2人のサツジンキ   作:わかめ

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「強者の匂いがするアルヨ!」

 あれは化け物だ。

 ーいや、あれは人間であるが故に我らの天敵だ。

 

 あれを殺さねばならない!

 ーいや、殺し合いとなってはあれに勝てるものなどは居ないだろう。

 

 何故あれは私達を殺す!?

 ー姫の騎士だからだ。

 

 

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 朝日が差し込む部屋で彼は目を覚ます。だるい身体にムチを打ち、ゆったりとした動作でベッドから身体を起こした彼は自分の身体の調子を確認する。

 低血圧である彼は基本的に朝に弱い。少し目眩がするが、視線に移る幾つもの線を消すために早々に枕元に置かれたメガネを掛ける。

 

 身体を伸ばし背骨を数回鳴らすと彼はベッドから立ち上がり、ゆっくりとキッチンへと歩いて行く。

 彼がいる部屋は彼にあてがわれた一室。一般男子生徒が住む寮の一人部屋より幾分か広い部屋なのだが、彼自身物をあまり置く習慣はなく、随分と広く感じる部屋となっていた。

 

 

「少し、眠いな」

 

 

 トースターに食パンを入れ、焼き上げている間、ボーっとしながら彼は昨夜の事を思い浮かべる。

 

 最後に襲撃があった夜からは数日たった昨日、突然学園長より連絡があった。何でも齢10に満たない少年が魔法使いの試験としてこの学園、麻帆良に教師としてやってくるのだ。

 しかも魔法使いの中での英雄、千の呪文の男(サウザンドマスター)の息子らしいのだ。しかし、彼はやってくる少年よりも気になることが出来ていた。

 

 その話を聞いた吸血鬼、エヴァンジェリンの様子がごく僅かではあるが変化したのだ。それに気付いたのは恐らくは数人、いや、彼だけかもしれない。

 

 

 何か厄介事が起きそうだと内心でため息を吐きながら彼は焼きあがった食パンにバターを塗って皿に載せる。

 食卓にパンの乗った皿とインスタントコーヒーを入れたカップを置き、椅子に座った彼は黙々と食事を摂りながら外を眺めた。

 

 晴天の中、少しだけ交流のあった少女が新聞を配達しているのを横目に、今日一日もしんどそうだと内心で零しもう一度ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 彼の交友関係は極普通だ。クラスでは高校デビューと称して髪を染めた悪友やメガネを掛けていかにも勉強が趣味だと言うような友人などと話している。

 特に嫌われているわけでもないし、身体の弱さから体育などを休みがちな彼が人気者である筈もない。

 

 ただ普通に、一般的な交友関係を彼は広げていた…

 胸中にある複雑な思いを抱えながら…

 

 

 

 彼には前世の記憶がある。こことは違う場所、そこでも彼は現在のような学生生活を送っていた。

 しかし、彼はある日、一人の女性を殺す。それがすべての発端…

 

 いくつもの人外と対峙し、殺し、奪われ、そして彼は騎士となり、姫を殺した。

 

 

 後悔が無かったわけではない。しかしそれでも彼は笑うだろう。

 

 彼が殺した姫を悲しませないために…

 

 

 

 

 放課後になり、遊びの誘いを受けたものの気分が乗らず断った彼は足早に帰路についた。

 駅に向かう中、ちらほらと同じ様に歩く学生が見える。学園都市であるため、幅の広い年齢層の学生がいるのだが、中でも現在彼の目に映る集団程目立つ者達はいないだろう。

 

 麻帆良学園女子中等部2年生A組…天才やら問題児やらを一纏めにしたクラスであり、彼の知る少女、エヴァンジェリンも所属している。

 しかも、唯の問題クラスというわけではなく、大抵の魔法などの裏関係者を一纏めにしている事も彼は知っており、関われば厄介事になるというのを彼自身理解していた。

 

 気配を殺し、駅へと足早に向かう。その集団の中で子どもの悲鳴が聞こえたが、彼はそれに耳を傾けようともせずに歩を進めた。

 

 

「アイヤ!アソコの人、強者の匂いがするアルヨ!」

 

「ふむ、確かに今拙者たちを見て気配を消したでござるな」

 

 

 彼は走りだした。

 一体何処の中学校に気配を正確に読む女子中学生がいるんだよ!と内心で叫びながらも改札を抜け丁度来ていた電車に乗り込んだ。

 

 息を整え、窓の外を見る。流石に彼の全力に付いてこれる訳も無く、駅の外でギャーギャー騒ぐ中国人の留学生と細目で長身な女子中学生を見て彼は安堵の息を零して座席に座った。

 顔は見られていない。見られたのは制服と後ろ姿だけ…特に奇抜な髪型という訳でもない彼は恐らくは見つかる心配は無いだろうと自己完結し、先程の女子生徒2人について考える。

 

 確か中国人は表での強者。しかし、細目の方は裏に少しだけ関係のある人物であったと彼の記憶から探し出しため息を吐く。

 

 気配を消したのはまずかったと反省しつつも流れる景色に目をやる。

 元来気配というものはあるべきものだ。故に補足されている状態で消せば戦闘などでは有効となれどそこに気配を消した何かがいると認識されてしまう。

 

 それを読むものがいるのだということを前提にしているが、読めないにしろ気配を消すことで気付かれにくくはなる。

 だからこそ気配を殺したのだが、彼女らにとっては逆効果だったようだと認識した彼はこれからは気配を溶けこましたほうがいいと判断し、そこでこの問題についての思考をやめた。

 

 

 そう言えばあの集団にいた子供、眼鏡越しで弱っている淨眼で見たせいで気づいたが、魔力を纏っていたな、と考えた所で彼が降りる駅についた。

 彼はもう一度ため息を吐き、カバンを持って電車を降りた。

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