが聖書の神直属の親衛隊"
「私の言葉ではありません。あの方は私に命じました。"最強の矛"となれと。ならば私は最強の剣士でなければならない」
それだけ言うと彼は指令書を握り潰し、片腕に白い光を宿す。光を止めて拳を開くと、指令書は白い光に燃やされながら最後には消滅した。
彼はそれを最初から確認もせずに上を向き、暫くただ広がる蒼天を眺めていると突如彼が白い光に包まれ、光の粒子になり空へと舞い上がり、何処かへと消えて行った。
クロウは煙草を1本取り出し、一服すると細い煙を吐き出した。
「既に死に聖書の神は倒れ、三勢力が和平に向かってもずっと変わらず律儀に命令を守り続けるか。未だにお前に真摯に信仰されているんだ……少しだけ妬けるな…」
クロウは煙草を吸い終えるまで、じっとどこか遠いところを眺めていた。
◆◇◆◇◆◇
「あれぇ? ご主人様どうしたのぉ?」
ミドの部屋に彼が入るとPS3でゲームをしていたミドは、画面を見ずに手を動かしたまま彼に振り向いてそう言った。
「隣街の駒王町で仕事がありましてね。着いてきてくれませんか?」
「えぇ~…忙しいのにぃ」
ミドは面倒なのか眉を潜め、口を尖らせる。が、途中で何かを思い付いたのかゲームを止めると彼に詰め寄りもじもじしながら彼を見つめた。
「ねぇねぇ? なら買ってくれるぅ?」
「…………PS4ですか?」
「うーん…」
ミドの表情は明るくなったが、どうやらそれだけではダメらしい。仕方なく彼はやれやれと言った様子で口を開いた。
「Bloodborneも買ってあげますよ。1年間のPlayStation®Plusも付けてい…ぼむっ…」
「わーい! ご主人様大好きぃ!」
話途中の彼にミドは飛び付き、その無駄に膨よかな胸に彼を沈めた。
こうして対コガビエルのためだけにカトリックの最終兵器と、終末の大龍が動き始めたのだった。
あかん、ミドガルズオルムが喋り方のせいでただの萌えキャラになりつつある。
だが、中身は五大龍王だ。