2人のサツジンキ 作:わかめ
「お前は、間違いなくイレギュラーなのだろうな」
目の前の存在が崩れていくのがわかる。
ー自分の命が消えていくのがわかる。
自分の手で殺した存在。笑ってくれた彼女に俺は…
ー自分の技で殺した宿敵。既に喉を潰したためか、満足に話せないようだ…
彼女を掴む手に力が入る。
ー満足の行く手合いが出来たが、少し不満は残る。
既にこの身は死に向かっている。
ーまさか、死を恐れるとは思わなかった。
多くを殺した自分が最後に殺すのは自分自身…
ー死んでしまっては何も殺せない…
本当に…
ーああ、ホントに…
『なんて、有り様』
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月夜が照らす学園の一角、学生服を着た一人の男が空を見上げていた…
蒼く光る目で何を見ているのかを理解できるのは彼だけ…その手で何が出来るのかを理解しているのは彼だけ…
視線を目の前の灰に移した男は先程までそこに確かに居た生命の痕跡をただ無表情で見ていた…
手に持ったナイフが鈍く光る中、一人の少女が彼へと近づいていった。
「見事なお手前と言った所か…」
「……」
既に蒼い輝きを失った目で少女へと視線を向けた男は、少し困ったように笑い言葉を零した。
「あまり近付かない方がいいよ。今はマシだけど、君が近付くだけで衝動が走るから」
「わかっているさ。その殺害衝動については痛いほど…な」
男はメガネをかけ、少女とは正反対の方向へと足を向ける。
少女もまた、男の後を追うようにその歩を進めていた。
「それにしても、ただの人の身でありながら鬼をも殺せるとはな」
「別にどうってことはないさ、俺はもっと凶悪な鬼を知っているだけだ。少なくともすぐ近くに一匹…」
「今の私を殺そうとすればお前ならば容易く屠れるだろう」
腕を組み、少し威厳を込め男を睨む少女はその身に宿る魔力を高める。
それを感じ取りつつ、唯で殺されるつもりのない少女に苦笑を浮かべ、歩を進めた。
少女は少しつまらなさそうに顔をしかめた後、再度男の後を追う。
「何を考えているかは知らんが、いいのか?魔法使い共は私を排他しようとも考えているのに」
「俺は魔法使いなんかではないからな。いや、彼らも俺にとっては魔法使いではないけれど…まあそれはいいか」
「お前は自分を暗殺者と言っていたな?
「いや、暗殺なんて大層な事はしていないさ。俺はただ、殺すだけだ」
彼が思い浮かべるのは一人の女性。その手で守ることは出来なかった故に悔いることも出来なかった、ありもしない過去に彼は内心で悪態を吐く。
その心中を理解できない少女もまた、目の前の男に苛立ち不機嫌となる。
「ならば、お前は何故私を殺さない?」
「簡単な話だよ。少しばかり吸血鬼が苦手なのさ、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」
「良く言うな。その眼ならば関係は無いのだろう?遠野志貴」
「さあ?」
「……まあ、なんだ。お前は間違いなくイレギュラーなのだろうな」
「……」
彼の目は、黒かった…
◇
「戻りました」
「ご苦労じゃった。いつもすまんのぅ」
「いや、特に問題はないですよ」
広場に集まった人達へと視線を向けた志貴は、少しして片隅の木にもたれ掛かった。
それを確認した広場の中央に居た老人は一度咳をし注目を集めると、その場にいる者達を見回してから口を開く。
「今夜は襲撃はあったものの見事に撃退することは出来た。それも偏に君たちのお陰といえるじゃろう。今後もその力を貸してくれると幸いじゃ」
それに魔法使いたちは頷いていたが、遠くから除いている一人の少女だけは不満そうに思っているのを感じ取った志貴は苦笑いを浮かべて話を聞いていた。
彼の仕事は学園への侵入者の撃退。大体は今夜のような式が多いのだが、稀に魔族と呼ばれる種族がやってきたりする。
しかし、彼にとってはその違いは特に問題はなく。木々が生い茂った彼の担当地区はまさしく彼の独壇場。そこは彼の戦闘能力を高め、進入する者達を皆亡き者としていた。
彼は幼少時にここの学園長である近衛門左衛門に拾われ、学園に通いながら警備員として働いていた。
それを彼は甘んじて受け入れ、その任を全うしていた。
しかし、彼自身にあるとある記憶は彼自身を縛り付けていた。